諍いに向かって 7/7
とにかくこのオスカル・アンドレ・ロマンの残念な言葉に、バルセールもすっかり毒気を抜かれた。
だがそれでも彼は、オスカル・アンドレ・ロマンを睨みながら強い口調で言う。
「とにかくだ、絶対にサワはウチから出さない!
何があって……うん?」
そう言いかけたバルセールは次の瞬間、オスカル・アンドレ・ロマンの背後に目線を向けながら言った。
「おい、オスカル。
どうやらお前宛にモバセルラが掛かって来てるぞ」
オスカル・アンドレ・ロマンはその声に驚き、背後を見る。
すると慌てふためく、見知らぬダークメイジが自分と魔法で見せた映像越しに話しかけようとしていたのに気が付く。
「どうした?一体……」
するとダークメイジが痛みに声を震わせながらこう告げた。
「申し訳ございません、オスカル様……
ぐ、ハァハァ……コージさんがぁ、コージさんが敗れました」
「!」
「ラ★ニーズのクソ女……羽根帽子の“焼き肉串”にやられました。
ああ、ツゥッ……ふぅふぅ。
ワスプールの橋を越えて、あの女……エピリウス様の国の方角に向かっています!」
この話を聞いて5名の男は目を見開いた。
エピリウス……それは魔王の息子で、人間の女王と結婚して国を統治している魔公爵の一人である。
この次期魔王候補と目される彼が、突如危機にさらされたらしいと聞き、5名は顔を見合せた。
特に動揺したのは、老ダークメイジである。
「こうしちゃいられん……若君が危ない!」
そして、それを聞いた紫の男が、冷静な声でこう言った
「こうしている暇はない……おい墓参りはこれでお開きだ。
それよりもワスプ―ルの橋は封鎖したのか?
他の連中に突破されたらもっと悲惨な事になるぞ!」
それを聞いた老ダークメイジは「ならばワシがすぐにワスプ―ルに向かおう」と言った。
「デーブ、すまないが後でワシの孫を家まで送ってくれぬか?
少し席を離れて居るんじゃ」
そう頼みごとを漏らした老ダークメイジにオスカル・アンドレ・ロマンは「分かった、私も後でワスプ―ルに向かう」と答える。
老ダークメイジはこの答えを聞くと、急ぎエアタクシーの魔法を唱えこの場から瞬時に移動をした。
いつものように伸びていく光の柱。
ソレに飲み込まれて消えゆく自分の視界……
この光の世界から再び解き放たれた時、彼は巨大な石の橋のたもとに居た。
そしてそこには、悲惨な光景が広がっている。
「う、うう……チクショウ、あのクソ女」
「おい、しっかりしろ!
やっと逃げ出してきたんだろ!」
「あの化け物女、剣で斬ってもダメージも食らわねぇのかよ……」
橋のたもとでは傷つき、疲れ果てた魔物達の群れが集まっていた。
老ダークメイジはそんな彼等に急ぎ近付く。
「どうした、これはどうしたんじゃ?」
老ダークメイジがそう尋ねると、オオペリカンが苦しそうに呻いて答える。
「相談役……すみません。
橋を守り切れませんでした、コージさんが向こう岸に居ます。
もし世界樹の葉っぱを持っていたら、コージさんを蘇らせてください。
この間にも……他の勇者パーティが襲ってきたらひとたまりもありません」
老ダークメイジは「分かった……」と答え、うめき声を上げ続ける魔物達を尻目に橋を渡る。
フランフランの島と、鉄の国を結ぶ海を渡る巨大な橋ワスプール。
晴れた夕方の赤らめる日差しの下、魔物達は苦悶の表情で橋の上に横たわり、そしてある者は息絶えて寝そべる。
それを横目で見ながら、老ダークメイジは心を痛めていく。
海の風が彼のローブをはためかせ、飛沫とその匂いを橋の上まで運んでいく。
絶え間なく響く潮騒は、先程の港町で聞いたものよりも寒々(さむざむ)しく聞こえ、その風は立っているのも辛いほど、この老人を苛んだ。
男はよろけながら橋を渡る……
そして老ダークメイジは、長い時間をかけ、道中悲劇が点々と続いたこの橋の対岸へと辿り着いた。
そこには多くの傷付いた魔物に見守られ、日差しで煌めく甲冑が橋の隅で横たわっている。
「コージ……コージ!」
これを見た瞬間、急ぎかけよる老ダークメイジ。
彼は泣き腫らした顔で自分を見上げる若い魔物達の目線を浴びた。
そしてその視線のなか、急いで世界樹の葉をこのリビングデッドアーマーの上に乗せる。
世界樹の葉は輝きながら甲冑の中に沈みこんだ。
そして次の瞬間、リビングデッドアーマーはピクンと動き出す。
『あ、ああ……』
この様子に、思わず安堵の声を漏らす魔物達。
リビングデッドアーマーは、震える身体を弱弱しく動かしながらこう言った。
「アンデッドなのに、蘇るとはこれ如何に……てね」
いつも底抜けに明るい彼らしいセリフに、思わずみんなが笑い出す。
そして安心した魔物達が、次々とリビングデッドアーマーに抱き着いて復活を喜び、その様子を見て老ダークメイジも安心して「無事で何よりじゃ……」と言う。
するとリビングデッドアーマーは「エヘヘヘ……」と笑いながら言った。
「いやぁ、自分余り死に慣れてないもんで。
おっとイケね、そう言や俺はアンデッドだった」
「アハハ、コージ君は相変わらずじゃの」
そう言った老ダークメイジの前で、リビングデッドアーマーは悲しげに項垂れて言った。
「すみませんコウゾウさん“焼き肉串”を止められませんでした」
「……コージ君は全力を尽くしたんじゃろ?」
「……いや、結果が全てですから。
俺はチャラけていても、武人なんで……」
「……うん」
「ただ、コウゾウさん聞いてください」
「どうした?」
「オリハルコンの兜……見つかりました」
「何ッ⁉」
リビングデッドアーマーから漏れた言葉に、思わず老ダークメイジは気色ばむ。
そんな彼にリビングデッドアーマーが語った。
「あの”焼き肉串”がつけていた羽根帽子。
アレに剣を打ち付けた際、布が破れて中に入っていた兜が見えたんです。
……間違いありません、あの羽根帽子はオリハルコンの兜」
「そうか……」
「これでどうしてあの女に攻撃しても、絶対に傷つけられないのか分かりました。
オリハルコンの兜は防御がプラス100。
加えて自動修復機能があって、壊れる事も基本在りません。
こんなフランフランではまず誰も持っていない、とんでもない物です。
あれを持ってさえいれば、ルトラウェーズ(バルセールが治める、ミスリルを産出する国)に辿り着くまで、誰もアイツに勝てないでしょう。
俺達なら、なおの事……」
「分かった……分かった、コージ。
喋らんでいい、あとはワシがやる、ワシはその為の相談役なのだからな」
「コウゾウさん、頼みます。
この先はエピリウス様の国か、オスカル様の城か、鉱山に行く道しかありません。
オスカル様に何かあったら、俺……」
「任せろ、ワシもデーブの事は好きじゃ。
ソレに……あの兜は何としてでも取り返さなきゃいかん。
探していたものが見つかったのじゃ、なんとしてでも追い詰めて倒してみせる」
「はい……」
老ダークメイジは、傷つき倒れた魔物達を安心させるように言うと、この場を後にし、橋の向こう側に渡り切る。
渡った先は十字路だった。
一つはエピリウスの国に向かう道、もう一つが鉱山へ向かう道、そしてオスカル・アンドレ・ロマンの城へと向かう道……
「どこに言ったのやら……聞き込みをせねばなるまいて。
拠点を鉄の国側で用意し、クワタ君やヤスイ君を連れて空から見た方が良いじゃろな」
そう言いながら、エピリウスの国に向かう街道を眺める、老ダークメイジ。
先程ダークメイジの報告では、的はこっちに向かったという。
それを思う彼の胸に、不安な気持ちが湧いていく……
そしてそれを確認しながら思うのは、今回の事件を引き起こした、あの兜の存在である。
オリハルコンの兜……フランフランではあまりにもオーバースペックなその防具は、狭い世界のバランスを崩壊させるに至った。
その事を自覚して天を仰ぐ老ダークメイジ。
その目線の先では薄明りに輝く、目覚め始めの一番星と、月が輝く。
更け始めの夜、沈み際の太陽……その残光の中で、老ダークメイジはまだ見ぬ強敵の存在に体を震わせる。
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