諍いに向かって 5/7
皆様、明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い致します。
「家族を大事にしてこなかったからです。
ある日ワシは部下を叱っておりました。
すると家に来たばかりのコウスケが、そんな私を怖いと思ったようでして。
私を恐れるような目で見たのです。
それを見た時、またコウタの時と同じ過ちを繰り返すのじゃないか?と思いました。
そこで色々考えましたが、やはり厳しい魔王城で働くというのは気が張り詰めるもの。
私も気持ちを落ち着かせる事なんて出来ません。
だからアソコに居たのでは、ずっと私は怖い私のままだと思ったのです。
そこで色々考え、私にとってはただ一人の家族である、孫の成長が一番大事にしなければならないのでは?と考えました。
だから初級や初心者の勇者パーティ―がたむろうフランフランの国に赴こうと思ったのです。
私の一族は最初ダークメイジとして生まれ、シャドープリーストやルーンウィザード等……より上位の魔物へと転職をしていきます。
ですが良き導き手に恵まれなければ、シャドープリーストになるのすら難しい。
だから私自ら彼を鍛え、せめてコウタの様なマスターメイジにしてやりたい、と思ったのです。
……まぁ、今の彼ではとても無理な気がしますがな。
師匠である私が悪いのです……
ですが、まぁ……それはそれとしても、出来る限りの事はしてやりたい。
加えてフランフランでは、イイダバシの創造主の命令により、ダークメイジより上位の魔物は活躍できないことになっております。
破れば消滅です……
なので私は、魔法使い系最上位職であるダークロードから下位転職をし、コウスケを……彼に合った敵と戦わせながら強くさせる為に同じ職であるダークメイジになったのです」
「……そうか」
話を聞いた紫の男は静かに幾度も頷く。
「他の道は考えなかったのか?」
すると老ダークメイジは、今度はニヤリと悪い笑みを浮かべてこう言った。
「デーブが金をたくさん持っていたのは知っていたので、アレのお金を使って子育てしようと……
アイツは弱いくせに見栄っ張りですが、流石に現実は分かっております。
きっと新しく作った自分の国に、強い魔物が集まらない事は知っていたでしょう。
そんな時にワシが行けば、アイツはワシを大事にすると思ったのです」
「ああ、なるほど……」
「そう言う訳ですよ、他の公爵領主の所に行けば魔王様もいい気はしないでしょうが。
いかんせんデーブです……
血筋も良いし、才能も器量も悪くはないが、いかんせん弱い。
あ奴なら、魔王様を脅かす事なんかありますまい。
そんなデーブの元に行くなら魔王様も私を警戒はしないと思ったのです。
イイダバシの創造主も、フランフランの周りに住む魔物には、上位転職後居座る事は認めておりませんですし……」
「そう言う事か」
「そうです」
「なるほど良く分かった……」
……こうして3名はこの話を口火にし。
その後は魔王城で働いていた時の思い出話を始めた。
紫の男が辞めるに至ったときの思い出やら、輝く羽の魔物が、自分のサイズを大きくしたり小さくしたりする魔法の習得に苦労した話やら、皆昔に一度は話した事のあるネタを披露する。
……こうして流れる、久しぶりに再会した特別な時間。
その内、紫の男がふと思い出したように、こんな話を始めた。
「ああ、そうそう……話は変わるが」
『なんでしょうか?』
「今度フランフランで、イベントとか言うモノをイイダバシの創造主が企画しているのを知っているか?」
「知りませんが……」
そう尋ね返した老ダークメイジ。
輝く羽を持った魔物も、その言葉に反応して身を乗り出す。
すると紫の男は得意げに微笑んで言った。
「なんでも伝説の魔獣クエストとかいうのを、オスカル・アンドレの……いやデーブで良いか?
デーブの領内でやるつもりなんだそうだ。
この世界を活性化させるために、企画するんだと聞いている。
何時も、とは違って上位の魔物もフランフラン出没して構わないらしく、知り合いの魔物も人間達の町を襲撃すると言ってたな。
逆に人間達も、いつも数倍の経験値が入り、負けて全滅したとしても、少しは経験値が貰えるそうだ」
「へぇ、それは凄いですな。
それが確かなら上位の魔物とパーティを組んで、破産しそうな若い子達も有象無象の勇者どもと戦うでしょう。
上手く行けば彼等の財産を奪って、生活も立て直せそうです。
何時から始まるのです?」
「それが急な話だが……うん?」
創造主が企画しているイベントの話を進めようとした紫の男は、怪訝な顔で老ダークメイジの背後にいるジャイアントデーモンに目を向けた。
輝く羽の鳥も、老ダークメイジも振り返ってジャイアントデーモンを見ると、彼は何事かを話したそうな表情を浮かべている。
それを見た紫の男は「おい、どうしたっ?」と尋ねた。
「ボス、すみません。
少し宜しいでしょうか?」
「ああ、どうした?」
「それが……魔公爵のオスカル・アンドレ・ロマン様がお見えになりまして」
「アン?なんでアイツがここに来るんだ……」
紫の男は再び怪訝な表情を浮かべると、老ダークメイジに「コウゾウ、アイツを呼んだのか?」と尋ねる。
老ダークメイジは首を振ってそれを否定した。
「ボス、どうします?」
それを見てジャイアントデーモンも困った様子で、紫の男に尋ねる。
「どうするも何も、公爵が来たんじゃ追い返せないだろう……
コッチにお通ししろ」
そう言われたジャイアントデーモンは、遠くにいた同僚に合図を送る。
するとしばらくして魔公爵オスカル・アンドレ・ロマンが、その美しい顔をニコニコと破顔させながらこちらにやってきた。
「やあやあ、先輩方」
そう言いながら近寄って来るオスカル・アンドレ・ロマンに、老ダークメイジが声を掛ける。
「デーブどうしたんじゃ一体?
今日はウチの息子の墓参りに行くと言っておいたはずじゃが」
「うむ、だから来たのだ。
我が公領の相談役の身内だからな。
もしかして迷惑だったかな?」
「いや、そんな事は無いが……」
「それにコウタさんは私の通っていた学校の先輩である。
加えて先輩は、学校に在った寄宿寮の副寮長であり、世話になった事が無い訳でもないのだ」
老ダークメイジはそれを聞きながら(デーブは自宅から学校に通っていなかったか?)と思った。
とは言えそれを言うのも、なんというか野暮だと思い、黙っていると紫の男が嬉しそうに笑って言った。
「なんだ、デーブも良い所があるじゃないか」
「マツナガ先輩、私は名前が変わった……」
「見直したぜ、アイツは俺にとっても身内なんだ。
デーブ、墓に後で案内してやるよ」
「うむ、それはありがたい。
所でマツナガ先輩私はデーブではなく……」
「デーブ、お前も茶を飲めよ。
結構いい茶葉を使っているんだ。
口に合うと思うぞ。なぁ!コウゾウ」
『…………』
……オスカル・アンドレ・ロマンは、呼び名を訂正する事を諦めた。
この者達に何を言っても聞きはしない……
「ではお言葉に甘えて……」
気持ちを一瞬で切り替えたオスカル・アンドレ・ロマンは、そう言うと澄ました顔でテーブルに着席した。
そして運ばれたお茶に口をつけると「甘い匂いが素晴らしい……」と感想を漏らす。
「だろ?しかもこの茶葉は畑の作付け面積も広く取ってあるから、来年あたり収穫量も増える。
お前の所でもこれを売り出さんか?」
「ほう、コレはマツナガ先輩の所の?」
「ああ、俺の知り合いが作っている」
「フム……今度事務所にお邪魔させてもらおう」
「ああ、待ってる。何時が良い?」
二人のやり取りを傍目で見ながら老ダークメイジは、輝く羽の鳥と苦笑いを浮かべあった。
強引で、いつも自分を売り込むことに余念がない紫の男のやり様が、昔と何も変わらない。
それを思った二匹は、この様子をどこかユーモラスに感じていた。
……この時だ。
『あのクソガキはどこだァッ‼』
突如空気も震えんばかりの大音量で、野太い男の叫ぶ声が響き渡った。
驚いた鳥も一斉に飛び立ち、不穏な空気が周囲に立ち込める。




