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14/43

諍いに向かって 3/7

そして翌日の天気は晴れだった。


「忘れ物は無いかの?」

「無いよ、花も持ったし……」


この日は、老ダークメイジ達は清潔感のある洗いざらしの服を着ている。

この祖父と孫は、彼らの家族が眠る墓地に向かうべく扉の外へと出て行くところだった。

この時孫の若いダークメイジは、祖父の老ダークメイジに尋ねる。


「爺ちゃん、俺の親父とおふくろはどんな魔物だったの?」

「コウタとマイコさんの事か……

コウタは真面目な男じゃった。

マイコさんは明るく、そんな息子を愛してくれていた様じゃな……

コウスケが生まれてすぐに、死に別れたから、記憶に無かろうのぉ」

「うん……」


老ダークメイジはそう言った後、言葉を紡ごうとして、孫の顔を見た。


『…………』


話そうとするのに、震えるばかりで言葉を出せない老ダークメイジの唇。

……この時、彼の胸の内では悲しい思い出が()ぎっていた。

そして……やがて諦めたように唇を結ぶと、溜息を吐きながら、くぐもった声でこう告げる。


「……すまん。

向こうで会長達も居るからそこで話そう」


この(つら)そうな声音(こわね)は、祖父の心の音だと、若いダークメイジは思う。

だから孫は、思わず声音の明るさを落として「うん……」と答えた。

祖父はそれを聞きながら言葉を続ける。


「マツナガ会長や、オオトリも居るから」

「……ミトの奴もいるかな?」

「分からん……行ってみて探そうか」


孫はそれを聞き、言葉少なめに「そうだね」と答えた。

やがて老ダークメイジは瞬間移動魔法のエアタクシーを唱える。

空に立つ光の柱はこの家族を飲み込んで、別の場所へと連れて行く。


……こうしてやって来たのは、輝く様な海沿いの漁師町だった。


ミャオミャオ、ミャオミャオ……

ザーザザー……ザーザザー……


桟橋(さんばし)を洗う波が、強く吹く風の中で白い泡と、その険しさを歌う。

老ダークメイジは「コウタの命日はいつも、海の機嫌が悪い……」と言って、桟橋から周りを見る。

空に飛ぶ海鳥も風に(あお)られて西へ西へと、流された。

……そんな強い風と、いくつかの雲、そして良く晴れた日。


「墓地に行くかの……」

「もう誰か居るかな?」

「いるとしたらオオトリかのぉ?

大ちゃん(オオトリの愛称)は、時間はきっちりと守る男じゃからな」


海の匂いにまかれながらそう話し、2匹は港を見下ろす高台へと向かう。

その道中で孫は祖父に尋ねた。


「爺ちゃん、親父が死んだ日は、他にもたくさんの魔物が亡くなったんでしょ?

その話を詳しく聞かせてよ」


祖父は先を歩きながらチラリと、振り返って孫の顔を見ると、再び道の先に目線を戻しながら「お前も大きくなったし、良いじゃろ」と答えた。

この時、目の前で吹いた強い風が、草原の草を波打(なみう)たせる。


ビョウ……ビョウ、ザザーザザー


響く風の()、それに答えた(こす)れる草の、緑色の声。

そんな風景の中で、高台の上にそびえる魔族教会、そこに併設された墓地が白とも灰ともつかない色で輝く。

良く晴れた日、その様子を見ながら老ダークメイジが語りだした。


「あれは、海難事故じゃった。

158名の魔物が死に、そして遺体が上がらなかった者は90名にも上る。

そしてその90名の中に、お前の親父とおふくろが居た」

「うん」

「事故の前にお前の親父である、コウタの話をしても良いか?」

「うん……」

「お前の親父のコウタはワシの一人息子じゃ。

悪かったワシに似ず、まじめな良い魔物じゃった。

ワシは魔王様に仕え、その仕えた主が成功するに伴って、ワシもまた名誉ある男に成る事が出来た。

金も女も地位も何もかもが手に入った。

じゃがただ一つ、血筋だけはどうにもならんでの。

そこでコウタには魔族貴族のお嬢さんと結婚してもらいたかった。

だが、コウタにはもう心に決めた人がいてな、それがお前の母親のマイコさんじゃ。

ワシはコウタに、ワシが持ってきた結婚話に同意するように(せま)ったのじゃが、彼は断った。

……コウタがワシに逆らったのは後にも先にもあれ一回だけじゃ。

一回だけだったが……それで全てが終わってしまった」

「どういう事?」

「コウタはワシを許さず、ワシもコウタを許さなかった。

……怒りは魔物を愚かにする。

そして後悔をワシに授けた。

今となっては許さなかった、器の小さな過去の自分を悔いるばかりじゃよ。

……一生逢えなくなったからな」

「ああ……」

「そんなワシとコウタの事を心配してくれたのが、大ちゃんじゃ。

当時ワシらは、家族ぐるみの付き合いをしていた。

とは言え怒り心頭のワシを(はばか)って彼も表立って、コウスケを援助する事は出来ん。

そこで彼はワシらにとっては兄貴分でもある、マツナガ会長にコウスケを雇ってもらえるようにお願いしてくれた訳だ。

マツナガ会長の元なら、ワシも横やりを入れて、イジワルが出来んからのぉ」

「爺ちゃんそんな事してたのっ⁉」

「ああ、ワシも魔王軍の幹部じゃぞ?

それ位はするわな……行儀がいい(ほう)でもなかったしのぉ」

「うわぁ……」

「とにかくマツナガ会長はこの時、魔王軍を辞めて魔王様の国で民間団体でもある財団を作ろうとしていた。

それが全魔王国陸運振興会じゃ。

これは、オオダチョウを使った陸上輸送を、支援、発展するのが目的の財団じゃ。

7魔公爵が勝手に立てた国のせいで魔王様の国はバラバラ。

こんな時にそれぞれが勝手に関税を掛けてしまえば、交通も通商も大きく障害を受けてしまう。

だからそれを阻止して、各地の利害を調整する者が必要だった。

だから会長は、その役目は自分にしかできないとお考えだったのだ。

会長は会長で、魔王様を助けるつもりだった。

だから彼は陸運の妨げとならない様に、各地に働きかけて、何とか魔王様の国の通行や物流を円滑にするよう説得した。

……そして、その試みは成功した。

今曲がりなりにも、魔王様の国内で情報やら、物資やらがやり取りできるのも、会長のおかげじゃ。

そんな会長には、いつか様々な理由で可哀想な目にあってしまった、魔物達の為に福祉を充実させたいという希望があった。

そこでコウタが、オオダチョウを使った競鳥レースを提案し、そこでの収益を財源して福祉国家に実現の、助けをしようと言ったそうじゃ。

……まぁ、一部は会長の(ふところ)に入った様じゃがな。

それは余談じゃが、そんなコウタは各地にレース場を開く仕事を任された。

実際これまでに2つ程、レース場を立ち上げたそうじゃ。

……そしてお前が生まれた翌年の事。

その日、コウタやマイコさん、そしてお前を乗せた船がこの港を出て、西の島へと向かった。

2年ほど滞在して、彼としては3つ目のレース場の立ち上げや、整備をする予定だった。

そして……16年前の今日。

船は風に煽られ、岩礁(がんしょう)に激突した。

コウタも、そしてマイコさんも、海に沈んでしまった。先程話したようにな……

死体が無ければ、復活も出来ん。

お前は、コウタかマイコさんが用意したと思われる、木桶(きおけ)の中に居て助かった。

……その時の事を覚えているか?」

「分からない、たぶん覚えているとは思う。

夢に出るんだ、海の上を漂う映像(ヤツ)……」

「そうか、それなら凄いのぉ……」

「だけど、親父やおふくろの顔は思い出せない……」

「仕方がないじゃろ、あの日のお前は1歳だったのだから……」


こうして話し合っている内に、この家族は墓地へと辿り着く。

そこにはこの村を襲った、16年前の海難事故を悼むような景色が広がっていた。

並ぶ幾つかの墓石の前、飾られる新鮮な花達。

それは……今日が事故の日だと知る者の手で作られた、悲しくも華やいだ世界で。

その捧げられたたくさんの花の姿が、あの日起きた悲劇の傷の深さや、その大きさを表す。


「今日はこの魔物達の命日(めいにち)なんだね」

「そうじゃな……

だが魔物の墓は空っぽじゃ、この世界では死体があれば復活できるからな。

だが寿命が来て復活しない死もある。

そんな時もこの墓地に(ほうむ)られるが、そんな幸福な者よりも、墓に入らない者の方が多い。

……だから今日、この日に墓に花を捧げられた墓石もすべて空っぽじゃ。

本人を思わせる物は墓碑銘(ぼひめい)に残った、(わず)かなアルファベットの数行だけ……

これが運命と言うものか……

もう二度と会えないのも、仲直り出来んかったのも」


そう言うと老ダークメイジは「ズ、ズズッ……」と鼻を鳴らして、鼻水をすすった。

孫はこの様子を見て掛ける言葉を失い、祖父の背中に黙ってついて行く。

やがて2匹は目的の墓に辿り着いた。

このとき彼等は遠目から見て、たくさんの魔物が、亡くなった彼らの家族の墓に手を合わせているのを見た。

驚いて近寄ると、そこにはキラキラ輝く羽を持った鳥の魔物や、紫の皮膚をした、ひときわ恐ろしげな男。

そして、その紫の皮膚を持った男の部下らしき魔物が、大量にたむろしている。


「遅せぇよ、コウちゃん!」


この時輝く羽を持った鳥が、やってきた祖父と孫のダークメイジの姿に気が付いて、声を上げた。

からかい半分親しみ半分と言った感じの声音だ。

それを聞いて、老ダークメイジも「大ちゃん早いのぉ」と言って嬉しそうに返した。


「マツナガ会長よりも遅いんじゃ、コウちゃん最近たるんでるんじゃないの?」

「ぐぅ……」


老ダークメイジは、そう言われると何も言い返せない。

それを聞いていた紫の男も、悪そうに(はす)に笑うと「コウゾウ、また俺の所で修業するか?」と尋ねる。

老ダークメイジはそれを聞くと「いや会長、それは勘弁してくださいよ」と、低姿勢で答えた。

それを聞いた紫の男は「がッはッはッ」と笑って言う。


「ええっ、最近足腰を鍛えてないんじゃない?

若いモン雇って棺桶引かせてるだろう?

棺桶(かんおけ)を引かないと、すぐにバテてくるぞ!」

「いや、もうこの年齢(とし)ですから……」

「バカ言うな!お前よりも俺の方が4歳も上なんだぞ。

今だって魔王様の為に働ける体力は、育てているんだ。

お前もオオダチョウ乗ってみるか?

意外とあれは体力使うから健康にいいぞ!」

「いや、魔導士ですから、魔法で……」

「なんだよ……だらしない男だなぁ。

そういう所がダメなんだよ……

オオトリを見習ってみろ。

今でも空を飛ぶために筋トレは欠かさない。

加えて、俺が陸運振興会を立ち上げたときに、白鳥興業を立ち上げて陸運に乗り出した。

だから、今やこいつは大金持ちだ」


次に紫の男は、輝く鳥の魔物に顔を向けて「なぁ?」と同意を求める。

輝く鳥は苦笑いを浮かべながら「会長のおかげです、ありがとうございます」と礼を述べた。

この後輩二人の様子に、気を良くした紫の男はさらに上機嫌になって言った。


「この前だって、一匹鍛え直して欲しいという事でスライムも預かった。

そう言えば、あのスライムはクソみてぇな男だったが、今やだいぶマトモになって来たぞ」


それを聞いて輝く羽を持った鳥が驚いて「ミトの奴がですか?」と声を上げる。

それを聞いて、紫の男は邪悪な笑みを一つ浮かべてこう言った。


「ああ、だいぶイイ男になって来たよ。

この調子で後3年もしごけば立派な“国士”になれそうだな。

ギャーッハッハッハッ!」

「そうですか、流石(さすが)は会長です」

「まぁな。

そう言えばあのスライムは、オオトリの会社の陸運部門のフランフラン支部の副支部長だったんだろ?」

「あ、いえ……アイツはその支部の下に在る、各配送拠点の一つで副拠点長してました」

「まぁ、そんな大した違いはねぇよ!

なぁ、オオトリ。アイツ俺にくれないか?

あのスライム、中々レースにも(くわ)しいしよォ。

あのままオオダチョウに乗せて物運ばせるより、レース場で暴れる、負け犬共を叩き出す方が向いてる気がするんだわぁ」


この時、オオトリと呼ばれた輝く羽を持った鳥は老ダークメイジの顔を見た。

その視線を受け、老ダークメイジは、孫の若いダークメイジの顔を見る。


「……え?」


思わず戸惑う若いダークメイジ。

そんな彼に紫の男が声を掛けた。


「おっ、お前がもしかしてコウタの息子か?」

「あ、はい……どうも、初めまして」

「ああ、俺はコウタのボスだったマツナガだ。

ソコの爺共とは古い付き合いでな。

こいつ等は若い頃相当な悪だったんだぞ」

「そ、そうなんですか」

「特にお前の爺は……いやよそう。

爺はすぐにキレるからな」


そう言って笑いだす紫の男。

そんな彼に老ダークメイジは「会長の方が年上でしょうが」と言って苦笑いを浮かべる。

それを聞いて紫の男は「心の年齢が問題だ、心の!」と言った後、悪そうに笑う。


「まぁ、俺は怖い物が無いからよぉ。

なぁ?」


そう言って若いダークメイジの方に顔を向けた紫の男。

若いダークメイジは(なぁ?って言われても……)と思いながら「ですね」と、相槌(あいづち)を打った。

同時にグイグイ来られて。何となく困る思いも湧く。


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