諍いに向かって 2/7
やがてその静けさを破る様に、ピンクスライムがオオスズメに尋ねる。
「その話をバルセール様に?」
「うん」
「バルセール様は何だって?」
「駄目だって……認めないって」
すると、オオスズメの胸の中でダークダンサーが「今日だけはアイツの味方をする……」と答えた。
オオスズメはそれを聞きながら「クーちゃん、いつも味方してあげて」と返す。
……それはそれとして。
ピンクスライムが冷静な声で言った。
「じゃあどうするの?サワちゃん」
「それがね……なんかとんでもない方向に話が行ってね」
「うん?」
「バルセール様、オスカル様に連絡するんだって」
「なんで?」
「……とにかく『あのガキ、遂に本性を現したな!』って叫んでた」
「オスカル様に言ってもしょうがなくない?」
「古い魔物や魔族は、すぐに談判に行くから、そう言うモノじゃない?」
確かに魔物とはそう言うモノだ……そう思ったピンクスライム。
そしていつもの勤務風景を思い出しながら、オオスズメに言う。
「そうだよね、サワちゃん……バルセール様と上手くやっていたもんね」
「まぁね、皆バルセール様の事を良く言わないけど。
私あの方のロマンチックなところ、嫌いじゃなかったし……」
すると、オオスズメの胸の中でダークダンサーが呻いた。
「サワちゃん……ヒック。
アレはロマンチックじゃなくて、ただの迷惑だよ?」
それを聞いたピンクスライムは静かに突っ込む。
「あんた、今日だけはアイツの味方じゃないの?」
するとダークダンサーはスズメの胸に顔を埋めて「頑張れー、バルセール……」と呻いた。
オオスズメはそれを聞きながら、溜息を吐き、そしてダークダンサーの頭をなでる。
◇◇◇◇
―少し前、フランフランの町近郊
「相談役、勇者達を倒してください!」
ジャイアントラクーンと、キラービーがそう言って廃神殿の中で、老ダークメイジに頭を下げる。
「もう少しお前達で何とかならんのか?
もっと強い魔物もおったじゃろうに……」
それ聞いたジャイアントラクーンは、悲しげな声で言った。
「悔しいですが、俺達じゃ何ともならないんです。
……それだけじゃあありません。
このままだと、皆住む所が無くなそうなんです……」
「どういう事じゃ?」
「どうもこうもありませんよ。
みんな財産を失って破産していってます。
最近の冒険者は悪魔です……
奴ら……我々のパンツまでもしっかり盗んでいくんです!」
それを聞きながら老ダークメイジは(魔物の“男性自身”がピットリと張り付いた、布切れすら最近の盗賊は盗むのか……)と戦慄する。
自分ならアレだけは盗まない。
「……それは、イヤじゃのう」
「昔と違うんです、最近の冒険者は鬼です。
昔はただ戦って、倒したり倒されたりするだけでした。
今のアイツ等は金目の物なら何でも、かっぱらう強盗です。
血も涙も無いんです!
それを効率が良いって言って、皆でもてはやしています!
だけどこのやり方で狙われた魔物はひとたまりもありません!
俺も全財産を失いました!
盗賊をパーティに混ぜて、尽く俺達魔物からむしり取るやり方は、まるで疫病の様に国中に広がっています……
このままじゃ、このオスカル様の公国は破滅します。
弱いパーティなら俺達で何とかできますが、最近じゃあ、強いパーティに途中加入で盗賊を混ぜるケースが増えてます。
特にその中でも、我々を苦しめている悪魔みたいなパーティがラ★ニーズ……
相談役!せめて……せめてあのラ★ニーズの、クソ女だけでも倒してください!」
「クソ女とは?」
「冷酷無慈悲のクソ盗賊。
羽根帽子の“焼き肉串”です!」
羽根帽子の“焼き肉串”とは、最近イケメンぞろいの逆ハーレムパーティ、ラ★ニーズの一員としてメキメキと知名度を上げている女冒険者だ。
老ダークメイジも、その存在の噂は聞いている。
そこで彼は自分に頭を下げるジャイアントラクーンに尋ねた。
「マスダ君や、きみはその“焼き肉串”とはもう戦ったことがあるのかな?」
するとジャイアントラクーンが頷く。
「勿論です!
アイツは何かチートを使っています!
でも……イイダバシの創造主に教会で問い合わせても“そんな事実はない”と言うばかり。
とにかく魔法も、攻撃も一切効かないんです!
加えてフランフランじゃ、とても買えないぐらい高価な、ミスリル装備までしています。
メンバー全員がですよ?
男性メンバーは全員やる気も特に無いので別に気にしなくてもいいのですが……
あの“焼き肉串”だけは別です!
奴だけは周りの冒険者よりもレベルが高く、多くの特殊攻撃を身に付けてます。
加えて魔法の方も少し使えるようで、不意に火魔法のメラメラモエを使ったりするんです。
アイツだけはもう、コージさんか、相談役じゃないと止められないって、皆が話してます……
相談役……お願いします。
どうかワスプ―ルの橋の付近まで来てください。
最近、連中はあの近くで我々と交戦しているんです」
……それは苦悩に満ち、悲しみに潰れた懇願の声だった。
隣にいるキラービーも、全身から悲しみを絞り出して、ジャイアントラクーンと共に頭を下げる。
それを聞いて老ダークメイジも心を決めた。
「分かった……そこまで若い子たちに頼られるのも、名誉な事じゃろう。
これで立たねば男が廃る」
「そ、それじゃあ!」
「2日待ってくれるか?
と、言うのも……明日は息子の命日でな、ワシは彼の墓参りに行く。
それが終わり次第、ワシらもワスプ―ルでお前達の戦線に参加しよう……」
それを聞いたジャイアントラクーンとキラービーは、喜色満面の笑みを浮かべて、深々と頭を下げた。
「相談役!ありがとうございますっ。
これでこの苦しみも終わります。
皆の生活を立て直すことも出来ます!」
「うむ、微力ながら力になろう」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
そう言ってジャイアントラクーンと、キラービーはこの廃神殿から出て行った。
それを老ダークメイジは外まで見送る。
……あの2匹の魔物と別れたあと、中に戻った老ダークメイジ。
中に入ると、玄関のすぐ内側に孫の若いダークメイジが立っていた。
「どうしたコウスケ?」
「……いや、別に」
「今日中に自分の部屋を掃除せいよ?
見られて汚かったら恥ずかしいからの」
「うん分かった……」
そう答えた孫とすれ違い、家の奥へと老ダークメイジは向かう。
「じいちゃん……」
そんな老ダークメイジの背中に向け、孫の若いダークメイジが声を掛ける。
……躊躇いがちなその声音。
ソレを聞いた祖父は、孫が今の話の事をもっと知りたいのだろうと思った。
無視しても良かったが、思わず覚えた居心地の悪さに、何故か溜息が零れる。
その座りの悪さと向き合うように、彼は振り返って口を再び開いた。
「どうしたコウスケ?
あの2匹の話が気になるのかの?」
「うん、まぁ……」
「そうか、盗み聞きは褒められんが……
まぁ、聞いた通りじゃ。
今度の敵はいつも初心者冒険者ではなく、どうやら強敵の様じゃな。
気を引き締めんとのぉ」
「勝てるの?」
心配そうな孫の声に、老ダークメイジは朗らかな声で答える。
「当たり前じゃ、心配は要らん。
クワタ君やヤスイ君のレベルは11まで来た。
お前やマツダ君は13レベルか……
そろそろ上位転職も視野に入ったレベルじゃな。
勿論上位転職をすると、レベルがリセットされて1になる。
……だからこれから強敵に当たるので、まだ転職は出来ん。
一時的に弱くなるのでな。
まっ。何とかなるじゃろう……」
「そうじゃなくてさぁ。
……じいちゃんは、勝てるの?」
「なんじゃ、ワシの心配しとるのか。
まったくガキのくせに偉そうに、妙な質問しおって……
心配するなっ。勝てるとも、ワシを誰だと思っておる」
「そうだよね……爺ちゃん強いもんね。
負けるはずが無いよね……」
そう言うと、孫は神殿の外へと出て行った。
老ダークメイジはその背中を見ると、ひっそりと溜息を吐く。
「はぁ……ダークメイジのままでは、勝利に自信が持てん。
ワシは望んでダークメイジに身分を落とした。
もしワシが昔のままだったら、何も心配なく蹴散らせよう。
じゃがフランフランでは、ワシら一族はダークメイジしか戦いに参加する事が許されん。
もしワシがダークロードのまま、此処におったら、イイダバシはワシを消滅させる。
昔のままだったら何の心配も無かったのになぁ」
……そして被りを振る老ダークメイジ。
その脳裏に、敵を制圧していた過去の自分の姿が過ぎる。
ソレが、彼に後悔の言葉を零させた。
「ああ、なんと創造主は残酷なルールを御作りになった。
彼は孫を育てるためとはいえ、私をこんな姿にするよう追いこんだ。
ダークメイジにまで落ちてしまった今のワシは、ただの中レベルの盗賊にすら怯える……
これでも過去は魔王様の側近であったなど誰が信じよう。
誰が今の私を見て、過去そのような名誉ある男だったと思うだろう?
今のワシはなんと情けない、メイジなのか……」
そう言って顔を下に向けた老ダークメイジ。
その足元に窓から差し込む光が、窓の形となって輝く。
……それは、墓参りの前日の事。




