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もう……私は蛹じゃない 4/4

そんな女盗賊の言葉に愕然(がくぜん)とするダークメイジ達、そんな彼等に勇者が剣で襲い掛かった。


「たぁっ!」

「うわっ!」


横合いからの一撃でダークメイジは切り殺される。

それを見た別のダークメイジが勇者に攻撃を加えようとした。


ヒュン……


次の瞬間風を切るような音が鳴り、銀色に輝くダーツが、そのダークメイジのこめかみを貫く。


「ぶ、ぶぐぐ……」


痙攣(けいれん)を起こしたかと思うと、こめかみにはやしたダーツごと倒れるダークメイジ。

その様子を見て、女盗賊は嬉しそうに言った。


「ハニー、やるじゃない!」


彼女はダーツを投げたチャラいハンサムに賛辞(さんじ)を投げる。


「たまには……ネ♥」


そう言ってウィンクする遊び人。

だがこの一連の攻撃がわずかな時間を他のダークメイジに与えた。

そして呪文を唱える準備が終わった彼が、勇者パーティに魔法を放つ!


「だったらこれはどうだ、全体魔法……

ヒヤヒヤロン!」


女盗賊に通じなくても、他のメンバーにダメージぐらいは与えたい。

そう思って放たれる全体魔法。

冷気がフィールド全体に広がっていく。


「ふふ、甘いわね。

特殊能力、犠牲の精神……身代わり!」


女盗賊がそう高らかに宣言すると、他のパーティに向かうはずだった冷気が、女盗賊に集まる。

冷気は凍てつく氷の風となって、女盗賊を襲った。

瞬時に立ち上る白い靄……

キラキラとした氷の破片が、風の中で舞い踊る。

そしてその靄が晴れた後、そこには何も変わらず、ダメージも無い女盗賊の姿があった。


「そんな……どうして」


思わず絶望に駆られて、そう漏らしたダークメイジ……

女盗賊は言った。


「言ったでしょ、私は神に愛された女。

そんな攻撃は効かない。

私にダメージを与えられるとしたらそうねぇ……魔公爵ぐらいの実力を持った魔物じゃないと無理じゃない?」

「……なんだと?」

「ダークメイジ……

そんな弱い存在に、私は二度と(つまづ)いたりはしない」

「フン、何も知らない傲慢で愚かな女め。

覚えておくがいい……公爵様はお前よりもはるかに強い!」

「だったら確かめるまでじゃない……

それが冒険者の宿命だもの」

「くっ!」


「それはそうと一つ聞きたいことがあるの。

少し良いかしら?」

「…………」

「まだお礼が済んでない魔物が居るの。

ダークメイジ2体とオオガラスとスライム、そしてオオオウムのユニット……

知り合いの冒険者だって、このユニットに何グループもやられている。

……そいつらはどこにいるの?

この国を出て行く前にそいつらを棺桶(かんおけ)に詰めないと、気持ちが晴れない……」


その話を聞いたダークメイジは、その正体に心当たりがあった。

思わず“ハッ”となった表情を浮かべたダークメイジは、次に「クックックッ……」と笑い出す。


「何がおかしい?」

「いやいや、女……そいつは無理な話だ。

お前が言っているダークメイジは普通のダークメイジではない。

コウゾウさんは……一部の魔公爵様をも凌駕(りょうが)する、本物の実力者。

それも4天王の一人なのだからなぁ」

「へぇ……ダークメイジの名前はコウゾウって言うのね。

でもね、しょせんはダークメイジじゃない。

私の敵ではないわ、だって私は神に愛された女ですもの」


次の瞬間女盗賊は腰の短剣を抜き払うと、ダークメイジ目掛けて走り出す。


「お(しゃべ)りありがとう、楽しませてもらったわ」

「!」


そして脇を駆け抜け、短剣を横に()いだ。


シュ……


鋭い音が一つ鳴る。

そして、ダークメイジの首元で、キラリとひとひら光が舞った。

……次の瞬間、ダークメイジの右頸動脈が体の中に沈んで行く。

数秒後、沈んで言った頸動脈(けいどうみゃく)は再び体の外に現れた。


「あ、あぐ、ッぐぐググ……」


やがて音も無く吹き上がる血しぶき。

……崩れ落ちていった、最後のダークメイジ。

そして現れる血溜(ちだ)まりに靴を(ひた)しながら女盗賊は呟いた。


「時は来た……私達はワスプ―ルの橋を渡る。

そうしないと、もうお金が……」


◇◇◇◇


同時刻、ボルドーの酒場

酒場のマスターボルドーは、グラスを磨くと同時に、グラスにヒビが入っているかどうかを見る。

いつも客に渡すグラスは、きれいで美しく、そして安全なければならない。

そうした気遣いが、酒場の“格”を決めるのだと、彼は信じている。


「ぷッはぁ……マジでやってらんないよ」


とは言え、客もソレに相応(ふさわ)しいのか?と言えばそう言う事も無い。

ちょっと高級な飲み屋である此処には、様々な客が来るが、今日来た3人組の女性客は荒れた飲み方をしていた。


「戦士さん、ピッチ早いですよ?」


女性武闘家がそう(たしな)めると、女戦士が言葉を吐き捨てる。


「飲んでダメなの?

今日ぐらいは飲まないとやってられないよ!」

「え、ええ……」

「どうせ……フンっ、どうせ明日になったら皆と会う事も無いんだし。

せっかくレベルも7になったって言うのに、もうパーティは解散。

酷い最後だったじゃない」


それを聞いて、困惑した表情を浮かべる女武闘家。

その隣で僧侶が言う。


「私は気持ちが分かります。

こんなの僧の身分で言うのもおかしいけど。

……なまじあの人の事を知っているだけに、ショックが大きくて」


それを聞く女武闘家は“またか”と思って「はぁ……」と呟いた。

隣の女戦士が言う。


「あいつが女盗賊になって立派になるなんて……

アイツ前は冴えない魔導士だったんだよ?

それに冒険者名が“焼き肉串”って……

顔合わせの時にそれを聞いた時は“勝った!”って思った。

……それに“負けた”なんて」


酒場のマスターボルドーは(あの子か!)と、聞き覚えのある名前の消息に驚いた。

そしてこの酒場で、あの子の登録を抹消した勇者パーティがこの女達だったと思いだす。

あの日、彼女達は『お金がもったいないよ!』と勇者に力説して“焼き肉串”をこの酒場に捨てて出て行ったのである。


(イイダバシに住むという創造主は、ちゃんと見ているモノなんだな……)


因果応報……人生の不思議を思うボルドー。

どうやらマウントを取り返したらしい“焼き肉串”の様子に、黙ってエールを送る。

そんなマスターの様子も知らず、彼女達は(にぎ)やかに会話を進めた。


「知ってます?今新しい冒険者登録では、盗賊職が人気なんですって」


そう女僧侶が言うと、武闘家が答える。


「知ってます!

なんでも魔物からどんどん盗んで身ぐるみをキレイに()ぎ取り、それから倒すとこれまでの100倍近くお金が儲かるって。

こんなシステムの抜け穴をついたから、あの人は(焼き肉串)成り上がったみたいです」

「どうせ、すぐに調整が入るよ」


それを聞いて女戦士が吐き捨てると、女武闘家が、躊躇(ためら)いながら言った。


「だから皆、調整が入る前に今盗賊になろうとしているんです。

知り合いの“メタル咲♥”も、これまで女薬師でしたけど、女盗賊になってイケメン逆ハーレムパーティを作るって意気込んでます。

羨ましくないですか?」

「はぁ?別に……

って言うか、“メタル咲♥”って誰だよ?

そもそも、そこまでして男に媚びたい?

それにみんなして女盗賊になっても、儲からないでしょ。

それに今、たまに身ぐるみ剥いでも、パンツ以外何も持ってない魔物が出てくるって聞いたよ」

「プッ、毛むくじゃらのくせして、アイツ等律義にパンツ()いてんだ。

今の話は面白いね……」


そう言って笑う僧侶。

……彼女達は知らない。

魔物達にだって破産してホームレス化した魔物が居る事を……


そしてパンツだけの魔物こそ、そんな破産してホームレス化した魔物なのだ。

こうして魔界で巻き起こり始めた、新しい社会問題。

その原動力となったのが“焼き肉串”や、彼女に触発されて大量に現れ始める、女盗賊なのである。

それを知らず、そして魔物の事なんかに注意も払わず、彼女達の会話は続く。


「私も、武闘家を辞めて、盗賊になろうかな?って検討しているんですけど、どう思います」

そう女武闘家が女僧侶に尋ねた。

「辞めておいたら……」

「なんで?」

「皆が始める前にやれば成功するけど、皆が飛びついた後に始めても成功しないよ。

最近魔物がパンツしか持ってないって言うなら、今後そんなパンツだけの魔物が増えるよ、絶対……。

だから盗む物が無いんじゃ、盗賊なんてやってられないよぉ。

そもそも能力値だって、別にステータスが良い職業でもないんだし」

「そう言うモンかな?」

「最初に始めた奴が一番美味しいんだよ、世の中はそう出来ているの」

「…………」


女武闘家は、僧侶の言葉を(保守的なだなぁ)と、沈黙の中で思っていた。

新しい事に挑戦する決断を迫られた時……

面白いもので、常にやらない方がいい理由が100以上見つかる。

それなのに、ソレをやらなければならない理由は常に3つ位しかない。

だからやらない理由を並べてそれに(とら)われると、結局何もしない人になるという法則がある。

確かにやらない理由と言うのは、確かに実在するリスクであり、それを無視して始めた挙句、失敗するケースは非常に多い。

結局のところ、どっちもどっちだ。

この場合では、女僧侶にはリスクが見え、女武闘家はリターンに目が行く。

そしてそんな二人に割り込むように、女戦士が言った。


「あんた等、早速次の仕事をするんだ?

随分と仕事熱心だね……」

「あれ?もうパーティは組まないの?」


女武闘家がそう返すと、戦士は……


「……しばらくいいや。

疲れたから鍛冶屋とかの生産職をするよ。

あの“焼き肉串”の様子を見てからもう、頭がおかしくてさ。

あの勇者にも悪い事しちゃった」


それを聞いて、女僧侶も「確かに悪い事しましたね……」と、後悔の念を口にする。

そんな僧侶に戦士が答えた。


「焼き肉女“(たち)”がさ、皆ピカピカのミスリル銀の装備で武器も防具も揃えてさ、それが街の噂になったとき。

ウチの勇者は、自分で使う鉄のナイフを買うために、値切り交渉をしていたじゃない。

あの“焼き肉串”は言い値で、ポンとミスリル装備。

うちらは鉄のナイフを値切り中……

あれを見たらもう、悲しいやら腹が立つやら……

我慢が出来なくてさぁ……」

「それであの時、あなた『この甲斐性無し、それ位、値切らず買えないのか!』って言ってしまったのですよね……」

「うん、それからパーティはギスギスし始めてさ。

何かと聞こえてくる“焼き肉串”の噂とかが羨ましくてさ。

それで勇者に当たり散らしていたら……

もう、終わりにしよう、ってさ」


過去の事を慚愧(ざんき)に耐えながら戦士はそう言葉を漏らした。

それを聞く女達は黙って酒を飲み、そして黙ってテーブルに目線を落とす。

しばしの沈黙の後、戦士は言った。


「勇者、書置(かきお)きだけ残して消えたし。

そしてパーティもいつの間にか解散していた。

朝起きて、居なくて、(あやま)(ひま)も無かった。

怒っていたんだよね、きっと……」


……言葉は、暗い空気をこの場にもたらす。

広がる沈黙、それを破る様に女武闘家が言う。


「忘れましょうよ、確かに勇者さんは良くしてくれたし、一緒に居て楽しかったけど。

……でもきっと、ずっと居られる人じゃあないって、元々決まっていたんですよ」

「そうかな?」

「これは運命です、女戦士さん。

そもそもあの男だって、酷いやり方で私達を捨てたんですよ。

朝起きたらもう居ないってどういう事?

だったらお互い様だと思いません?

私達だけが悪いみたいに思うのは、私は違うと思うなぁ……

だからこう思いましょうよ、運命だから仕方が無いって!」


それを聞いて女僧侶も言った。


「そうですよ、これは運命。

運命ならば仕方がない。

同じ過ちを繰り返さない様に、これからどうするのかが大事です」

「そうかな?」

「勿論です、僧侶だから分かります。

これは神様の意思ですよ!」


この励ましは、戦士の心を少し明るくする。


「……なら、仕方がないか」

「ええ」

「うふふふ」


そして3人はこれからの事を肴に、酒を飲み始めた。

パーティは生まれ、そして消えていく。

人間関係は難しい、それが集団の抱える悩みなのは、どこの世界も変わらない……


カランカラン


この時ボルドーの酒場の扉に着いた鈴が鳴り、一人の冒険者商人が入って来た。

3ヵ月近く前……まだ魔導士だった“焼き肉串”と飲んでいたあの商人である。

マスターボルドーは、彼の腕に犯罪者集団のマークが入れ墨してあったのを思い出しながら話しかけた。


「いらっしゃいませ」

「ああ、マスター。

俺のこと覚えてる?」

「ええ、この前魔導士さんと飲んでらっしゃった……」

「ああ、マスター頭良いねぇ、記憶力バッチリだよ!

それはそうとさぁ、あの女……ここにはよく来るのかな?」

「どうされたんです?」

「いや……ちょっと手癖(てくせ)が悪い女だったんでね」


これを聞いて、マスターボルドーは知った。


(ああ“あの子”(焼き肉串)は結局財布を届け出なかったんだな……)


彼はこの時初めて、彼女が盗賊らしく、あの大金を盗んで行ったのを知った。

あの時確かに、こうなる事を予想はしていたが……

それでも正直“ガッカリ”と言う思いを抱くマスターは「最近は此処に来ていないですね」と答える。

すると彼は、マスターの目を覗きながら言った。


「嘘をつくとタダじゃ済まないよ?」


マスターはそれを見ながら務めて冷静に言った。


「勿論嘘ではございませんよ」


マスターの言葉は本当である。

何故なら“焼き肉串”は今、ワスプールの橋の傍を中心に、仲間のレベル上げに(いそ)しんでいるからだ。

当然フランフランには帰ってきてはいない。

マスターは「もしよろしければ他の方にも聞いてみますか?」と言った。

すると冒険者商人は「いや、良い……顔を見せたら、今度教えてくれ」そう言ってこの酒場を出て行った。

それを見送るマスターボルドー。


酒場はこうして、3人の女性客だけがホールに残り、夜を静かに重ねていく……


ご覧いただきありがとうございます。

今回のお話しは如何でしたでしょうか?ご感想を戴けたら幸いです。

評価、ブックマーク等を戴けると励みになりますので、是非。


不定期更新の為、何時次の話が上がるかはわかりませんが、また上がりましたら宜しくお願いいたします

それでは失礼いたします。

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