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プロローグ  ―イイダバシの提案―

1/12 書き足しました

 ―未来の日本、東京にて。


全ての車がPHV(プラグインハイブリッド、プラグを挿入して充電するタイプ)のEV(電気自動車)車となり、エンジン音が過去のものとなって早50年が経った頃。

この日、小石川後楽園付近の夏の夜明け前をEVワゴン車が走っていた。

その車には若さ故の勢いに(そそのか)され、ワゴンに乗り込む4人の大学生男女が、酒を飲んで運転をしている。


『アハハ、マジでかっ!ウケるわぁ』

『今度さぁ、海行こうよ海!』


フィィィィィィ……


エンジン代わりのモーター音が、車内に響き渡り。

そして楽しげな大学生の笑い声が、車外にまで(あふ)れた。

運転手を務める若者も時折振り返っては、話に交じり、皆と夜のドライブが楽しい。

カーナビや様々な光を放つ計器やボタンの明かり以外に光る者の無い暗い車内……

闇の中では、それと対照的な若者の朗らかで明るい雰囲気が満ちていた。

この時、ふと女性の一人が少し心配したように、後部座席から運転手に言った。


「ちょっとぉ、結構飲んだけど本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だって!優海ちゃん心配性だって。

あんなの呑んだ内に入らねぇからさぁ。

この前もこのくらいで走ったから問題ない……」


 この時、一人のサラリーマンがよろけて車道に倒れ込む。


 『!』


思わず息を飲み、このサラリーマンを避けようと運転手はハンドル切った。

ところが車は勢い余って対向車線にはみ出す!


キキーッ!ガシャーン‼

フィィィィィィ、ドガン!

……カラン、カラカラカラ


夏のある夜、一台のEV大型ワゴン車が飛び出してきた酔っぱらいを()けようとして、ハンドルを切り、対向車線を走っていた別のワゴン車と衝突した。

時速90/Kmで走行していた車は勢いが消えず、更に回転しながら雑居ビルにぶつかり、そこで止まる。

車載(しゃさい)された固形バッテリーから火花が上がり、作動したエアバックが車内を白い煙で満たす。

そんな白濁(はくだく)した空間の中で、この若者達は痛みで(うめ)いたり、失神して意識を失っては、衝撃で変形した狭い車内に横たわった。


……やがて時が経ち。

救急車、消防車、そして警察、様々な緊急車両のサイレンと赤色灯が夜明け前の東京の夜を騒がせる。

この日救急隊員が無線で一つの病院に連絡を取った。


―はいコチラ慈愛堂医大病院。

―慈愛堂さんこちら救急、文京区本郷1丁目で交通事故発生。

患者4人受け入れ可能でしょうか?

―はいコチラ、4人の受け入れ可能。

―畏まりました、今から向かいます、まずは重傷一名、状態は……


こうして傷の具合を見て、救急車が近くの病院にピストン輸送で重傷者を運ぶ。

血まみれとなった若者達はこうして、救急車で近くの大学病院へと運ばれた。

……その中の一人は救急隊員に一瞬助からないかも、と思わせるほどの重症である。


◇◇◇◇


―二日後……


小石川後楽園そばで負傷した大学生は、その後御茶ノ水駅近くに在る、慈愛堂医科大学病院へと運ばれた。

そして事故から2日が立った今日。

その負傷者に対しての術後の経過等を話し合うために、患者の両親である一組の50代ぐらいの夫婦が大学病院へとやってきた。

病院内に在る別室に案内された夫婦は、そこで医者の先生、そして何故かそこに居る、スーツ姿の男性と会釈(えしゃく)をする。

そんな二人に医者が声を掛けた。


「ああどうぞ、楠本さん。

ソチラの椅子にお座りください」


医者はどこか疲れた表情で微笑み、そして卓を挟んだ向こう側の椅子を、患者の父母にに勧める。

こうして勧められるままに椅子に腰かけた二人。

医者は卓を挟んだ反対側に座った。

そしてレジュメの資料を渡すと夫婦にこう説明を始める。


「楠本さん、こちらが術後の経過を示したデータとなります。

詳しい数値の説明は(はぶ)きますが。

……お嬢さんの名前の呼び方は“ユミ”さんでよろしいんですかね?」

「はい……」

「率直に言うと優海さんの肝臓はもはや機能していないと言える状況にあります。

他にも肋骨(ろっこつ)が骨折し、大腸、小腸の一部も欠損(けっそん)しています」

『…………』

「そして……意識もまだ戻らない状態です」


医者がそう残酷な現実を告げると、夫婦はうつむいたまま、さめざめと泣きだし、幾度も鼻をすすり上げ始めた。


「グス、グス……ううぅ」

「優海……どうして」


医師はこの様子を見て、落ち着くまで少しの時間沈黙した。

やがてある程度落ち着いた夫婦は、泣き()らした眼をまっすぐ医者に向ける。

そして(すが)りつくような声で尋ねた。


「先生、優海は助かるのでしょうか?」

「お願いします、どうかあの子を……」


医者はこの時、少し明るい声音で、この二人を安心させるようにこう答える。


「確実に……とは、今の段階では言えませんが。

今の医療なら、助かる可能性はあると思います」


それを聞いて夫婦はパァッと顔を明るくさせて『本当ですかッ?』と声を上げる。

医師はそんな二人に釘を刺すように「まだ何があるかは分かりませんよ?」と言った。

……緊迫感を持つ医師のこの言葉に、思わず夫婦は息をのむ。


「では楠本さん、これからの治療についてのお話しをしますね。

と言うのもこれから治療費の話もしなければなりませんから」

「はい……」

「保険には入っていますか?」

「はい、入ってます」


そう言って医者の目をまっすぐ見つめる、患者のお父さん。

その隣の母親は、黙って医者と夫が話しているのを見守る様子だった。


「……それは良かったです。

実はこれからの治療については、まずは肝臓をどうにしなくてはなりません。

要は移植が必要だという事です」

「移植ですか?」

「そうです、もう優海さんの肝臓は使えないと判断される状態にあります。

なので移植が必要です……

移植の際には、これから上げる二つの方法のどちらかを決めて下さい。

一つは生体肝移植。

これは優海さんの体と適合する肝臓を持つドナー(別の人間)から提供を受けて、その人の肝臓を移植するやり方です。

これはドナーが居ればすぐに手術が出来ますし、現在の医療技術なら、優海さんの意識を覚醒(かくせい)させる時期も早くできます。

ただしデメリットも多く、まず適合(てきごう)しているドナーをこれから探さなければなりません。

また見つかったとしても、その肝臓がユミさんの体に拒否反応も無く、定着するかどうかは断定(だんてい)できません。

……あくまでも他人の肝臓ですのでね。

加えて料金も非常に高額になります。

健康な人の臓器を(いただ)くわけですから、それなりの対価が発生するのです。

道義的な問題もあります……」


「……はい」

「もう一つのやり方は?と言うと……。

それは肝臓並びに一部の大腸、小腸の培養臓器移植です」

「培養臓器ですか?」

「そうです、昔と違って今はクローン技術が進化しているんですよ。

一部の臓器を優海さんの細胞から培養生成し、それを移植するというものです」

「今はそんな事が可能なんですか?」

「ええ、元々人間と言うか生物全ては卵細胞と精子が結合して新しい子孫を作ります。

つまり何らかのスイッチが入った一部の細胞は、脳や内臓、そして骨や皮膚に筋肉と言った、全ての部位を作るという事です。

だから赤ちゃんは生まれた時から内臓を持ってる」

「は、はぁ……」

「なので優海さんが体内に持っているES細胞を使って、肝臓や小腸、大腸をもう一個作り。

それを移植するというのが、培養臓器移植です。

この場合は生体臓器移植よりも高い定着率があります、それにご本人の臓器なので必ず適合します。

それに費用も抑える事が出来る」


「それは、是非とも……」

「ただしメリットばかりではないのです」

「ん……」

「培養生成するという事は、優海さんの肝臓などの欠損部位はこれから、作らないといけないんですね」

「どれくらいで出来るんですか?」

「半年ぐらいはかかると思います」

「半年!」

「その間も優海さんは生きていないといけませんから、人工肝臓等の機械に繋がないといけない。

つまり幾つもの(くだ)に繋がり、そして身動きが取れないんです。

……実はですねお父さん。

意識が戻った患者さんは今自分がそのような状態に置かれていると知った場合、大概の人は耐えきれなくて、心をおかしくしてしまうんですよ」

「そんな……」

「そこで娘さんの意識をこのまま、未覚醒状態に置いておく事も考えた方が居かもしれません。

臓器を培養(ばいよう)する半年の間ですね。

ただし脳は使われなくなって長い時間がたつと、脳死状態に陥って臓器を取り戻しても植物状態になってしまうケースがあります」

「ま、待ってください……それじゃあ優海はどうなるんですか?」

「ですから話を先程したように」

「だったら生体移植して下さい!

植物状態だなんてひどすぎますッ!」


患者の父はそう悲痛な声を上げ、隣の母は堪え切れずに泣き崩れる。

そんな二人を前に医者は安心させるように微笑んだ。


「お父様、今それを回避できるかもしれない、新しい技術を今研究している最中なのです。

眠りながら、脳を活発に動かすことは決して出来ない話ではないんですよ」

「え?」

「実は今、意識の全てを仮想現実空間の世界に全部没入させて楽しむゲームがある。

つまり人間の意識や感覚を、VR(ヴァーチャルリアリティ:仮想現実空間の事)ゲームの中に入れる事が出来るのです。

フルダイブ型のVRゲームと呼ばれているものですが、これを今、医療用に使えないか?と、世界各地で研究を進めています。

これを使うと今回の優海さんのケースのように意識を覚醒させるのが危険な患者さま。

こう言った人に覚醒させたい時期が来るまで、未覚醒状態に意識を置きながら、脳死させない様に刺激を与え続ける事が出来るのです。

実はアフリカや東南アジアでは実際に使われており、非常に効果があったと言われています。

……日本でも厚生省の許可がおりて、本格的に実験が始まりました。

もう現在、16名の患者が実験に協力しております」

「…………」


父は医者の話しぶりを聞き(この医者は自分の娘をその実験に参加させたいのだろうか?)と思った。

表情が瞬時(しゅんじ)に曇る父親、その表情を見ながら医者は言う。


「お渡しした資料の最後の方に、今回掛かるであろう費用の事が書いてあります。

もしよろしければご覧いただけますか?」


言われるがままに資料を見た両親は、その金額に目をむく。

保険で全額払われるかどうかも分からないほど高い金額だ。

言葉を失った両親に、医者は言った。


「優海さんをお救いするのに……これだけ掛かるという事です。

特に生体臓器移植を選ばれた際は、培養臓器移植よりも数倍の費用が発生します。

これだけの費用負担は現実的ではありませんよね?

培養臓器移植であってもこれほど高額です。

そこで少しでも費用負担を軽くした方が良いと思いませんか?」

「そ、それは……」


都内でマンションが買えるほどの高い請求金額を見て、両親は顔を青くする。

それを見て医者は、これまで黙って隣でこのやり取りを見ていた、スーツ姿の男を父親に紹介した。


「実は今回、この手術を金銭的にいくらか援助できるかもしれないというので、笠原君に来てもらったんですよ。

お父さん、娘さんの為になるかもしれませんから、彼の話を聞いてやってはくれませんか?」


現実的なお金の話を見せつけられた両親は動揺しながら頷く。

笠原と呼ばれたスーツ姿の男は、ニッコリと人の良さそうな笑みを浮かべると「第二電話網株式会社の笠原と申します」と言いながら名刺を差し出す。

両親は『あ、これはどうも』と言いながらその名刺を受け取る。

その後このスーツの男は微笑みながら口を開いた。


「お父様、お母様今回はその……大変な事が起きて、心中をお察しいたします」

「ああ、どうも……」

「それを承知の上でこのような事を言うのは誠に心苦しいのですが。

お嬢様を御救(おすく)いするべく、少しでもご支援になれればと思いまして、今回慈愛堂大学様にお頼みして、この場を(もう)けさせていただいた次第(しだい)です」

「はぁ……」

「実は先程こちらの多田先生の話に少し出ました、フルダイブ型のVRゲームに接続して、眠ったまま脳を活性化するシステム。

アレは実は弊社(へいしゃ)が大きく関わっているこれからの医療技術なのです。

そして今、それの実験を日本で行っている最中でして、まだまだ被験者が足りない状況なんですね。

……ここまでお話しすると、もう察しが付くかと思いますが、お嬢様もこの実験に参加していただく事は出来ないでしょうか?

その代わりに今回の手術費用など、弊社としまして最大限ご支援をさせて頂けたらと思っております」

「……援助すると?」

「その通りです」


それを聞いた父親は、深く、そして長い溜息を吐いた。

そしてかすれる声で「内容を(うかが)います」と言う。


「もしご参加下されば入院費や生命維持装置などの接続費はコチラで持ちます。

ご請求額からこの部分が引かれれば、手術費やリハビリ費用の負担だけで済みますから、保険会社さんとの交渉もしやすいでしょう。

具体的にはこの位を、ウチで持つという事になります」


そう言って具体的な費用を提示した笠原。

それを見て父親も母親も、少し表情を柔らかくする。


「如何でしょうか……

ご検討いただけないでしょうか?」

「……まぁ非常に魅力的、だとは思います。

私達も豊かとは、言えないですし……」

「まぁ……」

「ただですね、いきなりすぎて何が何だか分からないんですよ。

私自身最後にゲームをしたのも、大分昔になりますし。

VRゲームは昔からありましたけど、フルダイブ型なんてやった事も無いです。

医療用のゲームについてもう少し詳しく説明してください」


笠原はこれを聞くと「かしこまりました」と言って、カバンの中から一冊のパンフレットを取り出した。

そしてそれのページを開き、両親の前に置きながら説明を始める。


「ココにペンもありますから、もしメモされるならこのパンフレットに好きに書いてください。

弊社第2電話網株式会社はTSTNとも言われる会社です。

ザ・セカンド・テレフォン・ネットワークのそれぞれの頭文字をとったんですね。

携帯ならUMのブランドも展開しております、こちらはユニバーサル・モバイルの略です。

本社はお茶の水と目と鼻の先に在る、飯田橋に在りまして、まぁその縁で多田先生と仲良くさせていただいている訳です」

「UMなら今も使っていますよ」

「本当ですか?ありがとうございます!

いや、嬉しいな。

実はお嬢様がUM使っているというので、警察の方が身元確認の為に弊社に連絡があったんですよ。

それでSIMカード(電話番号が焼き込まれているチップ)の番号から、お嬢様がウチのユーザー様なのは間違いないというのは分かっていたんです。

お父様もそうだというのは初めて知りました」

「……うちは家族全員UMですよ」


「ありがとうございます!

では、話しを続けますね。

今や様々なものが通信網で繋がっているユビキタス(いつでもどこでも情報に触れる事)の社会になりました。

……お父様、お母様、もしかしたらご存じかもしれませんが。

昔はスマホとかもありましたが、今や携帯本体とモニター部分はセパレート(分離)され、ポケットの中に在る本体と、それと近距離無線通信で繋がるガジェット(機器)で構成されます。

ガジェットの代表的なモノだと、昔ながらのモニター、そして今の主力であるウェアラブルグラス(眼鏡の形状のモニターで、装着法も眼鏡と同じ)、はてまたはウォッチ(腕時計型)と言った物ですね。


そしてそんなガジェットの中に、現在VRコネクターと言うものが有るのです。

オンラインのフルダイブ型のVRゲームをする際は、このVRコネクターで接続された後、各ゲーム会社様のゲーム機に繋がる必要があります。

私達TSTNが関与しているのは、VRコネクターから先のネットワークの分野です。

……では改めて、フルダイブ型のVRゲームについて説明いたしますと。

この型のVRゲームと言うのは、全神経、全感覚がゲームの世界に没入されます。

そして全感覚が没入されるという事は、このネットワークから直接攻撃を受けてしまうと精神に良くない影響が起きるかもしれない。

そこでこのVRゲーム用に、専用の回線をインターネットワーク内に構築しました。

こうする事によって、外部のネットワークからのアクセスを防げますから、安全にゲームが楽しめます。

これをVPNと言います。

弊社はこのためにライバルである日本電話網さんと、手を組み日本やヨーロッパの会社と一緒になって共通のVRゲーム専用のVPNプロトコル(約束事の集まりと言う意味、ただし今回は仕様と言う方が正解に近い)を制定しました。

広告なんかで“ヴァリエ―スEU”と言うのを見たことはありませんか?」


笠原がネットワーク用語を容赦なく使って、説明しているのを聞いて、半ば意識が飛びかけた父親は“ハッ”となった表情を浮かべた。


「聞いた事はあります。

ゲームは見るモノから触れるモノへ……の宣伝文句の奴ですよね?

実は今の今まであれがなんであるのか全然わからなくて……」

「ありがとうございます。

実はこのヴァリエ―スEUと言うのが、VR専用のVPNのシステム名なんです。

そしてこのヴァリエ―スEUをさらに強固な、セキュリティの施された回線にしたのが、ロバーストオレンジスです。

これはもう回線そのものをインターネットにも繋げていない、日本電話網さんやウチの余った閉域網(へいいきもう)(つな)げているから、他人がアクセスするのは無理だというものです」


この仕組みはIP―VPNと言う。

しかし、笠原はそこをぼかした。

これ以上通信の話をすると、目の前の二人の頭がパンクすると思ったからだ。

(あん)(じょう)、目の前の二人は目を白黒させながら「はぁ……」と(つぶや)いて、意味も無く(うなず)く。

それを見ながら笠原は「ようは、ウィルスからちょっかいを出されない、安全なゲームですよ、という事です」と言った。

話を聞く患者の両親は、専門外の通信の話にちんぷんかんぷんだ。

分かったような分からないような、何とも言えない思いで説明を聞き終える。

やがて父親が、少し首を(かし)げながら口を開いた。


「なぜゲームなんですか?」

「脳に刺激を与える方法が、ですね?」

「そうです」


父親はそう話しながら、むしろコッチを話して欲しかったと思った。

それを感じ取ったのか、笠原は少し焦ったような表情を浮かべると、取り(つくろ)ったように話を続ける。


「これは幾つか理由がありまして、まずお嬢様がこの状態ですと、新たなルールやシステムの学習が難しいというのがあります。

なので元から知っている、ルールやシステムを使って脳を刺激する方が良いのです、教える事が出来ませんから。

実はお嬢様は弊社子会社のUMゲームスが提供しております、VRゲーム“トゥエルブデモンズロード”のユーザー様でいらっしゃいます。

だからここに繋げれば、早速お嬢様の意識は勝手知ったる世界で、活動が出来ると思われます。


それにこのゲームはアクティブユーザー様も非常に多く、それの恩恵もあってAI(人工知能)も順調に成長し。

今や生命体と遜色(そんしょく)が無いほどの、思考能力を獲得しております。

……ユーザーが多いという事は、ゲーム内のAIも、学習する機会が多いからです。

加えてこのゲームは(たび)(かさ)ねたアップデートによってバグも少なく、稼働実績も安定しております。

これから彼女の脳には喜びとストレスをバランスよく与える事を考えますと……

弊社側でもある程度コントロールも可能な、それでいてメリットも多いこのヴァーチャル世界を使って、臓器の培養が完了するまでの間、脳を刺激した方が良いと思うのです」


「これがお勧めなんですね?」

「そうです、実際の人間に近いNPCや、お嬢様と同じ状況の他のユーザー様とも繋がります。

実際の人間社会に近い環境で、ストレスと喜びを彼女に与え続けられるんです」

「…………」

「……楠本(くすもと)さん、いかがでしょう?

他の方のデーターも個人情報を伏せた形ではありますが、お見せする事も出来ます。

ご検討いただけないでしょうか?」


楠本夫妻はこの日、笠原から資料のみを貰い帰宅した。

そして翌日夕方、実験参加の意思を伝えたのである。

この後、重傷を負った娘の使っていたゲームのIDから、名前などのパーソナルデーターを引き継いだアバターが早速作られ。

未だ攻略者の居ない、医療用の“トゥエルブデモンズロード”のサーバーに意識を放たれる。


……彼女のアバター名は“焼き肉串”と言う。


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