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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ファンタジーなお話 ~少年少女は未来へ進む~

悪趣味な男

作者: RedSun366

これ?これはちょっと僕が興味本位で作ってみた機械斧ですよ。素材には贅沢にガウェイン卿が使っていたといわれるガラティーンを使用!なおガウェイン卿は強さを求めていつでも真昼の強さに成れるように剣に太陽の石を混ぜ込んでいたようで、その結果この機械斧には強力な太陽属性が付いてしまいました。でも見てくださいよこの蒸気噴出孔!全く必要性を感じないでしょう?ぶっちゃけ作ってた時に興が乗って付けちゃったんですが蒸気の熱が凄まじい上に変形に凄まじく邪魔なので取っ払おうと思ってます。…ところで、無理矢理聖剣を溶かした挙句神秘性の欠片も無い機械的な武器にしてしまったせいでとんでもないモンスターマシンになってしまいました。まぁ意図的なんですけど。もっと言えば聖剣を素材にしたのに用途が殺戮なので、とんでもない呪詛が宿ってるんですけどね。機械の癖に。それに、見てください?このトリガーを引くと…じゃーん!どうですこの回転刃!メタリックな赤色で格好いいでしょう?わざわざ斧の刃の間から出てくるようにしたのはまぁ、趣味です。まぁ刃渡りの延長とか攻撃範囲拡大とかの思惑が無かったとは言いませんが。え?そうですよ。これで切られたらズタズタのボロボロですよ?だから何です?僕は殺していい動物だけを殺しているんですから、その殺し方にとやかく言われたくは無いですね?アハハ…じゃあ、何です?理由がなければ生命を奪ってはならないと?ちゃーんーちゃーらーおーかーしーいーでーすー。…じゃあ言いますがね?僕が仕事しなかったら、野生動物のみならず、悪しき力を持ったマモノもいっぱい降りてきますね?特にこのギルドの担当地域は山の麓…麓っていうのかな。山の近くですから、今でも対策してるのにサルとかイノシシとか降りてきますね?知ってますかぁ?マモノの大半は山に住んでるんですよぉ?掃きだめみたいな小鬼ならばともかく、オオトカゲとか降りてきたらどうするんです?山に潜んでるのは何も動物だけじゃないんですからね。盗賊?山賊?人食い一族!?そんな奴らに無辜の人々が殺されたとして、アナタ、責任は取れるんですか?遺族への賠償は?言い訳はぁ?罪滅ぼしに体でも売っちゃいます!?「アナタの娘さんが受けた屈辱を私も…よよよぉ」みたいなぁ!?アッハハハハハハ!!……ハァー、正論。…でも、悪人を殺す事の何が悪いんです?僕はちゃんと許可をもらって殺してるんですから。許可が出たという事は、誰かが依頼したってことですよ?それで僕を問い詰めるっていうのはおかしいでしょう?筋違いじゃありません?じゃあどうなんです、あなたは。一度でも殺したマモノに家族がいたらーとか、番がいたらーとか、誰かが飼ってたらーとか、考えなかったんですか?撃ち漏らしが怒って大挙して下山してきたらーとか、その辺のリスクマネジメントとか、なさってます?………その時点で僕にとやかく言う資格無くありません?…別にぃぃ~~?僕は頼まれたからやってるだけですよ?まぁ、マモノ相手や盗賊相手にちょっと気が引けた事も数えきれませんが……その中に現実改変者がいたらと思うと、手は抜けませんね。言っておきますが、ちゃんと聖人協会からの支援も受けてますよ?僕みたいな汚れ物が死後の煉獄に出来る限り短く繋がれるように祈ってくれているようです。…そんなことやっても無駄だというのに。つーかそもそも、理由がなければ行動できないとか、一人の自立した人間としてどうなんです?理由が無いと動けないヒトに価値なんてありませんよ。本能に身を任せて好き勝手してるクソもクソですが。

で、何でしたっけ?ああ、僕が背負ってる武器が目についたんでしたっけ。まぁ確かに物騒な外見ですからねぇ。…ちょっと見せびらかしたいという気が無いでもなかったんですが、仕方がないので収納しましょうね。あん?僕の技術…というか、僕と職人さんの技術はすごいですよ?この空間拡張装置をポケットに仕込むことによって…ポケットから大剣が、回復薬が、羽ペンが、昨日の携帯食料が!これぞ噂に聞いた異次元ポケットですねぇ!いやぁ、物騒なモノ見せつけてごめんなさいね?じゃあ僕、適当な依頼受けてきますんで!縁があったら、また会いましょう。今度食事でも出来たら嬉しいですね。…おや、残念。僕ってそんな嫌われるような事しました?






「うーん…やっぱり強いですね。強いのはいいんですが、やっぱり回転刃だと血が飛び散りますよね…。市街地じゃ使えそうにないなぁ…」

とある山中に、洞窟があった。山中と言っても山に入って数分で見えてくる位置にある。そんな身近な位置にある割に非常にマモノが溜まりやすく、またアウトローな人間も住み着いている事が多く、冒険初心者もしくは勇者気取りの馬鹿、または登山初心者が安易に一休みしようと侵入しては、盗賊かマモノに、貴方が想像できる悲惨な事全てを味わわされる事になる。

そんな物騒な洞窟の中に、とある男の姿があった。戦闘向きとは思えないスーツ姿に、レザーの手袋を着けている。男の手には巨大な斧が握られており、時折斧から突き出た煙突のような筒からシューと蒸気が噴き出される。…斧からは大量の血液が滴っており、男の周囲には小さな肉片が幾つも飛び散っている。それらの血と肉片は、なにも男の周辺だけに散っているわけではない。洞窟の壁面、上部、地面、果ては男の服にも、例外無く飛び散り付着している。

さながら地獄絵図であった。

「殺した中に現実改変者はいないようですね…ちょっと残念ですが、これも世のため人の為。山賊に襲われるような人が少しでも少なくなるように、僕も頑張らないとですね!」

斧をブンブンと振り回しながら、回転刃にこびりついた肉片を振り落とす。笑顔で複雑な造形をした巨大な斧を振り回す姿は限りなく変態のソレであるが、それを指摘する知性体は存在しない。

「…なーんちゃって」

自分が冗談交じりに語った綺麗言に、男はニタリと笑みを浮かべる。心底面白いようで、クツクツと笑い続ける。笑い続けるまま、洞窟内に笑い声を響かせながら洞窟の奥へと歩みを進める。

そもそもの男の目的は、一種の初心者殺しとなりつつある洞窟の“定期清掃”である。人にしろ魔にしろ悪にしろ、よくないモノの溜まり場は放っておくわけにはいかない。そして何より、男の人生最大の目標である“現実改変者の抹殺”と“マモノ絶滅”を果たす事が出来る可能性が高い仕事である。男からすれば受けない理由は無い。

「おや?」

男は、洞窟の奥から響く声を聞き取った。聞いた限りでは高い声、反響で低くなっている可能性を鑑みた結果である。

「大方あの盗賊に掴まってナニされてた女たちでしょうが…」

女の声だからと言って油断はできない。マモノの中にはヒトの声を真似てヒトをおびき寄せる種が存在する。そうした疑似餌に引っかかったヒトは、おおむねバックリと食われてしまう。なんとも世知辛い世の中である。

その為、男は斧を手放さない。斧をしっかりと握っている。

一応用心には用心を重ね、数歩ごとに後方の確認と頭上の確認を行っているため、歩行速度が非常に遅い。…前にも同じような事もあり、発声者がマモノであった事は数える程しかなかった。しかし、マモノであった数度のウチの一度はマモノが頭上に存在しており、危うく飲み込まれそうになった。…それが故の用心。男からすれば、その一件が若干のトラウマになりつつあった。

「もうちょっとですかね?…明かりが漏れている」

ゆっくりと明かりのもとへと向かうと、そこには大勢の人がいた。

裸の女が大勢ゐた。

明かりのある場は広間になっており、より取り見取りの裸の女が鎖に繋がれていた。…広間にはいくつもの通路が繋がっているようで、壁にはいくつも穴が空いていた。おそらく、その穴を通っていけば、別な洞窟の入り口に繋がっているのだろう。それも、賊がいる洞窟に。

男からすれば大喜びだ。なにせ、この広間の穴の一つ一つを通っていけば、漏れなく賊を壊滅させる事ができる。その中に現実改変者が混じっていれば更に良し。

男は意気揚々と機械斧を肩に担ぎ、通ってきた穴とは別の穴に這入っていった。…繋がれた女を一切無視して。

洞窟の奥地から人が出てくるというのは基本的にあり得ないので、洞窟に溜まっている賊達は男の来訪に大層慌てた。そして油断しきっていた大勢の悪人を、男は機械斧で一切合切を薙ぎ払った。胴が飛ぶ、首が飛ぶ、肉が飛ぶ、肉片が飛び散る、壁にこびりつく、血が飛散する。

慌てた賊は例え一族経営だとしても、足並みは乱れるものだ。故に、面白いように賊は死んでいく。

自分以外の息遣いが聞こえなくなったら、また洞窟の奥地に戻る。

そして別の穴に這入り、別の洞窟に籠っている賊を殺す。

また帰る。

また這入る。

また殺す。

這入っては血まみれになって戻ってくる男の姿を見て、繋がれた女たちは希望と不安を抱くようになった。これまで散々嬲られてきた身であるが、ようやく救いの手が差し伸べられたような気になっていた。女たちは当然、穴の向こうからやってくる存在に気付いていた。それに凌辱される気分と言ったら、言うまでもないだろう。恐怖と絶望入り混じる女の園に、ようやく希望が灯りかけていた。

最後の穴から、男が出てきた。

黒かった礼服が、血が目立たないはずの黒色が真っ赤に染まる程の血を浴びたようだった。担いでいた斧にも肉片が大量にこびりついている。それどころか、斧が発する熱に焼かれてか、血生臭い臭いとは別に肉が焼けたような臭気も纏っていた。

その様は、さながら処刑人。否、虐殺者と言った方が正しかった。

しかし、女たちにとっては希望だった。男のその姿は、すなわち賊の全てを殺した証。自分たちを辱める存在が全て消滅したという証左。撫で下ろせない胸を撫で下ろした。女の中には腹が膨れた者もいる。…構わず蹂躙され、子の生は望むべくもない。

望む筈も無いだろうが。

「結構減りましたね。…これでしばらく山籠もりしないで済みますよ…」

男はニコニコとしながら、女たちの前に現れる。

そのうちの一人の前に立つと、

「今まで大変だったでしょう?」

聖人のような笑みを浮かべ、

「邪魔なんで消えてください」

斧の回転刃を展開し、振るった。

血が溢れた。悲鳴を上げる暇すら無かった。肉が裂けた。骨まで砕けた。悪臭を放つ肉の袋が溢れ出た。

他の女は悲鳴を上げた。甲高い声の悲鳴は洞窟内に反響し、不協和音となって男の耳をつんざく。女たちからすれば、希望の象徴であった筈の男が、一瞬にして賊と等価値に成り下がった。応援していた正義の味方が一瞬のうちに悪へと落ちぶれた。そして今までとは違う直接的かつ暴力的な危険が迫っている。今までの凌辱とは違う。直接的な生命の危機。現に今、目前に示された。死という原始的かつ即物的な恐怖が、そこに。

「キーキー五月蠅いですよぉ?現実改変者のオキニ共が。母胎になる可能性があるんだから、ちょっとは悪の自覚持ってくれません?」

悲鳴に構わず斧を振るう。悲鳴に動じず斧を振るう。血に濡れた斧を。

「大体ね、夜に外を出歩くものじゃないって、教師に!教わりませんでしたか?街中なら、ともかく、山の、中に、何の、御用事、だったんです?」

十一回の斬撃で、十一人の女の体が裂けた。

「自分だけ被害者ぶっても駄目ですよぉ?自警団も夜には出歩くなって言ってる、ギルドの方も夜に仕事に出るのは控えるように言ってる、これだけ予防線張っておいて山賊の巣に近付くとか、馬鹿ですか?」

五回の斬撃で、五人の女が死んだ。

「大体ね?クソみたいな現実改変者の後継機ポコポコ生み出されちゃ、僕としても商売あがったりなんですよねぇー。商売やってるつもりはサラッサラ無いですが」

子を宿した女ですら笑顔で殺す男の姿は、どこからどう見ても悪鬼のそれである。膨れた腹に蹴りを入れ、念入りに踏み潰し、潰した後に斧で叩き潰す。悪鬼のような男の、清々しい笑み。にこやかに笑うその目には、虚無と憎悪がないまぜになったおどろおどろしい混合物が詰まっていた。

いずれ声もしなくなった頃。

息の一つもしなくなった頃。

男は、満足気に頷いた。






想起されるは輝かしい記憶。

四人の柱に一人の主。

四人潰れて一人残った。

火の術式、ノーヴァ

土の術式、ゲー

水の術式、ヴォーダ

時の術式、クロノス

王の具現、ケーニヒス

焼却式ノーヴァ

土操式ゲー

浄化式ヴォーダ

時感式クロノス

規律式ケーニヒス

殺戮式アニマ

「アニマ…!」

血まみれの彼女。ちぎれた彼女。

とうとう拠り所を奪われた。これはもうどうしようもないよなぁ?

お前に出来る事は何だ。言えよゲー。お前は土の術式でも何でもない。

騎士だなんてもっての外。ただのニンゲン、アニマだろ?

言えよ、殺戮式アニマ。

お前は誰だ?






「…寝てた」

洞窟の壁に寄りかかっていた男は、いつの間にか眠っていた。そもそも用事を終えた後の洞窟に長々と滞在する理由はない。では何故この鬼畜な男が未だこの洞窟に残っているのか。

雨が降り出したのである。

雨宿りのつもりで洞窟で暇をつぶしていたものの、冷静に考えれば今の服には血と肉片がべっとりとついているのである。雨に打たれるついでに洗い流れて丁度良いはずだ。

僕は何を考えていたんだろう。

血まみれの状態で街中に降りては爪弾きモノにされるのは確実。一応、男は街ではお調子者のヘラヘラ兄さんで通っているのだ。今更その印象を変える訳にはいかない。かといって道中に手頃な川があるわけも無く、血を洗い落とすには雨に打たれるしかない。…最近寝不足続きで、若干判断能力が鈍っているようだった。

まぁとにかく、やるべきことは決まった。男は機械斧を空間拡張装置で拡張されたポケット内に仕舞い込み、外へ出た。

洞窟の外では大雨が降っており、いわば天然のシャワーだった。大粒の雨が礼服の血を洗い流していく。…雨が自分の罪までも洗い流していくような錯覚を受ける。

「アハハ―――」

洗い流されてもまた、皮膚の内側から吹き出てくるような。どうやら僕は許されないらしい。

「殺したのはあっちなのに、マモノを湧かしたのはアイツなのに―――」

呟く。ぼんやりとしたような顔で、空からの雨粒を食む。水は良い。雨は良い。水は彼女を思い出す。感傷に浸って上を向いて歩いていたものの、上を向いているうちに目に雨が入るようになり、馬鹿馬鹿しくなって止めた。止めて、前を向く。

前を向くと、女の姿を幻視した。

アッと手を伸ばすと、ゆらりと揺らいで像は消えた。

「アア、気のせいか」

残念そうにつぶやくと、男はまた上っ面の笑顔を作った。






「―――と、この通り。盗賊、ならびに小鬼の群れおよび食人族、約二十三グループを滅ぼしました。それで、今回の報酬は」


「…えー!こんなんじゃ生活できませんよー!そもそも何ですか貴方たち。自分たちは殺したくないからって僕みたいな騎士崩れに人殺し依頼してー!騎士がヒト殺す時点でヤバいのに、人が人殺してるんですよ!僕だってこんなことやりたくないですよー!嘘ですけどー!…ま、戯言はこれくらいにしておいて。……本題です。賊の中に現実改変者が二名ほど。即刻殺害し死体は特に念入りに挽き潰しておきました。どうやら現実改変者は思考の具現化以外は特に特殊能力は持たないようです。…ですので、できるだけ早い接触、継続的に痛覚を与えられる凶器が必要になるかと。…ニンゲン、どうやっても痛みには慣れませんからね。痛みが続くと自然と思考がまとまらなくなります。…僕としては、是非ともジャンヌダルク二世のパープルフレイムで焼き払っていただいた方が早いと思うんですケド。……ハァ!?妊娠!?いつの間に!?相手は!?……もう臨月ゥ!?話が急展開過ぎるでしょソレ!?何ですか!いつの間に仕込まれたんですか!?聖人は結婚しちゃいけないんじゃなかったんですか!?挙句何ですか!?聖女の癖してセックスですか!?二世とはいえ聖処女が聖破瓜ですか!?初代と同じ末路辿るつもりですか!?馬鹿じゃないの!?ハァー!聖人協会も地に堕ちましたねぇ!今更かァ!」


「あーはいはい、言い過ぎましたヨ聖女様。…しっかし、臨月なのにどうして仕事場に来た挙句パープルフレイムを僕に浴びせますかねぇ…そんな体を冷やしそうな格好で…つーか、自分が姦淫の末に出来たからって自分も初代に倣わなくても…アッナンデモナイデス元気なお子さん期待してますねウフフ」


「…言っておきますが、僕はあの約束、忘れてませんからね。メルティアの魂は手に入れてるんですよ。あとは貴方方で肉体を手に入れてくれれば、僕としては何も言う事は無いんですから。…裏から世界を牛耳ってるんなら、もうちょっと死体の一つや二つ……いいえ何でも!…そもそも、あなた方が現実改変者にもう少し早く気付けば…」


「別に。僕はやりたいようにやるだけですよ。わざわざブリテンまで渡って聖剣掘り返してきたのも、思い付きで妙ちきりんな武器を作るのも、僕の気まぐれですよ」


「死者は生き返らないって…そんな事重々承知ですよ。アンタたちねぇ、そんな当たり前のことに縛られてばっかりじゃ、本当に無能になっちゃいますよ?」


「貴方たちはメルティア・ニュクスを生き返らせる為の手伝いをしてくれる―――でしたよね?」



「アッ、賊の慰み者になってた女性たちですが、ガキ産まれても困るので皆殺しました。別にいいですよね?セ・イ・ジ・ョ・サ・マ?」


「おおう怖い怖い。流石は火属性魔術の最高位。…パープルフレイムは身に沁みますねぇ」




一仕事と依頼終了の報告を終えた男はそれなりの報酬を得た後、特にやる事も無く腹が減ったので街の飯屋に寄ることにした。なお、男は必要に迫られなければ自炊を全くしない。

「フンフフーン……聖人協会め、資金難だか何だか知らないですが、僕にこれだけ人殺しさせておいてこんな端金しか寄越さないとか…世界を保護する協会とか言いつつその実貧乏人共の集まりとか……」

ブツブツと愚痴りながら、飯屋へと歩みを進める男。礼服の付いていた血と肉片はほとんど洗い流れており、多少の血痕はあるものの大きくは目立たない。礼服の黒色である程度誤魔化されている感が否めない。

しかしまぁ、周りを見れば何とも暢気なものである。数年前の自分の境遇では考えられなかった光景だ。街行く人、笑う婦人、空を仰ぐ若者。…はしゃぐ子供。

「僕も本当なら、今頃は…」

愚痴りかけて、虚しくなって、溜息を吐く。

「はぁーあ、諸手を挙げて喜ぶべきクソ平和」

代わりに、忌々し気に呟く。

かつての戦場にて想い人を失ったどころか、かつての仲間の殆どを失って以降、男はすっかり変わってしまった。あるいは、隠さなくなった。いくら享楽的といえども、その本質は怠惰でしかない。ぶっちゃけ、生きる事すら面倒臭くなっているのだ。自分が死んでも、世界は全く変わらない。彼女が死んでも世界は変わらない。僕の仲間達が死んでしまっても、世界は一つも揺らぎはしない。…まるで、お前は無価値だと眼前に突き付けられているかのような錯覚。

しかし復讐心は消える事が無かった。マモノを殲滅するべきという使命感は更に強く、元からあった現実改変者への殺意は抑えられなくなった。

他人は彼を苛烈と言うだろう。

他人は彼を鬼畜だと罵るだろう。

しかして彼は、ただ無為に生きているだけであった。

自分に正直に、自分に嘘を吐かず、自分を取り繕う事なく。…取り繕う相手もおらず。

男は今日も気だるげに、昼食を食すべく飯屋へと足を運ぶのだった。


適当な料理を注文し、料理が届くのを待つ。…何もしていないと嫌が応にもかつての事を思い出してしまうため、極力何かしようとする。今日の男の暇つぶしは何だろう。

男は懐から写真を取り出し、ぼんやりと眺める。

「おうおうアンちゃん、彼女かい?」

男のテーブルを通り過ぎた見知らぬ者が軽率に声をかける。男はニッと笑って答える。

「ええ。生きていればそうでしたね」

声をかけた方の男は大層気まずそうな表情で、ハハハと苦笑いで通り過ぎる。…片肘をついて、再度写真をぼんやりと見つめる。写真にはポニーテールの女性が写っており、写真の中の彼女もぼんやりと明後日の方向を見つめている。少々あどけなさの残る横顔に、似合わない頬紅。とどめのアイシャドウまでひかれており、非常に間抜けな姿である。…男からしても、もう少しマシな写真が欲しかったものの、今となってはその願いが叶う事は無いだろう。

「クロノスの奴…似合わないってあれほど言ったのに勝手に」

今はいない仲間の事を想起する。…クロノスの象徴たる術式、時感式クロノスは行使者である当人が死した現在、男が引き継いでいる。それは何もクロノスのみでなく、自分以外の四術式を魂レベルで継承している。半ば強奪に近いものであり、仮に男の仲間の一人が生き返ったとしても、男が返そうとしない限り当人の術式は当人にも使えない。

焼却式ノーヴァ。本名カムナが担当していた炎の術式。フレイムユーザーの最高位である紫炎を操る、武術と食に傾倒するオッサンで、特に食に関するこだわりは凄まじいものがあった。男の戦闘スタイルの半分くらいは、彼の影響がある。

土操式ゲー。本名アニマ、つまり今、飯が届くのを待っているこの男が担当する土の術式。土を自在に操り地震まで起こす戦闘スタイルで名を馳せた男である。かつては勤勉かつ真摯、冗談を好むものの基本的には真面目であり、我が強く統率の取れない四術式の良心の片割れと見做されていた。

浄化式ヴォーダ。本名メルティア・ニュクス。実直で真面目、嘘が吐けない性格で何かと頼られていた水の術式。良心その二。槍術に優れており、槍の扱いに関してはカムナを上回る程であったとか。ゲーと恋仲であったとか、片恋であったとか、諸説あり。

時感式クロノス。本名クロノス。自分を時の神と自称する時の術式。しかし妙に農業についての知識や理解が深かったり、食べられる野草に詳しかったりと本当は農耕の神の方だったのではないかと疑われていた。しかし神が死ぬ事は基本的に無い為、やはり神ではなかった。…と、少なくともアニマからは思われている。

規律式ケーニヒス。本名は最後まで知る事は無かった。寡黙の権化のような男であり、戦闘時の指示以外には一言も声を発さなかった。アニマからすれば特に思い入れが無い人物であり、特に言葉を交わした記憶も無い。ただ彼の規律式ケーニヒスは非常に強力であった。

「ふむ…しかし」

こうして客観的な目線から見れば、僕のいたところは有力どころか強力なチームだったのだなぁと、昔を思い出しながら思った。

「こんなに強そうなチームも、マモノの群れに一瞬で潰されちゃうんですから…世の中分かりませんよねぇ」

自重するように呟くと、店員が自分が注文した料理を運んでくるのが見えた。「おっ」と、思い出に浸って沈みきっていた男のテンションが若干上がった。「おまたせしました」と店員が男の前に料理を出す。カムナが好みそうな分厚いステーキ、クロノスが好みそうな山盛りの野菜、ケーニヒスが好きそうなポトフ、メルティアが喜びそうなクレープ。…見事に男の未練丸出しなメニューのチョイスだった。

男の名誉の為に注釈しておくが、毎食こんな感じである。

「んーこの特にこだわりなく無造作に振られた塩コショウが香るステーキ!美味いじゃないですか!」

男の名誉の為に注釈しておくと、毎食こんな感じである。

「ハァーア、こんなに可愛いクレープ。本当ならメルティアと分けっこしたんですがねェー」

男の名誉の為に注釈すると、毎回感傷に浸っている。

感傷に浸りながら、男は食事を終えた。


食事を終えた男は店を出る。……途中の席に現実改変者がいたため時感式で時を止めた状態で殺しておいた。大騒ぎになる店内を、男は笑顔で去っていった。

そのまま特に何もすることが無く、受けた仕事も無く、…本当にやる事が無い。

「どうしますかねぇー…」

午後の予定を考えながら、道すがら呆然と立っている現実改変者を見つけたため時感式で時を止めた状態で殺しておいた。

「特にやる事もありませんしぃー」

走り回る子供の中に現実改変者が紛れていたため、再度時感式を起動させ時を止め、子供の姿をした現実改変者を刺し殺した。

「……あれ?」

道すがらに現実改変者を殺すのは、もう男にとっては日常となっていたものの今日は流石に多すぎる。一日に一人見つかれば良い方の現実改変者が、今日は随分と多い。山で山賊に紛れていた奴も含めて、今日で六人だ。

「はて、平行世界で交通事故でも起こったんですかね?」

男は暢気に物騒な事を呟き、「まぁいいや」と深く考えないようにした。

何をしようかと何度も口に出しながら考えた末に、辿り着いた場所は自宅であった。

「…寝ろって言ってるんですかねぇー、メルティア」

いもしない相手に話しかけたアニマは虚しくなりながら部屋に帰った。


壁には綺麗に磨き上げられた一本の槍が飾られており、それ以外は見るも無残と言ったような有様であった。床に埃が積もっているあたり、男が滅多に部屋に帰らないという事がうかがい知れる。部屋は荒れ放題。整理整頓のされていない、さながら世紀末のような有様だった。

「メルティア、今日も留守番ご苦労様でっす」

明るく槍に話しかけるという変人ムーブを繰り出したアニマは、返事が無い事に溜息を吐きながら風呂へと向かう。…風呂水が張りっぱなしで異臭を放っていたものの、気にせずバスタブの水を抜いた。抜けきった頃合いを見て、湯を入れる。風呂水がたまるのにはしばらく溜まるので、その間に……特に何もすることが無かった。

「おかしいですねぇ…本来ならばもっとしなきゃいけない事があるはずなんですが……山籠もりして賊を殺すのも終わりましたし……珍しいなぁ。マジで暇だ」

掃除をするような気にはならず、仕方がないので槍をじっと見つめる事にしたアニマであった。

「…うん!今日も綺麗ですよメルティア!」

槍に話しかける変人ムーブは終わらず、継続的に話しかける。…なにせ、自身を除く死んでしまった四術式とケーニヒスの中で、唯一魂を確保できたのがメルティアのものだけだったのである。しかし魂のみを保存できるはずも無く、仕方なしにアニマはメルティアが使っていた槍に本人の魂を封じ込めた。

「いつまでもそんな狭いとこに暮らさせるわけにもいかないですよねぇ…適当な人形にでも魂を移すか……でも、変に定着しちゃったら」

自室とはいえモゴモゴと小声で独り言をつぶやく様は完全に不審者である。

「あーあ。いつになったら会えるんです?メルティア・ニュクス」

寂しげな声を作って、壁に飾られた槍に話しかけるも、槍は答えない。

賊を殺し、女を殺し、現実改変者を殺した凶悪な男。常時へらへらと口を歪ませる男の顔は、今日この“愛おしのひと”の前に限っては、随分と悲し気な顔を作るのだった。


風呂に湯が満ちた頃合いだ。

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