おっさんは諦めが早いし、寝るのも早い。
諦めとは、大人の現実を逃げないで直視していることだと思う。俺はね。
「あれ、お城だね」
「そうですどう見ても魔王城です本当に有難うございました」
「ワロタ」
二人でオタっぽい言葉遊びを繰り広げるも、現実は無情。目を擦っても消えない。消えねえなあ。
山の中腹に聳える真っ黒なお城と、その周りを飛んでいるどう見てもドラゴンの群れ。ドラゴンが攻め寄せているわけじゃなさそうで、ドラゴンは周囲をぐるぐる回っている。警備かな。とにかく絶対にあれ魔王城だよ。
一応森の端まで来たので、先程よりも高い場所から周囲を見回したものの、眼下に見える森の先の道は見渡す限りどこにも繋がっておらず、どうも海岸までまっすぐに伸びているだけのようだ。砂浜から何もない森まで伸びる一本道とか誰が何のためにつくったのか。
そして森の端を巡って山の反対側に出れば、同じような海岸と山の中腹に聳える巨大な城である。ここは、海から森を抜け城へと続く道と山だけの、海に囲まれた小さな島だった。
「絶海の孤島に聳える魔王の城とかラスボス直前感ありまくりだなあ」
「私たち、なんでそんな所に居るの?」
「さあ?」
とりあえず森の少し奥に戻って、奇襲を受けなさそうな、適度に視界が開けている場所を見つけて座る。城に行くか。森に留まるか、海岸線を探索して島から出る方法を探すか。城に行くのが正解だと二人共感じているのだが、行ったら死にそうで嫌だな。
「それでも、召喚したのがあの城の誰かって確率はあると思うの」
「森のやつらが襲ってきたのは」
「多分魔王に挑戦する者と勘違いされてるんじゃないかしら」
ありえる。
「もう夕方だし、さっさとベッドで寝たいよ私」
「日本時間だともう真夜中っす」
「佐藤くん、この森で、襲われる恐怖の中、眠れる?」
「無理」
会社勤めの一般人である俺たち二人が夜通し寝ずの番とか出来るわけが無い、と思う。となれば、何が出てくるか分からないが魔王城に向かう方がいいか。もうすぐ日が暮れるし。どうもあの城に引かれる物を感じる上、可能性として俺たちをこの世界に呼んだ者があの城にいる可能性は高い。
「しかたねえ、行くか」
「ベッドちゃんとあるかな〜」
本上さん、違う、そうじゃない。確かに眠いけど。