おっさん、彼女と貰いゲロ。
俺は、心がすっかり疲れてしまったよママン。誰だ俺。
背中から臓物をぶちまけながら倒れる鬼のあんまりなグロさに、タイトスカート大股開きなパンモロ上司な本上さんは、そのまま俯いてタイトスカートに自分のゲロを全力でぶちまけた。
俺も彼女の姿に思わず貰いゲロ。森の中におろろろろ、とゲロる音だけが響いた。誰得。
二人でズボンとスカートを汚しまくってやっと落ち着いたところで俺はどっと疲れていた。ちなみに彼女のパンツも見えましたというか今現在も見えてますが、ゲロで汚れて落ち込んでる女子を前にそんなんどうでもいいと思った。それどこじゃねえ。
「あ、ありがとうね佐藤くん」
「いやいや気にしないでください本上さん」
運転手さんの事は言った方がいいのか悪いのか、とりあえず放置でなぜ自分たちがここに居るのか理由など聞いてみようとするのだが、本上さんもよく分かってない様子。
「佐藤くんにタクシー止めてもらって助かったと思って安心したら気が緩んで、気がついたらこの森の中。わけがわからないしこんな森の中でヒールで歩けるわけもなく佐藤くんも居ないしどったのこれ、と思ったら獣のような唸り声が聞こえて、わけもわからないまま森で熊に食い殺されると思ってたら出てきたのがコレ。登場直後に殺されるいや犯されるとかどんな異世界ファンタジー!って叫びながら逃げたり避けてたら佐藤くんが助けにきてくれて、ほんっとおに助かった!」
とのことである。ちなみにこの人、いい年して哲学からライトノベルまで手広く読みこなすガチの文系活字ジャンキーなので、理解が早くて助かる。
「無事でよかったですけど、ここがどこかは本上さんもわからない、と」
「異世界じゃなきゃ佐藤くん二件の殺人で死刑もしくは過剰防衛で実刑だね」
「やめてくださいよ」
さっきの豚人間まで含めたら三件だよ、確実だよ、と俺はちょっと震えた。たとえ異世界だろうが三件の殺人はとっつかまって獄門ていう可能性を捨てきれない。それがいきなり襲われたのだとしてもだ。常識ある大人の判断って冷酷よね。
さて無事を喜んだ後、二人でどうするかという話になったが、水場の探索、鉄棒の回収と運搬の検討、豚人間の鉈の回収、現在位置の把握、人里の探索、発見できたら可能なら森から抜ける、などてきぱきと方針はまとまる。さすが大人の群れ。二人だけど。
ああ、運転手さんと豚人間の話は結局した。初犯ネタはともかく、今俺たちがここに居る理由を探る上でも、本来居たはずのもう一人の運命を隠すわけにもいかなかったからだ。それに、ここは簡単に人が死ぬ世界らしい、ということをお互いにはっきり認識しておく必要もあるし。
なによりゲロまみれなタイトスカートにヒールな出で立ちの本上さんの着替え。ゲロの匂いってきついので考えたのだが、結局運転手さんの服を借りる事にした。そうするとお話せざるをえない。
「成仏してください」
「洋服お借りします」
ヒールだと厳しいので本上さんを背負って、結構時間がかかったが、なんとか最初の場所に戻った。運転手さんの遺体を横たえ、手を組ませて、二人で手を合わす。
ちなみにその後、頭に刺さったナイフを抜いた際、もう一回本上さんがゲロったが仕方ないことだ。貰いゲロについてはノーコメント。