おっさんは実感する。
俺はおっさんだ、だからこそ、無理をするつもりは無い。
しかし、先ほどの豚人間と同様のスローモーな鬼をどうにかしなければ、本上さんはミンチである。そう、ミンチである。知り合いがミンチなんて冗談じゃない。かと言ってこっちがメンチ切り直してミンチってのもおもしろいけど死んじゃう。今のはそんなおもしろくなかった。
俺は金棒を振りかぶった鬼の脇腹に、駆け込みながらジャンプ、ドロップキックを食らわした。もう一匹いるからちょっと危険じゃないその選択肢、と気づいたのは後だ。
狙いどころは振りかぶった腕のすぐ下、ガラ空きの脇下の肋の辺りだったが、ぐしゃあっと音がして俺の両足がその脇下にめり込み多分肺を潰したらしく、そのまま驚愕と激痛に顔が歪む鬼が倒れてしまったため、結果、俺は倒れた鬼を踏みつけるように両足で着地した。手を上げて体操選手アピールでもしておけばよかったか。その後、足に力を込めるとめきめきっと音がして足が抜け、俺の下で潰れてる鬼が激痛に歪む顔のまま泡を吹いて目を閉じた。反作用で吹き飛ぶところがめり込んじゃったので、全ての運動エネルギーを吸収する羽目になった鬼はそこで限界だったということにしておこう。けして俺が非道な追い討ちをしたわけではない。まあ彼女を襲おうとした時点で非道もクソもないんだが。
「あ、あれ?佐藤くん?」
本上さんが呆けた顔をして俺の名前を呼ぶが、そっちを見るとタイトスカートで大股開きな彼女に失礼なのであえて見ないようにする。ていうかもう一匹残ってるのに目を逸らしたらダメでしょう。
もう一匹の鬼も驚愕に目を開いていたのだが、彼女の呼びかけに仲間だと認識したのか、改めて俺を見て、怒りに目を細め、握り締めた鉄棒を俺に向けた。俺は気絶というかもう死んでたりするのか動いてないぞ、と倒れた鬼から降りると、倒れた鬼がもっていた金棒を拾おうとする。
鬼は薄ら笑いを浮かべてそんな俺を見た。鬼が持っていた金棒は、俺の背丈くらいはある太い金属の棒の先に凹凸がついているものだ。普通の人間の手に負える代物じゃない筈だった。
「お、やっぱりか、軽いな」
しかし俺にとっては、コンビニで買ったビニール傘くらいの重さしかない。理屈はわからないが、多分そうじゃないかと思ったとおり。鬼の目が再び驚愕に開く。そりゃそうだろう。鬼ですら両手で扱っていた金棒を片手で傘みたいにぶんぶん振り回してるのが、体格で言うと鬼の半分くらいしかない俺なのだ。確かにビックリ人間だ。本上さんもえええっと声にならない声をあげているが、やっぱり覗き見とかになるからそっちの方向は見ちゃダメだと思う。
そうして、そのまま鬼の前まで金棒を振り回しながら近づいた俺は、正気を取り戻した鬼が自分の金棒を振りかぶる前に、その鳩尾を金棒で突いた。一応全力で。
めきゃあ、ごきい、と嫌な音がして、金棒が鬼の腹にめり込むというか突き刺さり、多分鬼の背骨を折りながら背中から突き抜けた。あ、やっぱりこれ、怪力チートっぽい。