魔王は町に入れない
かつての同僚が落ちぶれてしまう、そんな同僚と再会するっていうのはまあ、社会派とか青春ドラマの定番だと思うんだが、実際の大人になるとそんな機会は滅多に無い。寧ろブラックに就職した俺が落ちぶれなのかもしれないが、しかし周りも大差ない境遇だったりして、お互い愚痴こぼして終わるだけだ、普通は。
流石に、同僚があんな聴くに耐えない犯罪行為で色々迷惑をかけまくった奴だとか、滅多に無くて当然だと思う。よく考えたら異世界の方が無いんだが。
本上さんと顔を見合わせてどうするか考えた俺たちだったが、まあ拒否権は無い。魔王様こと禁断邪悪な愛の女神が一度「町に行ってアイツを見つけましょう」と思ったら嫌々だろうが、結局着いていくしか無いわけで。
そんな、クレーターの先、森の中を抜けて町に向かう俺たちである。なお自転車は俺が押してる。森の中だしさぞ辛かろうとは思っていたんだけど怪力って凄いな。狭い自転車駐輪場をスイスイ抜けていくような気軽さで自転車を押し、のしのしと歩いていける。
残念な事に、途中森の中でアイツの遺体とご対面という幸運には恵まれなかった。幸運だって?と思うかもしれないが、出来れば死んでて欲しいな、と思うほど恨みは骨髄に徹している。なにせ俺たちは建前上三人チーム、実質一人のチームだったのだ。
なんで三人の内二人が俺と本上さんなのに実質一人と言うかだが。
アイツは一日ゲームして仕事してなかったり、わからない仕事を放置したり、見かねてその仕事をまきとった俺に感謝どころか邪魔してきたり、俺に偉そうに間違った情報を伝えてアポをキャンセルさせたり、だけではなく。
本上さんに転んだふりで抱きついたり、本上さんの営業同行をデートと勘違いした挙句、取引先が見かねて注意したら逆ギレし出禁を喰らったり、などの悪質な行動に加え。
他部署の売上を勝手にこちらの部署につけかえたり、しかもそれを本上さんの指示だと言い訳したり、伝票見て不審に思った取引先からの連絡を隠したり、挙句にその取引先へのガチ犯罪行為で会社業務に支障をきたした、そのあまりのダメっぷりにマイナス一人とカウントするからだぜ。
つまり二引く一は一なのである。そういう奴なのである。出来れば関わりたくないのである。ホント何で異世界来てんだお前、てところなのだ。
そうか、アイツこの町でまだ生きてんのか。私のチャリ、パクったんだあ、など呟いてる本上さんが少し怖い。俺は逆に、あんなのとまだ関わらなければならない自分の不幸さにテンションだだ下がり。しかし隣で憤りテンションの上がる本上さんを見て、少し思い直して持ち直すことが出来た。
もしかして俺、結局は幸運なのかもしれないし。
「それは悪運と言うのでしょうね、正確には」
「心読むなよ魔王様」
十歳くらいの幼女に見えるだけの魔王が振り返って俺の心の声に反応してきた。止めて。
「日曜日に彼女と異世界デート出来る、余裕ある人生って素敵ではありませんか」
「余裕って言わないし異世界拒否できないし下手すりゃ転勤だし」
本上さんがアイツの遺体がどっかに転がってないか木々の裏や周りを見ながら歩いていく。俺と魔王様はそれを眺めながら、近づいてくる森の終わりに建てられた木の柵と質素な門を発見しつつ、それなりにどうでもいい会話を続けていた。
「そろそろ門が見えてきました」
「結構貧相っていうか質素だな、アレが入り口かあ、入りたくないなあ」
「私は町に入る事ができませんので、あの門以降はお二人でお進みください」
「はあ?」
ここまで来て、突然魔王様が町には入らない宣言。どういうことだ。何々、どったのって顔で本上さんも遺体捜索を保留し俺たちの会話に加わった。
「世界の理で魔王、世間的に愛の女神、その正体は異界、外宇宙の狂える邪神であるところの私は、特にこちら側の一般人とお会いするわけにいかないのです」
「今更だなおい」
「居酒屋やら、ウチの会社買収やら活躍しまくってんじゃん」
「あちら故郷ですし、居酒屋は兎も角、買収はネット経由ですし」
「ネットて」
「そもそもネットで出来るもんなんか」
「こちらでは新参者の女神ですから、なるべく人と関わらないようにしたいのです」
「ああ、最初にそんな事言ってたね」
木の柵と質素な門を前に三人でダラダラと話をするが、魔王様はやっぱりどうしても中には入らない、と言い張り続けた。とはいえ、俺と本上さんが二人で入って大丈夫なところかどうかも知らないんじゃなあ。
本上さんは笑顔でやっと二人きりかあ、なんて考えてヘラヘラしてるんだが。
「異世界デートと洒落込もうか佐藤くん!」
「違うから」
幸運なんだろうかね、俺。




