おっさんは襲われる。
俺、このオークみたいな豚人間に襲われているんだ。へえボタンがあったら勢いよく押したい。へえへえへえへえ。
「ウゴオオオオオ!」
いや吠えられてもねえ、本当に俺、いきなり惨殺されんのか、と現実への理解が追いつかないので、俺は鉈を振りかぶった豚人間を前にしても、まだそんな事を考えていた。だって、遅いんだよこの豚。
「あれ?」
そう、鉈を持って振りかぶってるわりに、この豚人間の動きは滅茶苦茶遅い。ここまで考えてまだ鉈は豚人間の頭の上、豚人間も俺へと飛びかかる一歩目。今から右足を踏み込んで、飛びかかりますよのポーズだったりする。これは、避けようと思えば避けられるかも。
俺は意を決して、豚人間の方にかけだす。前に踏み出された左足を避け、右半身側に近づく。思った以上に素早く駆け寄れた。豚人間はまだ踏み込みの途中だったりするし、鉈はまだ頭上なので避けることも無いし、目は俺を追っていないのだが、ここでいきなり鉈を振り下ろされても怖い。さっさと逃げたい。
うーん、高く振りかざされた鉈を持つ右腕の付け根、もしくはガラ空きの鳩尾、ぶん殴れそうだ、こんなに遅いなら一発、いや二発くらい入れて牽制しといた方が生き残る確率高くないか。ええい、両方殴っとくか。
ちなみにここまで考えて、やっと豚人間の右足が少し浮き始めているくらいで、こいつ滅茶苦茶動きが遅いんだけど。こっちを見てる素振りもないし、スローモーション、時間停止のようだ。
スローモーな動きを見ているうちに安心でき、ただ逃げるのではなく牽制する余裕が俺にはあった。
俺はまず左のパンチで右腕の付け根というか脇をアッパーカットみたいに殴りつけ、それから右のフックで鳩尾を殴る。うまくワンツーを決めてから、豚人間の様子も見ないで急いで、豚人間の背後に広がる森にたどり着いた。
「ウボエ!」
振り返ると、高くあげた右手から鉈が真上に吹き飛び、豚人間は鳩尾を左手で抑えてうずくまろうとしていた。鉈はくるくると回転しつつ真上に飛び、自由落下でそのまま豚の右手を抜けて、頭に落ちる。
「あ」
そして見事に嫌な音を響かせ、鉈は豚人間の頭を二つにかち割った。
ごしゃあ。嫌な音。
豚人間はそのまま無言で前のめりに倒れた。あれ、逃げるどころか戦って勝った?