後編 その33 点火
バイキング形式であり、お皿に盛ったからには食べないといけないソーセージを、モエミは行儀が悪いと思いながらも、箸先でソーセージをつついていた。
人数が少なくなったとはいえ、夕餉の時間は賑やかだ。
特にモエミのまわりは、今までちびっ子達に人気があったフェニックスの姿がなくなった影響で、モエミの周りに集中的にちびっ子が集まる傾向が顕著となり、むしろ、局地的に見れば今の方が騒がしい。
ちびっ子の他愛ない言葉にうなずいたり、頭を撫でてあげながら、ケチャップを手にとる。
モエミは、ソースでなく、マヨネーズでもなく、ケチャップ派。
ケチャップはスーパーに売ってある、プラスチックの容器に入ったもの。
さっきつついたソーセージにケチャップをつける。
このケチャップもソーセージもそうだ。
モエミはテーブルの上の料理を見渡す。
マヨネーズもソースも置いてあるが、プラスチック容器に入っている。
市販のプラスチック容器。
ベーコンもあるが、燻製設備を見たことはない。
サラダに使われる生野菜関係やハーブは畑で見たことがあるものが多い。
でも、肉と調味料関係はあやしい。
ソーセージを齧りながら、ソーセージを作っている設備も、つるしてあるところも見てないことを記憶の中で検索して確かめる。
夕餉の香りが立ち込める1階の食堂の賑やかさと裏腹に、食材の出どころに思いをはせる。
姫を初めとして、誰も脱出できていないのはほぼ確定。
では、どうやって、食料を調達しているのか。
これも姫の何らかの魔法としか考えざるを得ない。
自分は脱出できないが、外から食料を調達可能な魔法。
再び並べられた食卓と、食事をとる子どもたちを見渡す。
お菓子やケーキは手に入らないが、むしろ健康的な食事。
吹き抜けと呼ぶには巨大な空間を見上げる。
勉強部屋、別途部屋、練習室、図書室、動物園・・・安全な居住空間・・・プラス2匹のミノムシ。
早目に食事を終えた子供が鬼ごっことしている。
建物の外側もそうだが、内側も遊具の集合体のような、ちびっ子達には夢のような施設。
そして、ゲームもテレビもインターネットもない世界。
私たちは、魔法の勉強以外の娯楽がないとも言える。
「もしかして・・・」
「どうしたの、モエミお姉ちゃん」
「あ・・・いや、なんでもないよ」
ソーセージを齧りながら、ちびっ子の頭をなでる。
「もしかして、全部、姫が・・・脱出できないふりをしているのか・・・それなら目的は・・・本当に脱出できないなら、調達手段は・・・」
「モエミお姉ちゃん、考え事は後にしないと、顔にケチャップついてるよ」
「あ、ごめんごめん、食べてから考えなきゃね」
思考を現実に引き戻す。
ふと、目をあげると、姫が嬉しそうにソーセージを齧っている。
猫耳だけあって、お肉は好きなようだ。
フェニックスが引きこもってから、姫の着衣はずっとローブとなった。
もしかすると、いつもあのローブを着ていて、フェニックスが変化させていたのかもしれない。
模様が奇抜だったり、突飛な色彩を使っているわけではないが、生地は高級そうである。
どうしても、フェニックスの作り上げる衣装が華やかであったため、どちらかというと地味に見えてしまう。
しかしそれは、みんなの衣装も同じ。
無理やりにも、華やかな衣装を着させて、明るさを表現したかったのかもしれない。
この閉塞した空間で・・・
姫と目が会う。
身振り手振りで、食事が終わったら部屋に来いと言っているようだ。
とりあえず、両手で大きな丸を作る。
「ベネ!」
姫はまたソーセージを齧り始める。
食事を終えて、4階の自室への帰路につく。
既に外は暗くなっており、木の城の中は魔法の光の中で、就寝の準備が始まろうとしていた。
要所、要所に置かれた魔法の光は、城の中で明暗を形作り、夜の闇の到来をも準備しているようだ。
その中でオブジェのように木からつるされるミノムシのような物体が見える。
生も根も尽き果てたルナとヒナだ。
意識をうしなっているのかピクリともしない。
あそこまでやれば、しばらく泥棒はしないだろう。
いくつかの自白は得たが、ここ数日にわたる連続畑泥棒については否認中。
怖がらせるのをやめて、くすぐり地獄でも自白しなかった。
全く動かない2人に、自業自得とはいえ、少し同情の念が浮かぶ。
後で降ろしてあげるようにホークさんにお願いしようかなと考える。
階段を上がり、自室に入ろうとすると、フェニックスの部屋の前に、誰かが立っているのが見える。
顔の部分が陰になっているが、体格と着衣からホークであることがわかる。
ホークなら都合がいい。
降ろしてやってくれと頼んでしまおうかなと思い話しかけるモエミ。
「ホークさん?」
近寄って、話しかけると、夕食が置かれたトレイを持ったまま、心外にもちょっとびっくりされる。
「い、いや、ち、違うんだ、食べてないって聞いて、ちょっと心配になって・・・」
びっくりしたのではなく、見られたのが恥ずかしかったのだと理解する。
「フェニックスさん、まだ、出てこないいんですか?」
「うむ。食事も取らないらしい」
「私も、昼間、スワンさんに頼まれて、ノックしてみたんですけど、反応なくて」
「そうか、モエミさんでも無理か・・・」
「・・・こうなったら乱入しちゃいますか?!」
モエミが腕まくりをする。
「ちょ、ちょっと待て、女人の部屋に押し入るなど・・・」
ものすごく慌てるホーク。
「ホークさん、言葉変ですよ。いいですよ、女性は多少、強引なほうが・・・」
「いや、ご、強引とか、そんな!」
何を勘違いしたのか顔を赤くしてドギマギするホーク。
「さて!」
とりあえず、ドアノブをガチャガチャさせるモエミ。
「あれ・・・空いてますけど・・・」
「ダメだ!」
ドアを閉めるホーク。
「それはダメだろう! もしかしたら着替えている最中かもしれないし!」
「おぉ、ラッキースケベってやつですね!」
パアっと顔がにこやかになるモエミ。
「それってテ、テ、テ、テンプレじゃないですか! あ、開けましょう!」
「ダメだ! ダメ!」
「そして、「キャー!」とか言われて、ホークさんは顔に紅葉をつくるのです!」
「何を意味不明な!」
ドタバタもみ合う2人に近寄る影。
「こら!」
怒られて停止するホークとモエミ。
腕組みをして立っているのは、姫。
「もう、モエミちゃんがいつまでたっても来ないと思えば、こんなところで!」
「あ、え、ごめんなさい・・・」
「さぁ、始めるわよ!」
モエミを拉致しようとする姫を、ホークが引き留める。
「あの、姫、フェニックスが引きこもって出て来ないんです! 姫、何とか言ってやっていただけませんか?」
「・・・引きこもる? 確か部屋から出て来ないってことだよね?」
「そうなんです!」
姫が怪訝そうな顔をする。
「意味わかんない、さぁ、モエミちゃん、行くわよ」
「え、ええ、あっと」
「そんな、姫、お待ちください。フェニックスが部屋から出て来ずに、飯も食ってないんです」
必死に訴えるホーク。
「?」
やっぱり怪訝そうな顔をする姫。
その顔を見て違和感に気づく。
会話が成立していない。
なぜ、会話が成立しない。
二人の間に齟齬が・・・
「あ!」
モエミはドアを遠慮なしでバンと開け、中に飛び込む。
「おい!」
ホークが慌てるが、お構いなしだ。
ずかずかと部屋に入るモエミ。
「もしかして、部屋の中まで誰も入ってないの?」
「・・・ああ、多分・・・」
「いないわよ、フェニックスさん」
「何!」
フェニックスの部屋はもぬけの殻。
どこかで見たようなジャージが、吊るされている。
驚きながらも、女性の部屋に入れないホーク。
「本当か?」
「嘘ついてどうするんです?」
姫が驚くホークに伝える。
「だから、部屋にいないのに引きこもっていうから、変だなと思って・・・」
「え、姫、部屋にいるか、いないかわかるんですか?」
「あ、え、それは・・・」
ホークの突っ込みに、しまったという顔をする姫。
しかし、ホークの次の追及はできない。
ズズン。
地震のような振動。
「え?」
「何?」
「地震?」
3人が3様の反応をする中、「何だ」とか「赤い」という声が聞こえる。
モエミはとりあえず、フェニックスの部屋から出る。
ズズン。
再び振動。
「怖いよー」とか「火だ」とかいう声が聞こえる。
大きな揺れではなく、棚が倒れたりということはないが、気持ちのよいものではない。
「とりあえず、下を確認します。モエミさん、姫をお願いする」
さすが男子というべきところか、最初に気を取り直したのはホーク。
階段を駆け下る。
「どうしましょうか。外に避難されますか」
「そうね・・・原因は城の外だろうし」
モエミは姫を連れ立って、4階のベランダへ出る。
すると、遥か遠く・・・白壁の付近で巨大な炎が立ち上がっているのが見える。
「あ、あれって・・・」
モエミの言葉に答えず、形のよい口をパクパクさせる姫。
「姫?」
モエミが心配する。
姫はベランダの端っこに駆け寄る。
「フェニックスちゃん。それはまずいわよ、それは・・・」
巨大な炎は、8方向に存在する、地上から白壁を伝って、天井部へと至る巨大木群の根元のい一部を包み込もうとしていた。
ズズン。
また1本の巨大木が自重を支えきれなくなったのか、壁からずれて地上に突き刺さる。
突き刺さるだけならよいが、倒れる方向に城があった場合は・・・。
上部は暗くて見えないが、絡み合っている部分もあるので、どこかで持ちこたえているのかしれない。
あの木々が万が一でもまっすぐにこちらに倒れてきたらどうなるのだろうか。
「姫!」
姫に駆け寄るモエミ。
「あれだけの火を操れるとしたら」
「そうよ、フェニックスに違いないわ・・・急いで、止めなきゃね」
姫はベランダをつかんだまま、魔法を行使し始めた。
■
「だ、誰か助けて・・・」
「きゃははは・・・誰も聞いてないよ!」
城が揺れるたびに、ミノムシのロープも揺れる。
とても怖い。
とても不安。
身動きのとれないルナとヒナは、一生懸命呼びかけるが、みんなパニックで気づかない。
「もう、メロン盗みませんから、誰か・・・」
「きゃははは・・・だから誰も聞いてないって」
放置されるルナとヒナだった。
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