後編 その27 喪失
明日の分も含めて一括で投稿します。
「や、やめろよ」
「は? 何? はは、今さら何言ってんの?」
ウルフは高笑い。
「やめろよ!」
ハルキの叫びに傲慢に叫び返すウルフ。
「やめねぇよ! もう、どうでもいいんだよ。ゲームもない。テレビもない。お菓子も食えない。姐さんがいたから、楽しくやってきたが、もう限界だ! こんな世界どうでもいいんだよ! だいたい、親も警察も先生もいねぇじゃねえか! 何やっても捕まんねぇんだよ!」
黒ウサギたちはピクリともしない。
ウサミンはおぼれている。
クロミンは動かなくなった。
「やめろって言ってんだろ!」
ハルキが言葉にのせて放ったのは、その思いなのか。
何かの力は、ウサミンとクロミンと水球から解放し、シバッチとグレイを押さえつけていた砂岩を、単なる砂へと変えた。
本来、ここは砂地。
魔法が解ければ砂に戻る。
「・・・いったい何をした」
自信を持っている水の魔法をあっさり解除され、茫然とするウルフ。
「え・・・今、なにか・・・」
クロウは器用にも片目だけ釣り上げて驚いている。
何かの波動がケモミミたちを開放したときに、一瞬、ケモミミたちの姿がぶれたような気がしたが、意味不明の波動のせいなのか。
「気のせい?・・・魔法が解除されたのか・・・しかし、そんなにすごい魔力を放ったわけでは」
クロウは、魔法が解けてしまった理由を考える。
クロウの理解だと、魔法陣や継続中の魔法を破壊する唯一の方法は、膨大な魔力をもって、魔力を吹き飛ばすというもの。しかし、それでは今の状況は説明がつかない。
クロウの思案を他所に、ハルキは動かなくなった黒ウサギをそっと地面に降ろすと立ち上がる。
「・・・いったい何をしただって? それは、こっちのせりふだ。いったい何をした・・・」
「・・・はぁ?」
ハルキのつぶやきに似た言葉に反応し、自分を取り戻すウルフ。
そういう性格なのか、立ち直りがとても早い。
「もしかして、その黒ウサギのことか? そんなウサギの1匹や2匹・・・」
「ウサギは「匹」じゃない。「羽」だ!」
「・・・なにを」
ハルキの言っている意味がわからないウルフは、お前分かるかと言わんばかりにクロウに目を移す。しかし、クロウはいつものヤレヤレポーズ。
ハルキはその様子を見ると、討論を止めて、地面に手をあてて魔法を発動させる。
魔法を警戒しながら、いつもの自分の距離を取るウフル。
「へへ、実力行使かよ? そうこなくっちゃ! 手を土にあてるってことは、それ泥沼の魔法だろ? 俺を相手に、その魔法を選ぶってバカじゃね? その魔法、水の制御も必要なんだぜ?」
ウルフは、変な波動と自信のあった魔法の解除に少し驚いていたものの、ハルキが魔法での真向勝負にきたことで、再び自分のペースとばかりに、手元に水を集める。
泥沼の魔法は、土と水で底なし沼のようなものを相手の足元などに作り、相手の動きを制限する魔法。
相手をあまり傷付けずに、相手の動きを封じるには適切な選択肢の一つ。
しかし、土だけでなく、水もなければ、適切に発動しない。
「ははは、水なら・・・」
ウルフの絶対の自信と相反し、ずぶずぶと沈んでいく両足。
ウルフは土の魔法は苦手。
直接的には土を操れない。
「ば、馬鹿な」
ウルフは慌てて足をジタバタさせて足場を探すが、どちらに動いても、ズブズブと沈んでいく。
「これだけ水を集めたら、普通、泥沼とか無理・・・」
確かにウルフの手の周りにはかなりの水量の水球ができている。
そして、足元の砂地はウルフによって、むしろ乾燥している。
過去の試合では、この方法で、何度も泥沼の魔法を打ち破っている。
しかし、あっというまに体は胸まで埋まる。
思わず、ウルフは水を集めるのをやめ、体が沈まないように、両手でジタバタして、何かにしがみつこうとする。
ウルフの解除した水にぬれた砂が、一瞬、足場のようになり、それにしがみつこうとするが、それも、すぐにぐずぐずに崩れ出す。
体の沈降は収まらず、ウルフが両肩まで沈んだところで、ハルキは魔法陣を解いた。
一瞬で、固くなった砂から逃れられないウルフ。
「い、いったい・・・」
「これは泥沼じゃないです。流砂です」
「流砂? そんな魔法・・・」
「高圧の空気を、あなたの下に送り込んだだけです」
土の魔法が苦手なウルフには脱出の術はない。
静かに歩みよるハルキ。
腕だけでも砂の中から出そうともがくウルフ。
しかし、へんな格好で埋まったためか、腕にうまく力が入らずに、腕さえも中々出せない。
ハルキは、ウルフの前に膝立ちになると、右腕を降り抜く。
バチン!
ウルフの顔が弾ける。
「ぶへっ・・・や、やめ」
バチン!
ハルキの左手が降り抜かれ、再度、顔が弾ける。
「た、たの」
「おい、そこまでだ!」
走り寄ったクロウが、後ろからハルキの服の襟に手をかけて、ハルキをウルフから引き離す。
「やめとけ、ここは痛み分けっていう・・・」
「お前もか?」
ハルキの雰囲気に、ゾクリと鳥肌がたったクロウは手を離してしまう。
「だから・・・」
「お前もだな」
容赦なく何かの魔法を放とうとするハルキに危険を感じ、距離をとるクロウ。
「いや、吾輩はやりすぎないように注意をだな・・・」
「これが、やりすぎでないと・・・」
シバッチとグレイはようやく砂山から脱出したようだ。
うつぶせに倒れていたフォックは、ウサミンが水を吐かせていた。とても辛そうだ。
クロミンは、ずぶ濡れのままぐったりと座り込んでいる。
その惨状に言葉につまるクロウ。
「あ、いや・・・俺はだな・・・ま、ケモミミ風情に何を・・・」
「傍観者は偽善者、・・・そして共犯者だ・・・」
ハルキの静かな怒りに思わず怯み、防御のために、咄嗟に土の壁を作り上げるクロウ。
しかしながら、土の壁は、一瞬にして砂に還る。
「ひっ」
その光景に恐怖を覚えたクロウは、続いて攻撃魔法を放つ。
土弾がかなりのスピードでハルキを襲う。
しかしハルキに届く前に砂に還り、中空に模様を描くに留まる。
「そんな・・・」
砂をしっかりと魔法で固めたものを、続けていくつも放つが、ハルキに届きもしない。
ゆっくりとクロウに歩み寄るハルキ。
「仕方なし!」
クロウは火の魔法に切り替える。
火の魔法は、簡単に相手をやけどにしてしまう。
クロウは今日はもちろんのこと、試合以外では、対人用として使ったことはない。
火弾が、いくつもハルキを襲う。
しかし、ハルキから半径5mまでくると、いずれも掻き消える。
まるで、ハルキは半径5mの円形のガラスの玉の中にいるようだ。
「え、何故・・・」
クロウの疑問をよそに、ハルキがクロウに向かって飛び出す。
思わず、後方にジャンプの魔法で逃げるクロウ。
しかし、ジャンプするところまではよかったが、着地をするための、衝撃吸収の魔法がなぜか動かない。
本来であれば、前をむいたまま、後ろに華麗にジャンプし、そのまま着地するはずが、無様にその勢いのまま、着地を失敗し、後ろ方向に転がってしまう。
ころがって、立ち上がる前に、腹に強い衝撃を受ける。
それはハルキの拳。
「うげぇぇぇぇ!」
痛みもそうだが、無防備な腹に一撃をくらったクロウは呼吸さえもできない。
目を白黒させながら、土の上をのたうちまわっていると、クロウの耳に、バチン、バチンという規則正しい音が聞こえ出す。
それが、再度、ハルキがウルフを殴打している音だと、理解するのに暫くかかる。
「や・・・めろ・・・」
何とか声を絞り出すクロウ。
「やめろって、何を」
ハルキが振り向いて怪訝な顔で聞き返す。
「・・・だ、だから、殴る・・・の・・・を」
「何で?」
「何でって・・・」
クロウが言葉に詰まると、再び作業のように殴打を始めるハルキ。
ウルフをどうにか片手を砂の中から引っ張りだして、防ごうとしているが、無駄なあがき。
「そ、それ以上やったら死んでしまうぞ!」
呼吸が戻ったクロウは、ようやく叫ぶ。
「え?」
再びハルキが振り向く。
「死んだらダメなの?」
「・・・そりゃそうだよ! 殺しちゃうんだよ? ダメにきまってる!」
ハルキは怪訝な顔で、動かなくなった黒ウサギを指さす。
「殺したじゃん」
「え・・・それは、ウサギで・・・」
クロウが言葉に詰まると、再び作業のように殴打を始めるハルキ。
クロウは、ハルキが自分の言葉に対して、回答をしているときは、殴打をやめることに気が付く。
なんとか、少しでも殴打をさせないために、気を引こうとする。
「そいつは、俺の友達なんだ、頼むから勘弁してくれよ!」
再びハルキが振り向く。
ハルキは怪訝な顔で、再び動かなくなった黒ウサギを指さす。
「友達・・・いや、師匠だった。俺は師匠を殺されたのに、俺は殺したらダメなの?」
「え、いや、人間とウサギだろ!」
「違う! 俺の師匠だ!」
「それは・・・」
言葉が続けられなくクロウ。
魔法でなんとか牽制しようとするが、なぜか、体の中の魔力を制御できず、魔法陣を作ることができない。
魔法陣を描こうとしても、壊れた蛇口のように、体から魔力が漏れ出るだけで、全く言うことを聞いてくれない。
「まずい。まずいぞ・・・」
クロウが絶望に震えたところに現れたのは、ベア。
「いったい・・・何があったね・・・」
ベアに対しては礼儀を守るつもりなのか、手を止めて立ち上がるハルキ。
「あ・・・ベアさん・・・こいつが、俺の師匠を殺したんです。だから、やりかえしてるところです」
ハルキは冷静な口調で恐ろしいことを言うと、殴打を再開しようとする。
「おおっと、ハルキくん、やめなさい」
「うるさい!」
ベアが制止しようと飛びだすが、ハルキが一括する。
何かの波動を感じ、両手で防ぐ。
何もおこらなかったかと思いきや、着ているTシャツがバラバラになろうとしていることに気づく。
ベアの本職は工作であり、服飾ではない。
しかし、自分で好きな服を着たいタイプのベアは、魔法で服のデザインを変えて着ていた。
服飾に強いスワンなら、生地から魔法で仕立て、服を作り上げられるが、好きな割には苦手だったベアは、見かけを中心に、その都度、魔法をかけていた。
その魔法が、ことごとく破壊されている。
「いったい・・・何が・・・」
疑問を口にしながらも、ウルフの様子を見かねて、実力行使を行うベア。
「やらせて下さい! あいつが! あいつが師匠!」
当然、逆らうハルキ。
「ちょ、ちょっと、落ち着こうね」
ベアが驚きながらも、体格差によりハルキを羽交い絞めにしていると、次に現れたのはモエミだった。
ハルキの治療のおかげか、しっかりとした歩調で歩み寄る。
病み上がりのためか、元々白い肌の色が一層白く感じる。
「ハルキ」
モエミは静かに、優しく話しかける。
「姉ちゃん・・・」
ハルキがベアの腕の中で暴れるのをやめる。
みるみる内に顔がゆがむ。
「ハルキ」
再び、話しかけ、ゆっくりと歩み寄ると、羽交い絞めをされていたハルキを受け取り、抱きしめる。
「あのね、姉ちゃん、ウサギ師匠がね・・・」
「大変だったね・・・」
ハルキは泣きだす。
モエミは泣きじゃくるハルキをしっかりと抱くと、周囲を見回す。
言葉はないが、理解したベアとケモミミたちは、動かなくなった黒ウサギたちを丁重に抱えると、モエミの周りに集まる。
「とりあえず、座ろうか? あっちに行こう」
ハルキが落ち着いたのを見計らってモエミが、ハルキを連れて、小屋のほうに移動していく。
ベアとケモミミたちは、黒ウサギたちを丁重に扱いながら、モエミとハルキについていく。
小屋の中に入ってしまったのを見届けて動き出したのはクロウ。
「ちっ、放置か・・・でも、とりあえず助かった」
クロウは、誰にも見られていないことを確認すると、ウルフを助けに動く。
「おい、大丈夫か・・・」
顔の形がかわったウルフに話しかけるクロウ。
「だ・・・大丈夫じゃねぇよ・・・」
弱弱しく答えるウルフ。
「今、出してやるからまてよ・・・」
クロウは一撃、腹に食らっただけなので、身体的には回復しつつある。
さっきまでおかしかった魔力もだんだんと元に戻りつつある。
クロウが、なんとか魔法を制御してウルフを助け出すと、そこに静かに上方から降り立つ気配。
神々しいほど美しい。
「えっと、手出しは無料っていったよね・・・ん? 無用かな・・・」
「・・・あ、え、これは・・・」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
のほほんと話しかける口調と対照的に、恐怖で怯える回答しか出せない。
その美しさはすでに人ではない、何か。
加えてその持ちうる絶対的な魔力の波動の前にさらされる2人には、これから起こることが容易に想像できた。
「えっと、罰だねぇ、これは」
「あの・・・ゆる・・・」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
恐怖で言葉にならない。
「そっかぁ、この2人でもあっさりかぁ、モエミちゃん、強いね!」
「ちが・・・は・・・」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
とても複雑で強力な魔法陣が中空に描かれた。
見方によっては、魔法陣を描いた者に似て、芸術的ともいえた。
◆
木漏れ日の下で、ハルキがちょこんと、木の椅子に座っている。
落下物小屋と畑の間に残る、わずかな林の間に作られたスペース。
ケモミミたちが、内緒でおやつやフルーツを食べる場所らしい。
落下物小屋、畑、道、そのいずれからも直接見えない内緒の場所。
「はい、これ」
モエミが3個の魔石をハルキに手渡した。
「ハルキが持っているのが一番だと思うよ」
「・・・うん」
3羽のウサギを埋葬するときに、モエミが取っておいたものだ。
魔物である角ウサギの魔石は、その角。
解体して、食料や衣類にするようなことをハルキが了承するはずもなく、モエミは、最初から、埋葬することを提案したが、角だけははずしておいた。
「魔石って、いろいろ使えるみたいだから、それで何か・・・そう、コーレムみたいなものを作ったら? そうね・・・ウサギ型のゴーレムとかは?」
「ウサギ型のゴーレム・・・」
ハルキの思考が、悲しみから将来のことへと、ちょっぴり移動したことに満足するモエミ。
3羽の黒ウサギは既に死んでいた。
一応、治癒の魔法をハルキが納得するまで使ってみたが、残念ながら変化がなかった。
ようやく黒ウサギの死をハルキに受け入れさせ、埋葬して、お墓を作ることで納得させたモエミ。
話によると、モエミの家系は生き物の死にめっぽう弱い。
父に犬を飼いたいとせがんだ時の回答は「俺より先に死ぬからダメ」というものだ。
本来、子供に言うべき理由ではないだろう。
それはともかくとして、ようやくハルキが落ち着く。
しかし、ケモミミたちやベアにお願いして、ハルキが落ち着くまで、ちょっと離れていたのが災いする。
静かに上方から降り立つ気配。
「えっと、じゃ、帰ろっか、モエミちゃん」
それは天使の姿をした姫。
悔しいが何を着ても美しい。
このままCMで使えそうなクオリティ。
芸能プロダクションも、この美女をスカウトせずにいたということは、その情報収集力は、たいしたことないのではないかと思ってしまう。
「城へ、ですね?」
姫の美しさに、あっちに行ってしまった思考を取り戻すために、会話を引き延ばすモエミ。
「もちろんよ」
妖艶に微笑む姫。
「では、お咎めなしということで、よろしいのでしょうか?」
ふわりと着地し、天使のくせに、小悪魔のようにかわいく、1回転すると、また微笑んで答える。
「えっと、お咎めって何?」
決してもったいぶったわけではなく、言葉がわからなかったらしい。
「・・・怒ってないってことですか?」
「えっと、何も怒るようなことはないわよ。でも、今度から見たいものがあるなら、どうどうと言いなさいね」
「・・・はい」
「えっと、それに、見ちゃったなら、わかるよね?」
「・・・」
答えられないモエミ。
「あの子たちをどうするのかは、結局、私がどうにかしないと、どうにもならないってことがね!」
二パッと笑いながら、その内容は恫喝。
「城に・・・戻ります・・・いえ、戻らさせてください」
大きくうなずく姫。
「ものわかりがいい子は大好きよ!」
そう言って、姫は両手を広げてモエミとハルキを抱きしめた。
翌朝、クロウとウルフが、この世界から元の世界へ帰ってしまったことが発表された。
お読みいただきありがとうございます。
ブクマや評価をいただければ嬉しいです。
子供に寝物語に作ったお話を書いているだけですが、
励みになります。




