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ハルキ、魔法の試合を観戦する

「ただいまから部屋入れ替え戦の1日目を開催します。各自、おやつタイムの準備を手伝いながら、グラウンドの前に集合してください」


 スワンさんの声で放送がかかる。

 お勉強タイムが終了すると、おやつタイムらしいが、その前に聞き捨てならない単語を聞いたような気がする。


「なぁ、ジョー、部屋入れ替え戦って何だ?」

「あぁ、2階から4階に移ることができるようになるってことだ。いつも、新人が来てから10日後に開かれる。ここ数カ月は新人が来なかったから久しぶりなんだぜ。とにかく、手伝わなきゃ。いくぞ」


 1階まで階段でおりる。クッキーの焼ける匂いがする。


「俺らがクッキー運ぶから、コップを頼む」

 言われたとおり、コップを持ち、みんなについて外に出る。

 姫がニコニコしながら待っている。ケモミミも含めてほぼ全員が集合している様子。モエミをさがすと、ちびっ子達にすっかりなつかれている様子で、片手で一人をだっこ、もう片手で他の子の手を繋いでいた。すぐ横で「わたしもだっこー」と要求されているのが聞こえてくる。苦笑で「順番よー」と答えている。お外モードだ。


「えっと、いいかなー、サイコロ降るよー。まずステージから……」


 姫が抱えていた巨大なサイコロを振る。

「3だからここね。次に……」


 転がっていったサイコロをコーレムがおっかけ、姫のもとにサイコロを届ける。仕草がかわいい。


「うふぇっ! かわゆす!」

「ねぇちゃん、素が出てるよ!」


 近くでモエミの病気が発症しているのに気づき、小声でハルキがたしなめる。


「今日は男の子組にするねー、えいっと2だからタイガー君ね」

「おす」


 再びコーレムがサイコロをおっかけ、姫のもとに持ってくる。


「じゃ、相手を選ぶよー、もう一回2なら私と戦うのよー」


 サイコロの目は1。コーレムがトテトテ。


「ほ、ほすぃ!」

「ねぇちゃん、ばれるよ!」


 再びハルキがたしなめる。こっちに来てから、若干ガードが緩いようだ。


「えーっと、男の子組1番手と2番手の戦いね。リーダー争いね。では準備よー」


 土魔法なのだろう、中級者組が簡単なテーブルや椅子を作る。運んできたクッキーと水差しが置かれる。姫の椅子だけ少し豪華風に作られる。土には変わりないが、王様の椅子風だ。コーレムが両手を挙げてお盆を支え、姫の横で臨時のテーブルになる。

 子供用に土で作られたテーブルも椅子も表面は乾燥しており、手についたりすることはない。

 おやつの用意をしている間、選ばれた二人は準備運動を行い、みんなから25メートルくらい離れる。


「えっと、サイコロだろ? 6が出たらどうなるんですか?」

「6なら、相手を自由に選べるということになってる」

「最初に6なら?」

「もう1回振る」

「へぇー」


 もう、おやつを食べている子供がいる。


「準備はいいかなー。防具着てないけど、防具なしルールでよいのー?」


 姫が大きな声を出すと、遠くでうんうんと2人が頷く。


「はーい、えーっと、では、フェニックス、あとよろしくー。一応、久しぶりだから、入れ替え戦のルールも説明してねー」


 姫の無茶ぶりにフェニックスが応える。


「えー、片方が降参するか、私が止めるまで。相手に大けがをさせるような魔法は禁止。入れ替え戦は、いつもどおり部屋番号が最初の手持ちポイント。勝ったら1ポイントマイナス、負けたら1ポイントプラス。入れ替え戦の最終日にポイントの低い子から部屋番号を振り直します。部屋番号4と5になっちゃった子は、2階の子と入れ替わる可能性があるからがんばってねー。それでは始めまーす!」


 どこから持ってきたのか、フェニックスが手元の鐘を鳴らす。


「カーン」


 2人はそれぞれ少し距離をとった。目立った動きを先にしたのはタイガーだった。身を土の全身鎧で覆い、さらに土で巨大なハンマーも作りだしていた。


「すっげぇ、魔法の戦い!」

「タイガー先輩のフルアーマーだ。かっけー!」

「フルアーマータイガーだ!」

「変身した!?」


 かなりファンタジーっぽい。

 ホークも何やら準備しているようだが、目立った変化や魔法の効果は見えてこない。


「おぉ、すっげぇぞ、あんまりないカードだぞ」

「そうそう、ホーク先輩、初心者コースでいつも教えているから、なかなか戦っているところを見られないから、今日はラッキーだな」


 それぞれが事前準備を終えたのだろう。若干の睨み合いを経て、


「参る」


 タイガーが小さく鋭く言葉を発し、ハンマーを振りかぶりホークに突っ込んだ。

 スピードは大したことがないが、迫力がある。ドシ、ドシといった感じの突進。


「おぉぉぉぉぉぉ!」


 タイガーが雄たけびをあげる。ホークまであと5メートル程度に迫ったところで、ホーク側からの動きがあったのが見える。地面に露出していた石が、タイガーに向けて次々に飛んでいく。5個までは目視で確認できた。タイガーは突進したまま、顔に当たりそうな石だけ左手で弾く。突進は止まらない。しかし、一瞬、体が開く。

 その開いた体に向かって、次は地面から円い柱のようなものが斜めに飛び出す。

 見えていたようで、タイガーは右手のハンマーを振り下ろし、土柱を粉砕する。タイガーは、さらに若干減速。

 続いて、2人の間に土の壁が出現する。1つではない。タイガーを囲むように、3枚だ。正面の土壁をタックルで破壊しようとするタイガー。しかし、遠くから見ていると、土の壁に隠れ、ホークが移動するのがわかる。

 さらに土壁が出現、タイガーはホークを見失なったようであるが、とりあえず土壁を破壊しはじめる。後ろにいると思われるホークごと薙ぎ払うつもりのようだ。


「うぉぉぉぉぉぉぉ」


 ドコン、ドカン、ガコン。

 タイガーは破壊するが、土壁が増えるスピードの方が速い。

 タイガーの360度を土壁で囲むと。隠れて移動しながら、ホークは上のほうから氷の弾をタイガーに打ち込む。防戦一方になるタイガー。しかしながら、一応すべてを弾く。ダメージは無さそうである。


「こんなんじゃ、俺にダメージを与えられぬ! いざ、尋常うべしっ!」


 遠目に一瞬、タイガーの体が浮き上がる。真下からの土の柱によるアッパー。

 氷の弾に注意を向けていた最中の真下からの攻撃は、タイガーの意識を一瞬刈り取り、タイガーは倒れる。


「はーい、そこまでー! 勝者ホーク」


 フェニックスさんが宣言する。


「ホーク先輩、早いっす」

「タイガー先輩のパワーすげー」

「ホークさんの魔法は多彩だね」

「土魔法をメインにしつつ、タイガー先輩を破るって……」


 ギャラリーが口々に感想を述べていると、ホークがタイガーに手を貸して立ち上がらせ、2人でこちらに向かって来た。


「さすがホークリーダー。完敗です」

「タイガーの魔法はすばらしいが、相手も君に合わせて接近戦をしてくれるとは限らないからないからな。今日のような事態にも対応できるように、考えておいたほうがいい」

「わかりました。肝に命じ、精進いたします」

「では女の子組の試合に移りまーす。姫、サイコロを」

「はーい。てい!」


 2。コーレムがサイコロを回収する。


「2だからオウルね。では、てい!」


 5。コーレムがトコトコと拾いにいく。


「5はスパローかだね。よろしくー」

「対戦が決定しました。オウルとスパローは準備をお願いしまーす」


 フェニックスが引き続き、司会進行をする。オウルは自分の数字が出ると、静かに歩いていった。スパローは心構えができていなかったようで、「え!? あたし? あたし?」といいながら、しぶしぶ歩いて行く。ギャラリーから声援がある。オウルは上級生からの声援が多く、スパローは獣人や下級生に人気があるようだ。

 オウルの方が身長が低いが、落ち着いており、なんとなく威圧感を感じられる。一方のスパローは、すこし挙動不審。


「手加減してよね? ね?」


 遠く離れていてもスパローの懇願が聞こえる。


「スパロー大丈夫? 防具着る?」

「えー、オウルちゃん着る? ……着ないよね……わたしもいいや。このままでやりまーす」

「では、はじめちゃうよ? よーい」


 カーンと鐘を鳴らす。

 動きがない。一陣の風が吹く。静かだ。


「えっと、睨み合いですか?」

「違うぞ、ちゃんと始まってるぞ」


 よく見ると確かに二人とも何かつぶやいている様子。

 しばらくするとオウルのまわりにキラキラした氷がいくつも現れる。くるくると回りながらだんだんと大きくなる。


「てい! てい!」


 スパローが何かを一生懸命しようとしている様子であるが、土が少し盛り上がるだけ。


「え、なんでだろ、スパローさんが土魔法を使えない」

「ほんとだ、なんで」

「地面がなんか変」

「地面、凍ってるよ」

「オウルさん、すごいね。土魔法を封じたね」


 周りが勝手に分析をしてくれる。

 さらに大きくなる氷。凶悪に回転数が上がる。


「てい!」


 スパローが直接土に触れる。土の壁がスパローを守るように形成される。

 ビュン。ビュン。

 内2発が、発射され、高速回転しながら、土の壁に突き刺さる。

 ガコン。

 土壁。粉砕。


「て、てい!」


 土壁出現。

 さらに、2発が発射される。

 土壁が破壊されるが、次はスムーズに土壁が形成される。


「あたしは、毎日、土にさわっているのよぉ!」


 スパローからの反撃開始。小石がオウルに飛んでいく。

 いつの間にか準備されていた氷の板が、小石を弾く。

 応酬が続く。ここだけ見ていると大変いい勝負のようであるが、遠方から見ていると、オウルの企みが明らか。

 頭上の不穏な気配に気づくスパロー。


「ま、ま、まいった!」


 スパローが気が付いて降参。スパローの頭上には、巨大な氷が準備されていた。落ちてきたら無事ではないサイズ。


「あー……」

「早くない?」

「残念」

「今からだろ?」

「いや、観察力が足りないね。干渉力で既に勝負がついていたのだ!」


 ギャラリーが口々に囃し立てる。


「試合は今日はこれで終わりだから、試合やっていた所に行ってみようか」

「う、うん」


 ホークがハルキに声をかける。

 途中、試合の終わった2人とすれ違う。スパローは明らかに疲れた顔をしている。オウルは平気な顔をしているようである。


「オウル、スパロー、お疲れ」

「どーやー」

「いやいや、どうも」


 オウルは眼鏡の下でドヤ顔だった。ちょっと性格が読めない。

 試合の行われていた場所にたどり着く。寒い。地面が凍っていた。


「すごいだろ」


 ハルキが振り向くとホークが立っていた。


「スパローは土魔法が得意だから、当然、土を使った魔法を使う。オウルはそれを考えて、土の中の水分を凍らせたんだ」

「凍らせたから、土に魔法がかかりにくかったってことですか」

「それに近い。多分、その前に、空気を冷やして、水滴を作り地面を覆った。その水滴を凍らせたのだろう。水分を多くふくむことによって、オウルの地面を変化させないという力がスパローの地面を変化させようという力に勝ったということだな」

「なるほどです。奥が深いです」

「そうだろ。ドーンとか、ドカーンじゃだめだ。相手の魔法をギュッと抑え込むとか、正面からではなく、スッとしてビュッとかも大事だ」

「えっと……はい」


 すごい分析だと思ったが、最後はやっぱりホークだった。


「えっと、今日はこれでおしまーい。また明日ねー」


 遠くて姫が終わりを告げていた。


「はーい、では当番さんは晩御飯の準備よー。当番じゃない子は掃除ねー」


 フェニックスの声で解散となる。


「掃除ってどこを掃除すればいいんだろ」


 ハルキは姉を捜すと、先に田沼を見つけた。青い顔をしている。その横に姉もいた。


「私、どうしよう。戦うなんてできない……」


 田沼が必死に困り顔の姉に訴えていた。


ご覧いただきありがとうございます

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