後編 その26 襲来
「ハルキくん、みーつけた!」
笑うウルフ。
固まるハルキ。
「うべしっ!」
一瞬の緊迫の後、世紀末のような言葉を残して、ウルフが黒い塊に吹っ飛ばされる。
「あ」
つられるようにドアに駆け寄り、外を望む。
そこには、うずくまり、倒れ伏し、抵抗するケモミミたちと黒ウサギがいた。
ウサミンが片足を引き釣りながら、駆け寄る。
どうやら、位置から察するに、先ほど壁に激突したのはウサミンのようだ。
「ハ、ハルキさん、モ、モエミさんを連れて、は、早くお逃げください」
ウサミンはそう言うが、ダメージが大きいようで、言葉もたどたどしい。
「・・・なんでこんなことに・・・」
ハルキは驚愕のあまり、立ち竦む。
「わ、わかりません。も、問答無用でした。い、急いでください」
「え、あ、でも・・・」
朝のベアの話では、全くこのような事態は予想できなかった。
いったいどうなっているのだろうか。
「ウルフ、急いては事を仕損じると言うぞ」
「意味わかんねぇよ! とにかくいたぞ!」
クロウがシバッチとグレイを土の魔法で押さえつけている。
シバッチもグレイも土の魔法が苦手なのか、あるいは土に対する影響力の差か、土塊――というよりも砂でできた岩である砂岩のような岩――の下敷きになってじたばたしている。
フォックはうつぶせに倒れたまま動かない。
クロミンは円形の水球の中でおぼれようとしている。これはウルフの仕業だろう。
逃げろと言ってくれているウサミンもずぶ濡れで、ボロボロだ。
「これって・・・もしかして、僕たちを逃がすための時間稼ぎを・・・」
「す、すみません、じ、時間稼ぎというほど、じ、時間を稼げていません。と、とにかく早く」
「うっせぇ! 黙れ!」
「きゃん!」
水弾がウサミンに命中する。
黒い3連星の攻撃を避けながら、狙ったのだ。
痛そうにうずくまるウサミン。
「え、あ」
ハルキはどうしたらいいのか、判断できない。
「ちょっと、やりすぎでは?」
「お前もうっせぇ!」
クロウはウルフを一応はなだめようとしているようである。
そのウルフの前には黒ウサギが3匹陣取る。
3匹の位置取りを見れば、ハルキの方へ行かせないようにしていることは明白。
「師匠!」
ハルキの呼びかけに、一番、体の大きいガイアがちらっとだけ振り向いた。
そして3匹がそろって、片耳だけを振る。
まるで、さっさと行けといわんばかりだ。
「し、師匠、おれは・・・」
ウルフはクロウの声にも耳を傾けず、猪突猛進で黒ウサギに襲い掛かる。
「くっそう、ちょこまかと・・・何が黒い3連星だよ! お前ら逃げる方が専門だろ? そもそも軽いんだよ!」
ウサミンに手を貸しつつ、黒ウサギの攻防を見守る。
一見、黒ウサギが若干、有利のような気もする。
しかし、その均衡は、一瞬で、それもただの一撃で崩れる。
バチン!
すさまじい音がしたかと思うと、1羽が吹っ飛ぶ。
ガイアの攻撃に対して、ウルフのカウンターパンチが決まった音だ。
攻撃時に水の質量を上乗せするウルフのパンチは、ウサギの体重を超えていたかもしれない。
「お前ら、とっとと逃げりぁいいのに、何、歯向かってきてんの?」
残った2羽が、引き続きウルフをハルキの方へ行かせないように攻撃を続けるが、単純に手数が3分の2になった黒ウサギの攻撃は、最初よりも簡単によけられてしまう。
「やめ・・・」
明らかにカウンターが狙われている。
ハルキが止めに入ろうとするが間に合わない。
バチン!
もう1羽が吹っ飛ぶ。
生半可な当たり方をしていない。
着地ができず、そのままゴロゴロと転がっていく。
「へっへっへ! これだけ体格差があるんだ、負けるわけがないぜ!」
そういうと、今度はカウンターを放たず、黒ウサギの攻撃を正面から受ける。
ぶち当たった黒ウサギは、当たり負けをし、軽く脳震盪でも起こしたのか、よろよろとふらつく。
そこにウルフ渾身のパンチ。
ハルキの真横の小屋の壁に、黒ウサギが、受け身なしでぶち当たる。
「はっはっは! ひゃっはぁー! 黒い3連星は俺が倒してやったぜ!」
思わず駆けよるハルキ。
黒ウサギは、一瞬だけ、申し訳なさそうにハルキに目を向けると、そのまま動かなくなる。
ハルキにはその目が「すまねぇ」と言っていたような気がした。
「え?・・・師匠・・・師匠! そんな・・・師匠が・・・死んでないよね? 師匠!」
関係なく歩き寄るウルフとハルキとの間に、足を引きづりながら、割って入るウサミン。
「も、元は、私たちの不躾なお願いが原因です。と、とにかく、お逃げください」
「ケモミミ風情がしゃらくせーんだよ!」
ウルフが放った魔法によって、ウサミンが水球に覆われる。
クロミンと同じように水球の中でおぼれさせるつもりだ。
「早く・・・逃げ・・・」
ハルキはウサミンの言葉が聞こえないのか、動かなくなった黒ウサギを抱えたまま、他の2羽を目で探す。
すぐに2羽とも見つかるが、ボロ雑巾のようになったまま、動かない。
ウルフの攻撃を受けて倒れたまま、動いていないのは明白。
「うぷっ、早く、逃げて・・・」
ウサミンがおぼれる。
ウサミンの向こうで溺れているクロミンはもう限界。
「や、やめろよ」
「は? 何? はは、今さら何言ってんの?」
「やめろよ!」
「おい、やりすぎは・・・」
一応、クロウも口では止めに入るが、もちろんウルフは聞かない。
「やめねぇよ! もう、どうでもいいんだよ。ゲームもない。テレビもない。お菓子も食えない。姐さんがいたから、なんとか楽しくやってきたが、もう限界だ! こんな世界どうでもいいんだよ! だいたい、親も警察も先生もいねぇじゃねえか! 何やっても捕まんねぇんだよ!」
ウルフの本音が吐露される。
偽りの世界の限界。
一見、穏やかで、緑に覆われた楽園のような世界に、破たんが迫っている兆候なのか。
「やれやれ」
両手を空に向けて、ヤレヤレのポーズをとるクロウ。
「うーん、まずいねぇ、僕のせいじゃじゃないよね? もう止まんなさそうだねぇ・・・これって、怒られそうだよねぇ・・・」
クロウの独り言は、もちろん、誰も聞いていない。
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