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後編 その24 転身

 ひたひたと土の上を歩む音。


「誰?」


 問いたださずには、いられない。

 問いただしたからといっても、なにも解決にはなっていない。

 でも聞かずにいられない。


 靴を履いた時に生ずる音でもない。

 でも黒ウサギでもない。

 黒ウサギたちは、ほぼ無音。

 だが聞いたことのある音。

 それは・・・


「おはようございます」


 ウサミンが顔を出した。


「おはようございます」


 挨拶をきちんと挨拶で返すハルキ。

 挨拶は人間の基本であり、勉強ができなくても、挨拶はできないといけないという家庭の教えが叩き込まれている。


「あの・・・」


 ウサミンはもう涙ぐんでいる。


「私たちが相談したばかりに・・・こんなことになってしまって・・・すみません」

「あ、いや・・・」


 ゲームのクエスト攻略をエサにされて手伝ったとはとても言えない空気。


「城は、どんな感じです?」


 話をごまかそうと、聞きにまわるハルキ。


「まだ早朝で・・・とりあえず、騒ぎにはなっていません。朝食の時に何らかの動きがあるかと・・・」

「どうしてここが?」


 捜索が開始されるなら、警戒しなければならないと考えるハルキ。

 容易に居場所が発見された原因を聞くのは仕方がなかろう。


「はい。私たち、ケモミンは、きっと私たちのお願いのせいで、お二方に無理をさせたのだと思いまして、こっそりと、夜通し捜索をさせていただきました。すると、森の入口の雪だまりに足跡を発見し、鼻のよいものに、匂いを追跡させました」

「あ・・・匂い・・・動物みたい」

「動物です。その動物の特性を付与されています」

「そうか、では、ケモミンズが協力しなければ発見されないかな・・・あ」


 ウルフとクロウに、この近くで遭遇したのを思い出すハルキ。


「しまった、ウルフとクロウに・・・」


 首を縦に振るウサミン。


「ええ、きっと、ここに来るでしょう・・・それに」


 ウサミンがモエミに近寄る。

 おでこにのせた、水にぬれた布が、モエミの現在の状況を容易に説明している。

 そっと、モエミの手を取るウサミン。


「熱・・・ですね。ここでは、水も食料もありませんし・・・薬も・・・」

「薬が手にはいるんですか?」


 思わず声が大きくなるハルキ。


「・・・ベアさんなら・・・そうですね、いっそ、落下物小屋に移動しましょう」


 落下物小屋とは、上から落ちてきたものを受け止める巨大なクモの巣状のネットの脇に建てられている小屋のことである。

 いくつもたてられており、落下物を分類して収納している。

 もちろん、使えるものは城へと運ばれる。

 モエミとハルキがこの世界に最初にやってきて、休憩をしたところだ。


「え、でも・・・」

「みなさんの捜索の対象外で、ベアさんの管理下なので、ベアさんを口説けば安心です」

「・・・ベアさんか・・・」


 金属加工でお世話になったベアさん。

 お世話になるばかりで、お返しもしていない。

 さらにお願い事を重ねても大丈夫なのだろうか。

 ハルキの不安を理解しているかのように、語るウサミン。


「ベアさんは、私たちの事情を理解していただいています。でも、工作関係の魔法が得意なベアさんは、魔法の解除のような分野は、自分ではなんともできないと悲しんでくださってます。多くのケモミミを引き取って働かせてくれてもいます。城にいると、いじめられることもありますので・・・事情を話せばわかってくれます。まだ早朝です。今のうちに小屋に移りましょう。あそこなら、飲み物や食べ物を、こっそりもって運びやすいですし・・・毛布とかもありますよ」

「そうか・・・」


 そう言われれば、モエミに水でも飲ませてやりたい。


「わかったよ。とりあえず、お言葉に甘えてさっそく移動することにしよう」


 城から雪だまり。

 そして、雪だまりからシェルター、黒ウサギの巣と居場所をかえ、今度は落下物小屋に移動することとなる。

 早朝の冷たい空気の間を、森の木々に隠れるように移動する、ウサミンとモエミを抱えたハルキ。その周りには護衛のように3羽の黒い影も付き添う。

 狭いこの世界では、あっという間に移動できてしまう。

 とりあえず、落下小屋の1つに隠れるハルキ。

 ウサミンは、ハルキを案内すると消え、すぐに水筒を持って来てくれた。


「ありがとう」


 すぐにモエミに飲ませるハルキ。


「あ、いきかえる・・・ありがとう」


 モエミもはっきりしない意識の中で礼を言う。

 チャウサがパンを持って来てくれた。

 ウサミンが連絡したのだろう。


「どうぞ、召し上がってくださいませ」

「ありがとう・・・ベアさんは?」


 チャウサとウサミンが顔を見合わせる。


「朝食後、こちらに見えられると思います」

「・・・わかった、その時に、薬をお願いしよう・・・」


 今、ハルキが取れる行動は限られている。

 1つは、このまま逃亡し続けるということ。この場合、モエミの熱が下がらなければ、これ以上、逃げようがない。

 もう1つは、あきらめて謝りに行くということ。しかし、許してもらえず、自分たちもケモミミにされるのは恐ろしい。モエミは気に入られているので、大丈夫かもしれないが、自分はどうだろう。きっとダメだ。どちらにしろ、モエミに相談したいものだ。

 さらにもう1つ方法をあげれば、このまま、巨大な木をつたって脱出を試みるという手もある。しかし、やはり、モエミが動けない。

 つまり、どうするにしても、モエミが元気にならなければ、動きようがない。

 当面の方針も何も、とりあえず、モエミの熱が下がるまでは、この小屋に隠れているのが一番良いだろうと、パンをかじりながら、結論づけるハルキ。


「姉ちゃん、パン、食べられる?」

「ありがとう・・・今は、いらない・・・」


 それを見たチャウサが心配する。


「あの、何かフルーツでも持ってきます」

「ありがとうございます。くれぐれも見つからないようにお願いします」

「はい」


 チャウサが立ち去る。

 毛布を姉にかけてやり、横に座るハルキ。

 食物を腹に入れたせいか、急に眠気が襲ってくる。


「やべ、眠い・・・魔力も回復したいし・・・そうか、治癒の魔法があった・・・少し自分も寝て、魔力を回復させたら使ってみるか・・・」


 チャウサがフルーツを持ってきたときには、ハルキはイビキをかいて寝ていた。

お読みいただきありがとうございます。

お気に入り頂ければ、ブクマや評価をいただければ嬉しいです。

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