後編 その21 発覚
「えっと、こんな夜中に何をしてるのかな?」
姫が不機嫌そうな顔で宣う。
あくびをして、目をこする。
もしかすると、不機嫌なのではなく、眠いだけなのかもしれない。
練習場の出入口から中に入ってくる姫。
「あ、え」
ハルキが何か答えようとするが言葉が見つからない。
「パオーン!」
「グァァァオ!」
「チュビチュビチュビギー!」
「ガウ! ガウ! ガウ! ガウ!」
姫の後ろは大騒ぎ。
動物たちが、それぞれの鳴き声を出している。
いままで、食事をしたときも、内緒で動物を見に来た時も、こんなことはなかった。
鳴いたところをみたこともなかった。
動物のうるささに振り向く姫。
「えっと、あなたたち、本当に言うこと聞かないわね・・・ま、しょうがないんだろうけど、お話ししたいから静かにしてくれないかな」
「グァァァ!」
「パオーン!」
「チュビチュビチュビギー!」
「ガウ!」
おさまらない動物たち。
「えっと、ちゃんと話し合うから、それならいいでしょ?」
姫が静かに、諭すように、動物たちに話しかけると、まるで姫の言葉が理解できたかのように静かになる動物たち。
動物の鳴き声が静まると、外の吹雪の音が不気味に聞こえてくる。
そこに、駆け込んできたのは、ホークとウルフ。
「姫、どうしました!」
姫を気遣うホーク。
「あ、やっぱり、あいつら! 何かしやがったんだろっ!」
ウルフは目ざとく、ハルキとモエミを見つけると、さっそく、喧嘩腰。
緊急時に、きちんと出てくるところが男の子なのだろう、フェニックスはハルキとモエミから見えない。
ハルキが、姉の様子を確認すると、モノクルは外したようだが、相変わらず顔色が悪い。おそらくは魔力の使い過ぎ。普通ならベッドで気絶しているレベルを超えている。
「姫! やっちゃいましょう!」
ウルフを身振りで制すると、姫が話を始める。
「えっと、何をしてたのかな・・・わたしから言っちゃうけどね、『神語の頸飾』か、『真見の片眼鏡』をつかったでしょ? あれは、強制的にコミュニケーションをとるための魔道具。近くにいる人の脳を勝手にスキャンして、言葉を無理やり翻訳するのよ。あの、独特の感覚、わたし、嫌いだからよく覚えてるのよね・・・」
「・・・」
無言でしか返せないハルキ。
誰もいない時間帯での侵入。
魔道具を使ったことさえばれている。
状況は最悪。
しかし、まさか、ケモミミたちがもとに戻る方法を探しに来たとは、口が裂けても言えない。
何か適切な言い訳を考えなければならない。
誰もいない深夜に、姫の研究室に侵入して、魔道具を使った言い訳・・・そんな言い訳が都合よく出てくるはずもない。
今は、モエミには頼れない。
頼れる顔色ではない。
一応、モノクルとか言っていた片眼鏡は外しているようだが、ここは自分が何とかしなければと焦るハルキ。
「どうした」
「遅参した!」
タイガーとクロウが入口に現れた。
「何を読もうとしてたのか知らないけど、きちんと・・・」
姫は、新しくやってきた2人を一瞬振り返ると、もう一度、モエミとハルキを見て、話を始めた。
「ダメです! あいつら! 俺が!」
ウルフが姫の手を振り払う。
「あ、ちょっと・・・」
「ウルフ、姫が・・・」
ウルフが魔法の発動をしようとするのがハルキにはわかる。
それを姫とホークが止めようとするのもハルキにはわかる。
しかし、ハルキには、話し合いでこの場が収まるとも思えなかった。
強引な魔法の活動を、強硬するウルフ。
それを防ぐのは簡単だが、もし多対1の戦いになった場合、モエミを安全に逃がすのは困難。
こういうときは、十六計逃げるに如かず。
ハルキは、ウルフの魔法陣を魔力の塊で破壊しながら、同時に練習室に備えられている緊急排気装置を、魔法の手で引っ張った。
かつて、モエミとハルキが電気分解をして、木に悪い気体を発生させたときに使うようにと言われていた装置。
外は吹雪。
ヴァン!
大きな音とともに、窓が一斉に解放され、室内に雪交じりの突風が吹きこむ。
すぐさま練習室内は吹雪が吹き荒れる。
「うわっ!」
「え」
「きゃ!」
全く予測されない事態に姫たちは、思わず突風から身を守る。
ハルキは、きちんと装置が動いたのを確認すると、モエミを抱えて、ジャンプの魔法で窓から飛び出した。
「あ!」
最初に反応したのはウルフ。
ウルフが、すかさず追いかけてこようと、風に逆らい、窓際に駆け寄る。
ハルキは冷静に、追手の可能性を確認すると、自分と姉に重力軽減の魔法をかける。
ただでさえ、突風であおられていたハルキとモエミは、木の葉のように風に弄ばれ、吹き飛ばされていく。
「え・・・」
ウルフは窓際で、雪風に顔をしかめながら、あっというまに見えなくなったハルキとモエミを見て、絶句していたが、我に返ると、
「お、おいかけようぜ!」
と言って飛び出そうとした。
「ダメよ! まず、窓を閉めて! 城の中がめちゃくちゃになる!」
姫が命ずる。
ウルフ以外はそれに従う。
「で、でも」
抵抗するウルフ。
姫も窓を閉じようと窓に近寄る。
その姿に不承不承、窓を閉めるウルフ。
すべての窓を閉める頃には、騒ぎを聞きつけた女の子も数人やってきていた。
「えっと、いい? モエミちゃんとハルキくんには、決して手出ししないこと。わかった?」
「でも!」
はやり抵抗するウルフ。
「いいから、私に任せなさい。言うこときかない子は・・・罰を与えるわよ」
「・・・」
納得いかない顔のウルフ。
むしろ動物たちのほうが理解したのか、動物たちはそそくさと、檻の奥へと消えていく。
しかしながら、事態を呑み込めない者が大半であることも、姫は理解していた。
「夜中だし、今日は寝なさい」
「お言葉ですが、この吹雪、大丈夫でしょうか・・・」
ホークが常識的な意見を述べる。
一つ、あくびをしてから答える姫。
「・・・えっと、あの2人なら大丈夫でしょう・・・それに、寒くて、おなかが空いてたほうが、聞き分けがよくなるものよ」
ホークは、今、姫が薄く笑ったような気がして、背筋がなぜかぞっとする。
みんなに向き直ると、一転、いつもの調子で語り掛ける姫。
「えっと、眠いから詳しい話は明日・・・今日は、解散!」
後から来た者はよくわからないまま解散させられることとなった。
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