後編 その20 侵入
時は深夜。
城はいつも通り、青い光に包まれ、幻想的な光景を見せている。
外は吹雪。
霧に合せて、姫が魔法をかけて作り出したものだ。
これにあわせて、屋上の水タンクに水を貯めたり、貯蔵庫に氷を蓄えたり、燃えるごみを燃やしたりというような作業を、みんなで行った。
姫を初めとして、みんな、魔力を枯渇させ、いつもより早くに寝静まった城内。
寝静まっていない2人。
「本当にやるの?」
「もちろんよ。みんな疲れて寝ているから、今がチャンスなのよ。特に、姫、前回も爆睡してたし」
前回の吹雪。
フェニックスが小規模な山火事を起こした際に行った。
姫は翌日も寝坊して、年少組は室内での授業がなくなり、全員でグライダーの特訓を行った。
「・・・やばいんじゃね?」
「・・・やばいだろうけど、このままではジリ貧よ・・・」
「・・・いってらっしゃい」
むんずとハルキを両頬を両手で挟み込むモエミ。
「この暗い中、お姉ちゃん、一人で行かせる気?」
「・・・知らないよ、自分が行きたいだろ」
「・・・泣くよ」
「泣けば」
「・・・魔力がもうなくてきついの」
「じゃ、やめれば」
「ケモミミちゃんたち、あのままでいいの」
「それは・・・」
人間に戻りたいと涙を目に浮かべ、必死に訴えるウサギたちを思い出すハルキ。
自分が誰だったかも定かではなく、ただ、人間であったということを、なんとなく理解しているケモミミたち。
みんなにかわいがられているように見えるが、実のところ、家来や奴隷のように、ひどい扱いをする者もいるようで、モエミやハルキの見ていないところで、いろいろ苦労があるようだった。
「・・・もう、クエスト、手伝わないからね」
「それは、今、関係ないだろ」
モエミはとあるゲームで双剣使いの上級者。
ハルキは、使っていた虫を操る武器から、弓矢系の武器に持ち替えたところであり、操作になれずに、素材集めに苦労している。
「・・・いいよ、行くよ」
「ふっふっふ、じゃ、いくわよ!」
「別にクエストにつられたわけじゃないからね」
「あ、じゃ、手伝わなくていいのね」
「・・・そこは、お願いします」
4階のハルキの部屋から忍び足で出ていくモエミとハルキ。
静寂と青光の中、静かに歩む。
誰かが起きているような音は一切しない。
階段へと進み、階段をのぼる。
吹き抜けからも、生活音は皆無。
あっさりと5階に到着する。
練習室に向かおうとする二人。
「ひぇ」
小さい声を上げるモエミ。
練習室の手前の動物園。
動物たちがモエミとハルキを見つめていた。
「・・・」
動物たちと目があるモエミとハルキ。
しかし、動物たちは不思議な事に鳴き声1つ立てずに、二人を見つめていた。
「と、通りますね」
モエミが小さな声で動物たち告げると、ハルキを促し、練習室へ。
動物たちは、ただただモエミとハルキを見つめるばかり。
居心地の悪い二人は急ぎ足となる。
もちろん、練習室には誰もいない。
「や、やばかった? 動物がいるの忘れてた」
「・・・起きてたよね?」
「・・・起きてたというより・・・見られてた・・・連絡された気配はなさそうだから、このまま調べよう」
二人は小さい声で囁きながら、奥の部屋へ。
「ハルキは日本語で書かれている書き物で、ケモミミたちのことが書いてあるものを探してみて、私、辞書的な何かがないか見てみる」
「了解」
「くれぐれも、音を出さないようにね」
「はいはい」
「はいは1回」
「・・・はい」
灯りをともさず、青い光だけを頼りに部屋を探る。
いくつかのノート。
いくつかのクリップ止めの書類。
乱雑に置かれた紙の山。
書籍のようなものはあまりない。
しばらく探す中で、モエミは、ほとんどの物品が雑に置かれている中で、大事そうにきちんといくつかの高そうなものが整頓されて置かれている机に気が付く。
この机の上だけ、なぜかきちんと展示されているように、物品が配置されている。
その中で、モノクルを手に取るモエミ。
「ほら、ハルキ、これかけると執事みたいよ」
かけてハルキのほうを向くモエミ。
ハルキは城の絵の前にいた。
「はい? なんだよ執事って」
ハルキが不機嫌そうに答えるが、モエミにはハルキが話す言葉が耳に入らない。
ごっそりと魔力を根こそぎ持っていかれる感覚。
プールの水温を上げ、魔道具に魔力を充電(充魔)し、姫の特訓を終えた。
残り少ない魔力が枯渇する。
原因が、モノクルであることは、魔力の流れからすぐに理解できる。
くらくらする頭とふらふらする足を根性で支え、モノクルを外そうと、必死で手を顔にもってこようとする。
普段、手を顔にもってくるなど、無意識に近い動作であるはずなのに、意識できなければ手が動かない。
頭をよぎるのはモノクルが罠の可能性であること。
しかし、手を顔に伸ばすあいだに、モエミはモノクル越しの映像を確認し、驚愕する。
「あ・・・」
罠ではなく、何らかの魔道具であるならば、魔力の代償があるはずだ。
それもモノクルの形状から考えると、目に見える関係。
モエミは、さっきまで読めなかった文字の意味がわかるようになったのに気が付く。
「え? 大丈夫?」
ふらふらと倒れるように、机に両手をつくモエミ。
明らかにおかしな様子に、静かに駆け寄るハルキ。
顔だけは必死に城の図面を見つめるモエミを、すばやく支える。
「無理すんなよ、魔力切れだろ? 戻ろうよ」
「・・・待って」
毎日、魔力切れになるまで魔力を使い切って寝るのがテンプレだと言って、毎日、必ず、魔力切れになるまで練習をしているので、ハルキにはモエミが魔力が切れてたのがすぐにわかった。
「あ・・・え・・・と、いうことは・・・」
「・・・大丈夫かよ・・・」
モエミの必死の様子に、体を支えるハルキ。
「わかった、わかったけど・・・魔法で、こんなことが・・・」
「姉ちゃん。わかったのなら、そろそろ・・・」
「もうちょっと・・・」
モエミの脅威の粘りに逆らえないハルキ。
すでに顔色は真っ青だ。
両手で体を支えないと、立っていられない様子。
「い、椅子をもってくるよ」
「あ、ありがとう」
ハルキが椅子を持ってくる間も顔は絵図に向けられたまま。
「まったく、無理しすぎ・・・」
「すっごい仕組みよ・・・ちょっと説明しようか・・・」
突然、部屋の外から、動物たちの激しい鳴き声が聞こえてきた。
「まずい! 長居しすぎた!」
とっさにハルキはモエミの手を取り、奥の部屋から走り出る。
動物園のほうから、花柄のパジャマ姿の女性が入ってきた。
「えっと、こんな夜中に何をしてるのかな?」
もちろん姫だった。
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