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後編 その19 察知

お読みいただきありがとうございます。

お気に入り頂ければ、ブクマや評価をいただければ嬉しいです。

「えっと、モエミちゃんに習熟してほしい魔法は、魔法の改変と木の魔法なの」

「くちゅん・・・はい」


 5階の動物園奥の練習室。

 和服の姫が指導をしてくれる。

 それも振袖。

 姫の服を見るたびに、フェニさんって天才じゃないかと思う。

 毎日違う衣装。

 それも美麗な衣装。

 美人は何を着ても美人なのだろうが、きちんと美人に釣り合う服をチョイスしている。

 フェニさんの才能は炎の魔法ではなく、ここにあるのではないだろうか。


「えっと、魔法の改変は、この世界にかかっている魔法の解除ができれば一番だけど、無理なら、私たちが通る間だけでもなんとかできないかなと思ってるの」

「くちゅん・・・はい」


 プールの温度上げと、雪避けの魔道具への魔力充電――ここは充魔かな?――で、魔力量がきびしい。

 これで今日の練習が厳しければ、魔力はすっからかんだ。うーん、まずい。


「えっと、それから、木の魔法は、私たちを上まで移動させるのに必要なの。私だけが使うより、あなたも使えるようになっていたほうがいいと思うの。木の魔法は、生きている植物に影響を与える魔法ということで、ちょっと特殊なの。でも、モエミちゃんは相性がいいみたいだから、直ぐに覚えられるわ」

「くちゅん・・・はい・・・ここにいる全員を運ぶには、かなりの魔力を使いそうですしね」


 魔力のことを考えていたためか、魔力のことを答えてしまうモエミ。

 しかし、姫の反応は奇妙だった。


「えっと、そ、そうだよね、みんなを運ばないときけないから、たくさん魔力を使うもんね。モエミちゃんの言う通りね!」

「くちゅん?」

「と、ところで、大丈夫?」

「あんまり、大丈夫じゃ・・・」


 モエミの回答を待たずに、部屋に入ってきたホークとフェニックスが姫に声をかける。


「姫、特訓中もうしわけないのだが、至急、今日の吹雪の対応とタイミングについて相談したいのだが・・・」

「えっと・・・、モエミちゃん、研究室にティッシュがあると思うから、鼻をチーンしてきなさいよ」

「・・・はい」


 姫とホークとフェニックスが、端っこにある椅子に座って相談を始める。

 モエミは練習室の奥川に隣接している研究室に入る。


「おぉ」


 思わず声を出すモエミ。

 あまり広くない空間だが、雑多なものが机の上に置かれ、壁にはべたべたと、何かが書かれた紙が貼ってある。

 絵図のようなものに、更に付箋紙でメモが張られており、見方を変えれば、テレビで見た警察の捜査をしている様子にも見える。

 鼻がムズムズするのでティッシュを探すと、長机の上に置いてあるのを簡単に見つける。

 スーパーで見かける市販品のティッシュケース。

 なぜか生活必需品が簡単に手に入るのは、やはりおかしいと思う。

 鼻をかみながら、目の前の壁の絵を見つめる。

 大きな木が描いてある。

 一番上には、輝く何か。

 おそらくは、この城を描いたもの・・・城の設計図のようなものだと検討をつける。

 城の絵の周りには、何かしら、賑やかな小さい絵が書いてある。

 文字のようなものが見当たらない。

 本来、文字が書いてるであろう場所に、小さなイラストが描いてある。

 モエミが思考する。

 文字が見当たらない図面。

 本来、文字が書いてあるであろう場所に書いてあるイラスト。

 動きのあるイラスト。

 見方にもよるが、よく見ると、味があって、なんとなく愛嬌が感じられる。

 イラストの意味を想像できそうなデザイン。

 俯瞰すると、点在する同じ絵柄のイラスト。


「象形文字・・・?」


 モエミのつぶやきに応えたのは、気づかぬうちに、背後に立っていた姫。


「えっと、ショウケイモジ・・・は、知らない単語だけど、これはね、私たちの文字なのよ」

「そうなんですね、かわいらしいですね」

「ええ、1つ、1つに意味があるのよ。あなたの国の漢字に近いかしら」

「もしかして、姫、日本語を覚えたんですか?」

「そりゃそうよ」


 そう言った後に、何かうにゃうにゃ、可愛らしい鳴き声のような、何かを発音する。


「?!」

「・・・わからないでしょ? 今のが私の国の言葉」


 モエミには全くわからなかった。

 学校で聞いている英語や、テレビ等で聞く、中国語や韓国語などとも全く違う、異質なものを感じた。

 思い当たるとすれば、珍獣ハンターのお姉さんが、アフリカを訪問したときに、現地の方が話してたのに感じが似ている。


「何か・・・かわいいですね」

「そう? 覚えてみる?」

「・・・なかなかいいかもしれません・・・」

「あ、やっぱりだめ、先に魔法の練習が先よ」

「そ、そりゃ、そうですよね・・・」


 奥の部屋から連れ出され、練習場に舞い戻る2人。

 既にフェニックスとホークはいない。


「さぁ、今日もがんばりましょう!」

「はい」


 特訓が開始される。

 今日の特訓は生きた木に対する魔法。

 魔力はもう限界だが、見たことのない魔法陣を学ぶのは楽しい。


「では、制御系の魔法陣を見せるね」

「はい」


 魔力がない中、それでも新しい魔法を覚えられるのは楽しいと思えるタイプであるが、モエミの中では、さきほどの壁に書かれた城の絵がとても気になっていた。

 クロウサたちの基地で聞いたウサミミたちの話を思い出す。

 曰く、自分が誰から魔法をかけられてケモミミになっているかは教えられていないが、間違いなく姫だと思っている。

 曰く、姫には絶対に逆らえない。

 曰く、自分が人間だったときの記憶は、霧がかかったように思い出せないが、何かの拍子に突然思い出すこともある。でも、何かを思い出した記憶があっても、何を思い出したのかは、また思い出せなくなる。

 曰く、腕輪はいろいろ試したが絶対に取れない。

 曰く、城から遠くに行くことはできない。遠くに行こうとすると、体調が悪くなる。

 曰く、貯蔵庫より下の階に長くいると、半日くらいで体調が悪くなる。また、貯蔵庫より下では、腕輪の通信ができない。


「えっと、では、やってみて」

「はい」


 木の形状変化を行う。

 床の木の一部が持ち上がる。


「そうそう、上手ね、今度は自分の足元にやってみて」

「はい」


 モエミ自身が持ち上がる。


「そうそう、うまいわ。それでね・・・」


 突然に閃くモエミ。

 この城は姫が作った。

 この世界は姫が作った。

 そして、おそらく、ケモミミも姫が作った。

 であるならば。


「えっと、大丈夫?」

「え・・・はい、大丈夫です。すみません。次、いきましょう」


 微笑みながら、そして、ちょっと魔法とは違うことを考えながら、モエミは答えた。


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