後編 その17 焦燥
「ちょくちょくいなくなると思えば、こんなところにいやがったのか」
「疚しい思いがなければ、人は逃げ隠れしないものだ」
(うわっ、面倒くさいのが来た)
ハルキがウサギ師匠との特訓を終え、城に帰ろうとして、ちょうど自分の足にジャンプの魔法をかけようとした瞬間、遭いたくない2人が視界に入った。
二人は森を抜け、歩いてくる。
繁華街で会いたくない人間に会ったならば、見えなかったふりをして、やりすごす方法もあったかもしらないが、木と草しかない場所で、それも50メートルくらいしか離れていない場所で、何もなかったかのように無視できるほど、ハルキの神経は太くない。
運のいいことに、巣穴の穴からはすこし離れた柿の木の近くでの遭遇。
黒ウサ師匠たちは近くにいない。
「引きこもりか?」
「引きこもりは屋内だろう。これは引きこもりではなく、逃亡だろう」
「どっちでもいいけど、こんなところで、何してんだよ」
ハルキのほうへと歩きながら、柿の木を指さすクロウ。
「柿の実を食べにきたものと思慮するが」
「なるほど、おやつを食いにきたのか・・・ま、食いもんは大事だが・・・」
ハルキが無言の中、ウルフとクロウが勝手に盛り上がる。
距離は10メートルほど、多くの魔法の有効射程距離。
「あの、何か僕に用があるんでしょうか?」
「あるから来たんだよ!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
激高するウルフをクロウが抑える。
面倒くさくなって、静かに尋ねるハルキ。
「では、何の用でしょうか?」
「・・・おまえさ、ピーコックさんがどうなってんのか知ってるだろ?」
「はい? いや、知りませんけど」
「じゃぁさ、なんでピーコックさんがいなくなるんだよ! お前、試合の日の夜とか、ピーコックさんに会ってるんじゃねーのかよ」
「え・・・会ってないっすけど・・・何で俺が会うんすか?」
「・・・姉ちゃんは?!」
「・・・え?」
「お前の姉ちゃんは会ってるんじゃねぇのかよ!」
「姉のことまで知りませんけど」
「聞けよ!」
「はい?」
「姉ちゃんに聞けよ!」
「何で俺が・・・」
「うっせーな! ピーコックさんは、今さら2階には降りられねぇって言ってたんだよ! お前らなら、姉と弟で2人部屋でいいじゃん! なんで追い出すんだよ!」
「・・・俺が追い出したわけじゃ」
「何だと!」
「まぁまぁ」
仲裁に入るクロウに食ってかかるウルフ。
「お前どっちの味方だよ!」
「まぁ、落ち着けよ。話し合うっていうから、吾輩は付いてきてやったのだぞ。某から話すから、な」
鬱陶しい。一人称が安定しないキャラだなと、当事者であるにもかかわらず、うわの空で思うハルキ。
クロウがハルキに向き直る。
「ハルキくん、あの日の試合終了後は何をしていたかな」
「晩御飯を食べました」
「晩御飯の後は?」
「ジョーとマナトとユーシとカズの5人で、魔法の練習をしていました」
「うーむ」
クロウが指を軽く顎に充て、どこかで見た探偵のようなポーズをとる。
「では、君にはアリバイがあると主張したいわけだな」
「アリバイ・・・犯人扱いっすね」
「そうじゃ、ねぇだろ! 姉ちゃんのほうだろ!」
ちょっと眉毛をピクリとさせると、何事もなかったかのように探偵ごっこを続けるクロウ。
「・・・その日は、君の姉はどうしていたかわかるかね?」
「え・・・と、いつも姉ちゃんは、夕方はいなくなるのでわかりません」
「いつも?」
「はい、いつもです。自主練をしているのか、誰かに特訓をしてもらっているのか、知りませんけど・・・」
「では、その日もいなかったというのかね?」
「はい・・・日記をつけているわけではないので、うろ覚えですけど」
「だ、そうだ」
何か凄いことが判明したかのように、ドヤ顔でウルフを振り返るクロウ。
さっきとは違う意味で逆鱗に触れる。
「違うだろうが! だから、その日にピーコックさんと会ってないかどうかが、知りたいんだ!」
「彼は会っていない。姉はわからないそうだ」
「だから、聞いてくれるよう頼んでんだろ!」
「直接、聞けばいいじゃん」
ハルキが話に割って入る。
「直接って・・・おまえの姉ちゃん、いつも女子同士でツルんでるのに、話しかけにくいじゃん!」
「「・・・」」
「それに・・・ピ、ピーコックさん以外の女子と話を・・・いや、俺がみんなの前で、お前の姉ちゃんにピーコックさんのことを聞くとか、俺がピーコックさんのこと好・・・いや、えっと、とにかく聞きにくいんだよ! 俺、何な変なこといってるみたいじゃん! そんな恰好悪いことできるかよ!」
なぜか、クロウと目が合うハルキ。
クロウの目が「すまない」と言っている気がする。
「そ、そうすか、それなら・・・」
ハルキが憐憫の情を発しようとすると、突然、日が陰る。
いや、この世界には太陽がないので、日が陰るという表現は正しくないかもしれない。
しかしながら、現象としては、日が陰るという呼称が適切。
突然、見渡す限りの世界において、光量が減少した。
3人は同時に、申し合わせたかのように上をみる。
既にいつも見えている円い光は見えない。
「雲?」
ハルキがつぶやく。
自分でつぶやいてみて、はじめて、自分がこの世界に落ちてきて以来、雲を見ていないことに気づく。
「まずい、霧が降る。帰るぞ」
「あ・・・でも、話はまだ・・・」
「帰り道がわからなくなる、お前も急いで戻ったほうがいい」
ハルキにも一言述べると、クロウは動き出す。
「おい、ちょっと待てよ!」
「仕事があるだろう? ホークさんに、どこに行ってたんだとか、細かく聞かれたら、何と言い訳するのかね?」
「ちっくしょう! 覚えてろよ!」
慌ててウルフが、クロウを追いかけて林の中に戻っていく。
「意味わかんないし」
ハルキはため息を一つつき、再度見上げる。
「霧?」
今の一瞬で、雲がかなり降りてきたのが見て取れた。
怖いくらい早いスピードで、雲が空から降りてくる。
「早くね?」
ハルキはジャンプの魔法で、城に向けて飛び出した。
ハルキが立ち去ると、3人のいた場所に黒いウサギが3羽、顔を出した。
偶然か必然か、広場を囲むように隠れていた3羽は、ハルキがいた場所に集まると、耳をピクリと動かし、しばし上空を見上げると、岩の巣に戻っていった。
雲は、人々に焦燥心をもたらす圧迫感で降下し、景色を鈍い色に染め直していった。
お読みいただきありがとうございます。
お気に入り頂ければ、ブクマや評価をいただければ嬉しいです。




