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モエミ、少しなじむ

(ケモミミの魔法使いで、名前もアミカ。まるで魔法使いアミカみたい。それにフェニックス。この世界って現実だよね?)


 白雪姫の恰好をして指導している姫を見て、ちょっと自分の手をつねる。もちろん痛い。夢ではない。

 「召喚少女 ケモミミ魔法使いアミカ」は、深夜放送枠ではあるが人気のアニメである。名前の通り召喚もので、王様や魔法使いギルドからの無理難題をいつも押し付けられて、異国や異世界に転送させられ、苦労しつつも成長するお話しである。イケメン勇者といい感じになりそうだったり、すばらしい料理をごちそうされそうになったり、珍しいアイテムを入手できそうになったりするが、毎回、一番いいところで元の世界に召喚、つまり呼び戻される、ちょっとかわいそうな設定である。ちなみに呼び戻される理由はくだらない内容であることが多い。しかしながら短い話を積み重ねながら、最後にすべてが繋がる秀逸なシナリオが人気を呼び、お約束ではあろうが、最終話はシリーズにおいて関係していた人たちが全員集合でアミカを支え、きちんと伏線回収し、いい感じで終わる。物語のためにキャラクターが存在するのではなく、キャラクターのために物語が存在すると言われ、色ものに分類されがちなタイトルからは想像もできない広い範囲への人気を誇っている。

 もちろん、アニメの設定は少女。目の前にいるのは明らかに成人した女性である。ちなみにフェニックスはアミカの友達の火の魔法使い。アミカに巻き込まれつつ、いいところでアミカを助ける、または呼び戻す役どころだ。二人とも似ているのは名前だけ。強いて言えば、フェニックスが火魔法使いということか。


「うーん、上手だね、次はこっちをやってみようか?」


 少し片言の日本語。女優のような顔。そしてケモミミ。時折、ピョコっと動く。触りたい。触りたい。あー触りたい。

 脱線しそうになった思考を、強引に引き戻す。思わず家の中モードに移行するところだった。気を引き締める。


(それにしても、すばらしいカリキュラムのようね。よく考えてるみたい)


 魔法は、単なる力である魔法力を魔法陣を通すことによって、事象に影響を与えるもののようである。姫から借りたノートにはそう書いてあった。つまり、まず魔法の力を魔法陣に流しこむことができるということができなければ話にならない。これを入門者セット――モエミが勝手に命名――で学ぶ……というより経験させる。まずは「魔法陣の30センチメートル先にある物体を10センチ上方に移動させて終了する」という内容を描いた魔法陣に魔法を流すことで、魔法を使う練習を行う。

 次に、少しずつ条件を変えて経験させる。対象範囲、対象数、対象までの距離、移動距離、移動方向、終了までの時間等々。もちろん、わずかずつ魔法陣が違っている。その違いを経験させることで、どこをどう変えれば、結果がどのように変わるかを経験させる。

 そして、入門者の完成形が、入門者セット抜きで魔法を発動させること。それができれば初心者にレベルアップ。

 つまり、魔法の力の流し込み先である魔法陣を、書いたものに流し込むのではなく、魔法の力で、自分で形成するということができれば入門者を卒業するのである。なんとなくではあるが、見えない手で魔法陣を描くというよりは、見えない魔法陣を手の前に作り出して、そこの魔力を注ぎ込むというイメージに近いような気がする。

 もしかすると、「どれだけ複雑な魔法を、魔法陣抜きで発動させられるか」が、魔法使いとしての良しあしではないかとも考えてしまう。

 詠唱について尋ねると、初心者にとっては気持ちの問題であり、魔法陣に魔法を流せればなんでもよいとのこと。ただし、特定の言葉で特定の魔法を発動させることは、急な発動に有効なので推奨している。また、複雑な魔法の魔法陣を描くときには、詠唱とともに魔法陣を描くほうが覚えやすいとのこと。魔法陣を描く順番を、詠唱と連携しつつ覚えていくのが近道らしい。基本的には魔法陣を描かないと魔法は発動しないため、詠唱なしでも、魔法陣はしっかりイメージしなければならない。難しい魔法陣をイメージするには、詠唱があったほうがよい。そんなところだろうか。


(昨日、読ませてもらったノートの考え方にそって、効率よく魔法が学べるようになっているみたい)


 田沼は魔力切れで、今はリタイヤ。端っこでお茶をのみながら休憩している。この学校は飲食禁止ではないらしい。


「さぁ、だれが一番長く、石を空中に停止できるかやってみよう!」


 その他の子供も集中力が切れはじめている。フェニックスは、ゲームに見たてて、魔法の練習をさせている。実に上手だ。


「自転車に乗るときに、右足動かして、左足動かしてとか考えるか? 考えないよな!? 魔法も一緒だ! 「動け!」でいいのだ! イメージだ! ヒョイだっ!」

「は、はい! ヒョイ!?」


 ハルキは早くも、魔法陣無しの発動の練習をしている。ホークの説明は、わたしには今一わからない。しかしながら前代未聞のスピードのようだ。


(ハルキよりアタシの方が魔力量は上のはずなのに、よく頑張るわ。正直きつい。でも)


 モエミは負けず嫌いだった。


(「できると思ったら、できる」か。集中しよう。そう、魔力が流れてって、形を変えて、そして石が浮く)


 石が浮いて、コツンと落ちた。


(もう一度、魔力が流れてって、形がかわって、そして石が浮く)


 石が浮いて、コツンと落ちた。


(石が落ちるまでをイメージする。魔力が流れてって、形にはめる。そして石が浮く)


 石が浮いて、コツンと落ちた。

 何度も何度も繰り返す。そして、自分の手が伸びて行って石をつかんで10センチ上げるというイメージと、魔力の流れを合わせていく。


(できると思ったら、できる)


 コツン、コツン、コツン……。

 複数の初心者セットを目の前にもってくる。少しずつ条件が違う。


(そして、ちょっと石が遠い場合は……)


 コツン。


(もうちょっと、上に……)


 コツン。


(右に……)


 コツン。


(左に……)


 コツン。


(イメージと集中)


 コツン。


(できると思ったら、できる)


 コツン、コツン、コツン……。


(物体を動かす魔法陣を、心で覚える)


 コツン、コツン、コツン……。


(できると思ったら、できる)


 コツン、コツン、コツン……。


(では、ハルキの前の石を、私のところにもってくるイメージで)


 ポトン。石はモエミの手の中。

 ハルキとホークが、口を開けてモエミを見た。


「勝ったッ! 第3部完!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 新人ということもあるのだろう、3人は昼食の準備タイムになると、見学を兼ねて1階裏手の厨房らしき部屋に案内された。案内するのはスワンとオウル。何人かのちびっ子や獣人もいっしょだ。


「ここが厨房よ、朝、昼、晩とすべてここで作るわ。普通は1階の広いスペースでいつもみんなで食べるの。配膳には手間がかかるから、3食すべて給食方式。調理と配膳は当番制。ただし4階に部屋がある子は基本的には調理や配膳当番は免除なの。3人も今は4階の住人だから、今日は見ててね」


 大きな石窯のようなものいくつもある。大きな鉄板もある。でも、あまり暑くない。パンのいい匂いがする。


(あー、いい匂い)


 窯や鉄板にはスイッチらしきものはなく、本来スイッチがありそうな場所に魔法陣が描いてある。ケモミミを中心にわいのわいのと料理をしている。


「もうだめ、ちょっと誰か代わって、魔法がきれる」

「えー、早いよー、余熱で焼けない?」

「はーい、野菜切ったよ、誰かチーンして」

「あ、おれ、やるぜ」


 グレイが、石窯のようなものの中に、野菜を入れた皿を入れ、手を魔法陣に添える。


「電子レンジですか?」

「デンシレンジ? チーンだぜ!?」


 思わず、モエミはグレイに尋ねる。グレイが返答に困っていると、代わりにスワンが答える。


「ええ、電子レンジみたいなものよ。野菜の中の水分を振動させてあっためる。原理は電子レンジと一緒」

「すると、あの鉄板も振動で?」

「なかなかいい勘ね。そのとおりよ。振動で鉄板を熱くして焼くの。ここではほとんど火は使わないわ」

「では逆に冷蔵庫もあるんですか?」

「ええ、地下にあるわ。でも、冷蔵庫は単純に水を凍らせて温度を下げてるだけよ。定期的に当番が水を氷にするの」

「へぇ~」


 魔法のおかげで、電気がないけれども、意外に快適な生活のようであり、モエミは少し安心した。


「運ぶのくらい手伝いましょうか?」

「では、これを着てね」


 学校と同様の、帽子、マスク、エプロンを手渡された。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 モエミが裏の調理室から、給食当番スタイルで、料理が満載された大きなお皿を運んでいると、入り口から着ぐるみの怪しい集団が入ってくる。着ぐるみには所定位置があるようで、生気のないまま、所定の位置まで移動して、着ぐるみを脱ぎだす。


「メシだ、メシだぜっ!」

「とっとと着替えなさいよ、全員がテーブルに着かないと、始まらないんだから!」

「わが封印を解くには、まだまだ力不足のようだな」


 最後に入ってきたウルフとピーコックとクロウは元気そうだった。


「鬼だ」

「いじめだ」

「死んでしまう」


 疲れ果てた元着ぐるみ組から小声で呪詛が聞こえる。どうやら中級クラスは外で過酷な特訓を受けているようだ。なぜ、着ぐるみを着て練習するのかは不明だ。


(なぜに着ぐるみ……誰の趣味?)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ジャムの種類だけはやたらに多い昼食をいただく。あと、蜂蜜も使いたい放題だ。


「あの、モエミさん、すごいですね。もう、入門者から初心者ですね」

「田沼さんもすごいわよー。初日で羽が動かせてるもん。あの2人は早すぎなの。気にしないのよー」

 田沼が発したモエミへの話しかけを、フェニックスがよこから奪い取る。

「そうよ。たまたまよ。皆さんの教え方がいいのよ。まぁ、昔からやってみたかったし」

「昔から?」


(しまった!)


 せっかくだからと思って入れたフォローが墓穴を掘る結果となり、田沼が聞き返す。


「えっと、ほら、なんか魔法ってなんかステキじゃない?!」


 曖昧な回答でごまかそうとする。


「そう! そうよね! かんかズバッと魔法できるとかっこいいよね! 小さいころみたアニメで……」


 フェニックスが再び会話に入る。


(よかった、この人、助かる)


 モエミはフェニックスに感謝しながら、サラダを口に運んだ。


「あの、ところで、中級者の皆さんはなんで着ぐるみを着てたんですか?」


 田沼がフェニックスに質問する。


「フッフッフ、それは中級者になってからのお楽しみ。でも、何の着ぐるみにするかは早めに考えててね。2人とも成長早そうだから」

「えっと、今の内容からすると、全員、着ないといけないんですか?」


 当然の疑問をモエミは口にした。


「そりゃそうよ、だって、危ないもん」

「危ない?」

「氷とか石とか飛んでくるんだよ、中級は」

「あの、着ぐるみ着てても危ないんじゃないですか?」

「特性の着ぐるみだから大丈夫なのよ」


(……たぶん、着ぐるみ型の防御服ってところかな。身を守るための何らかの魔法がかかってるんでしょうね)


「あの、それって、なんで着ぐるみにする必要があるんですか?」


 田沼の最もな疑問。


「それはかわいいからよ! 合法的に着ぐるみが着れるのよ!」


 なぜかドヤ顔のフェニックス。


「合法……「かわいいは正義」ですか?」


 ついつい口走ってしまうモエミ。それを聞いたフェニックスはモエミの手をとる。


「そうよ! 「かわいいは正義」! 心の友よ! わかってるじゃない!」


(しまった、また調子にのってしまった。気を付けないとキャラが崩れちゃう。さっきの第3部完は誰もしらなかったからよかったけど……)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 昼食後は、魔力の回復のためだろうか、お昼寝推奨のお昼休み。そして、午後は勉強会。学校の授業のことを思うと何とも優雅な日程である。

 勉強会は、上級生が下級生の勉強を教える時間のようだ。なぜか魔法の学校で普通の勉強も教えているのだろうかと、モエミは疑問に思う。


「いつか、戻れたときには、きっと勉強が遅れてるじゃない? だから、少しでもがんばっておこうって、きちんと学校の勉強もすることにしてるの。ま、それに、午前中で魔力を使いきっちゃう子が多いってのもあるけどね」


 フェニックスがモエミの疑問を読んだかのように教えてくれる。


「教科書とかはどうしてるんですか?」

「食料と水以外は、ほとんどのものは落ちてくるもので養っているのよ。それ以外だと、木とかは自給できてるかな。植物関係は魔法を使ってなんとかなってるのよね」

「あの、大きなトランポリンのところに落ちてくるんですか」

「そうなの。だからここではあらゆるものが貴重品。大事にするのよ。なにか必要なものがあれば、ベアに相談するといいわ」

「服はどうしてるんですか? フェニックスさんが作ってるんですか?」

「私は見てくれを変えているだけ。本当の意味で作っているのはスワンとベア。おしゃれをしたければ、特にスワンとは仲良くしとかなくちゃだめよ。あと食料ならスパローちゃんかな。土魔法が得意でしょ? 植物育てるのが上手なのよね」

「では、ほとんどのものを魔法を使って自給自足してるってことですか」

「そうなのよ、サバイバルなのよ。ほとんどは姫のおかげだけどねー。危ない生き物とかもほとんどいないから無人島生活よりは楽だろうけどねー。ところでモエミちゃん。あなた成績はいい方じゃない?」

「え、あ、はい、まぁ……」


 突然の話の転換についつい頷いてしまうモエミ。


「でっしょーっ! じゃぁ、教えてあげてね!」

「えっと、あ、はい」

「はーい、モエミお姉さんがお勉強教えてくれるよー、集まってー!」


(えぇぇぇぇ! 無茶ぶりでしょ!?)


「何聞いてもいいの?」

「算数、わかんないよー」

「鬼ごっこしようよ」

「分数教えてー」

「だっこしてー」


 子どもが群がってくる。

 フェニックスはモエミを放置して素早くいなくなった。


「えっと、順番だよー」

「じゃ、お願いねー」


 キラキラと純真な目でやってくるちびっ子たち。


「か、かわゆす……じゃあ、おねぇさんが教えてあげる!」

「わーい!」

「まずは、自分が何がわからないのかを、わかるのが大事なのよ?」

「へー」

「おねぇちゃん、姫様と同じこといってるね」

「あはは、そうなんだね」


 小さい子を相手にしているときは、外モードでも家モードでもなく、なんとなく素直に接することができるような気がする。

 今までは小さい子に勉強を教える機会などなかったが、意外と悪い気はしなかった。


読んでいただくことが難しいことだとよくわかりました

ありがとうございます

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