後編 その8 姫と訓練
城の5階。
動物園の奥の訓練室。
時折、悲鳴のような声が聞こえてくる。
その度に、動物たちはびくってしている。
きっと、生き物を適切に飼う環境ではない。
「はい! そこで、そのまま魔法陣を維持する!」
「ひぃぃぃぃぃ!」
「がんばれ!」
モエミの右手の前に直径50センチくらいの魔法陣がキラキラと発光しながら、展開されている。
単なる幾何学模様ではなく、発光は生き物のように波打ち、一部は回転し、振動し、収縮している。
大きめの魔法陣に付随し、小さな魔法陣も同時に展開され、それぞれが連動して、動いている。
オートマチックの時計の中身のギアのように、美し絡み合い、一つの芸術作品のようにも見える。
普段は一瞬しか展開しない魔法陣。
それをそのまま維持する。
発動しないように、消えてしまわないように。
それは絶妙な魔力加減。
「くふぅ」
魔法陣が掻き消える。
「えっと、もう限界?」
「い、いえ、いけます。もう1回」
姫が美しい顔を、ちょっと傾ける。
「えっと、うーん、少し魔力を残して違うことをしましょう!」
フェニックスさんの訓練が闇雲のままに終わり、姫の訓練が始まった。
フェニックスさんの訓練と比べると地獄の訓練。
今、考えると、フェニックスさんのは魔法の訓練というより、化学の実験コーナーだったような気がする。
あれは、あれで有意義だったのだが。
姫の訓練は、毎日、魔力がすっからかんになるまで行う。
毎日、治癒の魔法を使って、ハルキを治療してたから、今までもすっからかんだったが、それは本当に寝る前。気絶するように眠ればよかったが、姫と訓練すると、夕食前には、すっからかんになる。その後が辛い。
シャワーも浴びたくなくなる。
シャワーの温度調整をする魔力すら、ないところから、ひねり出さないといけない。
「えっと、じゃーねぇ」
姫が、部屋の隅から、自分のちょっと離れたところに、的を魔法で運んでくる。
「えっと、いまから、私が、適当に魔法を使うから、あの的に跳ね返してね!」
「はい?」
姫が氷の弾を生成して、ぶつけてくる。
「ひっ!」
素早く高圧空気をぶつけて、氷の弾をそらす。
「違うよ! 今のは誘導弾だから、誘導先を書き換えるの!」
「・・・」
「もう一回!」
「え!」
再び、姫が氷の弾を生成して、ぶつけてくる。
今度は、同じく氷をぶつけて、氷の弾をそらす。
「だから、違うよ! もう1回!」
再び、姫が氷の弾を生成する。
生成途中の氷に向けて、魔力を放つ。
氷は、姫の前から、直接、的に飛んでいく。
「おぉ! そうきたか、それじゃぁ・・・」
どうやら、姫は楽しくなって暴走し始めたようだ。
魔法陣は、一度生成すると、変更できない。
魔法陣を練り上げるときに、例えば、氷の弾の魔法なら、対象とか、氷の大きさとか、いくつか、自分が決められる部分があるので、その部分を決めてから、発動させると飛んでいく。こういうのは氷が発射されれば、後は物理現象。
誘導タイプや追尾タイプは、まら、これらとは、まったく違う魔法陣。
氷とともに魔法陣も一部飛んでいく。
その飛んでいく魔法陣が、向きを変えたりしている。
誘導タイプや追尾タイプは、モエミの反射魔法で反射できるが、物理的に飛んでくるだけの魔法はどうしようもない。
パッとみて、瞬間に判断できない。
反射魔法で反射できなければ、氷がぶつかって痛い。
なのに・・・
「えっと、では、連射するから、なるべく反射魔法で、反射させるんだよ!」
姫は、かわいい顔をしながらも、訓練内容は鬼だった。
『氷盾』
モエミはすかさず、氷の六角形の盾を作る上げる。盾といっても、幅30センチ程度の小さな盾。
「え~、それ使うの? 練習になんなんじゃん・・・」
「い、いえ、使わないと死にます」
「そう? じゃ、とりあえず」
『きらきらりーん』
モエミが「それって詠唱って」思った瞬間、高速の何かが射出されるのを感じる。
氷の生成場所と、自分との直線状に最短距離で、盾を移動させると、盾の表面で、氷がはぜる。
はぜると同時に2射目。
2射目は曲射。
でも、対象は自分と理解。
盾を引き寄せると、再び氷がはぜる。
「そればっかりじゃ、だめだよ! ちゃんと、反射魔法の特性もつかわなきゃ!」
『きらきらりーん』
氷が飛んでくる。
盾で防ぐ。
「特性って、どうやるんですか! もうちょっと、具体的に教えてください!」
氷が飛んでくる。
盾で防ぐ。
「えっと、ごめん、私、反射魔法使えないの! モエミちゃん、がんばって!」
これ以降の攻防は、双方無言だった。
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