後編 その6 柿の木の下
1番体の大きなガイアの攻撃を避けると、片耳のオルテガが間髪入れず突っ込んでくる。避けきれず右手で防御の構え。
(このパターンは・・・)
通常の戦闘ではありえない上方への警戒。
やはり片目のマッシュが、両足でスタンプを当ててくる気配。
「させるかっ!」
どこかで聞いたようなセリフを吐きながら、オルテガを、可能な限りガイアの方向に弾き飛ばし、前方に移動。その勢いで、体を半回転させ、マッシュのスタンプをかわす。
ウサギ師匠のスピードはすばらしいが、残念ながら体重差がある。
おそらくは、きちんとした防具があるか、魔法による防御があるのであれば、ハルキに対して大きなダメージは難しい。
しかしながら、ウサギ師匠も成長している。
マッシュは、オルテガを避けるのではなく、足で逆に跳ね飛ばした。
それに合わせたオルテガは、さらなる高速でハルキに反転攻撃する。
半回転し、一度、目線を切ってしまったハルキは、目で見えてはいるが、反応までできない。
腕の中途半端な防御をすりぬけ、オルテガの突進がハルキの脇腹に突き刺さる。
「ぐふえっ!」
肺から空気を吐き出すハルキ。
マッシュもスタンプからの、頭突きを敢行しようとしていたが、ハルキの状態を見て、ジャンプするに留める。
ガイアが駆け寄る。
オルテガも素早く起きて走り寄る。
ハルキが片手をあげて、制止をする。
「・・・だ、大丈夫っす。で、でも、ちょっと、休憩いいっすか?」
ハルキは少し離れたところにあるカバンを、魔法で器用に開け、その中から3本だけニンジンを取り出した。
ガイア、オルテガ、マッシュとハルキに名付けられた3羽の黒ウサギは、休憩の意味がわかったのかどうか不明だが、もらったニンジンを齧る。
座り込んだハルキは、今度は水筒を取り出しで、自分で飲む。
カジカジ、コリコリ。
ニンジンを食むウサギ。
ごくごく。
水を飲むハルキ。
のどか。
「きゃぁぁぁぁ、あぶなーい!」
のどかな風景を突然に切り裂く声。
「「「「!」」」」
声をした方向を見る。
左右ではなく、上方。
モエミがグライダーで、まっすぐハルキに向かって滑空してきた。
もちろん衝突は必至。
「いやぁー! もう魔力ないぃぃぃぃ! 止めてぇぇぇぇ!」
ため息を一つつくと、おもむろに立ち上がるハルキ。
『フェザー・フォール』
唱えたのは重力軽減の魔法。
重力が軽減されたモエミは、空気抵抗で原則し、ふわりと着地する。
「た、助かったよ! ハル君かっこいい! ありがとう!」
よほど怖かったのか、グライダーを放り出し、ハルキに抱き着いて素直にお礼をいうモエミ。
「や、やめろよ! ・・・ところで、なんでこんなところに・・・」
「! そう! 聞いてよ! 姫の鬼修行! ・・・とその前に・・・」
あっと言う間に、一番近くにいるオルテガを捕まえるモエミ。
「あー、癒される・・・なんていうのかしら、ゴワモフ? すこし、固くて、ちくちくするのもなんか気持ちいわね」
なぜかおとなしくつかまったまま、ニンジンを齧るオルテガ。
ガイアとマッシュも近寄ってくる。
なでなでしてほしいのだろうか。
「うふふ、順番よ~・・・あぁ、癒される」
「なんで、ウサギ師匠たちに、そんなに懐かれてんだ? 意味不明」
「いいじゃない・・・そう、それでね」
モエミは座れそうな場所を探す。
適当に草の上に、女の子座りをすると、ウサギもすぐそばに座り込む。
額に赤黒い角があることを除けば、普通のウサギと同じ姿。
美人のモエミになでなでされている絵からは、あの凶暴さは微塵も感じられない。
「そう、もう、大変なのよ。まず、木の魔法でしょ?」
「木の魔法?」
ハルキも水筒を持ったまま、近くに座る。
「そうなのよ! 木の魔法! 脱出に必要だからって、覚えないといけないらしいのよ! でも、木材ならいいけど、生きている木への魔法って、ちょっと特殊なのよ! それを、モエミちゃんなら大丈夫、モエミちゃんならすぐよって、無理です!!」
「・・・大変だったね」
オルテガを開放し、ガイアを抱っこして、モフりはじめるモエミ。
グライダーを指さす。
「あれも、作らさせられたのよ」
「すげぇじゃん、え、じゃぁ、コーレム作れるの?」
「私もそう思ったんだけど、ゴーレムは生きてるらしいの。つまり、コーレムは生きている木だから、ちょっと違うみたい。グライダーは、単なる木の形状変化だから、比較的簡単」
「簡単・・・」
「あ、形状も含めて、ベースの魔法陣があるから」
「な、なるほど? じゃぁ・・・」
「ふふふ、教えてあげようか? もう覚えたわよ」
「すげぇなぁ・・・ぜ、是非! お願いします」
ガイアを開放して、マッシュを膝の上にのせる。
「もう、魔力、すっからかんなのよ。そのうえ、魔法を魔法陣のまま、発動させないで維持して、それを後から書き換える練習とか、魔力をゴリゴリ削られちゃうしさっ・・・うーん、チクモフ?・・・」
「魔法陣を書き換える・・・?」
「そうよ! 意味わかんないでしょ? 何を言っているのかわからないと思うけど、私も何をしていたのかわからない・・・」
「・・・」
「姫曰く、伝説の反射魔法だっていうんだけど、いくら伝説で、レアだからって、使えないと意味ないよね? ね? 反射魔法っていわれても、何かの魔法を反射するだけなら、魔法戦限定の魔法ってことよね? 相手が魔法使わないとだめってことよね? これってハズレスキルじゃん・・・」
「十分、強そうだけど・・・」
「ダメだよ! やっぱり空間魔法とか、全属性使いとかじゃないと! もしくは超回復魔法とか!」
「・・・回復魔法そのものがないらしいって話じゃなかった?」
「そうなのよ! あの魔法陣、調子がよくなるだけよね!?」
「あ、でも、筋肉痛にならないから、いいんじゃない?」
ハルキとモエミは毎晩、余りある魔力を背景に、お互いに治癒の魔法陣で治癒しあっていた。
「なによそれ! サロン○スで十分じゃん!」
「・・・まぁ、そうだけど・・・魔法って、微妙だね・・・」
パタンと寝転ぶハルキ。
遥か上方には、輝く円。
「帰るための魔法って・・・、帰れるのかな・・・」
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