後編 その5 貯蔵庫
「どうして、魔法で水やりしないんですか? パパッと魔法で撒いちゃえば、簡単なんじゃないですか?」
モエミの質問になぜか沈黙が落ちる。
「なんでだろうな・・・俺、知らないぜ」
「言われてみれば、そのとおりだねーん」
タイガーが口を開く。
「水を集める魔法は、水を集める」
再び沈黙。
しかし、それに答えたのはモエミ。
「あ、なるほど、わかりました!」
「「「え?」」」
頭にはてなマークだらけのケモミンたち。
「え? どういうこと?」
ハルキが食いつく。
「水の魔法は、水を作り出すように見えてるけど、周辺の水を集めているだけなの。だから、ここで水の魔法を使って水やりをするってことは、畑から水を集めて、畑にまくことになっちゃうわけ、ですよね、タイガーさん!」
「・・・お、おう」
タイガーがうなづく。
「え? そうなんだ。じゃぁ畑から水を集めて、畑にまくなら意味ないじゃん」
ハルキが理解する。
「そうそう、だから、魔法での水まきはしないんですね、タイガーさん」
「・・・、う、うむ」
タイガーは、もちろん同意する。
「ま、周辺かも水が集まってくるだろうけど、空気も乾燥しちゃうだろうし、魔力を使う割には、成果がいまいちって感じ・・・でいいですかね?」
「そ、そのとおりだ。だから、面倒くさいかもしれないが、裏の池から水を持ってこないといけない」
モエミの念押しに、タイガーが答える。
「おぉー」
「なるほどだぜ!」
「わかりやすかったです、はい」
ケモミンたちは納得する。
「で、では、いいかな。水やりを行うぞ。ハルキとグレイ、クロミン、シバッチは、俺と水汲み。ほかは水やりで頼む」
タイガーは、ハルキとグレイ、クロミン、シバッチを連れ、バケツを持って池へ向かうが、途中、何度も振り向く。やはり今朝は様子が変だ。
モエミは残ったケモミミたちと水やり。
「魔法って、思ったより不便ねぇ」
モエミが愚痴るとすかさず狐娘に怒られる。
「ダメですよ、モエミさん。お水やりをしながら、そんなことを言っては。大きくおなりーって愛情を込めながら、お水やりをしないとダメなんですよ」
「・・・そ、そう、ごめんね」
「いえいえ、スパローさんがいつもおっしゃってました。これも、魔法だって。そうしたほうが、収穫した食べ物がおいしいような気がするんです」
「そっか、これも魔法か・・・」
何かがストンと心の中に落ちた気がする。
心を込める。
愛情を込める。
「!? 魔法を込める!?」
モエミは持っているジョロの水に魔力を込めてみた。
その水をまく。
もちろんだが、直ぐに花が咲き、実がなるということはない。
しかし。
「・・・やってみる価値はあるかもね・・・」
有り余る魔力。
寝るときまでに、空になったことなどほとんどない。
モエミは、魔力水を次々に作成し、水やりを続けた。
「しかし・・・」
スパローさんの土魔法はすばらしかった。
魔法もすばらしかったが、農作物にかける愛情もすばらしかった。
スパローさんが抜けた後、自分とハルキの2人が参加し、農作物を育てる。
どう冷静に考えても、スパローの穴を埋められるとは考えられない。
どの程度の面積があれば、今の人数の農作物を供給可能なのかという知識は持ち合わせていないが、農作物の保存庫や畑の状況から推測すると、決して潤沢な収穫があるのではないことは、なんとなく感じている。
スパローがいなくなったのは大問題。
今朝の態度から、タイガーさんも気が付いているに違いない。
目の前では、かわゆすなケモミミたちが、にこやかに水やりをしている。
どこかに咲いているのか、かすかな花の香りもする。
耳がピコピコしているのが愛らしい。
水をもらった植物は元気いっぱいだ。
モフモフの尻尾が、行き交う。モフモフしたい。
とても平和な風景だ。
夢見までみた景色。
しかし、心から楽しめない。
「水やりだけならなんとかなるけど・・・」
畑を見回す。
野菜が所せましと植えてある。
それも多品種。
単一品種の栽培ではなく、いろいろな野菜。
きっと、育て方も、注意すべき点も全く違う。
スパローさんは経験者っぽい。
私とハルキは素人。
「タイガーさんやケモミミちゃん達が、きちんと習っていたらいいけど・・・」
ため息を一つ、ついた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あら~、ありがとう、モエミちゃん、ついでに冷蔵庫に入れといて下さる?」
スワンさんが料理の手を、わざわざ止めて妖艶に微笑む。
スワンさんはやっぱり美人だ。それも大人美人。
女性の私もどきっとしてしまう。
「あの~、冷蔵庫ってどこですか~」
「こっちだよ~。階段があるのよ~。涼しいのよ~」
モエミの質問には、前を歩いているウサミンが答える。
ウサミンが向かう調理場の隅っこに、ぽっかりと穴が空いており、下に続く階段がある。周囲を腰の高さの台に囲まれているため、分かりにくい場所にあるのは確か。でも、おそらく、周囲の台は、下から持って食料を仮置きするためのスペースに使われており、配置的には、よく考えられた配置と思える。
「お願いねぇ~」
「・・・よろしくです」
スワンさんが再度、お礼を言ってくれる。うーん、嬉しい。
振動系の魔法陣に魔力を込めて、朝のパンを焼いていたオウルさんも挨拶をしてくれる。
うん、いい子だ。
バタバタとしてい朝食準備組のケモミミたちの間を抜ける。
朝ごはんのにおいが食欲をそそる。
一仕事終えたせいか、お腹が減っていることに気づく。
朝食に後ろ髪をひかれながら、階段を下りる。
建物の外からの光も取り込めるように配慮されてはいるが、暗い。
暗いの怖い。
「あ、モエミさん、そこの壁の魔法陣に魔力を込めてもらっていいですか?」
「えっと、ここかな」
階段を下り切ったところ、床から1メートルちょっとのところに魔法陣を発見。両手で野菜を抱えていたモエミは、持ち替えたり、下に一度、カゴを置くのが面倒くさくなり、肩で魔法陣に振れ、魔力を流す。
後ろについてきていたフォックが、驚く。
「今、驚愕するような手段で、魔法陣を起動させたましたよね?」
「え、そっかな~」
明るくなった小部屋は土壁に設けられた段に、丁寧に区分けされて、各種の野菜が置かれている。
温度もかなり違う。凍えるほどではないが、長時間いると、かなり冷えるだろう。
「えっと、今日の分はこちらにお願いしまーす。古いか、新しいか、わかんなくなっちゃうんで、基本的に無くなってから補充するんです」
ウサミンの指示に従いながら、室内を見渡す。
壁に設えられた段の最上段に、バケツがたくさん置いてある。
金属性、プラスチック製、赤、青、緑・・・。
「あの、バケツは?」
カゴのトマトをしてされた場所に置きながらモエミは尋ねる。
「あ、氷です。水になったら、凍らすんです。みんなでやるんですよ」
「冷蔵庫というより氷室って感じなのね・・・」
野菜を分別して、すべて棚においたモエミが立ち上がる。
帰ろうとして、階段の方を振り向くと、降りてきた階段の裏側に、棚に隠れるように、ぽっかりあいた穴に気づく。
「あ、あれは?」
モエミが指さす。
「あ、あれは、さらに下の階への階段です。お肉とか、もっと温度がひくくないといけないものが入ってます。寒いですよ~」
ウサミンが階段を上がりながら答える。
「に、肉!?」
肉、食べる肉の保存場所。
その肉は何の肉?
牛肉? 豚肉? 鶏肉?
それともウサギの肉?
そうじゃなくて、もしかして・・・
「・・・ふ、ふーん、そうなんだ・・・さ、寒いね、ね? 早く、上がろうよ」
「え、あ、はい」
モエミは可能な限り不自然にならないように、階段を上る。
震える足を、くだけそうな腰を、意思の力で押さえつけながら、後ろをついてくるウサミンとフォックに悟られないようにするのに必死で、それ以上、言葉を紡げなかった。
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