後編 その1
後半戦、スタートします。
「では、今、説明したとおりですが、とりあえず次の入れ替え戦までは、帰ってしまったスパローとピーコックの替わりに、モエミちゃんとハルキくんを4階の個室の権利を与えることにします。男の子6人になるけど、次の入れ替え戦で、ちゃんと男子5人、女子5人に戻しますので、特にウルフはがんばってね」
夕食のカレーのにおいが抜けない1階の広間でフェニックスがみんなに向って伝える。
食器を下げようとしている者、食器を下げてどこかに行こうとする者など様々だが、ウルフに注目が集まってしまう。
フェニックスは本来の意味で、ウルフに頑張れと言ったのだろうが、ウルフは少し顔をしかめる。嫌味だと思ったのだろう。しばしの沈黙のあと、立ち上がり足早に立ち去る。
「うふふ、やったねモエ」
「Great!」
「すごいじゃん! 4階だよ! 遊びにいくよ!」
小声での祝福。
中級組からの言葉はうれしい。
「モエミ姉ちゃん、すごい!」
「おめでとう!」
中級者がわざわざ小声で言った意味を解しないちびっ子。
ちびっ子組からの堂々の祝福も、もちろんうれしいが・・・。
「はーい、そこ静かに。さすがに今日はもう夜なので、明日の朝食後、引っ越しってことでよいですか? ・・・OKだね? じゃ、引っ越しは明日の朝食後でーす」
フェニックスが確認をとったのはケモミンたち。チャウサとクロウサのウサギコンビが、器用にも耳でOKサイン――チャウサがOでクロウサがK――を出しているのが見えた。
(かわゆす)
朝食後の打ち合わせ後、昼食をはさんで探索が行われた。私は体調不良につき参加はしなくてよかったが、スパロー、ピーコック、田沼の3人は発見されなかった。
姫の「帰ったのだろう」発言に対し、誰も疑問を呈さない。感覚が麻痺してしるのか、慣れっこなのか、みんなの反応は薄い。
モエミは笑顔を顔に張り付けていたが、その実、食欲不振のまま、夕食を終えた。
すぐに中級者組みの男の子の友人たちにハルキは拉致され、それを見送ることになる。
この世界の夜は早い。
日が沈めば夜。
そのかわり、朝は早い。
日が昇れば朝。
もしかして大変健康的な生活なのではないかとも思ってしまう。
4階に上がり、部屋に戻ろうとすると、ケモミンズが何かを5階に運んでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ハルキが夕食後、男子の中級者に拉致されたのは、3階で自主練という名のハルキの技の秘密を問いただすためだった。
「ハルキ、最後のあれ、何なの?」
単刀直入に聞いてくるユーシ。
「そうそう、おしえろよ」
「あれって、当たってなかったでしょ?」
ジョーとマナトも追及する。
「うーん・・・」
ハルキは4人を見渡す。
「こういうのって、お互い様だと僕は思うのだが」
カズが肩を抱く。
「・・・わかったよ。そうだよね、いろいろ教えてもらってるし、でも、この5人の秘密ってことで」
ハルキはポケットから、缶詰のようなものを取り出す。缶詰といっても、小さいもの、ツナの缶詰サイズのものだ。もっとも、そのサイズでないと、ポケットには入らないだろうが。
「え、何それ? 缶詰?」
みたままの感想を言うユーシ。
「缶詰といえば缶詰かな。金属じゃないと漏れるらしくて」
「漏れる?」
カズが怪訝な顔をする。
「これはちょっとおいといて、えっと、こっちに来てよ」
ハルキは練習用に置いてある土のケースの横にみんなを集めると、缶詰を右腕にあてたまま、おもむろに詠唱を始める。腕に土のプロテクターを作り上げる。プロテクターは缶詰を取り込んでしまう。
そしてプロテクターをみんなに見せる。一見、小さい盾と一体化したプロテクターに見えるが、手の付け根の甲の部分から、肘に近い部分に埋まっている缶詰にかけて細長い、直径3センチほどの細長い穴があいているのを見せる。見せられなければ気づかない。
「なに・・・その穴?」
「で?」
「そうそう、それで?」
「・・・」
早く次に進めとせっつく4人。
ハルキはそれに答えずに、詠唱を始める。
出来上がったのは直径3センチの土の棒。
それを先ほどの穴にはめる。
「それを飛び出させるのか? それって威力がないんじゃね?」
ジョーが指摘する。
土の棒を出し入れするのは、魔法を使えば簡単。
しかし物体を短い距離で高速で移動、あるいは加速させるには膨大な魔力が必要。
物をA地点からB地点に移動させる時に、高速で移動させたいなら、それなりの魔力が必要である。
「いま、1個しかないから、1回しかやんないよ。よく見ててね」
ハルキが少し広い場所に移動し、練習の時に的に使っている木の前に立ち、拳2つ分くらい空間をあけ、腕をまっすぐ木に向ける。
ドンッ。
くぐもった音がして、腕のプロテクターから、棒が高速で飛び出し、木にぶつかる。
ぶつかった反動で、棒は腕のプロテクターの中に戻る。
木には丸い跡がついている。
「うわ」
「え?」
「は?」
「・・・さっきの缶詰か?」
カズが正解を引き当てる。
「正解。さっきの缶詰に水素が入ってる。それに魔法で火だけつける。それだけ」
カズがニヤッと笑って続ける。
「要は、パイルバンカーってことだね!」
「そう! それ!」
ハルキは嬉しそうに笑う。
笑うと目がなくなるハルキ。
「水素? なにそれ?」
ユーシとマナトとジョーは目がはてな。
「うーん、えっとね」
ハルキが手短に科学の授業を行おうとすると、突然、闖入者が現れる。
「ここにいたのか。ちょっと、ハルキいいか? 聞きたいことがある」
ウルフが、真剣な顔をして立っていた。
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