その9 遭遇
数多くの配電盤がきれいに乱立する部屋。
配電盤には丁寧にレベルが張っている。『微小粒子状物質測定器』『窒素酸化物測定器』『気象観測器』『総合風速計』『浮遊粒子状物質測定器』等々
数あるパネルの中の一つを開け、電話をする山中。
向井は手持無沙汰に、荷物をもたされ立っている。
「ええ、はい、大丈夫です。やったことあるんで、ええ、じゃ、一回、電話、切りますね」
山中が電話を切る。
「どうです?」
「どうみても、検知した魔力を電気に置き換えるところが焼き切れているとしか言いようがない。ちょっとまってて」
来るときに監視課から渡された予備部品を取り出し、手早く取り替える。
魔法ではない。
電動ドライバーで取り外し、取り付ける。
メンテナンスを重視された作りとなっているようで、ブロック単位での取り換えが可能となっている。
「電源入れるよ。ほら動いた」
「あら本当ですね。でも、魔法じゃなくて電気なんですね」
「魔法はオワコンだもん。インターネットとかスマホとかのほうがむしろ魔法。これだって魔法を電気に変換して計測し、それを電波で本部に送る仕組み。魔法なんてほとんど使ってない」
「ですよねぇ」
「大規模な行使には事前申請が必要だし、普段使いも免許制だし、面倒くさいよね」
「あの、わたし、今年、就職したんですけど」
「ごめんごめん。大丈夫。なくならないよ」
「はい」
「あ、ピコピコなってる」
「え?」
「ほら、ここ」
「ええ?」
「ちょっとまってね」
また電話をかける山中。
「あ、杉田主任? 復旧したけどどう? どうやら魔法の反応があるみたいだけど、この型の検知器、現場から細かい反応とか見えないでしょ? 見てくれる? ……え? やっぱり、反応ある? あ~、わかった。了解。監視しててね。あと、バックアップの準備をうちの次長に言っといてよ。たのむよ~。じゃ、よろしく~」
電話を切る山中。渋い顔をする。
「えっと……」
「不正使用か、野良がいるのは間違いない。魔力は見えるな」
「はい。それで採用されたみたいなものですので」
肩をすくめる向井。
「OK、じゃ、行こうか。初任務だな」
「はい!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(ヒジ国の方言がすごいやつだと思えば、何とかなりそうかな)
写真攻撃から笑顔で脱出し、建物の裏手の死角で一息つくアミカ。
(しっかし、魔素、薄いわね。気を付けないとまずいわ)
きょろきょろと見回す。
近くに生えている木の前まで移動すると手を木に添える。
眉を顰める。
(やっぱり、そうね。誰も魔法を使ってなさそう……この世界で、魔法が禁忌である可能性を考慮しとけって言われたわよね。どこか、人気のないところで、探知の術式を使って、子孫をさがさないといけないわね。さて、次の召喚まで1年あるから、ゆっくり……でも、その前に、ここが目標としてた異世界かどうか、確認しなきゃね。でもどうやって・・・)
そこにスーツ姿に男女が現れた。
「あの、ちょっと、いいですか?」
『神語の頸飾』が相手の脳内の言語をスキャンし、アミカの脳内の言語に変換。
アミカにわかる言語を骨振動で伝える。
またかなりの魔力をもっていかれる。
魔力が少ない今は、かなり厳しい。
何かを感じたのかこめかみに指をあてる男性。
「あなた、今、魔法を使いましね?」
ヒジ国語で丁寧な言い方をしている言い回しだったはず。
でも警戒されているのがわかる。
そっと指をあてて『神語の頸飾』を不活性化する。
「ワタシ、アヤシイモノデワ、アリマセーン」
魔法の行使は警戒すべきだろう。
ヒジ国語を使う。
ヒジ国語は東方諸国の共通語。
多少なりとも使える。
「あ、日本語わかりますか? ちょっとお話しさせてもらってもいいですか?」
「ハイ」
(日本語・・・ヒジ国語ってことでいいなかな)
とりあえず肯定したアミカ。
「えっと、どちらの国の魔法使いさんですか? ちゃんと入国申請のときお話しをされましたか? 日本では魔法行使にはかなりの制限をかけていて、要は魔法を使ったらだめなんですよ」
「ムズカシイ。モット、カンタン、タノム」
「そうですか、とりあえず、パスポートあります?」
「パスポート?」
「ええ、パスポート……え?」
男の目が頭の上に釘づけになる。
「ワーキャット?」
「!」
男は知らないで言った言葉。
アミカの世界では西側諸国で使用される言葉に告示しており、「人猫」を意味する。
獣人に対する差別意識が古来から根強い西側諸国で使用される、「人」が先と考える差別用語。
アミカの世界では、少なくとも獣人の前では、決して言ってはいけない獣人族を侮蔑する言葉。
ついつい警戒心をマックスにしてしまったアミカは、とりあえずは、その場から逃走することを決意する。魔力の残量が乏しいこと、さすがに転移した直後に人混みにもまれ、精神的にまいっていることなども、この選択をした要因となっている。
『樹縛』
短くて簡易な足止め魔法を発動。
「だから、魔法は・・・あっ!」
「きゃ!」
山中と向井の足が、木の根で拘束される。
「うわっ、あ、ちょっと」
「いやっ、あっ!」
日常的に魔法を向けられていない2人は、突然の魔法行使に混乱する。
「待て! おい!」
山中の制止を聞かず、アミカは走り去る。
獣人の身体能力は高い。
テーマパーク内の障害物をものともせず走り抜けるアミカは、偶然にも撮影していた人間が動画をアップされ、インターネット上を騒がせることとなる。
その年の流行語大賞にもノミネートされることになる謎の美人の獣人コスプレ、略して「美獣」まとめがインターネット上で活況となるのはこの日から。
ここから1カ月にも及ぶ「美獣」目撃情報スレの更新と、アミカの逃走生活が始まる。
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