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その6 破綻

「ゴーレム・キィックゥゥゥゥ!」


 ゴーレムの片足を伸ばし、反対側の足を、伸ばした方の足の膝あたりで三角形を作る。

 目標は巨大なクスノキ。巨大すぎて自重を支えられず、木組みで支えられている。8つの巨大な枝を8方向に広げており、まるでヒドラのようだ。


 キーン。


 しかしながら、キックはクスノキの上方で、きれいな高音の澄みわたる音色とともに弾かれる。一瞬の輝きの中に、魔法による魔法障壁が形勢されているのが明らかに見て取れる。


「うっそ! 堅!」


 姿勢を崩したゴーレムからすかさず離れ、ふわりと着地する少女。


 どどーん。


ゴーレムは地面に激突した


「仕方ないわね。術者を殺すかなぁ~」


 クスノキの周りを等間隔に取り囲む術者達。

 その数32名。

 物理障壁、魔法障壁をそれぞれに展開している。

 ゴーレムの衝突や墜落と、大きな音や衝撃があったと思われるが、どの術者も少女の方を向いていない。

 護衛として周辺6カ所に、各3名ずつ付けられている兵のみ少女を冷静に観察している。

 ヒジ国の精鋭が用いる3人に一組の戦闘集団。

 一人が刀、一人が短弓、一人が術師。

 術師はシガ国独特の魔法発動方式で準備をしているのが明らかだ。

 シガ国の術師と言われる魔法使い集団は、事前にいくつもの魔法陣を事前に展開し、「印」とよばれる特殊な手の指の組み合わせで発動させる。どんな事態にも対応できるように指をリラックスさせている。

短弓の所持者も弓を準備し、刀持ちも柄に手を添え、いつでも抜刀できる格好で、少女の様子をうかがっている。


「ゴォォォレムゥ!」


 少女が大きな声で呼ぶと、墜落していたゴーレムが動こうとする。

 同時に、少女から見てクスノキと反対側からは、槍を手にした兵たちが走ってやってくる。

 挟撃の形になるが、少女に怯えた気配はない。


「面倒ねぇ、みんな死んじゃう?」


 ゴーレムを呼び寄せる間に、何かの魔法を詠唱する少女。

 少女の周りに、膨大な十数本の氷の矢が作られる。

 そして右手を振ると、走ってくる兵に半分、術者に半分の氷の矢が向かう。

 術者に向かった氷の矢は、各術師にあっさり魔法の壁で防がれる。

 一方で、走ってきた槍兵たちは、魔法を使えないのか、思わず、足を止めて防御の姿勢をとる。

 しかし、氷の矢は兵に届く前に、地面から突然生えた木によって全て受け止められる。

 なぜか木は氷の矢と全く同じ数だけ生え、1本の木につき、1つの氷の矢を丁寧に受け止めていた。

 氷の矢が木に捉えられ、形を崩すと同時に、2人の大男が、飛び出して少女の前に立つ。

 時を同じくして、クスノキの前には大公が上空から着地する。


「お二方! おさがり下され! ここは私が!」


 最後に来た大公が大声で2人を制する。


「術者は我が民、我が民は、吾が守る」

「まぁまぁ、ミウラ殿、けちけちするな、俺にも少しは楽しませてくれよ」

「し、しかし!」

「うわっ・・・面倒くさっ」


 かわいい唇で悪態をつくと、腰につけた短い杖を手に持つ。


「うーん、こっちからかな」

「きゃ!」


 少女が掻き消えると、獅子王とカゲンの後ろから悲鳴があがる。


「な!」

「ん?」


 2人が振り返ると、うずくまるエルフの女王と杖の少女。


「はははっ! もろ~い、仕返しよ!」


 先ほどの木の魔法で氷の矢を防いだ人物を特定していたらしい。

 従者であろうエルフが、すぐさま体を張ってエルフの女王と少女の間に割って入る。

 少女はあっさり数歩引く。


「空間転移か!」

「ばかな! 単身での空間転移など!」


 獅子王とカゲンが援護に向かう。

 一方で、ルーシ国の老魔法使いが、エルフや自分と少女の間に防御魔法を展開する。

 獅子王が巨大な槌を少女に向かって打ち下ろす。


「きゃはっ! 可憐な少女に容赦ないわねぇ」


 地面が割れそうな一撃をふわりと避けたところに、カゲンの剣が横なぎに振われる。

 すると、再び、少女の姿が掻き消えたと思うと、カゲンの真後ろに出現し、杖でカゲンの後頭部を殴る。


「痛!」

「うわ、堅!」


 瞬時に立ち直ったカゲンは、振り向きざまに剣をふるう。

 獅子王は、カゲンと少女が近すぎで槌がふるえず、少女がカゲンから離れた瞬間を狙おうと構える。

 しかし、少女は再び掻き消える。


「今、当たったよね? やっぱりナイフとかの方がいいのかな。あー、面倒くさい。ジリ貧じゃん!」


 最初の位置に戻った少女が悪態をつく。


「面妖な技を・・・三方から同時に参りましょう!」


 大公が大声を出す。


「承知した」

「了解だ!」


 獅子王とカゲンが、大公と正三角形を形成する位置に移動する。


「さすがに面倒ね・・・」


 呼び寄せたゴーレムによじ登った少女がつぶやく。

 そのとき、クスノキを中心に、ダイヤモンドダストのような数々の微かな光が明滅を始める。


「始まっちゃったじゃない! しょうがないわねぇ、ゴーレム、自爆!」


 ゴーレムから奇妙な音が発生し、関節から光が漏れ始める。


「まずいぞ! 障壁で防御を!」


 どっかーん!


 大爆発。

 ゴーレムを中心にクレーター上の窪みができる。

 魔法障壁、物理障壁にも影響がでる。

 外側に展開されていた物理障壁は半円状に破壊され、物理障壁を展開していた術者を、その前に健気に防御の陣を形作っていた3人組の護衛とともに吹き飛ばす。

 物理障壁が破壊された円形の部分からの土砂などが魔法障壁を展開していた術者を襲う。

 それぞれの魔法障壁を展開していた術者が自らの判断で、とっさに簡易の物理障壁を展開するが、自分とその周辺を守る程度しか展開できずに、結果として木に被害がおよび、大枝を揺らし、小枝が吹き飛ぶ。


「どこに行った!」

「あそこだ!」


 練度が高い兵たちは、すかさず追撃を警戒して、少女を捜すが、少女は爆発の勢いで空を飛び、そのまま海上へと逃避していた。

 来た時よりもはるかに小さいゴーレムにしがみつき、なんとか水面に着水したあと、そのまま逃走に入る。


「あっちゃぁ~、結局、ゴーレム壊しただけだったじゃん! ちくしょう、怒られちゃうよぉ~、やばいねぇ。ちょっと、帰りにくいねぇ、あんな奴らが出てくるとおもわなかったよ、くそがっ! 覚えてろよ!」


 詩でも朗読していそうな顔で、悪態をつきながら、全力で街を離れていった。


「見事な逃げ足だな」

「大公! 追撃するか?」


 獅子王とカゲンが大公に尋ねるが、首を横に振る。


「兵に任せましょう。それより千年楠に被害がでております。よろしければ儀式の確認に戻りたいと存じます」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 術式の成功率を高めるために、千年楠に対して、防御の意味としての外向きに展開した魔法障壁に加え、微細な魔力の流れや影響をも排除するため、内向きにも魔法諸壁を展開してる。

 そのためだろう魔力の流れが大変静か。

 この空間にいる、自分と姉との魔力。

 そして木に通う魔力も、いつもよりも身近に感じられる。

 そういえば、星が昼に見えないのは太陽が明るすぎるためであり、月が明るくないほうが、小さな星まで見えると聞いたことがある。

 星を観察する趣味はないが、きっとそれと同じではないだろうか。

 しばらくするとエルフたちが苦労して扉を開いてくれたのが、すぐにわかる。


「いくね」


 ライラが静かに言葉を放つと、長い詠唱に入る。

 魔水銀によって、あらかじめ魔法陣のほとんどは記載されているが、微細な部分まで均等に魔力を通す必要があり、なおかつエルフの開いた扉と接続しなければならない。

 アミカの腰の小袋には数々の魔法具が収められている。

 世界樹の苗。

 竜青水晶。

 言語を翻訳する首飾り。

 どんな文字でも訳してくれる片眼鏡。

 もちろん相棒のコーレムも一緒だ。

 この小袋には、1つにつき1しか入らないが、なぜか大きなものでも入れることができて便利だ。

 他にも、純度の高い魔石、使い勝手のよい金属類、保存のきくたくさん食料。

 送り出してくれる皆の思いや、友人、知人、そしてしらない人々の未来もきっと詰まっている。

 子孫の人に会えるかな。

 どんな人かな。

 魔法が受け継がれているといいな。

 そう思うと、体が浮いた。

 足の裏側を棒で押されたかのようにすっと上に浮く間隔。

 でも見えている光景は同じ。

 感覚器官は移動を検知。

 そして魔法の動きとしては扉が近づいてくるのがわかる。

 入ってくる情報がバラバラすぎて困るので目を閉じることにする。

 扉をくぐり抜けて、どこまでも上昇していく。

 なんか体がバラバラに溶けてしまいそうな気持に抵抗する。

 魔力がどんどん体から抜け落ちていくよう。

 寒い。

 寒い。

 寒い。

 長い。

 寒い。

 そう思うと、姉の魔力を感じた。

 きっと自分の魔力を魔法陣を通して送ってくれたのだろう。

 他人への魔力の受け渡しなど不可能。

 双子ならではの能力

 心も温まる。

 そこに物理的な振動を感じる。

 足元がぐらぐらすると同時に、目指していた方向から自分がそれていくのが分かる。

 なんとかそちらに行きたいと願うが打つ手がない。

 次の瞬間、目を閉じているはずなのに、目の前が真っ白になった。


読んでいただきありがとうございます。

GWにはアミカ編は終了予定です。

お気に入り頂ければブクマや評価をいただけると嬉しいです。

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