ハルキ、二試合目
夜。
車の通る音もしない。
テレビもない。
スマホも携帯ゲームもない。
ドアの隙間から、階下の談笑の声が聞こえる。
魔法を学ぶのに理想的な世界。
ハルキは自室で余りある魔力を使い練習をする。
明日は試合。
相手は格上。
全力を尽くすだけ。
しかしハルキの集中は、いつも通り姉によって破られる。
バタン!
ドアが勢いよく開く。
ビクッとするハルキ。
「……ねぇちゃん……もう、びっくりするだろ!」
当然、不機嫌になるハルキ。
「はるちゅん!」
「は? 何?」
「トントンして!」
「……今、練習中……」
「私、今日、試合で負けたの、電気、びりびり怖かったの……」
電撃はハルキも見た。
確かにあれは死んだかと思った。
すぐに言葉を返せないハルキ。
「はい、では、かわいそうな、モエミねぇちゃんをトントンね」
「……」
「あれれ? 昨日と一昨日、回復の魔法をかけてあげたのはだれだっけ?」
「……わかったよ」
「わかればいいのよ。そういえば、今日はいいの?」
モエミが言っているのは回復の魔法のこと。
言われて気が付く。
今日は倒れるほどのダメージを受けていない。
確実に、成果が上がっている。
「あ、うん、今日は大丈夫」
「じゃ、トントンね」
甘えっこ属性全開のモエミ。
(他の家の姉ちゃんもこんなのかな、今度、聞いてみようかな……聞けるわけないか)
ベットの上に身を投げ出して、背中トントンを要求するモエミ。
「さあ、トントンよ……トントンは? トントン!」
「いきます、いきます」
溜息とともに、弟の責務を果たしにいくハルキだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「しかし姐さん! 今日のはすごかったすね!」
「然り、何時の間に電撃系魔法の精密制御を習得されたのか。吾輩にも伝授していただきたい」
「やっぱ、姐さん、強いです……」
「きゃはは、黒こげにしちゃえばよかったのにぃ」
いつもよりにぎやかなピーコックの部屋。
置かれている環境から、部屋には私物があまりないのが当然ではあるが、それでも5人はさすがにやや手狭感がある。
「手加減……したわけじゃないのよねぇ」
怪訝そうなピーコック。
「どちらかと言うと「ああ、やっちゃった」って感じだんたんだけど」
ちょっとニヤリとして語る。
「きゃははは、やっちゃえばよかったのに。警察いないから捕まんないよ」
「ヒナ、言い過ぎ!」
ヒナの暴言に釘をさすルナ。
「電撃系は射程が短いというより、発生後のコントロールが困難なのは周知の事実。従って、近接してから、あるいは上方から下方への発動が適切と理解している。今回の状況では、空気よりも人体のほうが電気が通るのは事実。それをどのように行えば、電気を支配下におけるのか開示していただけると嬉しいのだが。ふっふっふ。これができれば炎雷魔法とも呼べる魔法を扱えるのです!」
話が進むにつれ興奮気味になるクロウ。
きっと病気的にマスターしたい魔法なのだろう。
「やっぱり心配しなくていいってことだぜ、ピーコックの姐さん。手も足も出なかったし。やっぱ初心者だぜ」
ウルフがにやにや笑う。
「そのまえにヒナ、やっちゃいなさいよ~」
「きゃはははは、やっちゃう? やっちゃう?」
会話の中で、一人浮かない顔のピーコック。
「でも、どうやったのか、覚えてないのよね~」
「あ、わかったぜ。きっと天才ってことだぜ」
「うーん、もう一度やったらわかるのでは?」
「きゃははは、じゃ、負けたルナが実験台ね!」
「いやよ! そんなの! 失敗したら黒焦げじゃん!」
「きゃははは、大丈夫だって!」
はっと、顔を上げるピーコック。
「そうね……もう一度やってみるのが早いかな……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、本日の最初の試合、今日は女子からです。それぞれ昨日、勝利した選手である、エリカ選手とモエミ選手の対戦です。ホークさん、どう見ます?」
「うむ、エリカの大魔法は見事だった。一方、モエミはまだ日が浅い。それに今日は水場ステージ。やはりエリカに一日の長があると見る。エリカの勝利だろう」
今日もフェニックスの司会に、ホークの解説。
「なるほど。エリカ選手の魔法にどれだけモエミ選手が耐えられるかが焦点のようですね。まもなく試合開始です」
ハルキは、モエミがきっとこのトーナメントで優勝すると信じていた。
理由は、ハルキが姉は努力家だと知っているからだ。
学校のテストでもテスト勉強を計画的に行う。
ちなみに塾には行っていない。
それは不必要に拘束され、自分の点数を上げるための勉強ができないかららしい。
中学校のベスト10に常に入りつつ、なおかつ唯一、塾通いしていないということで、教員からは不思議がられているらしい。
ただ、その理由は簡単。
徹底した時間管理。
あれだけインターネット対戦の色塗りバトルをやろうとも、どれだけアニメを見ようとも、いくら巨大なモンスターをみんなで狩りに行こうとも、どんなにマンガを読もうとも、必ずテストの結果を残す形で、両親の介入を防いでいる。
その姉がすべてを封印され、魔法のみを学んでいる。
全力で魔法に注力している。
上達は早いはずだ。
カーン。
ゴングが鳴る。
すぐに双方、魔法の行使。
水の壁と氷の壁。
続いて。
水撃と氷撃の壮絶な打ち合い。
両者とも、足を止めまま、ひたすら打ち合う。
「「「おぉぉぉぉぉ」」」
「すごい弾数!」
「展開はや!」
お互いの攻撃を、お互いの水と氷の壁で防ぐ。
決定打のないままに連射に次ぐ連射。
「モエミちゃんもやるねぇ!」
「お、俺を撃ってくれ!」
美人のパンダと美人のヒツジの銃撃戦。
動画にすればお金が取れそうなレベル。
「いけー」
「やれー」
「がんばれー」
ギャラリーは沸くが、あっけないかたちで幕は閉じる。
エリカの魔法力が切れたのだ。
「勝者、モエミ!」
「「「おぉぉぉぉぉ」」」
「どうでしたか、ホークさん」
「そうだな、見てのとおり、魔法力の差が出たな。持久戦に持ち込んだモエミの作戦勝ちというところか」
「なるほどですね。では2試合目、ユウ選手とハルキ選手お願いします。ホークさん次の試合はどう見ます?」
「うむ。ユウの高速移動がこのステージでも有効なら圧勝だろう」
「なるほど、では両選手、準備をお願いします」
ハルキが出ようとすると、一緒に練習する中級組に肩をたたかれ、応援される。
「ハルキ、いけよ!」
「そうそう、練習の成果を見せろよ!」
「ファイトだぞ!」
「勝利を!」
「ありがとう」
ユウは、先に水場に入っている。
水場ステージは、水上というわけではない。
砂地に数センチから10センチ程度の水が張ってある大きな水たまりという感じだ。
場所によっては、砂地が水から出ている。
このあたりは水が沸いてくる地点であり、水はきれいだ。
ここから隣の沼ステージに水が流れ込む。
水や砂に足を取られるので、考えておかなれば、素早い動きができない。
しかし、ここは魔法が使える世界。
どんな手段があるが未知数だ。
「準備はいいか?」
今日も審判はタイガーだ。
カーン。
ゴングが鳴る。
ハルキが鎧を生成していると、ユウが余裕を持ってハルキに声をかける。
メガネをくいっとあげて、恰好をつけて宣言する。
「ふっふっふ、一番最初に言っておこう、貴様では、俺に勝てない!」
「……あの、一番も最初も同じ意味ではないですか?」
微妙な空気が流れる。
空気を読まずに続けるユウ。
「ふっふっふ、貴様では役不足だな、ま、せいぜい、あがくがいい」
鎧を作り終わったハルキは言い返す。
「役不足は、実力があって役のほうが不足しているという意味。それを言うなら、力不足では?」
「……いくぞ!」
さすがに空気に耐えられず突進してくるユウ。
昨日に続き、凄いスピードだ。
右、左と一歩づつ加速していく。
接近し、ラリアット。
とりあえずかわす。
「これからだ!」
再び高速接近、キック。
かわす。
また高速接近、ラリアット。
かわす。
「はえー!」
「またよけだぞ!」
「なかなか、いい試合じゃん!」
さらに幾度かの交差。
(……これくらいのスピードなら……)
ハルキの目が慣れる。
(ウサギ師匠の連携のほうが上だな)
黒ウサギとの特訓は3匹と行う。
スピードはユウのほうが上だろうが、ハルキにとって、動きが単純に思える。
丁寧にカウンターを合わせる。
ドギャッ!
水の上を、派手に回転しながらふっとぶユウ。
「「「おぉぉぉぉぉ」」」
ユウに走り寄るタイガー。
追撃をさせないように割って入るオウル。
タイガーが立ち上がって手を交差させる。
「勝者ハルキ!」
「おぉ、また勝った!」
「やるじゃん!」
中級者組が走ってくる。
全員とハイタッチ。
「さて、これで本日の試合は終了です。タイガーさん、今日は2試合とも予想をはずしましたね」
「う、うむ、二人とも訓練の賜物である。それだけ努力しているのである。みんなも研鑽してほしい」
「明日はがんばって当ててください」
「いや、解説者であって、予想しているわけでは……」
「では、また、明日~、さ、片づけ、片づけ」
ホークはやっぱり、フェニックスに弱かった。
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