モエミ、明日に備える
ハルキが3匹の黒ウサギと戯れているのと同じ頃。
同じ林の中ではあるが、ハルキがいる林とは城を挟んで反対側。
先ほどまで1回戦が行われていた場所で、2人の少女が魔法の練習をしていた。
「今日からはここで特訓ですか?」
「そーよー、だって城の中じゃ、大規模な魔法が使えないし、特に火魔法使うと、城が痛むって姫にいわれるのよ~」
「じゃ、今日は火魔法ですか?」
「そうよ~。それにここは城から死角だから見えないし」
「木がたくさんありますからね」
(やっぱり、魔法障壁は教えてくれない……ま、別口で習うけど。きっと、フェニックスさんならではの魔法を教えてくれているのだと解釈しよう)
「そう言えば、今日の電撃、あれはやばかったねぇ、モエミちゃん、死んだかと思ったよ」
「私もです」
「電撃系の魔法って、射程が短いし、コントロールが難しいのに」
「いや、難しいとかではなく、命の問題です」
「そうよねぇ、生きててよかったね」
「……きっと、心を折りにきたんだと思います」
「心?」
「ええ、私に勝負を挑んでも、あなたの技術じゃ勝てないよっていう、わたしの技術はここまですごいのよっていうアピールだと思います」
「……偶然じゃない?」
「はひ? 偶然?」
「あんなに器用に電撃の魔法、使ってなかった気がする」
「えぇぇぇぇ、では、本当に殺されるところだったと?」
目をぱちくりさせるモエミ。
「私は丸焼きのヒツジを幻視したわ」
「冗談になってないです」
「でも、無傷って出来すぎよね?」
「そうなんですよ! 凄い制御です」
「確かに、偶然で無傷はあり得ないか……でも、本人も驚いてなかった?」
「私にはドヤ顔に見えましたが?」
「そう?」
納得できないフェニックス。
「勝てるんですかぇ……」
「ふふふ、あきらめたらそこで試合終了ですよ」
あのセリフに喜ぶモエミ。
「あ! やりますねぇ! あー私も言ってみたい!」
「ふふふ、とりあえず始めるわよ!」
「その前にすみません、電撃系の魔法ってどうやって誘導するんですか?」
「あんまり誘導できないわよ。すごい魔力とかがあればマンガみたいに目的に向かって一直線だけど、途中に電気の通しやすいものとかがあると、避雷針のような感じでまがっちゃうのよ」
「火の玉ならちゃんと誘導できますけど?」
「電気よ!? 光の速さよ!? 発動時に全部決めてないと、誘導なんて無理。もしかして先に空気をイオン化するとか……」
「あ、ごめんなさい、やっぱりいいです」
「難しいことがわかった?」
「はい」
ちょっとドヤ顔のフェニックス。
「ま、では今日のお題に入りましょう」
「はい」
「では、火魔法といいながら、火魔法はないってのはOK?」
「OKです」
「風を操って燃焼物を運び、振動魔法で発火温度まで上昇させる」
小袋を手に持ち、魔法を行使する。
小さな火の玉が空中に向かって放たれる。
「OK?」
「OKです」
「では問題です。燃えるのにもう一つ必要なものは?」
「……酸素」
「さすがね! 単に振動で発火させるのではなく、酸素を送り込む術式を組み込むとこうなる」
小さな青い火の玉だ。
青い火の玉というが、いわゆる墓場で出てきそうなものではなく、ガスバーナーの火を彷彿とさせる。
ゴォッという、いかにも凶悪な効果音もついてくる。
「うわ……なるほど」
「空気ではなく、酸素を操る。ちょっと高度」
「えっと、では水素を使うとすごいんじゃないですか?」
モエミが思い付きを口に出す。
「あー、やってみたわ、それ」
「……というと?」
両手を腰にあてて再びドヤ顔のフェニックス。
「水素って空気中の含有量が少ないから、集めるのに時間がかかって、話にならなかったわ!」
「……残念です」
「それでね、酸素を集める術式だけど……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
モエミが城に戻るとハルナに捕まる。
「もう、モエミ、捜したんだから……」
「あ、ごめんね、ちょっと秘密の練習してて……」
「うふふ、そりゃそうよね……ちょっと一緒に来て」
モエミがハルナに拉致される。
つれて来られたのは3階の練習室のはじっこ。
ミコトとエリカがいる。
「あ、モエミちゃんいたみたいね」
「どこいってたのよ! 探したんだから!」
「ごめんなさい。でも、プールはちょっと待ってくれるとうれしいです」
「そんなわけないでしょ」
笑いながらエリカが立ち上がる。
「今日はありがとう。明日は戦うことになるけどよろしくね」
「はい、がんばりましょう」
エリカが持っていた2枚の板を手渡す。
「これ、魔法障壁の魔法陣。そしてこっちが、遠距離攻撃を防ぐ魔法陣。明日は、わたし、両方で攻撃します。明日までに覚えてね」
「え?」
「私も明日、勝ちたい。来て数日の子の追いつかれるとか、ちょっと悔しい。でも、モエミには感謝しているの。だから頑張って覚えていい勝負をしましょう。それにね」
一度、エリカとミコトの方を向いてから言葉をつなぐ。
「例えこの2つを使わずに明日、私に勝てても、入れ替え戦で、今日のようにピーコックさんに負けるわ。明日、私は本気であなたを倒しにいく。モエミちゃんの前に立ちふさがること。これは私があなたにできるお礼。負けないわよ」
「……ありがとう」
「明後日は、私だからね! 私も本気でやっちゃうわよ!」
「わかったわよ、ミコト」
「うふふ、さっそくやってみてよ」
「OK!」
モエミがさっそく魔法陣に魔力を通す。
モエミの横に半透明の魔法障壁が形成される。
「え……1回?」
「うふふ、凄い才能」
「やるじゃない!」
「あ、ありがとう。でも、今夜、魔法陣を覚えないと、明日使えないよね?」
「そ、そうよね、覚えてね」
「ええ」
「うふふ、じゃ、次、こっちだけど、これはわかりにくいから、私が先にやってあげる」
ハルナが詠唱する。
『プロテクション・フロム・ミサイルズ』
「ん?」
「うふふ、わかんないでしょ?」
「……」
「モエミ! ちょっと離れるのよ!」
「ええ」
モエミがハルナと距離を取る。
ハルナもモエミと逆方向に動いてから、立ち止まる。
「ちょっと、ハルナを見ながら左右に動いてみて」
エリカが口を挟む。
「……ええ、……あ!」
ハルナは動いていないのに、動いたように見える。
遠近感がおかしい。
「うふふ、わかった?」
「物理的な攻撃を防ぐなら、物理的な盾か鎧が必要。オウルさんのようなフローテイング・アイス・シールドはちょっと上級。私たちが使うなら、自分の周りの空気と光に干渉して、屈折率を若干かえるこの魔法が有効なのよね。当らないわけじゃないけど、当てにくそうでしょ」
エリカが詳しく説明する。
「なるほど。それでハリウッド映画みたいに打ち合うのに、なかなか当たらないのね。みんなこれを使ってるんだ」
(これもフェニックスさん、教えてくれてない)
「モエミちゃんならできる!」
「ありがとう」
夕食のチャイムが鳴る。
長い一日はまだ終わらない。
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