ハルキ、姉の試合を見学する
ハルナは周りの子と比べて身長が高い。
体つきも女性らしいというより、スポーツマンのそれだ。
薙刀を携え立つ姿は凛々しく見える。
おもむろに動き出す。
(ハルナさん、カッケ―!)
ハルキが感じたことはみんな感じたようだ。
「すげぇ~」
「こえ~」
「迫力あるぅ!」
一つ、一つの動作が流れるように次の動作につながるかと思えば、ピタッと止めるべきところは止める。
(型だ。経験者だね)
ハルキも空手をしていたのでわかる。
演武で見せる型をやっているに違いない。
(そういえば、近所の高校では薙刀を体育でやるって聞いたような気がする)
ぐるんぐるんと薙刀を振り回し、そして裂ぱくの気合とともに、振り下ろすハルナ。
「「「あ!」」」
(姉ちゃん、死んだ?)
立っているのがモエミであるにもかかわらず、モエミが死んだと錯覚するような気合。
なぜかハルナが尻餅をついている。
そしてハルナが手を挙げる。
「まいりました~」
「「「えぇぇぇぇぇ~」」」
オウルの勝利者宣告にもかかわらずザワザワしはじめる。
「え、今のなに?」
「モエミちゃん、何したの?」
「カウンター?」
「もしかして、やらせ?」
「きゃはははは」
フェニックスが場を収めようとマイクを手にする。
「今の試合は、モエミ選手の勝利です。えっと、それで……」
口ごもるフェニックスから、マイクを取り上げ、姫が話し出す。
「みんな、モエミちゃんの魔法見たいよね?」
小声になるギャラリー。
「そりゃみたいけど……」
「そういえば、試合ってみたことないよね」
「どんな魔法使うんだろ」
姫はマイクから口を離し、「ここはイエーイとか言うところよ」と周りを煽る。
「えっと、やりなおし、みんな、モエミちゃんの魔法見たいよね?」
「「「イエーイ」」」
「じゃ、仕方ないかな。今から、えきびじしょん……なんだっけ? そう、それ、エキシビションマッチを開催します。モエミちゃんよろしくぅ!」
モエミがこっちを向いて、微笑み、手を振り返す。
「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」
(うぁ、大事じゃん)
姫が仕切る。
「では、誰とやってもらいましょうか? えっと、サイコロで決めましょう。いつもの部屋番号で、6なら私ということで!」
姫がサイコロを振る。
サイコロは高い軌道を描き、幾度か地面を跳ね、4を示す。
「てい! あ、これって……てへ、ピーコックさんよろしくぅ!」
「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」
ギャラリーが会話を始める。
「実質的な入れ替え戦?」
「確か、前、モエミちゃん勝ったよね?」
「まぐれじゃね?」
「俺、それ、見てないし」
フェニックスがマイクを奪い返す。
「すぐでいいよね? じゃ、ピーコックさん準備して!」
ピーコックが歩をすすめる。
今日もピーコックは魔法使いの格好。
待つモエミはヒツジのコスプレ。
二人は対峙するが、悪い魔法使いにイジメられるヒツジさんの構図。
「悪い魔法使いに戦いを挑むヒツジなり」
「エキシビションマッチってなんだよ」
「よくわかんねぇけど、あれじゃね? 練習試合ってやつ?」
「勝ち負けなしの公開試合ってやつだよ」
「きゃはははは、負けちゃえ!」
「ごめんね、モエミちゃん!」
不穏な声もある中、試合が開始される。
ヒツジは風をまとい、魔法使いは魔法をかける。
目には見えないが、ハルキにはわかる。
魔法が魔法使いから放たれ、ヒツジがそれを打ち抜いている。
シューティングゲームのようだ。
「おぉ、モエミちゃん、よく防ぐ」
「よく見えないけど、けっこうすごい攻防じゃね?」
「インターセプトしてるよね!」
「魔法陣破壊してるよ?」
一見、地味に見えるが激しい攻防。
手を休めると、にっこり微笑み、高笑いする魔法使い。
「うふふふふ、じゃこれはどう?」
宣言とともに、今度は目によく見えるほどの濃密な魔力が放たれる。
「てい!」
迎撃するヒツジ。
「うふふふう、うふふふ、あははははははは」
突然笑い出す魔法使い。
「本当、面白いわね! ……で?」
魔法使いの声に、戸惑うヒツジ。
「氷撃、水撃、石、なんでもいいわよ。あなたからも何かしなさいよ」
言葉を重ねる魔法使い。
「あなた、人に対して、怪我をさせそうな魔法を使えないんでしょ?」
勝ち誇ったような声で宣言する魔法使い。
『砂塵』
ヒツジが起こした砂を含む風は、魔法使いに簡単に防がれる。
「あなた、攻撃魔法を使えないんでしょ?」
「……」
「言いかえるわ。攻撃魔法を使いたくないんでしょう?」
「……」
「砂に落とし穴、くっついて動きを封じる土。相手を怒らせて向かってきたところを、カウンター主体で、攻撃不能に追い込むだけで、直接攻撃を行ったことがなさそうよね」
「……」
「ここがテンプレの異世界じゃなくてよかったわね。もしそうなら、今頃、死んでるわよ。いつも、テンプレ、テンプレって言ってる割には、根性ないのね」
「あっと……」
「そんなんじゃ、勝てないわよ……腹が立つ」
「……そんなつもりは」
「いい子ちゃんで、かわいい顔してても、勝てないのよ!」
魔法で攻め、言葉で攻めた魔法使い。
ギャラリーのイメージの中で、ヒツジをイジメる魔法使いから、ヒツジをイジメる悪い魔法使いに進化した。
「顔は関係ないよな」
「うわ、やつあたりじゃん」
「ひがみ?」
悪い魔法使いの心証は悪くなる一方。
「本気でいくわね!」
最後に使った多くの魔力を込めた力がヒツジを襲う。
次から次へ。
それを打ち落とすものの、対応に精一杯のヒツジ。
「あ、上」
「危ない!」
目の前の魔法陣を破壊するのに気を取られ、魔法使いが上方に大きくジャンプしたのに気づかないヒツジ。
「姉ちゃん! 上!」
ギャラリーからは見えるが、ヒツジは魔法使いを見失う。
『ライトニング』
空中の魔法使いからヒツジに向かって電撃が放たれる。
「「「あ!」」」
思わず姫、フェニックス、タイガーが驚いて立ち上がるくらいの強烈な一撃。
ヒツジの姿が、一瞬、電撃の向こうで見えなくる。
バリバリバリバリィィィィィィ!
「姉ちゃん!」
思わず駆けだすハルキ。
(やべ! もしかして死んだ?)
ところが、次の瞬間、地面に座り込んだ無傷のヒツジが手を上げる。
「こ、降参します!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
明らかに光量が落ちてく。
この世界の夜が忍び寄ってくる中、1人と3匹が林の中に存在していた。
3匹が攻め、1人は防ぐ。
長い時間続いていたのか、1人の呼吸は荒い。
もし、この場に第3者がいれば、予定調和にしたがった舞いを踊っているようにも見えたかもしれない。
それほどにも、きわどい攻防が続いていた。
(一か所ではなく、全体を見る)
ウサギが右斜め40度から飛んでくる。
避ける。
(顔を上げなければ見えない)
ウサギが真横左から飛んでくる。
右手でカウンター。
躱される。
(位置取りを考える。真後ろは見えない)
体を入れ替え、バックステップで距離を取る。
もともと斜めからの攻撃を、正面からのカウンターとして迎え撃つ。
躱される。
(熱くならない。冷静に立ち回る……あれ、1匹)
真上からの攻撃を食らってダウンするハルキ。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
疲れて立ち上がれないハルキ。
そこの3匹の黒ウサギがやってくる。
もちろん言葉は通じないが、気遣ってくれているような気がする。
「あ、あの、今日はもう限界です」
限界と言いながら、そのまま、バックを魔法で引き寄せるハルキ。
「あの、これ、今日のお礼です」
バックから3本のニンジンを取り出す。
1本づつ黒ウサギの前に置く。
そして、きちんと立ち上がると、一礼する。
「ありがとうございました!」
2匹はニンジンをほおばり出すが、一番体の大きな1匹が、空中にニンジンを投げ上げ、脚で2つに割ると、器用に半分をハルキの前に置く。
そして、残りの半分をほおばりだす。
「えっと、あの……くれるんですか?」
もちろん、黒ウサギは答えはしない。
でも、そうだと言ってくれた気がする。
ハルキはニンジンを取り、服でごしごし汚れを取ると、3匹に並んでニンジンを食べだした。
「あ、このニンジン甘いですね」
ハルキは3匹が、ニヤッと笑ったような気がした。
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頑張って、明日、次話を投稿したいです




