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エリカ(本名:蜂谷絵里加)

 Water,Aqua、水。

水は好きだ。 


物心ついたときから水に入っていた。

 何も疑うこともなく、水泳教室へ通い、スイムクラブに所属した。

 親の勧めで私学の中学を受験し、水泳部に入った。

 残念なことの小学校のときからの友人は一人もいなかったが、温水プールがあり、冬でも泳げる中学校だった。

 水に浸かっていることそのものも好きだが、自分の考えたことや工夫が、タイムに直結するということが楽しかった。


 でも、体が少しずつ女性らしくなり、筋肉をつけることに対する忌避感が芽生えると、迷いが生じたのか途端にタイムが伸びなくなった。

 肩に筋肉がつくと嫌だな。

 身長はもうちょっとほしいけど、あまりスポーツをすると伸びなくなると言う子がいる。

 どうなんだろう。

 タイムで後から水泳を始めた子に抜かれ始める。


 親がタイムのチェックをする。

 腕立て伏せをしなさいと言う。

 水泳の本を読めと言う。

 ゴムチューブをひっぱりなさいと言う。

 動画を見なさいと言う。

 体幹を鍛えなさいと言う。


 Shit!


 うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。


 悶々とする日々。

 相談できる友達はいなかった。


 そんな中で召喚された。

 初めは泣いた。

 部屋から出なかった。

 しばらくたって、プールで泳がなくていいと気が付いたときに、なぜか安心した自分が嫌いで、何かをやりたくなって部屋から出た。

 みんなは優しかった。

 水の魔法と相性がいいのは最初から気づいていた。

 なんという皮肉だろう。

 でも自分の考えたことや工夫が、成果に直結するということが楽しかった。

 楽しい日々だった。


 友達もできた。

 ミコトとハルナ。

 ミコトはちょっと怒りっぽくて気分やなところがあるが、裏表がなく、いつも一生懸命な子だ。

 ハルナは背が高く、いつもにこにこしており、普段は大動物を想起させるが、体のバネはすさまじく、いざとなると肉食獣のような動きに変わる。

 3人で相談しながら魔法の練習をする。

 上達する日々。

 楽しい日々。


 そんな中であの2人が召喚された。

 九条さんと燕さん、大神さん兄弟に続き、3例目の2人同時召喚。

ルナとヒナ。

 いとも簡単に魔法を習得し、喜々として人に向けて魔法を放つ2人。

 水泳で追いつかれ、追い越されていったのに、魔法でも追いつかれ、追い越されていくのだろうか。

 必死で魔法の練習をした。


Damn  it!


 でも2人は優れていた。

 魔法もだが驚愕すべきは動体視力だ。

 多分、ソフトボールかなにかをやっていたに違いない。

 まるでノックを受けるようなスタイルで左右に魔法を避ける。

 ルナは変化の魔法を打ち返す。

 当てる前に当てられる。


「無様ね」


Damn  it!



 ヒナは近寄ってきたかと思うと電撃を放つ。

 当てる前に当てられる。


「きゃははは、楽勝」 


Damn  it!


 すぐに勝てなくなった。

追尾型の魔法をマスターして対策したが、ミットでボールを受けるように、手に顕現させた盾の魔法で簡単に防がれる。

 当てる前に当てられる。


 Shit!


 また追い抜かれた。

 一撃必殺の魔法を習得したが、詠唱が長く、実戦では使い物にならなかった。

 当てる前に当てられる。

 再び悶々とする日々。


Damn  it!


 そんな中での3人同時召喚。

 異例中の異例。

 田沼さんの反応は今まで召喚された子と似たような感じだが、モエミとハルキの反応は異色。

 まるで召喚されることが日常の一部であったかのようにこの世界に適応し、魔法を習得し、上達していく。

 魔力量にはびっくりしたが、私はその順応力が少しうらやましかった。


 モエミに話しかけたのは打算だった。

 ルナとヒナにモエミが加わると取り返しがつかない気がしたからかもしれない。

 モエミは真面目で熱心だ。

 追いつかれ追い越されていくのか。

 ちょっと嫉妬した。

 でも、天然でおっちょこちょいで、謙虚。

 憎めない。

 みんながいやがることも、必要であれば行う。

 心が強い。

 ちびっこたちの面倒をよくみる。

 やさしい。


 気が付くとアドバイスしている自分。

 アンビバレンツ。


 その子がルナとヒナに勝ったらしい。

 私が勝てなかったルナとヒナ。

 また追いつかれ追い越されていく。

 やっぱりちょっと嫉妬した。

 チョコレートを分けてくれたが、気分は晴れない。


 そして今日。

 トーナメントの初戦はルナ。

 ずっと負けてる相手。


「大丈夫、エリカ? 顔色、悪いわよ?」


 ミコトが心配して声をかける。


「……No ploblem.大丈夫よ」


 微笑もうとするが顔がひきつる。

 また負けるのが怖い。

 笑うってどうするんだったか思い出せない。


「大丈夫じゃなさそうね。モエミにアドバイスをもらおう」

「Dont' worry 、それに明日、あたるかもよ?」

「あー、もー、私が言ってあげる!」


(明日、対戦するかもしれないのに、教えてくれるわけないよ?)


 モエミとハルナはマイペースに話をしている。


「うふふ、モエミちゃん、よろしくねぇ」

「ええ、こちらこそ」


 そこに真剣な顔をしたミコトが割って入る。


「それより、エリカのヒナ対策よ、モエミ手伝って!」


 ミコトがモエミの手を取る。


「お願い、勝たせてあげたいの!」

「ええ、わかったわ」


 モエミは即答しながら、私を見る。

 微笑もうとしたがうまくできた自身はない。


(明日、対戦するかもしれないのに、協力してくれるの?)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 パンダとラッコとクマとヒツジの着ぐるみが、岩だらけの広場に集まって相談。

 どこかのほのぼの系のアニメのよう。


「話をまとめると、氷の弾で攻撃するけれども、それは避けられるか、氷の盾で弾かれるってこと?」

「Sure,きっともともとソフトボールかなんかやってるんだと思う。魔法を打ち合ってもどうしようもないの。動体視力がとにかくいいの。試合が始まると、ノックを受ける時みないな姿勢になって、左右によけるのよ。追尾型だけは氷の盾で防ぐけど。で、その間に変化魔法をかけられる。変化魔法は見えない。何回かは我慢できるけど、最後は何かに変化させられてギブアップってことかな。」

「我慢……何回ぐらいは耐えられるの?」

「Maybe,3回くらいかな」

「うーん、ゲームでいうところのレジスト? 魔力耐性が削られるって感じ?」


(午後から試合があるのはこの子も同じ。なんでこんなに一生懸命してくれるんだろう)


「変化魔法は魔力をバンって感じでぶつけると壊れるよ」


 モエミが元気よく告げる。


「I see,but 私は見えないのよ。ルナの魔法の特徴は魔法陣が小さいこと。全く見えないこともある。それができれば苦労してない」

「あ、ごめん。でも、あの子の魔法はまっすぐ飛んでくるだけだよ?」

「What?」

「全部そうだった」

「そう……なんだ」

「あ、でも、見えないならぶつけられないか……」

「え? まっすぐ来るなら魔法障壁があるわ!」


 ミコトが突然立ち上がって元気よく、思い付きを離す。


(ミコトもがんばって考えてくれる。がんばらなきゃ)


「魔法障壁?」


 首をかしげるモエミ。


「「「え?」」」

「モエミ、知らないの!」

「うふふ、中級者だと基礎だよ?」

「Realy? 習ってない?」


 怪訝そうな顔をするモエミ。


「もしかして、基礎すぎて、教えてもらってないのかも!」

「うふふ、まだ来てから1週間経ってないものね」

「えっと、それってどんな魔法?」

「要は魔法の盾。魔法のみしか防げないけど、使える魔法よ!」

「?」

「石とか氷とかはだめだけど、相手に直接掛ける系の魔法は防げるの!」

「うふふ、変化魔法とか、相手を重くするとか……」

「物理現象として顕現したものは駄目だけど、魔法という形なら防げるということね……ミコトは今日試合ないよね?」

「ないけど……わかった、やってみてってことね!」

「頼める?」

「楽勝よ!」


『プロテクション・フロム・マジック』


 ミコトが魔法を唱える。

 透明度の高めのガラスのようなものが形成される。


「あ! 見たことある。フェニックスさんがピーコックさんと戦った時に使ってたやつだ」

「うふふ、そうだよ~」


 モエミが難しい顔をする。


「本当に教えてもらってないわ。後で教えてね」

「もちろん!」

「それで、どのくらい防げるの?」

「1つの魔法だけだよ!」

「同時展開できる?」

「同時展開?」

「あっと、うーんと、2回唱えるとどうなる?」

「場所をずらして2枚張れるよ」

「じゃ、今の出てるやつの手前にお願い」

「らじゃ!」


 2枚目の障壁が張られる。

 モエミが軽く石を投げる。

 通り抜ける。

 

「ふーん……、変化の魔法をかけるね、えっと……」


『ポリモーフ・アザーズ』


 モエミが変化魔法を唱える。


(あれ? いつも詠唱は日本語じゃなかったかな?)


 障壁にぶつかった魔法陣が消滅する。

 2枚目は影響なし。


(今から、試合があるのに、魔力を使っていいの?)


「なるほどね……それで、聞きにくいんだけど、エリカちゃん、ルナをやっつけるのには氷撃一択?」


(私のために?)


「ん? エリカちゃん?」

「ごめん……えっと、それがね。悔しくて、ウルフさんにお願いして、すっごいのを覚えたのだけれども、詠唱にまだ時間がかかるのと、水が近くにないと詠唱後も発現までかなり時間がかかって……」

「それがきまれば勝てる?」

「Maybe」

「うふふ、あれはすごいよ。でも、戦闘中にはねぇ」

「先にやられちゃうのよ!」


 思案顔のモエミ。


「ルナの変化魔法で言うと、何回分くらいの時間がかかる?」

「詠唱が終わるまでなら3回……かな」

「うふふ、あとは、ステージ次第だよね。水のステージならいけるけど。それ以外だと、水が集まる前にやられちゃうよね」

「水かぁ……今日の試合の順番は?」

「いつも通りだと、男子から!」

「では3試合目ね。水を大量に使う子はいないわね」

「? Maybe」


 モエミが木の棒を拾って3人の前に立つ。

 木の上の部分を右手でつまむ。


「成果を得るには、努力が必要」


 右手で棒の下をつまみ、棒を水平にする。


「つまり成果に見合うだけの努力をしないと」


 右手を離す。

 棒は左手を支点にして反対側に振れ、水平になったところで棒を止める。


「成果を得られない」


 ちょっとイラっとする。


「……努力をしてないわけじゃ……」

「あ、ごめん、言い方が悪かったね。私はその努力には準備が含まれていると思うの」

「準備?」

「その魔法で使う水の量はどれくらい?」


 顔を見合わせる3人。


「Umm、城の掃除で使うバケツで3杯くらい……かな」

「じゃ、1人1杯づつ運んで5カ所くらいだね! がんばろう!」

「「「え?」」」


 固まる3人。


「さて、作戦はこうよ」


 モエミが木の棒で地面に絵を書く。


「魔力量からいうと、そのとっておきの魔法を含めると、魔法障壁はいくついける?」

「うーん、4つ? 3つ?」

「では、先に、3つ連続で魔法障壁を自分の正面に展開。そしてすぐに大技。魔法障壁とあなたの我慢が耐えられるより前に、大技が決まれば勝ち。水を事前にばらまいておけば、水を集める時間が節約できて発動が早くなるはず。どう?」

「氷撃は使わないので」

「ええ」

「うふふ、水……事前に撒いていいのかな?」

「ダメってルールある?」

「うふふ、……ないね」

「もし、実戦なら、自分の得意なフィールドに持ち込むことも戦いのうちでしょ?」

「まぁ、そうだ……ね!」

「じゃ、いいじゃん、ま、こっそりやろうかね」


(5カ所? 5カ所ってことは……)


 同じことを考えていたのかハルナが尋ねる。


「うふふ、もしかして、5カ所って、どこのステージになってもいいようにするってこと?」

「あたりまえよ、準備が大切! どう? エリカ?」

「……ルナの魔法は直線でしか飛んでこないなら……」

「多分、今回はそうだと思う。昨日はそうだったわ」


(魔法で水を集めてからというのが考えたことがあったけど、これは思いつかなかった。でも)


「あの、ハルナもモエミも試合だよね? 復習とか……」


 モエミとハルナが顔を見合わせる。


「ルナが上がってくるごうがイヤだし」

「うふふ、1回戦で倒しといてよ」

「わかったわ。冷静に考えて、この作戦なら勝てそう……。わたし、魔法の復習していいかな」

「わかった。じゃ、バケツを取りに行くわよ」


 水を運ぶラッコとクマとヒツジ。

 ほのぼのした風景に思えるが、行っていることは戦闘の事前準備。

 戦いを行う場所の近くで、観客席にならなそうなところ、且つ、目立たないところに撒く。

 最寄りの蛇口か、もしくは池から運ぶ。

 距離があまりないのでそんなに時間はかからない。

 砂ステージでは、水をまいたのが目立たないように、上から砂をかける。

 岩場ステージではなるべく近くの窪みに水を貯める。

 そうこうしているうちに水場ステージ以外の5つのステージに水を撒き終わる。


「どう? いけそう?」

「もちろん。みんなありがとう。ここまでしてもらったら勝つしかないわ」

「うふふ、モエミ、怖い。友達でよかった」

「そうそう、敵に回したくないわ!」

「こら!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ルナと対峙する。

 怖い。

 でも、みんなに重い水まで運ばせて、無様な試合はしたくない。

 位置的に、ルナの周辺に水を撒いたことになる。

 発動は早いはず。

 あとは打ち合わせの手順通りやるだけだ。


 カーン。

 ゴングが鳴る。


 最初に魔法障壁を展開する。

 左手を振るのはいつもの癖だ。

 作戦どおり、3つ展開すると、大技の詠唱に入る。


『我は請い願う。水の精霊よ、その力の一辺を……』


 最初は集中する。


 魔法障壁が一つくだける。

 モエミの言った通り、まっすぐきた。


『その揮える偉大な腕で彼の者を……』


 対象をルナに設置し、魔法陣を描き終わり、起動の魔力を流す、手が動くのは癖だ。

 2つ目の魔法障壁がくだける。


 触手で絡みとるイメージ。

 魔法陣への魔力の本格注入。

 水が簡単に集まってくるのがわかる。

 下準備のおかげ。

 3つ目の魔法障壁がくだけるが、魔法に必要な水は十分だ。


『Water Tentacles』


 魔法行使の最後のキーとなる言葉を唱える。

 水の触手が地面から伸びて、犬の着ぐるみを着たヒナをとらえる。

 そして締め付ける。


(このまま勝てるわ。全て、モエミの想定通り)


 苦悶の表情のヒナ。

 オウルがレフリーストップをかける。

 試合終了。

 勝利。


 勝った。

 勝ってしまった。

 本当に勝ってしまった。

 あれだけ勝てなかったのに。

 どうしても勝てなかったのに。


 そうか、追い越されても、追い越し返せばいいんだ。

 抜かれても、抜き返せばいいんだ。

 それだけのことだったんだ。


 振り返るとハルナとモエミが抱き合って喜んでいる。

 ミコトもガッツポーズだ!

 3人が走ってくる。

 みんなよろこんでくれている。


「ちっ、1回勝ったくらいで……」


 ルナが悪態をつきながら観客席に帰る。


「やったね。ハメ技だね!」

「うふふ、勝利」

「おめでとう!」


 そこにフェニックスの放送。


「よろこんでいるところ悪いけど、次の試合の準備があるから、そこの4人、一度戻って~」


 4人で観客席に帰る。

 オウルとタイガーが水浸しになったあたりの水を集めて飛ばしている。

 フェニックスが出て行って、火魔法で乾かしている。


「ありゃりゃ、大事だね」


 モエミが他人事のように感想を言う。

 面白い子だ。

 変な子だ。


 なぜか突然、思いついたことを、モエミに言ってみることにする。


「ねぇ、モエミ、水泳部だったよね?」

「そうよ?」


 頭にクエスションマークがくっついてそうな顔のモエミ。


「私もなのよ」

「そうなんだ! いっしょなんだ!」


 今度はイクスクラメーションマークがくっついている。


やっぱり天然だ。

 よし言ってしまおう。


「あのね、私、なんだか久しぶりに泳ぎたくなっちゃった」

「おぉ! じゃ、プール作る?」

「うふふ、プール、いいね」

「もちろん温水で!」


今なら、少しいいタイムが出せそうな気がする。


おきにいりいただければ

ブクマや評価をいただけると嬉しいです



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