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モエミ、試合う

 モエミが小石を投げる。

 白い壁は、赤い幾何学模様をまとって弾き返す。


(物理攻撃、魔法攻撃のいずれもはじき返す魔法。これはほしい!)


 手に石を持つ。

 静かに壁にあてる。

 何も起こらない。

 そのまま静かに力を込める。

 赤い幾何学模様。


(何か起こった時に発動するんじゃなくて、常時、発動していて、何か起こった時に赤くなるということかな)


 見る。

 観測する。

 分析する。

 推測する。


(自然現象ではない。誰かが作った仕組みだわ。でも、誰かが作ったものなら)


 石をぽいっと壁に放り出すモエミ。

 赤い幾何学模様。


(所詮、同じ人間が作ったものならば、私も同じ人間として理解できないわけがない。絶対にものにしてやる)


 小石を拾う。

 投げる。

 赤い幾何学模様。

 分析する。

 推論する。

 観測する。

 解析する。

 推考する。

 端倪する。

 推察する。


(そういえば、どうやって破ってたかしら)


 アニメの1シーンを思い出し、ほんの思い付きで壁に両手をあてるモエミ。

 そこからおもむろに手の甲と甲と併せ、指先に力を込め、そこにある何かに手を差し入れ、それをこじ開ける動作を一度思い浮かべた後、まるでそこに僅かに開いた扉を左右に開けるような動作をする。


(何かの手ごたえがある?)


 そこに何らかの気配を感じる。

 顔のすぐ横の壁に石があたり、壁が幾何学模様を描く。

 振り返るとピーコックとヒナがいた。

 位置から察するに、少し前から観察されていたらしい。


「あら、石投げ遊びかしら~」


 次の石を拾おうとしているヒナ。また投げるつもりだ。


「田沼さ~ん!」


 反対側からはスパローの声。

 奇しくも、北東ペアと北西ペアが到着したのは、ほぼ同時だった。


「スパローさん……」


 立ち上がって、スパローに向かう田沼。


「田沼さん」


 田沼と最も仲がよいスパローが現れたのは、田沼にとって嬉しいようで、また泣き始める。


「一緒に帰ろうね」


 田沼を抱きしめるスパロー。

 ここだけはいい光景。

 その横ではいやな光景。


「……ここに集合するようなルールにはなっていない」


 3組が集まると、オウルが告げる。


「あら~、回り方が逆だったかしらね~」

「ヒナちゃんが……あの、その。方向というか、道に迷って……」


 それぞれ言い訳するピーコックとスパロー。


「ねぇねぇ、あんたってさ、どんな魔法使うの?」

「きゃははは、中級っていうけど、早くない? 魔法使うの見たことないんだけどさ」

「いやぁ、まぁ」


 ルナ、ヒナのコンビはモエミに絡む。


「……そろそろ動こうかと思っていたところだけど、2組ともここに来たのなら、回り道をして帰る意味がない。まっすぐ帰るがどうする」

「あ、一緒に帰りましょう。ねぇ、田沼さん」

「は、はい」


 すかさず田沼を慰めながら答えるスパロー。


「それしかなわねぇ。でも、遊びたがってる子達がいるみたいよ」


 モエミ、ルナ、ヒナを見やるピーコック。


「モエミとあたしは休憩が終わった。先に出発する」

「あら~、つれないですわ。一緒に帰りましょうよ」


 抵抗するオウルと微笑むピーコック。


「疲れてないのなら、練習試合なんてどうかしら、ねぇ、ルナ、ヒナ」

「やりたいやりたーい」

「きゃはははは、いいじゃん、減るもんじゃないし」

「あ、でも」


 爆弾発言をするモエミ。


「入れ替え戦であたるかもしれないピーコックさんの前で、魔法を使うのはちょっと……」


 沈黙。


「……私はみんなの前で試合してるわよ」


 怒りを抑えながらピーコックが反論する。


「はい。いつも参考にさせていただいてますわ~」


 にこやかに微笑みかえすモエミ。


「……」


 ことばが続かないピーコック。


「じゃぁさー、じゃぁさー、先に帰ってればいいじゃん」

「きゃはは、そうそう、3人で練習してから帰るよ」


 はっと気が付くピーコック。


「そうね。それがよいわ~。私がいるとできないなら、仕方ありませんわ~。のんびり先に帰ってますから、3人でどうぞ~」

「いや、モエミ、帰ろう」


 助け舟を出すオウル。

 スパローと田沼は空気が読めず見守っている。


「いやいや、練習しちゃおうよぉ~」

「きゃはは、いいじゃん、優しくするからさぁ~」

「えっと……」


 今度はモエミが口ごもる。


「はいはい、いってらっしゃ~い」

「きゃはは、後で追っかけるねぇ」

「じゃ、いきましょうか」


 スパローと田沼を促すピーコック。


「あ、えっと、えっと」

「……」


 スパローと田沼は連れて行かれる。


「オウルさんも行くわよ~」

「あ、でも…」

「あ……、オウルさん、大丈夫です。練習してかえりますよ」

「そ、そう……モエミがそう言うなら」


 オウルは何度も振り向きながらも、ピーコック達について行く。

 取り残されるモエミ。

 上機嫌なルナ、ヒナ。


「じゃ、どっちからやる?」

「きゃはは、ジャンケンしようか?」

「ジャンケン、いいよ~」


 盛り上がるルナとヒナ。


「あ、場所はここでいい?」


 突然、話を振られるモエミ。


「そうね。少し、離れましょうか」


 歩いて離れるモエミ。


「きゃははは、勝った、あたしからねぇ~」

「いやん、つまんない。残しといてよ~」

「あの」

「「ん?」」

「二人一緒でどうぞ」

「「は!?」」


 さっきまで青ざめていた顔をしていたモエミが微笑んで言う。

 空気が変わる。


「あの4人が見えなくなったら、試合開始。OK?」


 モエミの雰囲気も口調も突然変わる。


「なにが「OK?」よ、二人相手に勝てると思ってんの?」

「きゃはは、この子、面白いぃぃぃぃぃ。バカじゃない?」

「……バカって、自分より頭の悪い相手に使うのよ?」

「「はあっ!」」


 見るからに怒り狂うルナ、ヒナ。


(多分、一度逃げるといやなタイプ。その後、嵩にかかってくる。若干、情報が漏れても迎撃がベター。つまり逃げるは悪手)


「準備はいいかな?」

「はぁ? こっちのセリフだ!」

「きゃはは、やっちゃうよー、ねぇ、やっちゃっていいよねぇ」


(可能な限り情報を与えず、なおかつ、実験しつつ、実戦を行う)


「じゃ、この石が地面に着いたら開始ね~」

「はぁ? 話が違うじゃん」

「きゃはは、せっかち~」


 4人は小さな砂山を越える所。

 そこから先は下り坂。

 ほどなく視界から消える。

 モエミは石を上に投げる。

 石は放物線を描き、3人の中心に落ちる。

 砂の上に落ちた石は、そのまま砂に半ば埋まる。

 同時に詠唱を始めるルナ。

 突っ込んでくるヒナ。


『砂塵』


 モエミは短く詠唱する。

 フェニックスゆずりの短い日本語の詠唱。

 単なる砂交じりの風。

 しかしながら、目つぶしには十分。

 ルナは顔しかめてなんとかしのぐが、突っ込んできたヒナはまともにくらう。


「いやっ、目が、ぺっ」


 目と口に砂が入ったヒナが怯む。

 ルナの魔法は継続。

 情報通りならば、ルナの得意は変化の魔法。ヒナの得意は電気の魔法。

 つまり二人合わせて、想定ピーコック戦。

 負けるわけにはいかない。

 ルナの魔法が飛んでくるのがわかる。

 魔法を認知できるのがチートかと思ったが、オウルさんも認知できるらしい。

 もっとも、そんな貧相なのがもらうべきチートならば、残念だが。

 飛んでくる魔法に対して、風と石を当てるが素通り。

 情報通り。

 単なる魔力を集めて固めてぶつける。

 消滅できる。

 情報通り。


「え? 消した?」


 驚くルナ。

 発動前の魔法であれば圧縮したに魔力をぶつけて吹き飛ばせば、結果、魔方陣を崩したことになり、魔法の効力を消滅させる。これはそんなに難易度の高い情報ではないはず。

 単なる勉強不足だろう。

 そこに接近してくるヒナ。

 

(本当は他にも試したいんだけど、準備がねぇ)


『流砂』


 地面に手をあてて詠唱するモエミ。

 崩れるヒナの足元。

 距離をあけるモエミ。

 砂に飲み込まれながらも電撃を放つヒナ。


(砂に飲み込まれながら魔法をやめないとか根性あるね)


 電撃はモエミまで届かない。


(やっぱり、電気系の魔法は射程が短いわね)


 下半身が埋まったままもがくヒナ。

 そこにルナの次の魔法がくる。

 対魔法消滅。


「もっと強いのがいいわ!」


 挑発するモエミ。


「くそがっ! くらいな!」


 前よりもはっきりと強い魔力を感じる何か。

 対魔法消滅。


「うそ……」


 下半身が埋まったまま、ポケットから何かを取り出し、詠唱を始めるヒナ。


「現時点で認識する範囲で言うと」


 火の魔法が放たれる。


「小袋系の小道具を使うのは火魔法」


 風が巻き上がる。


「そして火魔法は」


 火が風にあおられ巻き上がる。


「風に弱い」


 あっけにとられる2人。


「終わり?」


 舞い上がった砂がパラパラと落ちてくる。

 思わず、一歩下がるルナ。

 動けないヒナは焦る。


「じゃぁ、私のターンでいいかしら」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「きゃぁぁぁぁぁ」


 悲鳴が聞こえる。

 うれしそうなピーコック。

 心配顔のオウル。

 不安な顔のスパローと田沼。


「「きゃぁぁぁぁ、いや、だめ、止めて」」


 大きなドラム缶のようなものが転がってくる。


「きゃぁ」

「うわ」

「…」


 大きなドラム缶……ではなく、人間を土でコーティングした円柱状の物体だった。

 端っこから、顔と手首から先、反対側からは足首から先が飛び出ている。


「ルナ! ヒナ!」


 驚くピーコック。


「と、と、とめ、とめてぇぇぇ」

「きもちわるいぃぃぃぃ」


 スピードが速く、手を出せない。

 あっという間に追い抜いていく。


「え、なに!? あ、まて」


 あわてて追いかけるピーコック。

 角度はそうでもないが、かなり長い坂道。

 きっと、木の生えているところまで止まらないだろう。

 口の端に笑みを刻んだオウルが振り返ると、モエミがスキップをしながらやってくるのが見えた。


「オペレーションウルド、ミッション、コンプリート」


 オウルは小さくつぶやいた。


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