モエミ、壁に到着する
砂山を歩く。
蔓上の植物が地面を這っているが、基本は砂。
歩きにくい。
なだらかではあるが坂道。
それもかなり長い坂道。
(なんで、異世界まできて登山しないといけないのかしら)
目的地は砂山……感覚的には砂丘の向こう。
壁が眼前に迫ってきているのがわかる。
ずいぶん前に、砂上に足跡を見つけている。
こんなところに来ている人間は一人しかしない。
足跡を追うようにオウルと歩く。
(チートももらえずに、異世界で砂山を歩くとは意味不明)
ふと立ち止まり振り返る。
このあたりがこの狭い世界で一番の高地であることがわかる。
(なんで、砂山が崩れないんだろう。雨があんまり降らないから? こんな山は登ったことがない。ま、砂丘か。砂丘は行った事ないけど)
汗をぬぐう。
熱くはないが、風もない。
(半径5kmだから直径10km。すると外周は31kmちょっとくらいか。8方向に分かれたとして、お隣さんたちが真面目に歩いたあとに、ここに来るとすれば、4kmくらいかな。本当は2kmのところを倍歩くかな。うーん。不真面目にやって2kmにしてしまうってところか。あまり時間はないわね)
「あ、いたよー」
すこし、先を歩くオウルが振り返って声をかけてくれる。
「はーい、いきまーす」
急いで登りきると、少し下りになっており、眼前に蔦の根本が見える。
待っていてくれてたオウルは壁の方を見る。
「……すごい風景ですね。遠くからみると蔦に見えましたが、巨木ですね。一番太いのは家くらいありますね。田沼さんが小さく見える」
感想を言いながら田沼を見やる。木の残骸に腰かけた田沼が見える。
「とりあえず、田沼のところに行く」
「了解しました」
リュックサックの中の水筒やおやつなどを確認しながら、オウルについて歩くモエミ。
オウルは木に腰かけ、放心しているような田沼に話しかけないまま、近寄る。
モエミもそれに従う。
音に乏しい世界に、2人の砂を踏みしめる音が響く。
やがて気づく田沼。
「あ、……あの」
突然の来訪者に戸惑う田沼。
「あ、えっと、ごめんなさい、違うんです。どうしても見たくなって……」
謝り始める田沼。自分勝手な行動をしていたことは自覚しているらしい。
「お腹へってない?」
話を聞かないオウルは、自分のリュックからお弁当を取り出す。
(あら、お弁当。いつの間に……)
「お水もあります」
疑念はさておき、水筒を差し出すモエミ。
「あ、……えっと、すみません。何から何まで」
「こういう時は、ありがとうって言うのよ」
ドヤ顔で言うオウル。
(あ、この人、このセリフ、絶対言ってみたかったパターンのやつだ!)
「あ、ありがとうございます。……あの、えっと、ここに来ても無駄だということは聞いていたんですが、どうしても見ておきたくって。それで……」
「それはいい。皆、一度はかかる病のようなものだ。空腹だろ。弁当を食え」
「はい。ありがとうございます」
涙ぐむ田沼に弁当を進めるオウル。
「あ、おいしいです」
泣きながら食べる田沼。
「みんな、帰らなくていいと思っているわけではない。ただ、帰るには魔法が必要なのは事実。みんな、心配している。食べて休んだら帰ろう」
「はい」
「……モエミ、見せておきたいものがある」
田沼にお弁当を食べさせながら、突然、モエミに話をふるオウル。
「はい? はい。なんでしょう」
モエミの返事の半ばから、氷を生成し始めるオウル。
その氷は凶悪に回転しながら、拳大になる。
「見てて」
氷の弾頭を発射する。
氷が少し離れたところに屹立している白亜の壁に衝突。
「あ!」
氷の表面に赤い幾何学模様のようなものが現れ、氷を弾く。
氷は衝撃に耐えきれず、いくつかに砕かれて散乱する。
「見てくるといい。壁は破壊できないのがこの世界のルール。出ていくには登るしかないことがわかる」
「……はい」
近寄ると壁は磁器のような光沢を放っているのがわかる。
傷一つ、ついていない。
おそるおそるさわると、さわれる。
ひんやりと冷たい。
なんの変哲もない磁器だ。
サイズさえ違わなければ、じいちゃん家の玄関口を入ったところに飾ってある、大きな壺の白いところにそっくり。
「わたしもやってみていいですか?」
「弾き返されるから気を付けて」
「はい」
少し離れ小さな氷を生成して放つ。
赤い何かが現れ弾き返される。
「これは……」
気が付くと近くにいるオウル。
「わたしはATフィールドって呼んでる」
「ATフィールド……」
「そう、あぶそりゅーとてらーふぃーるど。」
「自分と他者を隔てる壁ですか」
さすがモエミわかってるじゃないという顔で、口のはしでほほ笑むオウル。
「攻撃を受けたときだけ発生するんですか?」
「どうやらそのようなの。そして、絶対に傷つかない」
「もう少し調べていいですか」
「もちろん」
「それと」
「何?」
会話の内容から、田沼のところに戻ろうとしたオウルを引き留める。
「教えてほしい魔法があります」
「……ということは、あいつらの「攻め」を、ここで「受け」るの?」
「はい。ここがベストです」
(「攻め」の反対を「受け」にするのやめてほしいな……。腐り始めてますよオウルさん)
オウルに話を合わせつつ、違うことを考えているモエミ。
「あなたのことだから、勝算はあるんでしょ?」
「ええ、オペレーションウルドを開始します」
モエミの言葉に、嬉しそうにほほ笑むオウルだった。
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