ハルキ、なぜか特訓させられる
「私は、モエミさんと組みたいですわ!」
場がシーンとなる。
ホークが再び、フェニックスの顔を見る。
フェニックスは困り顔。
ホークが近寄り、フェニックスと相談していると、ピーコックが続ける。
「あらら、モエミさんは今日から中級者クラスなんでしょ? 捜索は4階組と中級者が組んで、なおかつ4階組の指名で行うのが例じゃなくて? 何か問題があるのかしら」
「いや、問題ではないが……」
「だったら、そういうことで」
「はい」
そこにオウルが手を上げる。
「あたしがモエミを連れてく」
「……オウルさん、早い者勝ちでは?」
「そんなルールない」
「いや、でも……」
「あたしの部屋番号は2」
「そんな横暴な」
「モエミは初心者。より上位の者と組む方が、全体として安定する」
「……わかりました」
オウルの強弁に渋々引き下がるピーコック。
場がザワザワとし始める。
小声で会話するオーディエンス。
姉を見やると、できるだけ表情に出さないようにしているのだろうが、ホッとした様子。
「……あ、じゃ、そういうことで」
あまり役に立っていないホークだが、場を取りまとめしようとする。
「では続ける。俺はハルキを連れていく」
「え、僕ですか?」
思わず声を上げるハルキ。
「ああ、平均をとるのがいいということなので、そうする。ほか、希望は……」
次々にペアが決まる。
「では、方角については、正面の南側は俺がいく。反対の北側は、オウルさんにお願いする。他、希望がなければ……」
方角も次々決まる。8ペアなので8方向だ。南北東西と、それぞれその中間で全部で8方向。
北部に女性が集中する。北のオウル・モエミのペア、北東のピーコック・ルナのペア、北西のスパロー・ヒナのペア。なぜか復活するルナ・ヒナ。ハルキは意味がわからない。女の子は不思議な生き物だ。ホークが追及しないものを気にしても仕方がない。
「一応、念のために、連絡用の魔石を渡しておく。貴重品なので万が一の場合しか使わないように、中級者が持っててくれ。にっちもさっちもいかないときに、魔力を込めて、空中に向けて投げること。フェニックスが助けに行く」
「ま、魔石!?」
思わず、口走るモエミ。
(あ、姉ちゃん、喜んでる……)
フェニックスが、ペアに選ばれた中級者に魔石と携行食という名のおやつと水筒を配る。魔石は赤黒いガラス素材からできたきれいな石だ。
モエミがハルキをつつきながら小声で話しかける。
「魔石だよ。転生ものの定番だよ。やっぱり魔物からとるのかな。魔物いないっていってたのに……あ、これ、角ウサギの角じゃない?」
「……わかんないけど……角みたいなやつを削ったら、こんな形かな」
「ハルキ、がんばれよ!」
「そうそう、ハルキ、死ぬなよ!」
「なんだよ、それ」
マナトとジョーが励ましてくれる。
「行ったらわかるよ」
「そうそう、探索という名の特訓だよ」
「ジョー、バラしすぎ」
中途半端な情報しかくれない二人は、それぞれのペアの元へと向かう。
「どうして、水の魔法があるのに、水筒を配るのかな?」
「……知らないよ、僕、ホークさんの所にいくね」
思案顔のモエミをおいて、ホークの元に参じるハルキ。
「お、もらったか?」
「はい」
「荷物はこのリュックサックに入れろ。両手が使えるのが好ましい」
周りを見渡しながらホークが声を大きくする。
「では、準備ができたら各自出発してくれ。いつも通り、北側に行く班は、発見の可能性が高いのでそれなりに注意してくれ。あと邪魔だからといって、やみくもに木を焼き払ったり、広範囲にぶっ飛ばしたりするのは、やめてくれ。木々も重要な資源ということを忘れないように。では出発!」
要領がわからないハルキはホークについていく。アウトドア大好きの父親に、太陽から方角の検討をつける方法を教わっているが、この世界では通用しない。城の正面が南側といったいたので、それを信じるしかない。
城の扉を出ると、まっすぐ歩くホーク。
「あの、南ってこっちなんですね」
「そうだ、城の大扉の正面が南ということになっている」
「なるほど」
うなずきながら、前を見るハルキ。いつも魔法を練習しているグラウンドの向こうには、鬱蒼とした林が広がっている。今の位置から見ると、道のようなものは見えない。無言で歩き続けると、グラウンドが終わり、林の広がる位置までくる。
「では、せっかくなので、魔法の練習をしながら進むことにする。ここから先は道がないので、これを使う」
ホークが魔方陣を出す。小さなものだ。
「これは自分の足の裏に圧縮空気によるばねみたいなものを作りだす魔方陣だ。こうなる」
ホークが魔方陣に魔力を込め、一度ジャンプする。
着地しようかとする瞬間に、大きく1メートルくらい跳ね上がって、そして着地する。
「すげぇっす!」
口の端でにやりと笑うホーク。
「一応、着地のときのクッションも一つの魔法として組んである。そしてこっちは、自分の靴を、次に接触した物体の上に固定する魔法だ」
言いながら、一歩一歩、足場のない木を、まるで梯子を上るかのように上がっていくホーク。
「おぉ、すげぇっす!」
口の端でにやりと笑うホーク。
「では」
といいながら、じゃらじゃらと魔方陣をだす。
「これが両足ジャンプ1回用、両足ジャンプ2回用、両足ジャンプ3回用、こっちが右足ジャンプ1回用、左足ジャンプ1回用、右足ジャンプ1回から左足ジャンプ1回用、左足ジャンプ1回から右足ジャンプ1回用、で、左・左・右の3回用、左・右・左の3回用、両足固定用、右足固定用、左足固定用、右手固定用、左手固定用、右足ジャンプで左足着地でそのまま固定、左足ジャンプで右足着地でそのまま固定。とりあえずこれくらいかな。少し練習するか」
「……は、はい。ぜひ練習させてください」
ハルキが周辺を見渡すと、南東組、南西組が比較的近くで、魔法を使わずに林に分け入ろうとしているのが見て取れる。いや、もしかしたら最小限の何かの魔法は使っているのかもしれないが。
(なるほど、探索という名の特訓とはこういうことか)
ハルキは手をみる。
(これは好都合ということにして、前向きにやってやろうじゃん!)
「それでは、いきます! あ、でも……」
「なんだ?」
「あの、練習しててもいいんですか? 早く見つけないと……」
「ああ、大丈夫だ、たぶん北側で見つかる」
「……あの、どうして、北側で見つけることが多いんですか?」
とりあえず両足ジャンプの魔法を試しながら質問するハルキ。
「お、うまいな。お前なら、帰りたいとして、どっちに向かう?」
「えっと……」
ぴょんぴょんしながらあたりを見回す。
「本当に帰ることを一度も考えてなかったのか? お前も姉も不思議な人種だな。ま、いいか。では、今ならどう考える」
再びびょんびょんする。
南側は木があり見えないが、ここから見える限り、壁に張り付いている蔦が一番大きいのが北側であることに気付く。そして、北側は少しだけ高くなっている。
「あ」
「気づいたか。みんな上から落ちてきた。帰るなら上だろう。そこに少しでも近づこうとするなら、少しでも高く、そして少しでも足場がよさそうな場所を選びたくなるものだろう。今回は女の子が行方不明だから、女性陣を北側に固めたのもそういう意図だ」
俺様、ちゃんと考えてるだろう的な、わずかにドヤが顔のホーク。
「なるほどです。さすがです」
ちゃんと一言添えるハルキ。こういうことは姉に鍛えられている。
「いやいや、お前もすごいぞ。これが出来たら出発するぞ」
ホークは、飛び上がると、木の枝の上に乗る。
「ジャンプの台にするのは、あくまで幹の部分だぞ。調子にのって、枝でジャンプすると、枝が折れる」
「えっと、もうちょっと待ってください! あ、でも」
「?」
「それなら、姫に最初から北側に集中してミツバチで見てもらえばいいんじゃないですか?」
「あー、そのとおりだが、遠くの景色をミツバチで見るのはかなり疲れるということなので、それはちょっと頼みにくい……」
「……いらんことを言いましたすみません」
ハルキはとりあえず集中して練習することにした。
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