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モエミ、血の代償

「まったくなんなのよ! あの小娘!」


 ピーコックが両手を机にたたきつける。飲み物を置こうとしていたクロウがピクリと眉を顰める。クロウが紅茶に関しては、いろいろと長くなることを知っているウルフが懐柔に入る。


「まぁ、まぁ姐さん、そう怒らずに!」

「小娘と評するが、そんなに年齢は変わらないのでは?」

「うっさいわね! まさかあんな手段に出るとは」

「……同意する。驚愕に値する」

「本当、むっかつくわね、そこまでして、部屋がほしいのかしら!」

「いや、でも、ぶっちゃけ、すげーですわ」

「まさか、姫以外で、ウサギを捌ける女性が現れるとは、我が邪眼でも見抜けなかった」

「そうだよね、ぶっちゃけかっこよかったな」

「手際も悪くないと理解する」

「ベアが冗談だろうけど、誰かに捌かせてみようみたいに言ったときは、内心、びびったぜ。俺がやらされるんじゃないかって。そこに「私にやらせてください」って、まっすぐ手を上げて出てきたときは、俺は心底びっくりしたぜ!」

「しかり、吾輩も作業工程を思慮すると動揺していた。貴殿に激しく同意する」

「弟は黒い三連星にのされて使いもんにならなかったけど、完全に場をのんだよな」

「黒い三連星は仕方がない。初心者でなくとも苦戦は必至」

「あんたたち、どっちの味方なの」

「「姐さんです!」」

「あたしゃ、2階に落ちたくないよ! わかってんなら協力しなよ!」

「「もちろんです!」」


 紅茶をすするピーコック。甘くなかったのか蜂蜜を追加する。


「あの、おまけの子はどうなの? ほっといて大丈夫なの?」

「おまけって、ハルキっすか? 覚えるのは早いけど、まだまだだぜ!? カズ、ジョー、マナトあたりのほうが、まだまだ全然、上手だぜ」

「実戦経験が不足している。上達はしているのは認めるが、バトルでは素人」

「知らないよぉ、あたしのこと、バカにしていると、自分が足元すくわれるよ~」


 意趣返しをするピーコック。


「まさか」

「話にならぬ」

「……ま、いいわ。とにかく今日の件で、姫の小娘に対する評価はうなぎのぼりよ。入れ替え戦で出てくるのは必至よ。あんたたちも対策考えてよ!」

「対策って、まだ、あんまし魔法使えてないじゃん」

「初心者に毛が生えたに過ぎない。警戒過剰では?」

「よく、考えてみると、魔力があるってだけで、魔法なんかつかったけ?」

「ハルキと同様、実戦に使用できる魔法なぞ皆無では?」

「……ま、いわれてみりゃ、そうだけどさ」


 ちょっと機嫌が直るピーコック。再度、紅茶に蜂蜜をたらし、ゆっくりとかき混ぜ、スプーンを置いて、一口すする。

 クロウは蜂蜜の量に眉を顰める。


「あったかいわね……そうよね、入れ替え戦まであと数日よね」


 妖艶に微笑むピーコック。

 ピーコックの部屋で3人の密談が踊る。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 チャウサが案内したのは姫の部屋ではなく、初日に夕食をいただいた部屋の隣のかなり広い部屋。

 許可がなければ立ち入り禁止のゾーン。

 動物たちに見つめられながら、部屋に入ると、姫が待ち構えたようにやってきて手を握る。


「モエミちゃん。我が心の友よ!」


(フェニさん、姫に何を教えているかしら!)


「は、はい」


 心の中の自らの叫びをねじ伏せ、営業スマイル全開にして、とりあえず返事をする。


「見事に、ウサギを捌いたって聞いたわ。すばらしいわ!」

「え、はい。初めてだったんですが、何とかなりました。ベアさんの教え方がよかったんだろうと思います」

「私はね、あの、やっぱり、あれ、なんだっけ、ベアの言っていた……」


 姫が興奮して日本語が出てこない。フェニックスに助けを求める。


「……キャッチ アンド イート?」


(さすがは、フェニさん。ナイス通訳)


「そう、それ、キャッチ アンド イート。捕まえたら、きちんと食べる。それが命をいただくということ。それが生きるってこと。生命の基本なのよ! それを最近の若い子とくれば……」


(いやいや、姫、何歳っすか?)と心の中で突っ込むモエミ。


「やっぱり、自分の食べるものくらいは、基本的には自分で捌けないとだめだと思うの。ここの子たちは、どうも抵抗があるみたい」


 フェニックスを振り返る姫。

 目をそらすフェニックス。


「どんな暮らしだったかしらないけど、人族も貴族じゃないと、そんな年まで捌いたことないって、想像もつかないわ。ベアやホーク、男の子は、教えれば大丈夫な子もいるけど、女の子はからっきし。その点、モエミちゃんは素晴らしいわ。ドルイドにぴったり」


(うわ、また知らない単語。つっこみどころ満載なんすけど)


「ところで、ハルキ君の具合はどう?」

「ええ、大丈夫です。大事を取って部屋で寝かせてます」

「えっと、あなたたちの言うところの、たちどころに体を癒す魔法っていうのはないのよ。少しばかり怪我を早く治す程度の魔法ならあるけど、皆さんの言う治癒……回復の魔法かな? それは伝説の世界の技なのよ。ごめんね」

「いえいえ、姫が悪いわけではありません。きっと、直ぐによくなります。小さいころから空手をやってまして、今もスポ少でバスケットボールをやってて、あー見えて、丈夫なはずですから」

「俺からも謝らせてくれ。注意が足りなかった。まさか、黒ウサギどもが、畑の近くに潜んでいるとは」


 後にいたホークが話に入ってくる。


「普通はいないんですか?」

「あの3羽は頭がいい。普段は城から遠くにいて、時折、畑を荒らして、またどこかに行ってしまうのだ。昼間に畑の近くにいることなぞ、初めてだ」

「では、仕方ないですよ」

「畑組は遭遇戦をやらかしたことがあるが、追い込み猟で、あいつらに出会うのは初めてでな」

「今後は、追い込み猟のときも、注意を呼びかけるようにするね」


 フェニックスも謝る。


「だから、いいですよ。大丈夫です」


(あーでも、異世界に来て、ウサギにやられたら、わたしならショックで寝込むけどね……)


「大丈夫?」

「あ、大丈夫です」


 微笑んでごまかすモエミ。


「そこでね、内緒なんだけどね」


 フェニックスとホークを一度振り返る姫。


「早く中級者クラスにあがってこない?」

「中級者……ですか?」

「……どうしたの? 中級者は嫌?」

「いえ、そういうわけでは……」


(こ、ここですか? ウサギの処理して抜擢とか、テンプレじゃないわよ! 意味不明)


「難しい顔をしてるわよ」

「あ、いや、ちょっと、びっくりして」


(まさか、テンプレじゃないからとか言えないわねぇ)


「私では力不足では?」

「そんなことないわ。それに」


 姫がフェニックスに目配せをする。フェニックスが、複雑な魔法陣を描いた紙を持ってくる。


「とっとと、中級者に入って一番苦労するのが上達にはよいと思うの」

「とっとと……ですか?」


(やはり、学習している日本語に偏りがある)


「人間、追い詰められないとダメだと思うの。しっかり、対人戦で経験を積んだ方がいいわ。わたしの勘では、あなたは、きっと追い詰められて力を発揮するタイプよ。まぁ、二人には最初反対されたんだけどね~」


 フェニックスが話に入る。


「そうなんですけど、姫の言う通り、モエミちゃんのひたむきさというか、館張りというか、取り組み姿勢は、きっと中級者組みにいい影響を与えると思うのよ」


 ホークも言葉を重ねる。


「うむ、あいつら、最近、よろしくない。好きな魔法、それも攻撃系の魔法しか練習しない。ちょっと目を離すと、碌なことをしない。空気を変えてほしい」

「やっぱり、力不足ですよ」


 二人に言われながらも謙遜するモエミ。


「そこでね、もうちょっとフェニックスちゃんに、しっかり魔法を教えてもらえるようにするから。私は、そういう魔法は本当はあんまり得意じゃないから、ごめんね」


(あれで、得意じゃないって意味不明)


「わたしじゃだめかな」


 身長で上回るモエミに対し、上目遣いで訴えるフェニックス。


(わたしが、ホークさんだったら、イチコロだね)


「いえ、そんなわけでは……できる限りということであれば、頑張りますけど、それでよろしいのなら」


 フェニックスの家庭教師という条件は悪くないと踏み、妥協するモエミ。


「本当? あのね、対人戦では、相手の魔法をどう、防ぐかということなの。それを、伝授するわ」

「ありがとうございます。私からも、一つお願いが……」

「いいわよ、なあに?」

「ハルキが調子を取り戻したら、ハルキにも教えていただければと」


 ホークが姫の前にでる。


「黒い3連星を相手に一歩も引き下がらなかったあいつの根性は、今日、よくわかったつもりだ。姫、俺からもお願いしたい。それに、前向きに真面目に取り組もうとする姿勢がいい。」


 意外なところからの援護射撃。

 姫とフェニックスは、一度、顔を見合わせるが、すぐに姫はモエミに目を戻した。


「ええ、いいわよ、期待の2人にしかるべき環境を整えてあげるわというか、整えてあげて」

「ありがとうございます」

「うふふふふ、では、さっそく始めるわよ」

「あ、でも、特別授業は内緒だからね~」


 モエミは少し緊張する。


「ところで、ここは?」

「ここは、姫の魔法の実験室なのよ」


(そうか、ここは姫用の魔法の実験室なんだ)


 今さらながら見渡すと、端のほうに、あやしい何かがおかれたテーブルや袋の数々、読めない言葉で注釈がつけられた大きな城の図面がはってあったりする。

 ふと、手を見る。もちろん、もう血はついていない。


(ウサギを注文するのではなく、ウサギを御馳走にしてしまった。ウサギさん、ごめんなさい。でも、これが代償というなら、代償として見合うだけの成果をいただくだけのこと。あなたの命は無駄にしないわ)


 今まで見た中で、もっとも魔法っぽい部屋の中で、姫とトップ2人という豪華な顔ぶれの個人レッスンが開始される。


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