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モエミ、悪意のある昼休み

「えっと、みなさん、続けることはとっても大事です。どうして国語の勉強をしないのに、言葉がしゃべれるのか知ってますか? それは、毎日使っているからです。毎日毎日がやることが大事です。10日に1度、10時間勉強するより、毎日1時間勉強した方がよいのです。継続は力なり。それでは今日もがんばりましょう」



 どことなく眠そうな姫が朝礼を行う。今日は、中華風。そういえば、そういう話もあったなと、見て思い出した。


「あれ、フェニさんは?」


 早くも名前を省略して言っていたが、誰も咎めない。


「あぁ、あいつは畑の片づけに行ってる。ここまでが罰だ」


「そうですか」



 中華風の服を着たホークが答えてくれた。


「その割には……」

「あのバカ、こういうことだけは手を抜かん。早起きしたなら先に片づけに行けばいいものを、しっかり待ち伏せして、人の服に変化魔法をかけていきやがった」



 いやいや、ちょっと嬉しそうですがホークさん。

 ちらほらと中華風の服を着ている人がいる。


「まぁ、これ系の服は、なぜか割と人気があるから、今日は不意打ちでもあまり文句がでないとふんだか、それとも、昨日の贖罪か……」

「服の変化魔法って難しいんですか?」

「内容によるが、服全体への変化を1日中持続させるのは、なかなか高度だと思う」


「……魔力の無駄使いでは?」

「ははは、あれはあれで楽しんでやっている。人に迷惑をかけない範囲ならよいのではないかな」


「すみません。言い過ぎました」


「いやいや、俺もフェニックスの本当の得意魔法は物体に対する変化魔法じゃないかなと思う。どうしてあんなに火の魔法にこだわるのかな。確かに火の魔法もすごいのだが物体変化魔法の方がもっとすごい気がする」


「まぁ、フェニックスといえば、火魔法ですものねー」


「火の鳥だからな」


「いやいや、魔法少女アミカです」


「……ん、何の話だ?」


 しまった、アニメの話をしてしまったと、内心焦るモエミ。


「あ、いや、流行ったじゃないですか。前にアニメで。その中にフェニックスという火の魔法使いが出てくるんですよ」


「ああ、アニメの名前は聞いたことがあるが、見たことはないな」


「私もないですけれども、その中で、フェニックスという女の子が「かわいいは正義」っていうらしいんです。フェニさん、言うでしょ?」


 ちょっと嘘を混ぜるモエミ。


「そういえば、言うかな」


「もしかして、それのレスペクトじゃないですか?」

「そうなのかな。ま、そのアニメ見たことないから何とも言えんが」


「……ですよねー」



 ちょっと、オタバレ危機を感じて、あせって多弁になってしまったモエミ。反省する。


「あ、では、私、練習に入りますんで」


「あぁ、……。あのモエミさん。あの……。よろしければ、その話、あとでいいのでもうちょっと聞きたいのだが」


「へ!? ホークさん、そういうの好きなんですか」


「あ、いや、そういうわけではないんだが……」


 ここで、直感的に悟るモエミ。


「そういうわけですか。いいですよ。練習が終わった後で」


「そ、そういうわけとはどういうわけ……。ま、では、後で頼む」



 ホーク逃走。


(いいわねぇ、若いって。……練習しよっと)


 姫も早々に自室に引き上げたようだ。午前中は、姫、フェニックス、ホークのトップ3が不在となる中で、この世界に来て4日、3回目の午前中の魔法の特訓を続ける。

 初級クラスは見るからにして、モエミより年下ばかり。同じ年くらいの子は、みんな中級者クラスなのだが、今日は2トップが不在のためか、外に行かず、中にいる中級者がいる。最近、ハルキにくっついているマナトとジョーだけでなく、女子も3人来ていた。

 モエミは人間関係の構築を模索することにした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 昼食は終わったが、ホークもフェニックスも見当たらず、城の外に出るモエミ。小さい子たちが遊具であそんでいる。

 ブランコ、滑り台、ジャングルジムなど、どれも巨大で、どれも近所にあれば、ちょっとした人気スポットになりそうなくらい多彩だ。

 せっかくの昼休みだ。どうやってちみっこたちと遊んでやろうかと思案しながら眺める。

 気温は少し肌寒い程度。動き回るんにはちょうどいいと言ってよい。

 昨日の吹雪の影響か、わずかな風はある。

 遠くに白い壁。つい閉ざされた空間を意識してしまう。

 意識的にその感覚を、自ら言葉を発することで追い出す。


「よくみるとでかいね」



 ボルタリングを見つける。


「誰が作ったんだろ、やってみたいけど、この服じゃ……」


 モエミが躊躇していると、何やら騒がしくなる。

 子どもたちが逃げてくる。逃げてきた先には……。


「サル? カエル? ……トカゲ?」


 サルとカエルとトカゲが子供たちを追っかけてくる。

 咄嗟に身構えるモエミ。しかしながら若干、様子がおかしい。

 サルとカエルとトカゲの向こうから、女性が2人やってくる。


「ひゃっはっは。魔法を避ける練習だよ、はーい、しっかりよけてねー」


「ちょっと、もう、やめなさいよ」



 どうやら、動物から逃げたのではなく、その女性……ピーコックから逃げていたようだ。止めているのはスパロー。


(ちびっ子に魔法をかけて遊んでるの? ……弱いものいじめ?)


 そこにタイミング悪く田沼が入口からでてくる。


「ひゃっほー!」


 田沼はタヌキにされる。


「これはどうかな!?」


 田沼の近くにいた女の子が大きなヘビにされる。


(うわぁ最低……)


 モエミの家の家訓その3は「弱い者いじめをしない」である。ちなみに、その1は「挨拶ときちんとする」、その2は「食べ物を粗末しない」。


「しっかりよけないとー」


「ちょっと、まずいって……」

「大丈夫よ、姫は昼寝、2トップはデートでしょ!?」


 モエミが「馬鹿じゃない?」と思った瞬間、ピーコックと目がある。


「あらー、期待の新人さん。何か文句があるわけ?」

「あー、えーと」



 頭の中で警報機が鳴る。まずいぞ、これは。


「ちょっと、魔法力が多いからって、調子に乗るとダメよ~」

「いや、調子になんて……」

「あ~、じゃぁ、練習に付き合ってあげよっか!?」

「ちょっと、だめだよ」


 本気で止める気があるかどうかわからないスパロー。

 何を言っても止まらないことがわかってるんだろうか。

 危険を感じつつ、いらないことを考えてしまうモエミ。


「話、聞いてんの!」

「き、聞いてます」

「そう!? じゃ、いくよ! ダンゴムシになれ!」


 多分、魔力だろうと思われる何かが飛んでくる気がしたモエミは素早く位置を変える。


「あ!」


 たまたま直線上にいた子供が巨大なダンゴムシにされてしまう。昨日、糸遊びをやった子だ。

 ちょっとイラッとするモエミ。


「ちょっと! どういうわけ! 何すんのよ!」

「魔法を避ける練習を手伝ってるだけよ。……カバになれ!」


 走って逃げるモエミ。魔法が追っかけてくる気がする。


「きゃ」



 魔法が命中してしまった気がしたが、どうやら逸れたようで、また違う子がカバになってしまう。分数を教えてあげた子だ。


「あ……」


 心がざわざわする。

 自分が避けると他の子に被害が広がる。自分が変化させられても、あの魔法をやめるとは限らない。変化させるのには時間制限があるみたいだから、きっとそのうちもとに戻る。でも、あの意地悪な魔法は受けたくない。モエミは逡巡する。

 こてんと一人がこける。だっこしたことのある子だ。

 理不尽な行いに対する怒りが、いろんな気持ちを凌駕する。モエミはその子の前に立ちふさがった。


「あれ? おかしいわね。追尾させてるはずなんだけど」


「あの~、小さい子をいじめるとかちょっとどうなと……」



 控えめであるが、とうとう喧嘩を買うモエミ。


「あはは。うっさいわね。逃がさないわよ。いくわよー、蜘蛛になれ、蛇になれ、鳥になれ!」


 3方向から魔力と思われる何かが近づいてくる気がするが、ここに至って魔法から身を守る方法を覚えていないことに気づくモエミ。

 何かが近づく。上と左右からの圧迫感。カーブを描いている感じ。おそらくは追跡機能付き。

 圧迫感に向けて覚えたての風魔法を放つったつもりだが、効果がないのか、当らなかったのかもわからない。魔法の気配のようなものは近寄ってくる。

 頭のどこかで、時間がゆっくり流れている気がすると思ってしまう。

 あと5メートル。

 いやいや、そんなことを考えずに、目の間の事に集中。

 あと3メートル。

 土で壁を作ってみるが、何かの気配のようなものは素通りしたような気がする。

 あと1メートル。

 避けられないと思ったモエミはぶち切れる。


「ちっくしょう!」


 大和撫子にあるまじきセリフを吐く。

 目に見えてはいないのに、なぜか何かがそこにあるのがわかり、思わず、腕を振り払う。


「そんなのあんたがなればいいのよ!」


 何かが腕にあたった気がした。

 怖くなって思わず目を閉じる。

 体の変化に心が備える。

 1秒。

 体感的にはまだなにもおこらない。

 2秒。

 まだ無反応。

 3秒。

 もしかして、見てくれが変化するだけで、体の感覚に変化はないのかも。

 4秒。

 目を開けてみる。

 5秒。

 何もおこっていない自分の手を見つめる。

 次に自分の体を確認する。

 何もおこっていない。


「……」

「あれ見て」


「変なの~」


「きゃはははは」


「コケッ!」


 周りの音に気が付く。

 子どもたちが笑っている。

 さっきまで、ピーコックが立っていた場所に、下半身が蜘蛛、上半身がニワトリのキメラが出現する。そのとなりは大きな蛇だ。


「コ、コ、ココ、コ、コケッ!」


 ニセアラクネというか、ニセコカトリスというか、とにかく新種の魔物のような生き物は明らかにパニックになっていた。足が2本から8本になったためか、歩くこともできない。隣の大蛇はおそらくスパロー。


「魔法を失敗した?!」

「暴発?」

「だっせ!」

「自爆だ!」


 緊張の糸が切れたのか爆笑の渦。

 モエミは右手でビシッと指さして言い放った。


「自業自得!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 姫が起きて来ず、フェニックスとホークはなぜかお疲れで、ピーコックは変身の魔法が、一人解けないので、午後の練習と試合は中止となり、外での授業という名の自由時間が開始される。

 ちなみに、モエミは大蛇になったスパローに、変身が解けた後に陳謝するが、「え? あたし? いやいや、ピーコックさんの自爆に巻き込まれただけだから」と怪訝な顔をされたので、都合もよいのでそのままにした。


「はーい、午後は重力軽減の練習をしまーす。これは脱出に有効だと思われるので、みんながんばってねー



 がんばれていないフェニックスが開始の宣言をする。


(午前中も魔力を使ったのかな? ヘロヘロだね)


 たくさんある滑り台の中から思い思いの滑り台に並び始める子供たち。


「えっと、どうするんだろ」


 モエミが不安にしていると、午前中の練習でいっしょだった子が親切に教えてくれる。


「あのね、滑り台の滑り口の横に魔法陣があるから、滑り台に座って、その魔法陣に魔力を込めるの。そうすると、自分に重力軽減の魔法がかかるから、ほらあんなふうに」


 少女が指をさすと、滑り台の途中からふわふわと浮いている子が見える。


「ほぉ、なるほど」

「それで、魔法陣なしで行けそうだったら、あっち」


 眼帯の少年が、ていっと壁からジャンプするものの、減速せず、下のマットにぺちゃっと落ちる。


「うわ、痛そう……、エリカさん、ありがと、わかったわ」


 エリカに振り返ってお礼を言うと、とてもフレンドリーな笑顔を返される。パッと見、日本人ぽくない容姿の子だ。もちろん口から出てくる言葉は日本語。


「No Problem。こちらこそ、さっきはちびっ子たちを助けてくれてありがとう。みんな困ってたけど、ちょっと逆らえなくてね。みんな感謝してるわ」

「えっと……」


「But、根に持つタイプだから気をつけてね」

「う……そんなつもりじゃなかったんだけどね」


 内心焦るモエミ。


「あれって、風の魔法を使ってたよね? 風の魔法で防いだの? あんなことができるなら中級においでよ」



 二人は適当な滑り台を目指して歩く。


「中級って?」


 情報収集のために、とぼけるモエミ。


「中級以降は外での練習組。板の魔法陣がある程度不要で、ちょっと派手な魔法を練習したいのは、外でやるの。対戦形式でやってる子もいるよ。その対戦でいろいろあってね」

「うーん、ちょっと怖そう」


 一番小さい滑り台、高さ1メートルくらいのに並ぶ。


「モエミちゃんならOKじゃない? 結構大規模な風の魔法じゃないの? 室内じゃ無理でしょ? ちなみにどうやって変身魔法を自爆させたの?」


「自爆かぁ……そういうことなのかなぁ。ちょっと頭に血がのぼってたから、正直よく覚えてないのよね」


「へぇ、なかなか熱いんだね」

「へへ、熱いというか、ちょっとイラっとしちゃって……あーゆーの嫌い」


「I think so too. あ、順番だね。座って、ここに魔法陣があるから、魔力を込めて……」


 エリカは丁寧に教えてくれる。


「そして、滑る」


 後ろからモエミを押す。


「おぉぉぉぉぉ」


 滑り台から落ちずに、空中を平行移動するモエミ。急いでエリカは横につく。


「うわぁ、最初からこれ? Greatねぇ」


「え、何、怖いけど、お、落ちる!?」

「えっと、腰のあたりに維持するための魔法陣ができてると思うから、そこに魔力を……」


「こう?」

「おぉ……すご」


 周りの子供たちが歓声をあげる。


「もう飛んでるよ」

「さすがだね」

「すごーい」

「へへへ、楽しいけど、これって、燃費悪くない?」

「そりゃそうよ、重力に逆らってるんだもん」


 ちょっと疲れたモエミが魔力を切って着地する。


「上達すると、あんなことができるよ」


 エリカが上を指す。


「え!? おぉ」


 グライダーで空を飛んでいるのが見える。オウル、スワンの2人のようである。


「わぉ、ファンタスティック!」


 モエミはちゃんと舌をペロッとだした。

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