モエミ、試合の観戦
「も、も、も、森の中で、ひ、ひ、ひ、姫とですか?」
いつものフェニックスとは別人。
「そーよー、よろしくー。ホーク君、審判お願い
「かしこまりました
ホークが準備に入る。
「え、え、えっと、棄権します
「だめよー。さぁ、行くわよー
森林ステージは、文字通り、木々の間で行われる。少し開けているところもあるが、基本的に周辺は木で囲まれている。
「姫は得意魔法は植物だよねー
「フェニックスさん不利だよねー
「あ、でも、火魔法は木に強いんじゃ
「そうね、燃えるね
「もしかして、姫の天敵は火魔法?」
「どうだろ、でも、姫だよ
ギャラリーはザワザワしている。
「あたし、嫌ですぅ
フェニックスが抵抗している。
「えっと、そうだね。私に勝っても、部屋番号は上がらないもんね。じゃあ、これでどうだ!」
姫がどこからともなく箱を取り出す。
「私に勝ったらチョコレート一箱! それもマカダミアナッツ入りだよー!」
ハワイ土産として売っていそうなマカダミアナッツのチョコの箱だった。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ
ギャラリーがどよめくが、フェニックスが固まっている。
「えー、足りない? それじゃぁこれもつけるわ。焼き菓子セット!」
金属の容器に入った高級そうな焼き菓子だった。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ
ギャラリーがさらにどよめく。嬌声も混じる。フェニックスがとても慌てる。
「わ、わかりました、やります、やります
「そう? ありがとう。でははじめちゃいましょう!」
2つのお菓子の箱を、タイガーに渡すと、フェニックスと連れだって、林の中にできた空き地の真ん中へ。
「準備はいいですか? では、始め!」
ホークが開始を宣言する。
さっそく、フェニックスが小袋に手を出し入れし、小さく呟く。離れているので聞こえないが、何かの魔法の準備だろう。さっと右手を振ると、火球が3つほど現れ、姫のほうに飛んでいく。
姫はうすい氷の板を出現させる。火球の火力が強く、真正面から受ければ、氷は粉々になり、そのまま突き破るのではないかと思われるが、氷は割れるものの、角度をつけて受け流すこととなる。流された火球は林やギャラリーへ。
「きゃぁ!」
悲鳴があがるが、事前に準備していたオウルが氷の盾で、弾くのではなく、火球を受け止める。そしてすかざすウルフが消火する。もちろん、ギャラリーへの被害も、林への延焼もない。暗黙の了解か、過去の経験かは不明であるが、役割分担をしている。
オウルやウルフの準備や対応もすばらしいが、モエミは姫の技術に感嘆する。
(最小限の魔力と労力で、あれだけの火球を弾くなんて)
直線的な攻撃では弾かれると思ったのか、軌道がカーブになっている火球を放つフェニックス。しかしながら、あっさり弾かれる。
続いて、直線と曲線を織り交ぜた攻撃。これも同様の結果になる。
膠着状態かと思ったところで、忍び寄ってきた草の蔓が、フェニックスの動きを封じようと迫る。姫の反撃。
フェニックスは火の壁を生み出し、自分の周辺の草を焼き払う。
「やっぱ、火には弱いねー……じゃぁ、行け、コーレム!」
コーレムが走ってフェニックスに向かっていく。
「あれって、ありなんですか?」
モエミは、近くにいたピーコックに尋ねる。
「あぁ、ねぇ。一応、魔法で作ったものだから。それに、姫に誰もダメって言えないよ
「はぁ
唯一ダメ出しができる人物との対戦中だった。
「きゃぁ! いや、だめ。ちょっと、ゴーレムはせこいですわよ!」
コーレムのドロップキックを避けながら、フェニックスが姫に苦情を申し立てる。
「えぇ、いいじゃん、魔法でつくったんだし……」
そういいつつ、言うことを聞いたのか、コーレムを呼び戻す。
「コーレム、モード3」
姫がコーレムに命令すると、コーレムがぐにゃりと変形しながら、姫にくっつく。姫の胸のまわりに纏わりつき、変形がとまる。まるで木でできたブレストプレートだ。
「おぉ!」
「すげぇ、かっけー」
「姫、その衣装でその胸当てはダサいです!」
みんなにピースして微笑む姫。
「はぁ、はぁ、コーレムちゃんがいいのなら、こんなんどうです!?」
「え、あ、いや、ちょっと、それは……」
姫が慌てて何かする。
どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん。
姫を中心とした半径3メートルくらいの火の柱が出現。
「えっと……」
「姫!?」
「きゃぁぁ!」
心配する声をよそに、火はすぐに掻き消え、中央部で植物で自らを覆って凌いだ姫が現れる。
「もう、やりすぎ―!」
姫が怒って大きな声を出すと、地中から巨大な木の手が現れて、フェニックスを挟み込む。
「げきおこぷんぷんまる!」
頬を膨らまして姫が怒る。巨大な木の手で挟まれたフェニックスは身動きが取れない。
「怒ったんだからね!」
一生懸命、何かしようとしていたフェニックスが突然笑い出す。
「きゃははははは……
「降参しなさい!」
「きゃはははは、し、しないわ!」
意味がわからないギャラリー。やがて、気づいた誰かが答えを述べる。
「あ、草の蔓……」
フェニックスは捕まったまま、草の蔓でくすぐられていた。
「くすぐ、ちょ、きゃ、だめ、え、まけ、ない。あはははは
何を言っているのかわからない。
「悪い子ね。それなら、もっと地獄をふふふふ……ふ? こら、それは!」
降参を勧めていた姫が突然降りむく。
「離れて!」
最初から狙っていたのか。それともくすぐられた復讐か。一陣のつむじ風が舞い踊ると、そこにすぐさ炎が加わる。火のつむじ風は、事前に空気中にばらまかれていた火の種を吸収し、みるみる内に大きくなり、火の竜巻になるが、制御が甘いのか火が飛び散り、四散する。
「こらぁぁぁぁぁ!」
姫が水を放つものの、既にあちこちの木々に燃え移り、もはやプチ山火事。
ウルフが巨大な水球を放つ。
「ウルフちゃん、助かるぅ! ちょっと時間かせいでー」
水魔法が使えるものは、水魔法で火を消そうと躍起になる。しかしながら、同じ空気中の水分を、味方同士で奪い合う形になり、うまくいかない。
「焦るな、水魔法はウルフに任せろ。可能なものは、土魔法で、手近かな火を押し包めて消せ。酸素がなければ燃えない
ホークが適切な指示を出す。
「きゃぁぁぁ、ごめんなさーい……」
ゴーレムの腕から自由になったフェニックスが、悲鳴を上げながら消火活動に参加する。
「謝罪はあとだ。手伝え!」
「ふぁい!」
土魔法で燃える木を埋め、ウルフの水球で延焼を防ぐ。
そこに姫が空中からあらわれる。
「よいしょぉぉぉぉ!」
どこから持ってきたのか大量の水が放出される。
どばばばばばばばばば。
人魚姫の恰好をした姫がまるで消防士のように水をばらまく。よく見ると、木製のパイプのようなものを持っており、それは城の裏の池に続いていた。
(人魚装備だから、水属性が上昇しているのかな?)
くだらないことを考えるモエミ。
一部パニックになっていたが、燃えていた面積はそうでもなかったため、直ぐに鎮火する。
かなりの煙が立ち上る。煙のせいで、ちょっと暗くなった気がする。
姫は正座したフェニックスの前に仁王立ちしている。
「ちょ、ちょ、ちょ、超すみませんでしたぁぁぁぁぁ
「げきおこちょうぷんぷんまる。今日は吹雪です。罰として、フェニックスちゃんは畑の結界当番ね!」