ハルキ、2日目の生活
新鮮な野菜とフルーツがメインの夕食のあと、蜂蜜中心の甘味のおやつをいただいた。何か忘れているような気がしたハルキは、それが何かを考える。
「あ、牛乳か」
バスケットボールは体格のスポーツ。身長を伸ばすために、毎日、夕食前か後に牛乳、もしくは母親特製のラッシーを飲んでいたのを思い出す。
「ねぇ、やっぱり牛乳はないの」
「うほっ牛乳? ないよ。牛、いないし」
「そ、そうだね、やっぱそうだよね」
朝、授業があった教室の隣にある魔法の練習室で、自主練をいっしょにやっていつジョーに聞くと、やはり牛乳はないようだ。
「でも、俺、昨日、牛肉食ったような気がする」
「マジで!? どこで?」
「うほっ、俺、食ってないし」
マナトとジョーが問いただす。
「あっと、5階で」
「あぁ、5階か。やっぱ、部屋もらえると、そういうこともあるんだな。いいなぁ。ふつうは、ウサギか鳥だよ」
「そうそう」
「そっか、でも、どうしたんだろう、牛肉」
「知らないよ。なんか、魔法だったりして。鶏肉を魔法で牛肉に変えるとか」
「そんな魔法あった?」
「しらねぇよ、言ってみただけだよ」
「ウサギと鳥は畑で飼ってるの?」
「そりゃそうだよ、小屋があるんだよ。そうじゃないウサギもいるけど」
「そうじゃない?」
「そうそう、角ウサギな」
「角ウサギ?」
「角があるウサギ。刺さると痛いから気を付けたほうがいいぜ」
「ちょっとまって、そんな生き物いるの?」
「そりゃそうだよ。もちろんいるよ。異世界だし」
「そうそう、畑の作物狙ってくるから、鬱陶しいってベアさんが言ってた」
「定期的にみんなで駆除もするよ」
「駆除!?」
思わず手を止め、腰を浮かすハルキ。
「そうそう、駆除」
「え!? 魔物ってやつ!? じゃあゴブリンとかもいるの!?」
「ゴブリンって何?」
「ゴブリンは知らないけど、角ウサギは魔物じゃないよな……。魔物なの?」
2人の反応を見る限りは、魔物と呼称されるようなものはいないようだ。角があるウサギはかなり怪しいが。
「駆除ってみんなもするの?」
「駆除は部屋組と中級者何人かでやる。基本、男子。やっぱ、生き物を殺すのはねぇ」
「そうそう、それに血抜きもあるし」
「血抜き……」
「血抜き、解体。ほとんどが、実はベアさん頼みだけどね。なんせ、ナイフや包丁の数も限られてるから」
「わかるけど、グロいんだろうね」
「そりゃそうだよ。でも、生き物をいただくのだからしょうがないよ。肉、食いたいし」
そういわれて、ハルキは曾祖母の話を思い出す。曾祖母は、小さいころ、曾祖母の父が取ってきたウサギの皮を剥いだりしていたらしい。夜目がきかないと、ウサギの生の肝臓を食べさせられたとか。曾祖母が、まだ存命であることから考えると、ほんの数十年前までは、生き物を狩り、血抜きして、解体するというのは、日常の中にあった光景なんだなと思ったことを思いだした。
「魚なら、血抜きしたり、捌いたりしたことあるけど」
「おお、ハルキ、魔法力だけでなく、こっちでも有望だな」
「そうそう、俺も魚捌けるけど、ウサギはちょっと」
「え、魚でも無理」
「うそん。俺、魚、楽勝」
勝手に話が進む。
「ところで、ハルキ、よく疲れねーなぁ」
「そうそう、俺だったら、とっくにギブアップだな」
「速攻で、部屋、狙えるんじゃね?」
「そうそう、というか、帰れるんじゃね?」
「帰る? 帰る方法は不明なんじゃなかった」
あまりにも軽く、帰る話が出てくるので、再び手を止めるハルキ。
「魔法力が多いと、帰れるみたい」
「みたい?」
「そうそう、突然、いなくなる。多分、帰ったんだろうっていう話」
そういえば、この話、聞いたことがあった。来た日のベランダで聞いた話だ。
「だいたい、部屋組か、中級者の上位らしいよ、いなくなるの」
「そうそう、ちなみに2階に部屋組から落ちた人っていないらしいね」
「は? 意味わかんない」
「だから、入れ替え戦はやるけど、欠員になったりして、結局、4階から2階に移った人はいないって話」
「そうそう、入れ替え戦って、誰かがくるとやるじゃん。だから、もしかしたら、この世界の中の人口は、ある程度決まってて、誰かくると、誰か帰れるって噂もある」
「部屋組は、そわそわしているんじゃね?」
「そうそう、次は俺かもってね」
(誰か来ると、誰か帰るのか。それはあるかもしれない)
ハルキは初心者セットなしで、石を動かす。
「帰るんなら、もうちょっと魔法が上手になってからだよな」
「そうそう。でも、俺、炭酸飲料飲みたい」
「俺、ラーメン食いたい」
「ラーメンいい! 俺、アイスも食いたい」
「甘いもんばっかり」
「あっと、こういう話はご法度だったな」
二人はキョロキョロとあたりを見回す。
「ん?!」
突然、声を小さい声で話し始める。
「あっと、食えない食い物の話はあんまりしない方がいい。みんな我慢してるから」
「そうそう、特に小さい子の前ではしないように。ホームシックになる」
「あ、はい」
そこに早くも消灯を告げるチャイムが鳴った。
二人に別れを告げて、4階の仮の自室に戻ると、姉が不機嫌だった。
「ハルキ、マヨネーズの作り方知ってる?」
「は? マヨネーズ? 知らない」
「異世界転生と言えば、マヨネーズ無双でしょ!? どうして覚えてないのよ」
「知らないよ。姉ちゃんが覚えてればよかったんじゃない?」
「うっさいわね。覚えてないから聞いてんじゃん!」
外にいる時とは別人の姉。女性は恐ろしい。そういえば、そういうアニメがあった気がする。外では容姿端麗、成績優秀。家ではゲームとアニオタ。モエミはゲーム要素を若干減らし、ブチ切れ不良少女モードが追加装備されている感じか。大好きなアニメが流れると、一緒に歌ったりして超ご機嫌であるが、万が一、放送延期になったりすると、どこから仕入れたか不明な罵詈雑言を並べ立てブチ切れる。とにかくギャップ激しい。
「知らないって」
「あぁ、覚えてればよかった。若干はあるみたいだけど、限定品扱いみたいなのよね。ここでマヨネーズ作れたら神だったのに。次の召喚に備えて、次回は覚えとこうかなぁ」
「もう、次回かよ。俺はお腹いっぱい」
「そういえば、父様、アニメ録画してくれてるかな」
「知らないよ」
冷静に考えて、行方不明で大騒ぎだろう。今までのように、召喚先の経過時間が、戻ってみれば数分だと都合がいいのだが。
「今までみたいに時間が経ってないといいんだけど、見逃したらイヤだよね」
姉も同じ結論に思いあたったようだが、周りを心配するより、アニメの録画の心配をするモエミ。
「3期も来るしねー。時間経過は無しの方向で」
誰かに拝むモエミ。
「誰にお願いしているの!? ……。俺、自主練してくる」
「えぇぇぇぇ、ハル君どこいくの。外、暗いよ。お姉ちゃん寂しいよ。ここでしようよ」
(お前が鬱陶しいから、出ていくのに……)
「あ、いや、そこのベランダで」
「ベランダ? あ、ここから見えるから、それならいいよ。わたしも自主練しようっと。よし! できると思ったら、できる!」
どんな寂しがりやねんと突っ込みを入れたいのを我慢するハルキは、その足でベランダへ向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ねぇ、ねぇ、兆候とかなかったの」
「兆候ですか?」
「えっと、魔法の練習キットを跡形もなかく破壊したりとか」
「テンプレの冒険者ギルドの登録じゃないですから」
「えっと、からまれた先輩を簡単に倒すとか」
「だから、どこのラノベですか」
「えっと、いきなりすごい魔法が発現するとか」
「クロウでしょ!? また変なネタ吹き込んで! 姫もいっしょにいたじゃないですか!?」
「えっと、つまんなーい」
頬を膨らます姫。チャウサがハーブティーと蜂蜜をテーブルの上に置く。姫の部屋には簡単なキッチンが設置されており、いつでも簡単にお茶ができる。
「つまんなくありません。環境への順応力はありますが、極端に優れているという評価はいたしかねます」
「えー、なんでー?」
「もちろん召喚の翌日に魔法を使ったのは素晴らしいスピードですが、むしろ、あっさり初日に召喚を受け入れて魔法の練習に入るのが異例です。他の子ですと数日から1週間は、状況を受け入れるのにかかってます。それに持ち前の魔力を生かした練習量が半端ないです。入門者レベルはほぼクリア。初級者レベルに入っていますが、才能というより、恐らく努力です」
「努力?」
「休憩時間をあまり設けずにひたすら練習しています。普通の子なら魔力欠乏で動けなくなります。魔力量の多いのをいいことに、ずっと練習してます。夜もあまり寝ていないんじゃないでしょうか?」
「得意魔法は?」
「それはまだわかりません。二人ともカリキュラムに沿って丁寧に練習しています。まだ1日目ですから、初日で勝手なことをされても困りますけど」
「そうよねー。1日目だよねー。でもねー、得意魔法がユニーク魔法だといいなぁ」
「脱出が簡単になるというユニーク魔法ですか」
「えっと、前、得意魔法はみんな、ちょっと勘違いしているのは言ったわよね」
「はい。火、土、風、水などの魔法が得意なのは一面的なものだと」
「えっと、火、土、風、水などの魔法が得意ってのは、それはそれで正しいのだけれども、それは何に対する影響が得意なのかということなのよねー。本当は、温度の上げ下げなんかの振動系が得意とか、広い範囲に影響を及ぼせるとか、小さな魔法陣を書くのが得意だとか、もっと細かく、得意な分野やジャンルがあるの。それを見つけて、そこから伸ばすのが、魔法習得には早いってのは言ったわよね」
「えっと、はい」
「これらとは違う、全く違う発想からの魔法が使える人がいるの。4種類のユニーク魔法。これが使えると、脱出が楽なのよねー」
「そうですか……いよいよ脱出ですか」
「そうよ、ん? 脱出したくないの?」
「あ、いえ、そういうわけでは……あの、姫は使えないんですか?」
浮かない顔のフェニックスは、あわてて話を戻す。
「えっと、効果として、同じような現象は発生させることができないわけではないけど、なかなか難しいわねー。左手で、きれいな字を書くようなものよ。できないことはないけれども、大変な労力と集中力がかかるのよねー」
「……そうですか」
「とにかく、しっかり育ててね!」
「はいです。……あの、私も無理なんですか?」
全く違う発想というのがよくわからないまま尋ねるフェニックス。
「ユニーク魔法はね、言われて、教えられて、すぐできるものではないのよ。もちろん研鑽の極致に至る道があるかもしれない。でも、それは長い道のり。結局、私達には無理だった。もちろんかなり長い時間、検証はされたのよ。でも結局、結論からすると、右利きの子に左で字を書くのを教えるより、左利きの子を捜した方が早いでしょ? そういう感じ。もっとも私が知ってる範囲では1種類を除いて絶滅したみたいなんだけどね。そういうわけで、本当のところは、左手で書くコツすらわかんなくなってるのよねぇ」
「絶滅ですか? はぁ」
「絶滅というか、家出かな。まぁまぁ、とにかく、泥船に乗った気で私にまかしたまえ!」
「……姫、大船です。泥船なら沈みます」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法の練習のためか、それとも自主練習が激しいのか、短い時間ながらも泥のように眠ったあとは、朝食バイキングをたらふく食べ、2日目の授業となる。
「えっと、みなさん、極めようと思うのなら、いつも魔法のことを考えましょう。そして、呼吸をするように魔法を使うのです。例えば、手を伸ばせばとれるものを、ちょっと魔法を使って取ってみようとか。部屋の空気を入れ替える時に、ちょっと魔法で入れ替えてみようとか。水を飲むときに、ちょっと自分で作った氷で冷やしてみようとか。なんでもいいのです。日常生活に魔法を組み込み、積極的に魔法を使ってくださいねー。では開始よー」
姫の訓示のあと、授業が開始される。
「えっと、今日のコンセプトは人魚ですか?」
おそるおそる、魚のかぶりものを被るフェニックスに尋ねるモエミ。
「わかった!? 人魚姫よ!」
二パっと笑うフェニックス。ちびっ子たちが何人も魚のかぶりものをしている。きっと知らないところで何かあったのではないだろうか。とてもうれしそうなフェニックス。
「モエミちゃんも被る?」
「あー、いやー、遠慮しておきますぅ。あ、田沼さんが呼んでますよ」
田沼にフェニックスを押し付けるモエミ。姫は楽しそうにしているが、ホーク等は目のやり場に困ってちょっとやりにくそうだ。
「昨日は固体に対する魔法をしたので、今日は液体にしてみようかな!?」
フェニックスが、先に田沼の被り物と魔法の練習の段取りをすませた後、モエミとハルキのところに箱型の初心者セットを持ってくる。ホークが隣でお椀に入った水を持っている。
「固体の次は、液体……。では、その次は気体ですか」
モエミが尋ねる。
「いい勘してるわー。ざっくりとした分類でいうと、水魔法は液体に対するもの、空気魔法は気体に対するものなのよね。土魔法は、石とかに関しては固体だけど、砂だと水魔法に近い扱いをするところもあるのよねー」
「火の魔法はないって、一昨日の紙に書いてましたけど、フェニックスさん、使ってましたよね?」
モエミが追及する。
「あれはねー、ものを燃やしているのよねー。火魔法はないっていいきっちゃうのはどうかなと思うんだけど、燃えてる火をコントロールする魔法として火の魔法があるの。何もないところから火がでることはないっていう意味では火魔法はないのよねー。わかる?」
「つまり火を扱う魔法を火魔法と言い、無から火を出すという意味では火魔法はないということですね」
「ええ、つまり手品と同じで種があるということ。ま、英語では両方とも「magic」だけどね。魔法をもっと学べば何かしらの方法で、火が出せるようになるかもしれないけど、少なくとも私たちにできるのは、何かを燃やした火をコントロールするということ。そして、それがわかれば花火だって作れるわ」
二パっとわらうフェニックス。ちょいちょいと耳を寄せるように指示する。
「実は、魔法って、結構、化学なのよ」
「化学?」
「あっと、ハルキ君的に言うと科学かな。まぁ、物理学的な要素もあるから、むしろ科学でいいかも。その知識があると楽しいのよ」
「ふむふむ」
モエミは何かを考え始める。
(ブツリガクってなんだろ?)
ちょっとハルキには難しい。フェニックスは明らかにモエミを中心に話をしているので、質問は遠慮するハルキ。その様子をみて、ホークが口を出す。
「よし、ハルキは今日も俺が教えよう。こっちだ」
「あ、はい」
「いいか、水魔法は、ギュッだ! 水をギュッとあつめる感じだ。まぁ、最初は道具を使ってやってみろ。魔力を魔法陣に流すのはもう大丈夫だろ」
「はい。やってみます」
「まず、こっちをやってみろ」
「はい。……って楽勝です」
お椀の中の水が10センチくらい上に持ち上がり、落ちる。
「そうだ。昨日やったやつとほとんどかわらない。目標が石から水になった程度だ。もちろん、目標が液体だから、若干の魔法陣の書き換えがあるがな。次はこっちだ」
ホークがボードと水を取り替える。ハルキは魔力を流す。
「おぉ、うまいな」
水がまた、10センチくらい上に持ち上がり、落ちる。
「魔法陣がかなり違うだろ? 2つ目の魔法陣は、水を下から上に持ち上げるのではなく。水を集めるという魔法だ。下に水があるからそこから集まるというだけだ」
「……はい?」
「……つまりこういうことだ」
ホークがお椀をもう1つ持ってくる。からのお椀と水の入ったお椀を入れ替え、水の入ったお椀は、ボードの端に置く。
「やってみろ」
魔力を流すと、隅に置かれたお椀から水が集まり、からのお椀に水が落ちる。
「ほうほう」
「つまり、水を移動させる魔法と、水を集める魔法は別ということだ。場合によっては使い分けをする。ただし、いつも水が近くにあるとは限らんから、水を集める魔法をきちんと覚えておけ。こう、水をギュッとつかんで集める感じだな。なれるとこうなる」
ホークは何も無さそうなところから水を作りだし、お椀まで移動させて入れる。
「空気中の水分を集めて水を作れる。もちろんだが空気が乾燥しているとそれなりに魔力を使わないといけなくなる」
「……すげぇ……」
「だろ? やってみたいか」
「はい」
「できるようになりたいか・」
「はい!」
「では、鍛錬あるのみだ。励め!」
「はい!」
数メートル離れたところではフェニックスとモエミが盛り上がっていた。
「では、適切な燃焼物に酸素を供給すればいいんですね」
「そうなの、でも発火点までは振動魔法で温度を上げないと火が付かないわ」
「意外と複雑なんですね」
「ええ、でも一連の流れを魔法陣として確立していけば、あとは勝手に魔法がやってくれるわ」
「……」
「うーん、ちょっとこっち来て」
フェニックスが教室に隣接の練習場に連れ出す。すみっこのバスケットボールをモエミに渡す。
「ちょっと、私にパスして」
「てい」
きれいなフォームでモエミはフェニックスにパス。
「おっと、モエミちゃんバスケ部?」
「いいえ、水泳部です」
「……まぁいいわ。今、パスするときに、右手を何度動かすとか、どこの筋肉をこう動かすとか考えた?」
「いいえ」
「魔法も究極的にはそれと同じ。目的があって適切に魔力を流せば発動するの。イメージが大事。もちろん、複雑で巨大な魔法には適切な魔法陣が必要。でもこれだって、自転車があれば、早く遠くまで行けるのと同じ」
「魔法陣は自転車ですか」
「例えよ、例え」
「ええ、でも、なんとなくわかります」
「だから、しっかりどういう魔法を使いたいのかしっかりイメージするのは大事」
「なるほどです」
「そして、そのイメージを助けるのが科学。その法則に従えば、より燃えやすい、より集めやすい、より動かしやすい。魔法に物理法則は関係しないけど、魔法が引き起こしたその後の現象には物理法則が適用されるの。あなたならこの言い方でわかるかしら」
「はい。ちなみにフェニックスさんは何を燃やされるんですか」
「炭よ。派手に行くときはそれなりに変えるけど、基本は炭を粉にしたもの」
「手に入りやすそうですね」
「ええ、加工もしやすいわ。粉にすると反応しやすいの。表面積の問題かしら。酸素と結合しやすくなる感じ。それに粉にすると風に乗せやすいの」
モエミとフェニックスは魔法というより科学実験に近い話で盛り上がっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の午後。
「さってと、みんな準備はいいかな? 昨日は男の子組からだから、今日は女の子組からねー」
今日は森林ステージ。みんなで正面の草原ステージから、城のまわりを時計とは反対方向に進み、砂漠ステージ、岩場ステージを通り抜け、森の中へ。
木々の中を進むと、少し開けた広場に出る。
みんなが集まったことを確認すると、姫はコーレムが持つ大きなサイコロを手に取り、転がした。
「1だね。フェニックスさん、よろしく!」
「はーい!」
フェニックスが準備をし、コーレムがサイコロをテクテクと回収する間、ギャラリーが話をはじめる。
「2日続けて、トップ登場か。」
「5人しかいないんだから、確率的には普通じゃない。」
「そっか。」
「火魔法見たい。」
「派手だからね。」
「では続けて、相手を選ぶよー。」
数字は1。
「私ね! フェニックスさん、よろしく!」
姫対フェニックスの模擬戦決定。
生まれて初めて感想というものをいただきました。
他の肩のあとがきに喜びの文を散見しておりました。
その時には理由がわかりませんが、今はわかります。
とれもうれしいです。
ありがとうございます。