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後編 その39 強奪

「ううううう・・・怖い・・・いやだよぉ・・・」

「・・・もう、いいから、しっかり捕まって!」


モエミ、2回目のフライト。

昨夜は暗くてよく見えなかったのか、それとも調子に乗っていたのか、よくわからないが、高いところは苦手らしく、固まるモエミ。

ハルキは、下手に騒がれるとコントロールが難しくなるので、半分放置しつつ、慎重にグライダーを操作する。

姉と違い、高いところが苦手ではないハルキは積極的にグライダーの練習を行い、姉よりも腕前は上。モエミもある程度の高さから滑空するくらいはやるが、ここ最近行っている高所打ち上げ方式の体験は、昨夜の1回のみ。

遮るものがないグライダーはどんどん進む。

目的地は8つの巨木郡のうちの1つ。

昨夜、フェニックスが燃やしてしまった場所。

巨木が傾いている、その根元。


「ちょ、ちょっと、ハルキ! どこに向かってるの!」

「あ、いや、ごめん・・・」


傾いた巨木に向かうが、大きさが大きいため、遠近感がおかしくなり、ついつい、迂回しがちなコースを選択してしまうハルキ。

まだ、距離があるのは、理性では理解しているが、気持ちとしては処理できない。

空路を修正しつつ、モエミの悲鳴や悪態を除き、比較的、順調な飛行は終わりを告げる。

ハルキは昨日の失敗を繰り返さず、魔法も使ってソフトランディングを試みる。

目的地は、姫が昨夜に引き続き、乗ってきたと思われる、ウッドワイバーンゴーレムの近く。

もちろんであるが、最も傾いている巨木の根元付近。

本来なら失速するであろう速度で地面に接近し、こともあろうに、一瞬のホバリングを行うと、ポイっと姉を落とす。


「きゃ!」


姉を放り出すと、すぐさま体制を変えて、自分はさらに数メートル離れたところに着地し、それと同時に、グライダーの羽を収納する。


「・・・完璧・・・」

「ちょっと! ハルキ! いきなり落とさない! もう・・・びっくりしたじゃない!」


怒り狂いながらも、モエミは周囲を見回す。

元々、生えていた根元の部分は、斜めになった巨木のすぐ壁側に鎮座している。

フェニックスの炎により、地面から数メートル上の部分が燃えしまい、それより上の部分は城側にずれ落ちる格好となり、下部はそこで固定されたまま、上部が壁から剥がれ落ちつつあるのであろう。

巨木の傍らに姫が立っているのが目に入る。

何がどうということではないが、明らかに様子がおかしいと感じたモエミは、怒っていたことさえ忘れて姫に駆け寄る。


「姫!」

「ああ、やっと来たわね・・・」

「あっと・・・」


姫が何やら複雑な術式を展開していることまでは理解できる。

黒ずんでいる樹皮から真新しい根や葉が生まれており、それはいくつもの束になって、切り離されたと思われる木の下部へと続いている。

しかし、巨木の大きさに比べると、矮小な試みに思える。


「えっと、様子を見に来たら、思ったより大変なことになってて・・・この木、今にも倒れちゃうわよ・・・一人だったから、どうしようもなくて」

「え・・・」

「方向的に城直撃コースですか」


ハルキが素早く計算して模範解答を出す。


「えっと、あっちこっち引っかかりながらだから、本当に直撃するかどうかは別だけど・・・もう持たないわ・・・上の方でなんとか捕まえてるけど、どんどんちぎれちゃって・・・私はここを離れられないから、避難するようにみんなに伝えて・・・」

「あ・・・でも・・・これだけの巨木です。どこにどう逃げれば・・・」

「巨木の実際の長さと、城までの距離が不明だがら、ここから城への直線に対し直角に逃げるのがいいかも」


ハルキは横から答える。


「あの、何とかならないんですか? すごい魔法でバァーンとか」


モエミは食い下がる。

城に何かあれば、この世界に他に生活基盤は存在しない。


「えっと、もう魔力が持たないのよ・・・いくらモエミちゃんでも、この魔法陣を今からすぐに覚えられる?」

「えっと・・・」


大きな魔法陣に小さな魔法陣が複合的に絡み合い、回転し、旋回し、脈動し、点滅している。


「さすがに、覚えるのは・・・私の魔力を姫に渡すとかできないんですか?」

「えっと、昔の勇者の随行者に、そんな魔法が使えたってのを聞いたことがあるわ」


きれいな眉間に皺をよせて考えるモエミ。

つまりは、今、どうこうできる話ではないということだろう。


「では、姫、逆に魔力を吸い取ってください」

「えっと、獣人族や人族に、ドレインが使えるって話は聞かないわ・・・」


さらに考えて、何かを思いついて目をあげるモエミ。


「いっそ、燃やしちゃいます?」

「えっと、そっちの方が魔力が必要なんじゃない?」


ここでハルキが口を挟む。


「手伝ったらいいじゃん」

「手伝う?」


モエミが振り向く。


「要するに電池がもたないみたいなもんでしょ? 電池を足せばいいじゃん」

「だから、魔力の譲渡はできないって・・・」


そういいながら、魔法陣に手を伸ばすモエミ。


「あ、こら! 危ない!」


言うことを聞かずに、姫が魔法陣に伸ばす手に、モエミは自分の手を重ねる。


「ちょっと、何を・・・」


モエミの手から、魔力がさわさわと姫の手の甲に向かって干渉してくるのがわかる。

何かを探るような魔力。


「あ・・・そんな・・・」


魔力はだんだんと姫の魔力と同化しはじめる。

いや、モエミの魔力の質が姫の魔力と全く同じものになる。


「・・・こんな感じの魔力でいいですかね・・・」

「あ・・・うん?」


モエミの手から姫と同じ質の魔力が流れ込み、その魔力が姫の手を通して魔法陣に流れ込みはじめる。


「そんな・・・こんなことが・・・ありえない・・・」

「ふっふっふ、私、天才・・・目の前で、できてますから、現実です!」

「えっと・・・」


魔力の質は人、それぞれで全く違うので、他人に譲渡できないのが姫の常識。

この常識の範囲外にいるのが姫と双子の姉との関係。

この双子が希少価値とされていたのも、国家がかかわるような事柄に、若年時から参加できていたのも、2人の魔力量が大きく、優秀な魔法の使い手であると同時に、この2人の間だけでは魔力の融通ができたことが大きい。

得意分野が違う2人は、それぞれの得意分野で活躍しつつ、片割れは魔力タンクとして協力できる。

このことからも、魔力の譲渡が稀有な事例であることは、姫もよく理解している。

魔法陣は繊細に作られているので、形は同じでも、他人が魔力で作った魔法陣に、魔力を流し込めば破壊されるのが常。

練習で使う魔法陣や通常のマジックスクロールは、魔力の流れる通り道を記してあるだけで、そこに自分の魔力を通すことで発動している。

つまり、今、モエミが行っていることは、これまでの、少なくとも姫の常識を覆す行為。


「だんだんとわかってきました。これなら、いけます。姫、少しづつ、魔力の量を減らしてください」

「えっと・・・わかった」


自分の姉ができているという事実が、姫に現実を受け入れさせることになり、姫は自分の魔力を減らしていき、最後にはゼロにした。

モエミがそれを感じとったのか姫の手を離す。

姫はゆっくりと、手を引っ込める。

魔法陣はそのまま機能し、モエミが引き続き魔力を供給する。


「うわ・・・結構複雑だけど・・・」


しゅばばばっと、新しい枝が伸びて、元の木の切り株に接合される。


「なるほどなるほど」


モエミが完全に魔法陣をのっとり制御を開始したのを感嘆とした表情で見つめる姫。


「反射魔法だけで意味不明にすごいのに魔力の譲渡まで・・・いや、魔力の譲渡というより、魔法陣の強奪か・・・」


モエミが姫から奪った魔法陣を少しずつ改変していくのが見てとれる。

ズンといって、巨木が傾く。


「おおっと、これは、あまり余裕は・・・」


ミシミシといった音が響き渡る。


「展開中の魔法陣を自分の支配下に組み入れ改変する力・・・反射魔法の神髄・・・これって改謬魔法だっけ・・・これなら、いける・・・この子を、絶対に連れて帰る・・・」


姫は、城の方を見つめ、ただ事ではない独り言をつぶやいた。


「たとえ、全てを犠牲にしても」


もちろん、魔法陣に夢中になっているモエミに聞こえない。

お読みいただきありがとうございます。

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