クレア 8
「私、決めました。
お父様、お母様、私この家を出ます。」
クレアが両親に自分はこの家を出て叔母の元へ行くと告げると、両親は何かを察したようにハッとした。
「クレア、何を企んでいるの?
叔母さんに何を頼もうとしているの?
おかしなことを考えるのはやめなさい!」
「そうだ、止めときなさい。
・・・いくらお前がダリアを想おうと生き返りはしないのだから。
余計な詮索はしないほうがいいだろう。」
ぎりっと手の拳が力強くなる。
この覚悟は伊達じゃない。
両親の反対など当に想定して、それを反故にできるほどに気持ちは強いのだから。
「ごめんなさい。
今は何も言えないけれど、きっとこのままじゃ後悔してしまう。
それに叔母様にはもう話を通してあるの。」
「クレア!」
「・・・大丈夫、ちゃんと私は帰ってくるから。
ダリアのように死にはしない。」
ふう、と傍で見ていた弟のユラが溜息を吐いた。
「クレア姉ちゃんはいっつもそうだね。
身勝手で我儘でやりたい放題だ。
そうやってどんなに反対されたって本当に自分のやりたいことは意地でも通すんだよ。
お父様もお母様も嫌でも分かってるでしょ?」
「ユラ、」
「クレア姉ちゃん、行くなら約束しよう?
危なくなったり辛くなったりしたらすぐに止めること。
納得したらすぐに帰ってくること。
いい?約束できる?」
「う、うん。もちろん。」
「お父様もお母様も心配しすぎだよ。
クレア姉ちゃんはダリア姉ちゃんより図太いし逃げ足も速いし強いからきっと大丈夫。
それにクレア姉ちゃんは約束は必ず守るよ。
今までだって約束は一度だって破ったことないもん。」
「ユラがそこまで言うなら、なあ?」
「ええ、そうねえ。」
両親は出かける予定があると言って一緒に出て行ってしまったの見送りクレアも自室へ帰ろうと部屋を出ようとするとユラがそれを止めた。
「それでシナっていうあの子は何なの、クレア姉ちゃん?」
どうやら周りの者への口止めが甘かったらしい。
「ふうん?そのリリって本当いけ好かないね。
ただの自己中なお姫様じゃんか。」
シナがユラに全てを聞かせた後の感想。
「何?それだけのことで妃や女官に毒を盛ったり殺したりしてるわけ?
自制心の欠片もない馬鹿女、つける薬もなさそうだ。
そんな女とっととぶっ殺せばいいさ。
ついでにそんな女に惚れている愚かな皇太子も消しちゃえば?
ダリア姉ちゃんを守るべき男がダリア姉ちゃんを蔑ろにしていたなんて!
しかもダリア姉ちゃんは子供が出来て嫉妬で殺された挙句に毒を盛られたかもしれないって?
・・・そんなことがまかり通ってるなんて後宮って所はちゃんちゃら可笑しいね。
ぶっ潰してやりなよ、クレア姉ちゃん。あーあ、俺も女なら一緒に乗り込んでやるのに。」
ユラは苛立つと早口で捲し立てる癖がある。
これだけの台詞をペラペラと話すところをみると相当頭にきているらしい。
「ユ、ユラ様は随分話すのがお早いのですねえ。」
「シナ、気にしないで。
それでシナはこれからどうするつもり?
家に帰るのなら馬車を用意するし、このまま暫く家にいてもいいわよ。」
「いえ、帰る家はございません。
・・・できれば私もクレア様にご一緒出来ないでしょうか?」
「シナも?」
「ええ、お願い致します。
せめてクレア様のお力になりたいのです。」
「私は助かるからありがたいけれど、あなた、本当にいいの?」
「はい、もちろんでございます。
クレア様がダリア様のことを想って涙を流したあの瞬間より私の心は決まっておりました。
クレア様が望む道を私もご一緒に歩みたい、と。」