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クレア 4

晴天に恵まれた皇太子様主催のガーデンパーティー。

さすが王宮の庭園の一言に尽きる。

見たこともない色とりどりの花が咲き乱れ噴水からは瑞々しい水が噴き出すように流れ鮮やかな虹を作っている。ただの水なのに特別な水にすら感じるのは何故だろう。

小鳥たちもその光景に合わせるようにきれいな鳴き声をさえずっている。

その内のアマレアはクレアの家でもよく見かける鳥だった。

だけど何故かこちらにいるアマレアは品格さえ感じられるほど堂々としている。

鳴き声に耳をすませてみればまるで楽しげな音楽を奏でているよう。

住む場所と餌が異なるとこんなにも違うのだろうか。

恐るべし王宮。



クレアは上機嫌でダリアの小さなふくふくとした手を繋いで庭園の忠心へと向かった。

「クレアお姉様、見て見て!

とっても綺麗なお花ばかりですわよ!

あの花の名前は一体何ていうのかしら、お姉様!」

いつもは大人しいダリアのはしゃぎっぷりにクレアの心もはしゃいだ。

天国かしら、ここ。

天使じゃないかしら、この子。

もうこのまま昇天してもいいかも、とクレアはニヤニヤしながら本気で考えていた。



中心部へ着くと招待された他のご子息ご息女が楽しんでいた。

どこもかしこも笑顔で自分を猛アピールしている様子を見てげんなりしてしまう。

げげげ、やっぱり私こういうの苦手。

クレアは出不精かつ人見知りであった。

知らない人に気軽に自分から

「ごきげんよう、みなさま!私、クレア!この可愛い天使のような子は妹のダリアよ!よろしく!」

なんて絶対に声かけられない。

ちょっと声をかけるのさえドキドキしてしまうのだから、そんなアグレッシブに声をかけるなんて天変地異が起こりでもしない限りない。

社交界の薔薇とは真逆の社交界のぺんぺん草のようなクレア。

棘もなければ覇気もない。

ふーっと一息吐くと心は決まった。

皇太子が来るまできっとまだ時間があるようだ。

その間はこの王宮の素敵な庭園で戯れるダリアの可愛さを胸に焼き付けよう。

そしてパーティーが始まったら隅のほうでコソコソと二人で仲良く美味しいお菓子やお茶を楽しめばいい。

クレアはダリアの手を引き隅のほうへ足を向けようとした。

「クレアお姉様?」

「ダリア、あちらに綺麗な蝶がいっぱいいるわ。」

「あら本当!可愛い!」

可愛いのはダリア、君だよ。

そんなどこかの優男のようなセリフがクレアの胸に宿る。

考えてみればこの子の可愛さを堪能するのはまだ自分だけでもいい。


右足を一歩前へ出した瞬間。


聞きなれた甲高い声がクレア達を呼び止めた。


「そこにいるのはもしかしてクレアじゃありませんこと?」


ひえー・・・っ、と思いつつゆっくり振り向いた。


「ごきげんよう、クレア。

珍しいわねえ、あなたが来るなんて思わなかったわ。

いつものようにお腹が痛いとか風邪をひいたかもしれないと言って来ないんじゃないかって皆で噂していたところよ。」

「ごきげんよう、レベッカ。

なんだかまるで私がいつも仮病をつかっているみたいな言い方をするのね。」

「本当のことじゃないの。

私やメリイが毎週のようにあなたをお茶会に誘ってもさっぱり来ない!」

「た、たまには行ってるわよ。」

「たまにですって?

呼び出すのを諦めかけた頃に来るなんて、ありえないわ!

今からそれでどうするの!」

「そうよ、レベッカの言う通りですわ!

子供だからっていつまでも甘えてる場合じゃないのよ。

クレア、あなたは少し内向的すぎますの。」

うへえ、レベッカにメリイも参戦してお説教が始まった。

クレアはおもわず無心になり遠いどこかへ意識を飛ばした。

この二人、普段はあまり仲が良くないのだがクレアのことに関してタッグを組むと最強になる。

下手にこれ以上口答えをしようものなら百倍になってかえってくる。

よってクレアが長年で導き出した結論、聞き流すに限る。



「クレアお姉様、大丈夫?」


ついついと袖を引っ張るダリアによってクレアは意識を取り戻した。


「大丈夫よダリア。

レベッカ、メリイ。この子はダリア、私の妹よ。

さあご挨拶しなさい。」

「ダリアです、よろしくお願いします。

レベッカさん、メリイさん!」

ぺこり、とお辞儀するダリアにクレアは心の中で拍手喝采。

良く出来ました!二重丸ですわよ!

あとでご褒美にダリアの好きなもの何でもあげる!

「ダリア、私はレベッカよ。

あなたのことはお母様から聞いているわ。

本当に随分礼儀正しく可愛らしいのね。

クレアとは大違いですわね。」

「私はメリイよ。

クレアなんて最初に会った時、不貞腐れた顔でよろしくと言っただけでしたわ。

みんながおしゃべりしているのにクレアだけ何も言わずただお茶とお菓子を食べるだけでしたわね。」

それには理由があった。

クレアは最後まで行きたくないとごねたのだが母に無理矢理連れ出されたからであった。

急にクレアの友達よ、と言われても何を話してよいのやら。

だから少しでも時間を潰すために飲んで食べてを繰り返した。

その結果クレアは家に戻ると食べすぎと飲みすぎで腹を下してしまったという落ちまである。

レベッカの時も同様に人見知りを大いにしてしまい失敗している。

悪夢のような思い出したくはない友達デビューであった。

「ダリア、仲良くしましょうね。今度ぜひ家に遊びにいらっしゃいな。」

「そうだわ、今度は私のお茶会にダリアも誘いましょう。」

「はい!クレアお姉様と一緒に行きます!」

レベッカとメリイのお誘いにダリアは満面の笑みで頷いた。




ざわざわとヒソヒソ話が増えてきた頃、急にそれはピタリと止んだ。

皇太子の到着だ。

「みなさん、今日は僕の誘いに応じてくださってありがとう。

気兼ねなく楽しんでいってほしい。」

そう言うやいなや皇太子に群がらる多くのご息女達。

その目はまるで草食動物を狙う肉食獣そのもので隙さえあれば食ってやるといっている。

あれに狙われたらひとたまりもない。

羊の皮を被った狼のような淑女達の様子に慄きさえ覚える。

いやまあカッコいいのは認めるけど私には無理だわ。

レベッカとかメリイくらい綺麗だったり可愛ければ良いかもしれない。

だけどこんなちんちくりんがあの神々しいほどの皇太子の横に並べるわけがない。

あの輪に入る勇気はない。


「・・・どうしよう、クレアお姉様。」


「ダリア?!どうしたの?どこか痛い?お腹?頭?」

ダリアが突然苦しそうに呟くから急いでクレアは外聞も気にせずサッと膝を付きダリアの上から下までを確認した。

血は流れてはいないし虫に刺されたような跡もない、怪我はしていないようだ。

ダリア自身が腹に手を当てていない様子をみると腹痛でもないだろう。

手のひらで額を触ってみたが熱もないようだ。


だが頬はピンク色に染まり大きな瞳は潤んでいる。


まさか新種の流行り病じゃないでしょうね。


もしそうだったら直ちに主治医に見せに行かなくては!


どこのどいつが感染源だ、ぶっ殺してやる。


クレアが心配そうにもう一度ダリアに

「ダリア?大丈夫なの?お家帰ろうか?」

と言うとダリアは首が取れるんじゃないかと不安になるほど思いっきりブンブンと首を横に振った。


「帰りたくない、違うの。

ただ皇太子様を見たら心臓がドキドキしてちょっと苦しい。

だけどずっと見ていたい。」


まさか、ちょっとやめてよ。

私の可愛いダリアが、まさか。


「私も近くにいってお話してみたい。

だめ、かなあ。やっぱり無理かなあ。」



ダリアが初恋をしてしまった。




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