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クレア 3

ダリア・マレ。

クレアはその名を国書庫に保管されている前王の妃歴で見つけるとそっと指でなぞった。

「ダリア、あなたの敵は私が必ずとってあげる。」

薄暗く誰もいない広い空間にクレアの言葉は静かに響いた。



ダリアはクレアの腹違いの妹だった。


ある日、父の手に繋がれてやってきた少女はまるで毎夜クレアと一緒に寝ている人形メリのように愛らしかった。

肌は白く蜂蜜色の甘い金髪にチェリーピンクの唇。

まさに美少女。

それに対してクレアとクレアの母の平凡な顔ときたら。

月とすっぽん、ホットケーキとショートケーキくらいの違いである。

「あら、あなたお帰りなさい。

その子は誰?どうしたの?」

「お父様、お帰りなさい。

うわあ、とっても可愛い!メリにそっくり!」

父がその美少女の手を放し母とクレアに爆弾発言をした。

「・・・今日からこの家で暮らすダリアだ。

クレア、お前の妹になる。面倒を見てあげなさい。」

「あなた、どういうことかしら。」

「さあ挨拶しなさい。」

「ダリアです。よろしくお願いします。」

ペコリとお辞儀したダリアにクレアの胸はキュンキュンしていた。

可愛すぎる。

母が横で般若のようにになるのを感じながらクレアはただダリアだけを見つめていた。

不安そうにこちらを伺うダリアを誰が追い出すことが出来ようか。


母が父を問い詰めると一度だけ寝たことがある女との間に出来た子で、今まではこっそり用立てて養育費だけは払っていたらしい。

だが、そのダリアの母が事故で急死してしまいダリアをどうするかということになってしまった。

父以外頼れる身寄りもないのでマレ家が認めなければ孤児となる。

孤児院にはあまり良い噂はなく不安が募る。

さすがに自分の娘をそんな孤児院に入れるのは忍びなく悩んだ末、イチかバチか連れてきたということだった。

母は怒り狂ったがクレアが一週間も「私が面倒をみる!だから、いいでしょ!」と朝から晩まで言い続けるものだがら疲れてしまい怒りもどこかへいってしまった。

「だ、大丈夫?何かダリアに出来ることある?

お茶もってこようか?肩もむ?」

ダリアはダリアでそんな母を優しく気遣うものだがら母もすっかりほだされてしまった。

実の娘にはないいじらしさと素直さに思わずそのダリアの頭を優しく撫でた。

「あなたは何も悪くはないのよねえ。」

不思議そうにきょとんと母を見上げるダリア。

考えてみればダリアは気の毒な娘だ。

自分を守ってくれる母が死に父はあまりに頼りない。

急に連れてこられた家では厄介者扱いされ、下手をすれば追い出され孤児となる。

何もダリアが悪いことはしていないのに。

そう考えれば考えるほど母の気持ちは揺らいだ。

だけど何だかタダで夫の不貞を許すのも腹立たしかったから、小遣い減額・欲しかった指輪を買ってもらうことで折り合いをつけた。

「隠し子は他にいないでしょうね?」

「いない!」

「・・・あの子に罪はないもの。養子としてダリアをクレアの妹にするわ。」


マレ家に新しく明るい声が一つ増えた。

「クレアお姉ちゃん!」

きゃっきゃっとダリアがクレアに駆け寄り、クレアはそんなダリアを笑顔で抱きしめた。


純真無垢で愛らしい、誰よりもクレアが愛した妹だった。



ダリアがマレ家に本当の娘として馴染んできた頃、王家から一通の招待状が届いた。

「クレア・マレ様」と宛名が記入されておりクレアは首を捻った。

父に見せると面白そうにクレアを見た。

「私に招待状?」

「王宮で皇太子の年の近い子らを招いてガーデンパーティーをするらしい。

どうだ?クレア行きたいか?」

「ええー・・・急に聞かれても。」

「おかしな奴だな。普通なら行きたいと言うもんだと思うんだがな。

皇太子様に会えるチャンスだぞ?噂ではかなりカッコいいらしいぞ?」

「そりゃあ選りすぐりの美女から王様が選んだ方が母なんだから美形でしょうよ。

不細工なわけがないわよ。」

「それはそうだけど、なんか冷めてないか?」

「だって、どうでもいいっていうか・・・別にその皇太子様とどうになかなるわけでもないし。

行くの面倒なんですもの。ドレス選びでしょ、美容師を呼んでの長い長い支度でしょ。

そんでもっておべっか使って死ぬほど気を使うでしょ。

何回かお母様に言われてレベッカやメリイのお茶会に行ったことあるけど下らないことばかり。

お綺麗ですね、可愛らしいですわねの褒め合いがやっと終わったかと思えば、その場に居ない方の悪口。

家でゴロゴロしていたほうがどれだけ有意義な時間だったことか。

考えれば考えるほど憂鬱でしかないんですもの。」

やる気のないクレアに父はどうしたものかと考えてみた。

出不精のクレアを少しは社交的にさせなくては。

「・・・子供のパーティーとはいえ皇太子主催だ。死ぬほど美味しいもの食べられるぞ?」

「別に私そこまで食い意地張っていません!

そもそも淑女の真似事をしなくてはならないのにガッツけるわけないでしょう!」

なるほど、食べ物では釣ることは出来ないか。

それならば・・・

「クレアご自慢のダリアを一緒に連れて行ってはどうだ?」

「はい?」

トントン、と父はクレアに招待状の一文を見せた。

「招待状には妹君もどうぞご一緒に、と書いてある。

思う存分ダリアを自慢できるチャンスじゃないか?」

父は知っている。

最近クレアは誰かにダリアを自慢したくてウズウズしていることを。

「そ、それですわ!」

ちょろいな。

かぶりつくように父のかけたエサにクレアはかかった。








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