クレア 1
性格悪いヒロイン書くの嫌いじゃない。
半月がまだ薄っすらと空に浮かぶような明け方近く、息を切らした従者がクレアの宮へ辿り着くと、入り口にはクレア付きの女官が知らせを待っていた。
「どうなりました?」
「ご安心を。無事に勝利を得ることが出来ました。
アレク様より伝言を承っております。」
「それは良かったですわ。
クレア様もさぞお喜びになることでしょう。
どうぞ、こちらへ。
クレア様が寝ずに知らせを今か今かとお待ちでしたの。」
従者は女官の背中を追いかけながらも宮の冷ややかな風景を見た。
建物の朽ちかけぶりを見るにこの主の力の無さがうかがえた。
花は枯れかけ生気がまるでない。
それもそのはずでこの宮は寵愛を失い、おのずと王から遠ざかった者住む。
正式の名は「公頼」なのだが周りの者に「虚宮」と呼ばれそこに住むだけで下に見られ馬鹿にされる始末である。
反乱が成功した、とクレアの元へ知らせが届いた。
「アレク様がこの国の主となられました。
クレア様の働きに感謝し、あの時の約束をはたすとの伝言です。」
「そう、わかったわ。
それでは私からもアレク様へ伝言を頼めるかしら。」
「何でしょうか。」
「私も覚悟が出来ました、とだけ。
きっとそれだけであの方は全てを理解してくださることでしょう。」
従者が去るのを見届けクレアは高らかに笑った。
「やった!やったのよ!
あの男が勝った!
これで私はあの女を地獄へ落とすことがやっとできる!」
クレア以外の妃達はこれからの自分達の処遇に不安を募らせていた。
なにしろ新たな自分達の主となった男のことを皆で邪魔者扱いしていた過去がある。
しかも何故か目の前にいるアレクの横には、これまた皆で見下していたクレアが当然のようにべったりと引っ付いている。
どう考えても幸先のいい未来は考えられない。
フルフルと震える妃達を見ながらアレクがゆっくりと口を開いた。
「皆にも伝わっていると思うが兄は俺に譲位したよ。
これからは遠い島で隠居生活をしたいそうだ。」
譲位、隠居。
そんなの建前の言葉だということは誰もが知っていた。
力づくで奪ったのだ。
だがそれでは国が不安がり揺らいでしまう。
混乱を避けるための言い訳。
「さて、この者達をどうしたらいいかな。
クレアが決めてごらん?
何せ君が新たな後宮の主になるのだから。」
クレアを抱き寄せながら耳元で囁いた。
それを聞いたクレアはうっそりと微笑んだ。
「アレク様、このクレアにお任せくださいませ。
私達二人の希望通りに事を運びましょう。」
「さすが俺のクレア。
それではまた夜に逢おう。」
「ええ、アレク様の好きなお酒をご用意して待っていますわ。」
周りに見せつけるように深い口付けを交わしてアレクはその場から去った。
それを妃達は呆然とただ見ていることしか出来なかった。
「リリ以外の者は私から命を出すまで自分の宮で待機していなさい。」
リリ以外の妃が部屋を出て行き、残るはクレアとリリのみとなった。
コツコツと靴を鳴らしながらクレアは泣き崩れるリリの前に立った。
「ざまあないですわね。
あんなにも私を憎み見下していた貴方が私より立場が下になるなんて!
まさかこんな日がくるなんて誰が思っていたかしら!
神様でもきっと思いつかなかったわ!」
クレアが高らかに笑うとリリは憎しみに満ちた目で睨んだ。
「あらあ?そんなお顔じゃせっかくのご自慢の美貌も形無しですわねえ?
とっても不細工ですわよ!」
リリの前髪をクレアが思いっきり引き上げ、思いっきり頬をパシッとぶった。
クレアはリリの手形のついた赤く腫れた頬に手をかけながら
「・・・これくらいであなたの悪行が許されるなんて思わないでちょうだい。
今からが本番よ?
決して楽には死なせない。
あなたは私の妹を事故に見せかけて殺した。
私の友を陥れ自殺へ追い込んだ。」
まだまだいくらだってある。
「あなたが全ての黒幕だってことは分かっているのよ。」
「証拠はどこにもないわ!
あなたの思い込みでしょう!」
「証拠?ええ、そんなものあるわけないわよねえ?
だってあなたが全て証人を殺してしまったのですもの。」
クレアが再度リリに言った。
「あなただけは許さないわ。
私の大事なものを全て壊したあなただけは。」