報酬と昇格試験
僕たちはゴブリンの巣穴を沈没させ、ゴブリンを一網打尽にした。
その結果、百を超える討伐の証の右耳と魔石が手に入った。
夕暮れの冒険者ギルド、ゴブリンのフリー依頼を換金していたのだが……。
「……お金少なくないですか?」
もらえたお金は一匹につきパン一個分の銅貨二枚、二百円相当である。
それが百を超えて、二万八千円分の銀貨二十八枚。
ゴブリンリーダーの魔石などを売っても銀貨三十枚であった。
日本円に直すと三万円。安い!
宿代が銀貨二枚なので単純に考えると十五日分の生活費と考えられる。
だが、今回の討伐で剥ぎ取りナイフ又はそれに準ずるもの替えの着替え、日用品などを買おうと思ったら心細い額だ。
十日もあれば使い切ってしまうかもしれない。
「どういうことですか、お姉さん! 僕はゴブリンの巣を丸ごと潰してきたんですよ!」
「えっと、それはですねぇ……」
受付のお姉さんを問い詰めると答えは簡単フリー依頼だから、だそうだ。
フリー依頼は受注の必要がなく、いつでもできる代わりに金額が安い。出来たらラッキー、お小遣いが稼げたっていう程度で狙ってやるものではない。
そもそもゴブリンの魔石はすりつぶして魔導具の燃料にするくらいしか使い道がない。それも燃費の良くない劣悪なエネルギーとしてだ。
買ってくれるだけありがたく思わなければいけないらしい。
そしてゴブリンの巣を一つ丸ごと潰し、さらに証拠としてゴブリンリーダーの右耳と魔石もあるのに、巣穴退治のお金が出ない理由だが。
これは正式な依頼を受けていないからという理由だ。
もしこれがゴブリンの巣穴退治がCランクの依頼として正式な依頼としてでたならば、軽く金貨五枚以上の報酬が出ていただろう。
「むぅ、理解できますけど納得できかねます」
「まぁ、そう言わずに、代わりと言っては何ですがランクを昇級させていただきます。それも二階級特進。Eランクを超えていきなりDランクですよ」
「はぁ、ありがとうございます」
ゴブリンの巣穴退治の報酬は出なかったが、実力は認められたらしい。クリストファーさんの証言もあって、僕は一気に二つランクが上がった。
Dランクといえば、駆け出しの冒険者として認められるランクだ。
Dランクなら報酬が高い依頼もそこそこ存在する。毎日依頼を受け続ければ冒険者としてやっていけるくらいには、Dランクの依頼は報酬が高かった。
といっても今日の様にゴブリンの巣穴をまるまる潰して来たら、そっちの方が報酬が高くなってしまうのだが。
「とりあえずDランクに昇級おめでとうだな」
「はい、これもクリストファーさんのおかげです」
その後、僕らはディナーを共にした後、別れた。
クリストファーさんは困ったことがあればいつでも頼ってくれと自信満々に言っていた。
普段クリストファーさんは、銀の剣というパーティに所属しているらしい。
何かあったら銀の剣を頼ることとしよう。
次の日から僕はDランクの依頼を受けて生活していた。
朝出かけて、依頼をこなし夕方には帰って来る。
宿代をぬくとお金がなく剥ぎ取りナイフを買う余裕などなかった。日用品や替えの服を買うので精いっぱいである。
そんな生活を僕は二か月間ほど続けていた。
そうしたある日、ギルドの方から一つの提案が持ち上がった。
「Cランク昇級試験ですか?」
「はい、アリアさんは元々ゴブリンの巣穴を単騎で潰すほどの実力がありますし、きっと受かると思うのですがどうですか?」
「ぜひやらせてください!」
Cランクは一端の冒険者として認められるランクだ。それ故にDランクとは報酬の桁が変わってくる。
冒険者を名乗れるのはCランクになってからという言葉もあるぐらいだ。
Cランクになれば生活も劇的に変わるだろう。
これを受けない手はない。
僕は受付のお姉さんに、次のCランクの昇級試験の日を聞きその日は帰った。
Cランクへの昇級試験は一か月に一回ある。
このチャンスを逃せば昇級試験は一か月後だ。
ぜひとも受かりたいものである。
そしてその日はやって来た。
Cランク昇級試験日。
事前情報は試験日の日程と開始時刻しか聞いていない。筆記試験とかあるのだろうかと思いながら、僕は開始時刻の十分前を目指しギルドに辿り着く。
ギルドに辿り着き、Cランク昇級試験の事を聞くと、二階の一室に案内された。
二階の一室に入るとそこにはすでに十人以上人がいた。
どうやら二つのパーティが集まっているらしく、ソロは僕だけらしい。
冒険者は基本パーティを組んでいるもので、ソロはなかなかいないとクリストファーさんから聞いていたが、まさか僕以外誰もいないとは驚きだ。
そして開始時刻になったと同時に、部屋の扉が開き三人の男女が入って来る。
それと同時に部屋から驚きの声が上がる。
どうやら有名な人らしいが僕は知らなかった。
入って間もなく、三人のうちの一人、顔に傷をつけいかにも歴戦の戦士ですといった大男が口を開いた。
「うん、今回のCランク昇格試験に挑むのはここにいる十二人か、事前には十八人って聞いていたんだがな」
それに弓を背負った女が応える。
「大方、少しぐらい遅れてもいいとそのパーティは思っているんでしょ。遅刻は速攻Cランク試験失格だっていうのにね。冒険者は時間管理が大切なのに。待ち合わせ時間も守れないなんて脱落で当然ね」
最後の三人目、杖を持ちローブを羽織りいかにも魔法使いといった男が口を開く。
「その通りだな。だが大丈夫か? 今回試験として取って来た依頼は盗賊退治だぞ。Cランクの依頼だが、初仕事としては人数が減ってハードルが高いと思うが」
それに傷を顔に付けた大男が答える。
「大丈夫だろ。本来は一つのパーティでやらなきゃいけない仕事だ。二パーティも居たら充分だろ」
「それもそうね。じゃあさっそくCランク昇格試験の概要を話しましょうか」
弓を背負った女の一言でCランク昇格試験の概要が大男から話された。
今回の試験は、黒の森に根城を作った盗賊退治のお仕事。
盗賊退治が出来たらCランクに無事昇格。
ただ今回のCランク昇格試験は、条件があって一日野営することが条件のひとつらしい。
何で野営? と思うがCランク以降の依頼は一日で終わるものが少なくなってくるそのために野営が出来るかどうかも重要になって来る。
そのために野営も試験の一環として入っているわけだ。
そして今回Cランク昇格試験に盗賊退治が選ばれた理由だが、Cランクからは人と接するまたは人を殺す仕事も出てくるため、護衛依頼か人を殺す依頼が選ばれるらしい。
物騒な話だが、これも世の摂理、受け止めるしかない。
「と今回のCランク試験はこんな感じだ。ああ、そう言えば自己紹介を忘れてたな。俺たちはAランクパーティ黄昏の竜。リーダーを務めるバルサスだ。今回はCランク昇格試験の依頼が入ったんで担当させてもらう」
顔に傷を作った大男が自己紹介すると、次は弓を背負った女の番だった。
「私はネルシー、今回の試験危なくなったら私たちが助けるからね。ひとまずよろしく」
最後は杖を持った魔法使いの番であった。
「俺はレガント。他のメンツともどもよろしく。さて俺たちの自己紹介は終わった。次はそっちの番だな」
そう言われて他のCランク昇格試験者が続々と自己紹介をしていく。全員が二十歳にもなっていない若者だった。そのなかで十五歳である僕は最年少っぽかったが。
僕の番は最後で当たり障りなく自己紹介をさせてもらった。
そんな時である。扉が開かれ、男の六人組が姿を現した。
どうやら遅刻してきたパーティたちらしい。
「遅いぞ、お前らは昇格試験に間に合わなかった。失格だ、今日は帰るがいい」
「ああ!? 少し遅れたぐらいで失格だと。偉そうだな」
ん? 何か一波乱ありそうですね。
アリア「喧嘩パターンきたか?」