ゴブリン退治
僕は六匹のゴブリンを見て、六匹の龍を作り出すことに決めた。
僕と同じサイズの水龍が僕の足元からまるで召喚されたかのように、浮かび上がる。
二匹はただの水で出来た水龍だが、もう四匹は氷龍と灼龍だ。
凍えるような水温の氷龍と、焼け付くような水温の灼龍。
二匹ずつ、水龍、氷龍、灼龍と空中に浮かび上がった。
僕の様子を見てクリストファーさんは驚きの表情を浮かべている。
「どうですか、クリストファーさん。美しいでしょう。龍ですよ龍!」
「そうだな、これだけの造形が出来るなんてとても美しい。まぁ、君の美貌にはかなわないが」
「うん、僕は男ですからね!」
何か釈然としないが、僕は水龍達をゴブリンにけしかけた。
水龍たちがゴブリンに襲い掛かる。
一匹目は水龍に腹を貫通させられて呆気なく死んだ。
二匹目は水龍に口を塞がれて溺れて窒息した。
三匹目は氷龍の氷の牙で頭をもがれて死んだ。
四匹目は氷龍のブレスで器官を凍らされて窒息。
五匹目は灼龍の高温に焼けただれながら、心臓を抉られて死亡。
六匹目は灼龍のブレスで全身大やけどに陥りながら、血液が沸騰して死亡した。
戦いは一分にも満たなかった。
「割とえげつないなアリア」
「そうですね。僕もまさかこんな惨たらしいことになるとは思いませんでした」
血を吸い赤く染まった水龍達、血は分離させて元の綺麗な色に戻す。
辺りにはゴブリンの無残な死体が転がっていた。
僕は討伐の証として、ゴブリンの右耳を水龍達に回収させる。ついでに金になるゴブリンの魔石も水龍達に回収させた。
「クリストファーさん。さすがに六匹では生活費として足りません。僕は血でゴブリンをおびき出そうと思うのですが、大丈夫ですか?」
「まぁ、大丈夫かな。所詮ゴブリン、Eランクの魔物だしさっきの戦いを見てたらよっぽどのことがない限り大丈夫だろう」
そう言う訳で僕は血を霧吹きの様に撒き、風に乗せて他のゴブリンをおびき出すことにした。
したのだが次にやって来たのはゴブリンではなく、フォレストウルフと呼ばれる森の狼だった。五匹いたのだが、水龍達の前に呆気なく撃沈。
溺れさせられたり、凍らされたり、蒸されたり、フォレストウルフは散々だった。
確かフォレストウルフもフリー依頼に入っていたなと思いながら、討伐の証である牙と魔石を水龍達に回収させる。
「フォレストウルフの毛皮は売れるんだが、どうする剥ぎ取らないのか?」
「僕は剥ぎ取りナイフを持ってないんですよね、良ければクリストファーさんが貰ってください」
「そうか? じゃあ遠慮なく」
そういってクリストファーさんは毛皮を剥ぎ取り、魔法の袋に入れて回収していた。
そこからゴブリンの群れがやってきたりして、そのたびに僕は水龍をけしかけた。
全匹が無残にも殺され、昼も過ぎたころクリストファーさんが首を捻った。
「おかしいな。あまりにもゴブリンの数が多すぎる。大量発生してた噂もあるし、これは近くに巣があるのかも知れないな」
「ゴブリンの巣ですか。見つければそれなりのお金になりますね」
「ゴブリンをお金としてみてないのかよ。ゴブリンに同情するぜ」
その後、ゴブリンの巣穴を見つけるために僕らは周辺を探索した。
森をかき分け、そしてそれらしい洞窟を見つけたのである。
中からゴブリンが行ったり来たりしており、ゴブリンの巣であることが伺えた。
「じゃあ殲滅しますか」
「おい、ちょっと待て!」
そこでクリストファーさんに止められる。どうかしたのかと思ったら、危険だからやめた方がいいとのこと。
ゴブリンの巣は依頼的には、Cランクパーティーの仕事だ。ギルドに報告すれば、情報料が貰えるから、それで我慢しろとのことだ。
ゴブリンは巣穴を形成すると少なくとも百以上の群れとなる。単騎で挑むものじゃない。事前に作戦を汲んで、パーティー単位で討伐するのがセオリーなのだとか。
「うーんでも、そこにお金の山があるのに放っておくのは……」
「じゃあ奇襲でも仕掛けて危なくなったら帰るか? それでも危険なことには変わりないが」
クリストファーさんの提案にこれ幸いと僕は乗っかる。
「そうですね。そうしましょう。奇襲で全滅させちゃいましょう」
「はぁ? 奇襲でどうやって全滅させるんだよ」
「洪水ですよ。ゴブリンの巣穴を水で沈めて全員窒息させてしまいましょう」
そういうや否や、僕はゴブリンの巣穴に向かって手をかざす。
そして次の瞬間手から津波が発生した。
「うおっ!」
驚きの声を上げるクリストファーさん。
その声にかまうことなく、津波を操作し巣穴に水を流す。
ゴブリンの巣穴の周辺にいたゴブリンもまとめて巣穴に流し、洪水はなみなみとゴブリンの巣穴に入っていく。
「お、どうやら満杯になったみたいですね。他の入り口もないようですしこれでゴブリンの巣穴は沈没ですよ」
水がこれ以上は入らないのを確認すると、ゴブリンが全員窒息死するまで僕たちは巣穴の前で待機していた。
「しかし、こんなにも水を出せる何てな。軽くCランクは超えてるぜ」
水魔法は水のカッターで相手の首を刎ねたり、相手の頭の大きさに合わせた水球を頭にかぶせて窒息死させるのが通常である。
本来は自分の魔力が切れないように、水を節約して戦闘を行うものなのだ。
それを湯水の事く、何でもないように水を大量に使うアリアは規格外もいいところだった。
さらにアリアはゴブリンの巣穴を水に沈めたというのに、疲弊した様子がなかった。まだまだ魔力量を充分に体に残している証だった。
「そろそろ頃合ですかね。水を全部蒸発させますよ」
十分が経過したころに、もうゴブリンは全滅しているだろうと水分を蒸発させる。
後に残ったのは、水浸しのゴブリンの巣穴と苦悶の表情を浮かべる大量のゴブリンの死体だけだった。
「うあー、これは地獄絵図だな。ゴブリンに同情するぜ」
ゴブリンにしてみれば、いきなり大量の水が巣穴に入って来て抵抗も出来ず溺れさせられたのだ。不幸と言わず何と呼べばいいのだろうか。
「まぁまぁ、とりあえずお金は回収しちゃいましょう。いでよ水龍達!」
ゴブリンの右耳と魔石を回収させるためだけに、彫刻さながらの龍を生み出す。何とも贅沢な使い方である。
数十匹生み出された水龍は水の牙を持って、右耳を引きちぎり腸を食い破り魔石を回収していく。数分もしない内に百以上のゴブリンの耳と魔石が魔法の袋に収納されたのであった。
「あれ、何かこれだけ魔石の輝き方が違いますね。それに耳も大きいですし」
水龍が持ってきた魔石と耳の中に一つだけ異様なものがあった。クリストファーさんにこれは何かと聞くと、
「それはゴブリンリーダーの魔石と耳だな。本来はゴブリンを指揮してくる厄介な奴なんだが、洪水の前では呆気なく窒息死ってところか」
どうやら苦せずしてリーダーを倒していたらしい。
さぞ金になるだろうと、僕は思いながら魔法の袋に入れる。
「さて、ゴブリンの巣穴も撃退しましたし、今日はこれくらいでいいでしょう。帰りましょうクリストファーさん」
「そうだな。本来、ゴブリンの巣を丸ごと殲滅となると半日はかかるんだがな」
あきれた様子のクリストファーさんを尻目に、三十分もかからず魔石も回収した僕は町を目指す。
空はまだ明るく、昼前に狩りを始めたのに夕方にもなっていなかった。
散歩感覚で狩りを終えた僕たちは、悠々と黒の森から出ていき、ザビエンスの町に戻るのだった。
アリア「ゴブリンほど異世界で狩られている魔物もいないと思う」