冒険者ギルドと金欠
僕はザビエンスの町を歩いていた。
行きかう人々には獣人やエルフ、ドワーフといった異種族もいた。さすが迷宮都市ザビエンス、ここまで異種族がごった返している町はそうそうないだろう。
僕はとりあえずといった感じで冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドは木製で出来た三階建てでかなりの大きさがあった。屋敷と言って過言ではないレベルの大きさで、少し入るのに躊躇したが意を決して中に入る。
中は広々とスペースがとられており、僕は新規登録の受付に向かった。
「冒険者登録をしたいのですが」
「はい、分かりました」
そうして僕は紙を渡された。紙には名前、年齢、特技、ギルドの契約のチェック項目があった。代筆をしてくれるサービスがあったが文字は自分で書けるので、断って自分で書く。
名前にはアリア・リキュール。年齢は十五。特技は水魔法。そしてギルドの契約にはチェックと。簡単なものだった。
ギルドの契約も簡単なもので、ギルドの規約に従うとか、冒険者同士で争いを起こさないとかそんなものである。
軽く書いて見せてすぐに登録は終わった。その後にギルドでの規約などの説明を長々とされた。一時間以上もされたので詳細は省く。
重要なのは要するにギルドに従え、余計なことはするなの二言に限る。
あとはランクだろうか、冒険者はFランクから始まり、活躍に応じてE、D、C、B、A、S、SSと上がっていく。大体の依頼はランクに応じたものをするきまりになっており、フリー依頼以外はこの仕様だ。
フリー依頼とはどのランクでも受けて付けている、受注さえしなくいい依頼で、ゴブリンの討伐だとか数が多いけど雑魚といった魔物の討伐依頼だ。
後は何処にでも生えているが有用な薬草の採取などである。
ギルドでの登録を何事もなく終わらせた僕。
その後は宿でも取って街中でもぶらぶらしようかなと僕は思っていた。
当分の生活費は財布代わりの皮袋に入っている。そのために今すぐ切羽詰まって依頼を受けなければならないという事はなかった。
宿を取り、街中を歩く。
そんな中で、僕は万屋さんで面白いものを見つける。
それは冒険者には半分必需品とも言われている、アイテムボックスと言われる類の道具である。
今回目を付けた道具はただの袋に見えたが、その中には見かけ以上に物が入る。魔物の討伐で討伐の印や、貴重な素材なんかはすぐに持ち運べる量を超える。そこでこのアイテムボックスの袋の出番と言う訳だ。見た目以上に入るし重さは感じられない。時空魔法がかかって居り、中には大量に物が入る。
「店主さん、これっていくら?」
「これかい? 一番小さい奴は金貨二枚、一番大きい奴は金貨三十枚だ」
「うーむ」
いま自分は生活費として金貨二枚分の金を持っている、金貨二枚は日本円で二十万円相当に値する。買うかどうか僕は迷った。もしここでアイテムボックスを買うと、生活費がカツカツになってしまう。すでに宿は五日分前払いで取ってあるので、五日分の心配はいらないがその後が続かない。
でも、店主さんに聞くと金貨二枚のアイテムボックスは掘り出し物で、今買わないと次はいつ入荷するか分からないとのことだ。
これは……買うしかないだろう。
一番小さい奴でも大人三人は入る大きさがあるとのこと僕は、金貨二枚をその場で払いアイテムボックスを手に入れた。
手に入れてしまった。これで生活費はカツカツだ。一切の余裕がない。
明日からは大忙しで、冒険者活動をしなければいけないだろう。アイテムボックス改め、魔法の袋には明日から大活躍してもらおう。
そう思いながら、宿に帰り僕は宿屋でシチューを食べた後、部屋に帰って就寝した。
次の日、冒険者ギルドに来たのはいいが僕は困っていた。
「うーむ、ろくな依頼がない。このままでは生活費を稼げないぞ」
最低ランクのFでは街中で出来るような依頼しかなかったのだ。それも賃金が安くとても生活費として足りる額ではない。
僕は宿代プラスαを稼がないといけないのだ。
元々冒険者になる人物は生まれた町でランクを上げ一応一人前と呼ばれるDランクになってから大きな町に行くというのがセオリーだった。
それを知らなかった僕はまんまと冒険者の罠とでもいうべきものに嵌ってしまったのだ。
他には貴族は招待状でランクを高い状態から始めるという手があるのだが、僕はリキュール家の生まれとはいえ、力を隠しさらには家の中での地位は低かった。
そんな僕が招待状を持っているはずもなく、僕はFランクから始まったのだ。
でもそう悲観することもなく、ギルドには抜け道が存在する。
僕がクエストボード前で唸っていると親切なお兄さんに、そういう時はフリー依頼をやればいいと教えて貰った。
クリストファーと名乗った親切なお兄さんの言う通り僕はフリー依頼をやることにした。
さらにクリストファーさんは、今ゴブリンが大量発生しているという噂の黒の森という場所まで教えてくれた。
「何、情報料は君のキスで良いぜ」
「お金払います、銅貨でいいですよね」
「俺は君のキスがいいんだけどな~。まぁ、無理なら抱擁とか?」
「まぁ。それくらいなら」
と言う訳で、何故かクリストファーさんとハグする羽目になったが、別に男と抱き合ったって何にもうれしくない。
クリストファーさんは嬉しそうにしていたが、何かうざかったので僕が男であるとカミングアウトした。
「ええ!! 嘘だろ。男ってマジかよ!」
「はい、本当ですよ」
クリストファーさんはそれを聞いた後、しゅんとしていた。でもそのあと可愛いなら男でもいいや何て悍ましいことを言い始めた。僕にそっち系の趣味はないです。
とにかく、フリー依頼をすることに決めた僕は早速、黒の森に向かった。
何故かクリストファーさんも付いてきたが、今日はパーティメンバーが休みでいわゆる非番らしい。そんな休養の日に付いて来ていいのか、聞いたら
「君一人じゃ不安だろ。これでも俺はCランクだからさ。君のお守位はできるぜ」
どうやら僕は心配されているらしい。確かに、僕は初戦闘だ。何が起こるか分からない、親切なお兄さんのクリストファーさんがいて助かったと思うべきだろう。
そうこうしていると昼前には黒の森に着いた。
「そう言えば名前聞いてなかったな。何て呼べばいいんだ?」
「僕の名前はアリア・リキュールです。アリアでお願いします」
「おお、リキュール家の子だったのか、ということは水の魔法を使うんだな」
「そうですよ。これでも僕は水魔法に自信があります」
「リキュール家だもんな、分かるぜ。でも油断は大敵だ。見張り位は俺がやってやるよ。運動はあまり得意そうに見えないからな」
クリストファーさんの言う通り、僕は余り運動が得意ではない。小柄な上に非力だ。当然周りの警戒などできるはずもなく、クリストファーさんの進言は心強かった。
「ありがとうございます、クリストファーさん。お願いできますか?」
「おう、任せときな」
やり取りの後、僕たちは黒の森の中に入る。
そして十分もしない内にクリストファーさんが声を上げた。
「息遣いが聞こえるな。近くにゴブリンがいるんだろう」
そういってすぐにゴブリンの姿を見つけることが出来た。
ゴブリン達は小隊をとっており、六匹の群れだった。
「僕がやってもいいですか?」
「ああ、元々アリアのフリー依頼だからな。ただ危なくなりそうだったら割り込ませてもらうぜ」
「分かりました、では」
そうして異世界での初戦闘が始まろうとしていた。
アリア「異世界といえばゴブリン!」