7. 赤い花の朝。
命様に書いて頂いたイラストをイメージに書かせてもらいました。
http://hp23.0zero.jp/bbs/view.php?uid=himitukiti&dir=382&num=13&th=&unum=122243907057&th=1
↑ここですよー。
ぜひ命様の神絵をご覧になってくださいね。
今回も死神視点ですよ〜。
では、本編へどうぞ。
あーやっぱりサボればよかったな。
サボりかけたからあっくんに追い出されたんだけど。
どーも、死神です。
今日もボクは人殺しにいそしんでいる真っ最中です。
ちなみに今回の標的はちょっと遠い場所にいてやっぱサボればよかったと少し後悔している今日この頃だったりします。
「うぅさっぶ!」
神だからと言って寒さを感じないわけじゃない。
凍えるように冷えた風はボクや神様だって寒いのです。
てなわけでボクはローブをかき集めて暖を取る。
ま、寒くたって死にゃしないんだけど。
そんなこと考えてるうちに今回のターゲットが住む場所にたどり着いた。
「病院、ね。」
ボクには馴染みの深ーい場所。
ある意味では仕事場みたいなもんかな。
まぁここは来るの初めてだけど。
「さてさて、いったいどのお部屋なのかな?」
壁をすり抜けて標的を探す。
きょろきょろとあたりを見回しながらちょっとだけ気配にも気を配る。
あっくんの時の二の舞になりたくないもん。
そろそろと廊下を歩いて行くとひとつの部屋の前にたどり着いた。
「ここかな?」
087号室|秋葉 音里子
「……あきば、ねりこ?って読むのかなぁ? 変わった名前。」
最近の親ってよくこーゆー訳のわかんない名前の付け方するよねー。
読みにくいったらもう。
昔は良子とか優子とかが多くて楽だったのにな。
「まぁどーでもいっか。」
普通に鍵が閉まっているドアを軽く無視して通り抜けると、そこには一人の女の子がベッドから起き上がって外をを眺めていた。
あれ?こんな時間に起きてるなんて、眠くないのかな。
正直ボクは眠い。
「こんばんわ?」
一応、聞こえてないかもしれないけど、アイサツ。
ついでに言っとくとコレもあっくんの時からやってること。
だって怖いんだもん。
女の子は余程びっくりしたのか、飛び上がってきょろきょろと周りを見回した。
んー?……見えては、いないのかな?
「だぁれ?」
不安におびえた声。
そんなに怖がらなくたっていいのに。
別にすぐ殺すってわけじゃないんだから。
彼女の動揺を抑えようとボクは彼女の前に移動した。
ちなみに浮遊で。ちょっとくらい死神っぽく見せとかないとね。
あ、見えないんだっけ?
「ボクは死神。」
「シニガミさん?」
「うん、そうだよ。キミは、アキバ ネリコ?」
「んーん、ちがうよ」
ありゃ?間違えたかな?
「あたしねりこじゃないよ。あたしネリネ。秋葉 音里子。」
あ、ネリネって読むのか。
「じゃあボク、音里子のことネリネって呼ぶね。」
「いーよ、ネリで」
「うん、じゃネリね」
「ネリネじゃなくて、ネリだってば」
「あうわかってるよ、ネリ」
月明かりに照らされたネリはネコのパジャマを着た小さな女の子だった。
見た目的にはだいたいユウとレイと同い年くらいかな
「それでシニガミさんはなにしにきたの?」
「あ、そうだった」
忘れるとこだった。
「えっとぉ、ボクはキミを殺しに来ました。キミはもうすぐ死ぬから、お迎えって言ったほうがいいのかな?」
ネリは一瞬ポカンとして、それから急に悲しそうに顔を伏せた。
ボクの言葉に対してのいつもどおりの反応。
ある意味それがないと安心できないよボクは。
「あたし、しぬの?」
「うん。」
「そっか」
「いつ?」
「今晩中。ボクとしては月が綺麗な間の方がいいと思うんだけどね」
「そかな」
「ボク的にはそれがおススメ」
「ふ〜ん?」
ネリはちょっとだけ首をかしげて頷いた。
「でもころしにきたってことは殺人狂かなにか?」
「殺人狂の部分だけ漢字にできる最近の小学生に疑問を抱いた今。 って違うよ!魂を取りに来たの!」
「タマシイ?てことはアクマ?」
「天使と言ってよ。まぁ実際問題神様のパシリみたいなもんだけど」
「パシリ?ださ」
なんか泣きたくなってきた
「で?どうするの?パシリさん。いつタマシイとるの?」
「んー君が望んだ時かな。」
てゆーかパシリさんはやめて
「のぞんだ?」
「うん、今夜中ならいいよ。いつでも言ってね」
「じゃいま」
「え?」
「いま殺って」
「殺ってって…どこで覚えてくんのさそういう言い方。」
「どうせしぬならはやいほうがいいでしょ」
「…まぁいいけどね。親御さん呼ぶ?」
「んーいいや、どうせしぬならよんでもムダだし。しんだらくるだろうし」
「そっか。この世に未練は?」
「ないとはいいきれないけど、このとしにしてはいいけいけんつんだとおもうよ」
「……ませてるね」
「おとなびてるといってちょーだい」
「背伸びしてるねー」
「さきにしぬ?」
「わかったよ。それじゃ良い眠りを。」
そういってボクはその小さな胸に鋭い鎌を突き立てた。
「Good Night, ネリ。良い来世を」
* * *
「あーねむー」
結局、ボクは徹夜したっぽい。
最初の犠牲者が早く終わってホッとしてたけど、
やっぱりあのあとも仕事しまくって、帰ってきたときにはもう5時すぎだった
寝るのも面倒になって窓についている手すりに腰かける。
手すりはきぃと小さく軋んだ。
「ただいま」
ほとんど習慣になったあいさつ
もちろんこんな時間に返してくれる人なんていない。
寝静まった町。
人形でさえ眠っているこの時間にボクは誰にも返されない挨拶をする。
凪いだ風をこの身に受け、ゆっくりと空気を吸った。
この時期特有の冷たい澄んだ空気。
カラダの中が透き通っていくような気分になる。
「死神か…?」
思いがけず後ろから声が聞こえて、内心ちょっとびっくりした。
空気を震わす少し低い声。
「おかえり」
そのひとことは静かに優しく響いた。
振り返るとまだ眠そうな目をダルそうに持ち上げ彼はゆっくりと手すりにもたれかかった。
「ただいまあっくん。ごめん、起しちゃった?」
「ああ。もっと謝れコノヤロー」
「冷たっ!ボク徹夜で仕事してきたのにっ」
「知るか」
彼のいつもの口癖にボクはけたけたと笑った。
「つーかおい、なんだこの花は。お前の仕業か?」
「んー?」
ボクも気づいてなかったが手すりには何か絡みついている。
ああ、これって……
「あれだよ、あさがんばな」
「はぁ?」
あ、面白い顔してる。
今度はボクは意地悪そうに笑って言ってやった。
「神様に創ってもらったの。朝顔と彼岸花のミックス」
「……。たしか神様忙しいっつったよなー。そんな真面目で大変そうな神様にまだ仕事を増やさせる馬鹿者はドコノドイツかなー?あっはっはー神に代わってぶちのめしてやろうかなー。」
「じょっ冗談だよ!そんな怖い顔しないでよ。」
あっくんてば冗談が通じない。
「彼岸花の亜種だと思うよ。奇形かな、珍しいね。」
「今度はホントーだろーな」
「もっちろん♪」
そのときちょうど朝日が出てきた。
日光も月光も何千年何万年と見てきたのに今でもまだ綺麗だと思う。
「綺麗だな……」
あっくんが小さくつぶやく。
ボクもコクリとうなずいた。
でもね、あっくん。
ボクはもっともっときれいで美しいものを知ってるよ。
「キレイだね、あっくん」
ボクはほとんど寝かけているあっくんを見ながら言った。
よくみるとあっくんの目の下にはうっすらとクマ。
きっと宿題が終わんなかったんだろーな。
「あっくんですら神々しく見えるよ、死神だけに」
「面白くねーんだよバカ」
一蹴されちゃったけど、本当にそう思ってるよ。
絶対本人には言ってやんないけど。ムカつくし。
「そうゆーときは花とかをたとえに使うもんだっつーの」
「花、ねぇ」
そういってすぐそばの紅い花を見るとあっくんが何かを思いついたように顔を上げた。
「そういや彼岸花か。お前にゃなじみの深い花じゃねぇのか、死神」
「あー、もうすぐお彼岸かー。じゃあネリネもすぐ帰ってくるなー」
「ネリネ?今日のターゲットか?」
「うん。ボク読めなかったよー漢字」
あっくんは少し考えるようにこめかみを二回たたいて言った。
「ネリネ……ああ当て字だろうな。ネリネっつーのは花の名前だ」
「へ?そーなんだ」
「知らなかったのか?」
「だってボクらが創ったのは人間だけだもん」
「そーか。女の子か?」
「うん。」
「しあわせだったか?」
「たぶんね」
「そうか、ならいい。これからも仕事はきっちりやれよ。でねーと即刻追い出すからな」
「りょーかい」
そういってあっくんは色褪せたのれんをくぐって台所に行ってしまった。
ボクは好奇心でその背中越しにあっくんには内緒でちょっとだけ頭をのぞいてみた。
とたんに心配と疲労の嵐が流れ込んできた。
いつまでたっても帰ってこないボク。
死なないとわかっていても
見えないとわかっていても
心配でたまらない。
でも自分にはどうすることもできない。
仕事なのだから。
行かせたのは自分なのだから。
だからせめて
帰ってきたら真っ先に言ってやろう。
おかえりって
こんな時間までよく頑張ったなって。
ボクはこれを感じてジーンとなってしまった。
あっくんのひねくれ者め。
えへへ。
これだからあっくんの近くは離れられない。
ついでにネリネについての知識も流れ込んできた。
なるほど、ネリにはぴったりの花だとボクは思った。
【10月13日の誕生花 ネリネ。花言葉…輝き、また会う日を楽しみに、華やか、箱入り娘、幸せな思い出】
ボクはあの箱入り娘に最後の幸せな思い出を残してあげることができただろうか。