第4話 出国
私はそれからというものグラーモスの所に入り浸っていた。
この世界の知識を吸収しておきたかったのだ。
驚いたことにドワーフの国では本というものは存在しないのだ。情報は全て口伝のみとだった。
ドワーフが人とは違い長命であり、強健な肉体を持っているからかもしれない。後は紙というものに興味がないのかもしれない。
奇しくも私は前の人生よりも長生きできそうだ。ドワーフは回復力も高く、病気にも強いらしい。その為医者などはほぼいない。寝ていれば大抵の病気や怪我などは治ると言われた。全くなんという種族なのだろうか。
それでなのか、情報は全て伝承や言い伝えと言ったことで共有しているらしい。コミュニティとしても小さいこともあるかも知れない。もしくは口伝の場合は他に情報が渡りにくい利点もあるからかもしれない。
だから私も必要な情報は全て聞く以外にはないんだ。
しかしグラーモスの話を聞けば聞くほど信じがたい言葉が出てくる。
魔法だの、モンスターだのと空想の世界、御伽噺を聞かせられているのかと思うほどだ。
この世界には魔法が存在する。だが残念ながら身近に使えるものはいない。ドワーフという種族は魔力という魔法を扱う力自体は高いのだが、魔法を使う適性を持っていないというのだ。こういうのを宝の持ち腐れというのだろう。ただ魔力が高い為魔法に対しての抵抗力も高いらしい。
そもそも魔法と言うどういうものなのだろうか。聞いた話によると炎を作ったり、水を作ったりする事も出来るらしい。一度見てみたいものだ。
魔法の原理について詳しいことはわかっていないらしい。そもそもドワーフは魔法が使えないので詳しく知る者や調べる者がいないとのことだ。魔法に詳しいのはエルフという種族だと言う。
一応通念的には、この世界には目に見えないエネルギー、『ルー』というものがあるらしい。それを別の姿、炎や水と言ったものに変えて使っているとの事。
その『ルー』というのは一体どういうものなのか?それは誰にもわからないらしい。
私の持つ【探究者】の力で分からないか試してみた。しかしそう言ったエネルギーがあると読み取れなかった。
【探究者】という力にはある程度の制約があるようだ。
調べたい物は基本的に目に見えている、私に認識できている物に限られている。
何となくだが恐らく私が知覚出来る物にしか反応しない様だ。
正確に言うと五感というものだ、味覚、聴覚、嗅覚、視覚、触覚。そのどれかで感じれている物を読み取れるようだ。その中でも触覚に関してが一番効果が高い。簡単に言うと触った物の情報は多く読み取れて、目で見ただけならばそこまでの情報は読み取ったりすることが出来ないという事だ。
その『ルー』というエネルギーを知覚することが出来れば詳細な事が分かるかも知れない。だが方法がないと言ったところか。
ドワーフは魔法が使えない代わりに別の技術を持っている。『魔工学』というものだ。
この世界には『ルー』というエネルギーが固まった物、魔石というものが存在する。土の中に眠っていたり、モンスターの体内で作られたりもする。それらを動力源として機械などを動かすと言った技術だ。
その昔、ある遺跡から掘り出された【遺物】で使われていた技術を、解析して得た物を『魔工学』として確立したという事だ。
謎のエネルギーを良く使おうという気になったものだ。そしてそのエネルギーがどういったものか気にならないのだろうか。
しかしその『魔工学』によってドワーフの生活は一変した。機械というものが生まれたのだ。
まぁ私の知っている様な機械とは違う形だが。熱や、電気を動力源とした機械と大きく違っていた。
鉱山などは全てつるはしやスコップの様な道具を使って掘っていた。それが今はドリルのような機械が出来たのだ、効率が飛躍的に上がっただろう。その他にも色々な物に使われているらしい。私もその内に学びたいものだ。
そしてこの世界にはモンスターと呼ばれる生物がいる。
5mもある大蛇の様なものもいれば、全長20mを越えるイカの様な生物。はたまたドラゴンなども存在するらしい。
ここいらの話になるとそうなのだと思うほかない。
以前の世界と違うエネルギーがあったりするのだし、人以外の種族もいるのだ。生物体系に違いがあっても仕方がないのだろう。この世界では人や物を構成する要素自体が全く違っている可能性もあるのだから。
私はこの先ここから外の世界に旅立とうとしている。どう安全に旅をするかというい課題も出てくる。その点も考えてこれからの生活を送らねばならないだろう。
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私は14歳になった。
今までの生活を振り返るとなかなかに充実した日々だった。
私は旅立つことを目的とし、それに必要な知識と技術を会得した。
知識はとにかく詳しく教えてくれる人の所を訪ね、話を聞くこと。ここには本などの情報媒体はない。話を聞く以外にはないのだ。その為その知識に精通している人物を訪ね、根掘り葉掘り話を聞いて回った。
同じドワーフ族として、そして私は神の子という事もあり出会った人は皆隠し事なくすべて話してくれた。そうして知識を得るだけ得たのだ。
後は技術。
旅をするのに役に立つ技術も得ることにした。年齢を経てある程度のことが出来る様になれば、色々な人の所へ行き弟子入りしたのだ。
ドワーフは基本弟子になり技術を教えてもらうのが普通だった。その為に色々な人の弟子になった。
病気や怪我に効く薬を作る『薬学』を教えてくれる者や、『魔工学』に精通した技術者などだ。
私はその師匠と呼べる人達からあっという間に技術を習得した。
【探究者】のおかげと呼べる部分もあった。【探究者】を使えば知りたい情報をより多く得ることが出来る。しかも転生する以前に比べ記憶力も上がったような気がする。一度聞けばほぼ記憶でき、教えられた技術も再現出来る。【探究者】の持つ力の影響なのか、それともドワーフという種族が持つ特性なのか。私にとっては喜ばしいことだ。
そして私はついにこの国から出る事決心をした。
もうこの場所にいても得る知識や技術はないと分かったのだ。後は外に赴き、未知なるものへ出会う時なのだ。
しかし、いくつかの問題があった。
まずは両親にこの国を出る事を伝えると母は号泣し、父は怒った。
神の子として生まれ、この国いれば何の不自由もなく生活できるのだ。それを蹴って外の世界に行くだなんてどういうつもりだと。
そう言われたところで私の気持ちは変わらない。未知なるものを求めるのが、私に力が与えられた理由だと説明した。そうしなければいけないと。
その事について両親は渋々だが納得した。
だが問題は国の方だった。
神の子は基本的に国の役職に就くのが通例だ。しかも私はドワーフで初めての神の力を持った人物だ。当然国の中でも最上位に近い役職に就くはずだった。だが私はそれを蹴って旅出ると言ったのだ。当然国の偉い人物達は困惑した。
仕方がないので私はその人達に対し説得をした。私のこの力は使ってこそ意味があり、使う為には自身でその場所を見付け調べるしかないと。
そう説明したがそれならば護衛などを付け、隊を組んで行くようにと言われた。
私はきっぱりと拒否した。誰かと一緒に旅を使うなど気を使う、それに監視されている様なものだろう。
難色を示した国に対して私は約束事をした。もし何か【遺物】を見付けるようなことがあれば全てこの国に渡すと。正直私はどういうものかとわかれば物自体に興味はない。自分で大事に持っておこうなんて気はなかった。
そう伝えると国は手の平を返す様に私の意向を受け取ったのだった。
ドワーフは金銀財宝に目がないと聞いたことがあったが、事実の様だった。
こうして問題点も何とか解消して私はやっと自分の足で世界へと出ることが出来るようになったのだ。
ある朝母に見送られ私は大きなリュックを背負い家を出た。リュックには旅に必要なものが最低限入っている。
私は坂道を黙々と上がった。地上に出なければいけない。かなり長い道のりだったが疲れなどはなかった。以前の私なら物の数分で疲れて座り込んでいただろう。
途中に鎧を纏った門番がいた。前には道幅いっぱいの門がある。国への出入りはこの門でチェックされる。私は門番に国からの書状を見せた。ちゃんと国から事前に貰っていたのだ。
門番は私が渡した書状に目を通し、片手を上げた。すると目の前の門が動き出す。
別の誰かに合図をし、その人物が機械でも操作して門を開いているのだろう。
私1人が通れるぐらいまで門が動いたと思えば、そこで止まった。
門番が書状を返してくれた。
私は書状をしまい、門の所へ進む。門から出てしばらく進むと後ろで門が閉まる音が聞こえた。いよいよか。私は高鳴る胸を押さえまだ続く坂道を歩いて昇って行った。
少し目がくらむ。
坂道を登りきると、そこは外だった。そう、当たり前の話だが、生まれ変わって初めて外に出たと感じたんだ。ずっと洞窟の中で暮らしてきたようなものだ。
だがそこまで暗くはなかったのでそのに出ても眩しくて目が開けられないという事はない。しばらくすれば慣れるのだろう。
目の前には森の様な光景が広がっている。
ドワーフの国の出入り口の1つから私は出てきた。ここは森に繋がっていたようだ。いくつかの出入り口があったが正直どの出口から出ても意味はないので適当に決めたのだった。
意味はないと言ったのは私自身特にこれから目指す場所はない。
とりあえず外に出てから決めようと思ったのだ。
どうせこの世界は私の知らない事ばっかりなのだから、どう進んでも未知なるものへ出会うことは出来るのだ。
ただまぁ闇雲に進んでいても仕方がない。一応は近くの人間の町まで向かうとするか。そうすれば何らかの情報も得られるだろう。人の言葉もすでに勉強して憶えている。人もドワーフに対しては友好的だと聞いている。国交があるのだし問題はないだろう。
ともかくここでじっとしていても仕方がないので進むとしよう。
森の中を進みながら辺りを見回す。
木々がそれなりに生えているが一応道の様なものはある。人と交流はあるのだ、道がなければお互いに不便だからだろう。この道の様な所を進んでいけばおのずと町までは行けるはずだ。
私は周りにある植物などを見ながら進んだ。
【探究者】の力のおかげで見ただけでもそれなりの情報を読み取ることが出来る。木の名前や、どういう性質があるぐらいだが。触ればもっと情報を得ることが出来るのだろうが今は必要ない。一つ一つそんなことをしていたら日が暮れてしまう。
今の日の高さだと恐らく昼過ぎだろう。野営などはあまりやりたくはない。日が落ちてしまう前に町へ到着したいものだ。
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