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09 魔族版トマトソース(仮)は、生きのよさがポイントです

※2016/09/26 ジャンルを恋愛からファンタジーに移し、R15を付けました。恋愛よりファンタジーやコメディ要素が強いなと思ったためです。

 R15は、とくにエロいわけではありませんが、ネタがあれかなと思ったため付け加えました。

 パスタの麺は確保できたので、次はソース作り。

 ドクターが絞ってくれた魔物の中から、さらに候補を狭めていく。


 医者という肩書きで城にいるが、ドクターの本職は魔物研究家だ。

 この図鑑もドクターが集め、もしくは本人が書き記したものが多かった。


 酸っぱい、赤い、刺激的など、探しやすいようにページには付箋が貼られている。

 こういう気遣いはできるのに、肝心なところは抜けているのがドクターという男だ。



「材料になりそうなものは、植物系の魔物が多いですわね……」

 図鑑とにらめっこして、リリーナは悩む。


 魔物は一般的に植物系のほうが捕獲しやすく、魔力量が少なかった。

 魔力量を重視するリリーナは、動物系の魔物を好んで食べていた。

 だから、植物系はさっぱりわからなかったのだ。


「お嬢様、この魔物を使ってみてはどうでしょうか。森で時々踏みつぶすのですが、水分が多くあのパスタのソースに近いかと」

 なかなか決まらないリリーナに、シルヴィアが魔物を薦めてくる。


 それは、ナゲキの実と呼ばれる植物系の魔物だった。

 真っ青な色で林檎のような形をしており、手足が生えている。

 その足で森を走りまわる魔物なのだが、そこまでスピードはないため捕獲難度は低い。


 ただし、採取しようとすれば、その体に人のような顔が浮かびあがる。

 絶望したような表情を浮かべ、嘆きだすため、ナゲキの実という名前が付けられていた。


 弱いくせにムダに生命力が強く、潰してもしばらくは生きていて、うるさい。

 含有魔力も低く、不人気な魔物だった。


「……赤くないですわね」

「パスタが赤いので、ソースが青でもいいんじゃないですか?」


 リリーナは、できれば赤いソースが作りたかった。

 しかし、これという魔物が思い浮かぶわけでもなかったので、シルヴィアの案を採用することにする。



 アンデット達に依頼すれば、その日のうちにナゲキの実が手に入った。

 口の大きめで、底の深い大きめのガラス瓶に、ナゲキ実がみっちり詰められている。

 隙あらば逃げだそうとするためか、手足はもがれ、瓶には封印のための魔法文字が刻まれていた。


 早速ソース作りに取り掛かろうとしたが、城の台所では設備が整っていない。

 肉をさばくための台と水場、そして包丁が置かれているだけだ。

 なのでドクターに頼んで、リリーナは研究室を使わせてもらうことにした。



 ◆◇◆


「いいぞ。道具も好きなように使っていい。ところでシルヴィアはどうした。一緒じゃないのか?」

 研究室に行けば、ドクターはリリーナを快く招き入れてくれた。

 

「シルヴィアは仕事ですわ。ワタクシがしばらく料理に集中する間、代わりに業務をやってくれてますの」

 ドクターはなるほどなと呟き、椅子を持ってきて座る。

 近くでリリーナの調理を見守るつもりらしい。


「まずは何をするつもりだ?」

「ナゲキの実を潰そうと思います」

「それなら、白い戸棚の上にすり鉢が入っている。重ねてある一番上のやつが薬草用だから、それを使え」


 ドクターに場所を教えてもらい、戸棚からすり鉢を取り出す。

 戸棚はリリーナの背より高い場所にあったが、問題はなかった。

リリーナの蛇達が器用に扉を開け、中からすり鉢を取りだしてくれる。


 ナゲキの実をガラス瓶から1つ取ると、リリーナはすり鉢の中に放った。

 底のほうでグルグルと転がって、実は逃げようとする。


 しかし、斜めになっているすり鉢の面に阻まれ、それはかなわない。

 悪あがきをする実を、リリーナは容赦なく棒で潰す。

 ぷちゅりとした感触がして、水っぽい汁が溢れてきた。


「ぐぁぁぁ……!」

 ナゲキの実の叫びを聞きながら、ぷちゅぷちゅと軽く潰していく。

 半固体の汁には、苦悶の表情が浮かび上がっていた。

 2体3体とすりつぶせば、顔もその分増える。


 ナゲキの実は、魔物として弱いわりに生命力は強いため、つぶしたくらいで死んだりしない。

 ただし、声をあげる元気はなくしたようで、「うぅぅ……」と悲しげに嘆いていた。

 叫ぶのも困るが、これはこれで鬱陶しい。


(色は青いですし、唸っていますが、このドロドロ感はトマトソースには近いですね)

 しかし、肝心な味を確かめてみれば、何かが足りない気がした。


 酸っぱいだけで、奥深さというものがない。

 トマトソースにはもっと甘みがあり、濃厚だった。


(甘い味の魔物を足してみるのもいいかもしれません)

 一旦、ナゲキの実のペーストを置いて、リリーナはドクターから借りた図鑑を見る。

 痺れる甘さと書かれた魔物が目に入った。


(これ、確か城の近くにありますわね。丁度いいですし、取ってきましょう)

 城の外に出て、別館の小さな小屋へと足を運ぶ。

 そこの壁に、リリーナが狙っていた魔物が生えていた。


 植物系の魔物でシビレビレ。

 魚のヒレのような形をしており、じめじめとした場所に身を寄せあうようにして生える小さな魔物だ。

 壁にびっしりと生えているため、まるで壁が爬虫類の体のようにテカっていた。


 その場で1枚かじってみれば、舌の上に強い甘みとしびれるような感覚。

 これは使えそうだとリリーナは判断した。

 そんなにたくさん入れる必要はなさそうだと、10枚ほど採取する。


 次の手順を考えながら研究室へと戻る。

 渡り廊下に、青い液体が零れていた。


「オォォ……」

 まるでこの世が終わったかのような絶望的な表情を浮かべ、ナゲキの実のペーストが廊下をはいずっていた。

 どうやらすり鉢から、脱走してきたらしい。


(なるほど、3体潰して液状にしたことで、すり鉢から出やすくなったのですね……というかこの状態でも移動できるのですか)


 感心しながらも、廊下のゴミを巻き込んだペーストはさすがにもう使えない。

 アンデット達に処分を頼み、リリーナは新しくナゲキの実をすりつぶしてペーストを作った。

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